第25話 その名はルードヴィッヒ・B Aパート
アバンタイトル
ナレーション「妹の代わりにミス・アトミックに復讐をしたノゾミだったが、お返しにフィーアとのデートを邪魔されてしまう。ミス・アトミックに盗まれたロプロスを追撃した2人を待っていたのはリヒトの新型AGだった。ついに最後の決着をつけるべく決闘するノゾミとリヒト。あえて攻撃魔法を封じて格闘戦に持ち込んだノゾミが勝利をおさめたのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「諸君、我々は今、第一艦隊を失った。だが、これは我が帝国の敗北を意味するのか? 否、断じて否である!!」
どこかで聞いたような演説をしているのは、地球帝国総統ルードヴィッヒその人である。ここは地獄の最前線…とは言いがたいが、一応我が十カ国連邦と地球帝国の国境紛争地帯である爆心地の東、地球帝国側の国境城塞だ。
その城壁に立ち、旧アーストリア帝国時代から、ずっと国境を守ってきた国境警備部隊に向けて熱弁を振るっているのである。それだけではなく、傍受した魔力波から考えると地球帝国全土に向けて放送もされているはずだ。
「地球の3/4を抑えた我が国の国力は十カ国連邦に3倍する。AGと魔道戦艦の生産効率も倍以上。長期持久戦に持ち込めば負ける要素はない。しかし、既に伝えているように、長期持久戦は地球全体のことを考えれば望ましい戦略ではない。次の邪悪なる侵略者が攻め来る前に、この戦争を終わらせなければならないからだ!」
僕たちは、今その国境城壁の地下、深度50メートルほどの所で息を潜めて地上の様子を窺っている。潜地能力を付加したシーサーペント号の中で、聴音の魔道具が感知したルードヴィッヒの演説を聞いているのだ。テレビの魔力波も受信しているが、地中を通って魔力波が減衰しているため映りも音声も非常に悪い。拡声のかかっている音声の方がよく聞こえるのだ。
外見は昔ながらの石造りの城壁に見える国境城壁だが、作られたのは大爆発の後。また築15年に満たない新しい軍事施設で、探知装置も防御機構も最新の魔道技術が投入されている。いかに隠密性が高いシーサーペント号といえども、本来ならここまで近づいたら探知されるのが当然なのだ。にも関わらず気付かれていないのは、こうした場合を想定して、わざと作られた探知の穴を通っているから。その穴を作ったのは、旧アーストリア帝国時代から帝国の軍事技術を総括しているゲオルグ・ガーランド博士その人である。
「我々が苦しい時は敵も苦しい。第一艦隊の壊滅と引き替えに、敵の最強戦力たる餓狼戦隊なる部隊も、ほぼ壊滅状態になっている。もはや連邦にも兵は無いのだ!」
…反対陣営の方の将軍の演説ネタでないかい、これは?
「今この時こそ、この戦争に決着を付ける最大のチャンスである! 私は、自ら陣頭に立ち、この戦争を終わらせるための戦いに挑むことを決めた!!」
大歓声が上がり、「ルードヴィッヒ総統、万歳!!」のかけ声がこだまする。
「よし、今だ、浮上!」
「高度20メートルまで急速浮上」
部隊指揮官である魔術師艦長の命令をシーサーペント号の艦長が受け、艦体が上に傾くと急速に浮上していく。
潜地の魔法で隠れていた国境城壁の外側の地面を突き破る勢いで地上に出現したシーサーペント号は、そのまま浮遊の魔法で高度20メートルまで上がると艦体を水平に戻した。それと同時に、拡声のかかったガーランド博士の声が国境城壁を圧するかのような大音声で放たれる。
「総統閣下、それはできぬ相談でございますな。不肖ゲオルグ・ガーランド、すべてのアーストリア人、否、すべての地球人類のために、総統閣下をお止めいたしましょう」
普段の話し方とは異なる、明らかに総統ルードヴィッヒへの敬意を込めた話し方。敵に回ったのに、それでも己の主君と敬う口調でルードヴィッヒへ語りかけるガーランド博士。今回、シーサーペントに同乗しているのは、博士本人だけである。ヒルダ中将やアイン達、それにフィーアは裏切りの場に立たせたくないと博士が押し切って留守番させたのだ。
