第2話 赤き騎士、君は!? Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「君の機体もなかなかパワーがあるようだが、一つ勝負してみたくなってね。何しろ、私の愛機には軍馬100万頭分のパワーがある!」
「『紅の男爵』って、『100万馬力』の方なのかよっ!!」
思わず状況を忘れて全力でツッコんでいた。
そう、前世の有名な特撮ロボっぽいデザインなのである。全身真っ赤で、100万馬力を誇り、第一次大戦のドイツの撃墜王の異名がついたスーパーロボット。
後にテレビアニメ版も作られたけど、印象が強いのはやはり特撮版だろう。ってもケーブルテレビで再放送見ただけだが。ミニスカヒロインのパンチラキックが…って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ、僕!
と、僕のリアクションを見た赤いAGが楽しそうに話す。
「ほう、このジョークを分かってくれるのかね。やはり君も『お仲間』というわけだ」
うえ、「お仲間」ってことは、やっぱり、こいつも転生者なのか?
ジョークってことは本当に100万馬力あるわけじゃなさそうだな。そういえば、あのロボットの必殺技は…ゲッ!?
「雷撃防壁っ!!」
「雷撃」
あることに気づいて、とっさに雷撃防壁の呪文を絶叫するが、ほぼ同時に雷撃を撃ってきやがった。それも、ご丁寧に頭の横の飾りを起点にして!
攻撃魔法に限らず、この世界の魔法は体内の魔力をエネルギー源とするため、ほぼ自分の体の一部を起点にして発動する。探知系や遠距離通話系にせよ、自分が起点になって相手を探ったり、相手と通話したりするのだ。
攻撃魔法の場合、攻撃が相手に当たりやすく、なおかつ自分でイメージしやすい所を起点にするのが普通で、僕の場合は特に変な状態でない限り、まず自分の手から発動する。ただし、手が使えなければ足でも頭でも発動起点にはできる。
だから、光系の攻撃魔法を目から放って「目からビーム!」なんてのは簡単にできるのだ。…目の至近距離に光源ができるから、撃ったあとで「目がぁ~、目がぁ~」になるんで、正気なら誰もやらないけどね。
もちろん水系の高圧噴射魔法を目から撃って「高圧で体液を目から発射する!」ごっこもできる。こっちなら反動はないんで目にダメージはないし。
そう、赤いスーパーロボットの必殺技は、頭の横の飾りから発射する放電攻撃なのだ。発動場所まで忠実に再現することはなかろうに、とツッコみたいところだが、それ以上のツッコみどころがあったりするところが困る。
「何だよ、この威力!?」
ブレバティの左腕がかすかに焦げている。僕自身の左腕も、それを直撃された感覚が流れ込んだために痺れており、操縦桿から手を離して軽く振って痺れをとる。
何と、奴の雷撃は僕の雷撃防壁を貫通して、とっさに体をかばった左腕を直撃したのだ。
慌てて張ったからイメージ化が多少雑だったとはいえ、逆に気合いは普段の倍ぐらい入れている。防御効率は95%まではいかずとも、絶対に90%は超えているはず。
たった1割の威力で、これだけの強さなのだ。直撃していたら、このえらく硬そうなブレバティの腕も持って行かれた可能性がある。どんだけ威力があるんだよ!