「ゲオルグか。今の言葉、完全に私を、いや地球帝国を裏切ったようだな。何故だ? 世界統一の理想は貴公も信じていたであろうに」
国境城壁の上に一人屹立していたルードヴィッヒは、慌てる様子もなくシーサーペント号に向けて振り返ると、悠然と問いを発する。
「既に地球連邦の成立は決定事項となりました。どちらが勝っても地球の統一は成る。ならば、より適切な政治体制を選ぶべきだ、と考えたのですよ」
「地球連邦の政治体制は雑多ではないか。各国の元首による合議制で、その元首を選ぶシステムは各国バラバラ。代議制民主主義もあれば、血族世襲も一党独裁もある。どこが適切だと言うのか?」
「完全に一人が行う独裁よりは良い、と考えたまでにございます」
「独裁は非か?」
「非ですな。政治とは、畢竟、法と経済に尽きると言えましょう。いかにルールを決めて守らせるか、いかに税を集めて社会に還元するか。この2つが政治でございますよ。そして、法も経済も、民衆の要求に合わないものはうまくいきませんな。力でごり押ししても、いずれは破綻するか崩壊する。つまり、民衆を知る者がより適切に政治を行える。だからこそ、民衆に選択権があるがゆえに民衆を知る必要がある民主政治家の方が、より適切に政治を行えるのですよ…衆愚の圧力に道を誤る危険性があるにせよ」
…と、ガーランド博士は言っているが、実はこれこそルードヴィッヒの本音に他ならない。出撃前に「何で吾輩がルーの奴の言いたいことを代弁しなくてはならんのじゃ!? 歴史には吾輩の言葉として残ってしまうんじゃぞ」と愚痴ってたから間違いない。
「私も民衆を知っている積もりだが?」
「今はそうでしょうな。ですが、独裁というものは、必ず民衆との乖離をもたらします。5年、10年…次の戦いが終わるまでと言いますが、いつ終わるのか。そして、権力というものは、必ず自己存続のために変質するものです。敬愛するあなた様が、自己保身に汲々とする愚かな独裁者に堕するのを見たくはないのですよ」
「ふむ…貴公知っているか、スッラを?」
「スッラ…古代期の人物ですな」
おーい、またぞろどっかで聞いたようなセリフだけど、それ前世古代ローマの人だよ! …と一瞬ツッコもうとしたけど、記憶を探ったらこっちの世界にも同じ名前で同じような事した人がいたんだよな。古代ドラガオン帝国が貴族共和制から帝政に移行する直前の人だ。ドラガオン人だから竜人だけど。こういう前世と同じ名前の人が結構いたりするのは、やっぱり神様のいたずらなんだろうか。
「独裁者でな。自らの使命が終わったあと、権力に執着せずに身を引いた男だ。私はそのスッラの尻尾にくらいはなりたくてな」
自分で「尻尾」とか言っちゃうかい…
「なるほど、自らの進退くらいは決められると?」
「そうだ。ゆえに、ここでは引けぬ!」
「是非もございませんな。それでは、力づくで止めさせていただきましょう」
「餓狼戦隊、出撃!」
ガーランド博士の言葉に続けて、魔術師艦長が命令を発し、それと同時にシーサーペント号の上甲板のハッチが解放され、僕たちのAGが飛びだす。
もとより、ここでシーサーペント号の主砲である36センチ魔道砲を一発ぶち込めば国境城壁ごとルードヴィッヒを爆殺する~フリをする~こともできる。だが、それでは地球帝国の兵士も市民も納得しないだろう。
ここは、後に遺恨を残さずにきれいに決着をつけるために「正々堂々」と雌雄を決した上で、ルードヴィッヒが「負け」を認めないといけないのだ。
そのために、ここはルードヴィッヒの「総統専用AG」が威風堂々と出撃して来るのを待つ必要がある、のだが…
ジャジャジャジャーン! ジャジャジャジャーン!!
国境城壁から、クラシック・オーケストラ風の音楽が鳴り響く。ってか、コレ、前世の超有名交響曲じゃないか!? 交響曲第5番「運命」だ。この世界にも立派なオーケストラ音楽は沢山あるのに、何でコレなんだ?
と、思ったのだが、その答えをルードヴィッヒ自身が言ってくれた。
「出でよ、我が最強魔像『ルードヴィッヒ・B』!!」
「何だその名前はっ!?」
思わずツッコんでしまった。
「独裁者が自分の名前の最強兵器を作って何が悪い!」
いやまあ、確かに赤色独裁者どころか、立憲君主制国家の宰相すら自分の名前つけた戦車作ってるけどさあ…
「いや、そうじゃなくて、ソレって漫画の神様が描いた有名作曲家の伝記漫画のタイトルでないかい!?」
そう、さっきの「運命」の作曲家である。
「残念、あれは『ルードウィヒ』だからちょっと違う。ちなみに、このBはBIGのBでな」
「大きい?」
思わず問い返したものの、その意味はすぐに分かった。国境城壁の内側の地面、将兵が立ち並んでいる広場の手前の部分の地面が割れると、その「ルードヴィッヒ・B」とおぼしきAGがせり上がってきた、の、だが…
「ハァ!?」
「んなっ!?」
「こ、これは!?」
僕も、一緒に出撃していたカイとリーベも思わず驚きの声を上げる。それほどまでに、予想外の代物だったのだ。
「身長57メートル、体重5,500トン! さすがに空は飛べぬがな」
自慢気なルードヴィッヒの声が響く。確かにこれはBIGだ。某超電磁ロボと違って空を飛べないのも無理はない。体重が10倍もあるしな。この重さでは飛翔を使っても、すぐ魔力切れになってしまうだろう。
「飛翔」
驚愕のあまり硬直している僕たちには構わず、飛翔の魔法で飛び上がったルードヴィッヒは、巨大AGの胸の所へ向かう。と、胸の中央にハッチが開いて、ルードヴィッヒを収納する。
そして、すぐにルードヴィッヒ・Bの目が光る。認証したのか。
「ルードヴィッヒ・B、いざ、参る!」
ルードヴィッヒの声が響き渡ったのを聞いて、僕もようやく気を取り直す。
それにしても、どうせコレだってガーランド博士が作ったに決まってるのに黙ってるんだもんな。僕たちを驚かせたかったに違いない。しかし、だ…
「確かにこれはBIGだ。が、魔道戦艦の変形した超巨大魔像に比べれば小さいさ!」
そう言い放つ。僕は身長250メートル超のレオパルドの魔像形態とだって戦ったことがあるんだ。単にデカいだけなら恐るるに足らない。
だが、次の瞬間に僕は完全に予想外の光景を目にして絶句するハメになった。
「さて、どうかな。魔力感知、魔力防壁、物理防壁…」
ルードヴィッヒが呪文を唱えると同時に、その超巨大な機体に防御魔法がかかっていくのだ。
「魔法が使えるだと!?」
魔道戦艦は、魔像形態に変形できるとは言っても、AGとは決定的に違う部分がある。AGがその機体に込められた魔力を自由に使って魔法をかけられるのに対して、魔道戦艦の体の魔力は、その体を動かすか、あらかじめ準備された魔力砲などの魔道具にしか使用できないのだ。
これは、魔道戦艦を動かすのには操縦者の魔力を直接使っているのではなく、起動用魔道具を使用して間接的にコントロールしているからだ。操縦者は起動用魔道具を動かせるだけの魔力があれば魔道戦艦クラスの巨体を動かせるが、その魔力は自由には使えない。
それに対して、AGの場合は、機体全体を動かすのに操縦者自身の魔力を使うので、機体に備蓄されている魔力を自由に使って魔法をかけられる。これが魔道戦艦魔像とAGの大きな違いなのだ。
そして、危険な子供たちが問題なく機体全体に魔力を行き渡らせられるサイズは身長18メートル、体重150トン程度が限界なのだ。もっとも、これは標準的な危険な子供たちが基準であって、その中でも規格外の「転生者」である僕やリヒトなら無理すれば身長25メートル級までは動かせる。
だが、同じ「転生者」であるルードヴィッヒであっても、絶対に身長57メートル、体重5,500トンもの巨体を自分の魔力でコントロールはできないはずだ。しかし、起動用魔道具を介しているなら、機体の魔力を使って魔法をかけることはできない。
防壁系の魔道具はあるから、それを使ったのかと一瞬考えたが、魔道具の場合は通常の魔法とは違って使用者の個性が出ないから、魔道具を使っていると分かるのだ。今の魔法は、ルードヴィッヒの魔力周波数がはっきりと出ていた。…そうか、それを見せるために、基本魔法である魔力隠蔽をかけてないんだな。
「バカな、あり得ない…」
「あの巨体を、どうやって…」
僕と同じように衝撃を受けているカイとリーベ。
そんな僕たちをあざ笑うかのように、防御系の魔法をかけ終わったルードヴィッヒが、おもむろにこちらを向いて、言い放った。
「さあ諸君、ダンスを始めようではないか!」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