…いや、前回の一眼巨兵戦では僕も同じ魔法で相手の頭吹っ飛ばしたんだけどさ。前回の結果から考えると、ブレバティの方が一眼巨兵より相当硬いはずなんで、やっぱり相当な反則野郎だ。
あと、はっきり分かったことがある。こいつ、絶対に「クールな俺様カッケー!」系だ。あんなシンプルな呪文でこんだけ威力があるんだから、そうに違いない。…まあ、そうでもなきゃ仮面キャラなんぞやったりしないか。
「嬉しいね、その反応。機体の性能だけに頼っているのではなさそうだ。それに、この攻撃が読めるのなら、確かに転生者なのだろう…な!」
話をすると思わせておいて、最後のところでいきなり奇襲してきた。さりげなく「転生者」とか言ってるし! でも、既に予想済みだから、そんな程度では動揺しないよ。
体勢を低くして下半身狙いのタックル。なるほど、格闘戦ね。それも組み技狙いか。
魔法は互いに有効打にならないし、格闘戦でも打撃の応酬なら装甲が硬いこちらが有利。しかし組み技に持ち込んでしまえば、パワーで強引に強度の弱い部分をへし折ることも可能と踏んだわけだね。
奇襲されたのだが、僕も焦ったりはせず、相手の頭を狙って膝を出しカウンターを狙う。その膝は紙一重でかわされ、片足を捕られたが、予想して重心を移動していたので倒されず、逆に相手の胴を両腕で捕まえて、そのまま力任せに強引に担ぎ上げると地面に頭から叩きつける。
ちょうどプロレス技の「パワーボム」みたいな形になった。パワーのあるAGだからこそできる荒技で、生身のときなら筋力強化の魔法でもかけていなければ無理だろう。
これで相手が人間ならノックアウトできたかもしれないが、いかんせん魔像だ。
同調しているからパイロットにも多少の影響はあるが、痛覚などはないし、さっき説明したようにコクピット内部への衝撃も緩和されるから、こうした投げ技みたいなものは大して有効ではない。
しかし、緩和されているとは言っても、さすがに強烈な衝撃だったようで一瞬動きが止まる。その隙を逃さず、相手の右足を捕ると、やはりプロレスの関節技「膝十字固め」の体勢に捕まえる。
「足一本もらうよ!」
実は魔像には関節技も有効ではない。痛覚は与えられないし、関節機構がない一眼巨兵のようなタイプの場合は、逆方向にねじ曲げても、折れない限りは魔力が通れば元の状態に戻る。
そう、折れない限りは、だ。前回のように、強引に力で折ってしまえば、修復の魔法でもかけない限りは、さすがに元には戻らない。
折り方は別にどうでもいい。どうでもいいのだが、人が動かすのだから、慣れた動きをするのが一番やりやすい。だから、通常の格闘訓練で使い慣れた技を使うのだ。
この世界の関節技は、過去の転生者が前世の格闘技をいろいろ持ち込んだらしく、柔道や柔術の技のほか、サンボっぽいのや、プロレス技っぽいのもある。
僕が両親に教わった技もいろいろあるのだが、前世でプロレス好きだったのが影響したか、ついプロレス技を使っちゃうんだよな。もちろん、実戦で使える技に限るけど。
…いや、そもそも膝十字固めは腕ひしぎ逆十字とかと一緒で元は柔道や柔術の技か。
「さすがに、足は勘弁してもらいたいね」
「逃がすと思うかい?」
何とか逃れようとする赤いAGだが、口では100万馬力とか言ってたものの、それは本当に冗談だったらしく、パワーはこちらの方が上らしい。
ましてや装甲の硬度もこちらが上だから、距離の短いパンチや反対足のキックでは、こちらに有効打を与えられない。このまま強引に足をへし折ってやれば、かなり困るはずだ。それに…
「魔力の方も、そろそろ空が近いんじゃないかな?」
「なかなか鋭いね」
あれだけ高速飛行して、こっちの防御魔法を貫通するような攻撃魔法まで放ったのだ。格闘戦に持ち込んできたのは、つまりもう飛んで逃げたり、他の攻撃魔法を放ったりするような余裕があまり無いということだろう。
もちろん、魔力源たる魔素は周り中に充満しているし、魔道エンジンはフル回転でそれを魔力に変換しているはずだ。こっちも同じことはしている。
だが、それで魔力を溜めるには時間がかかる。こっちは、まだ3割程度は魔力量が残っている。
足をへし折って動きに制限をかけてから、強力な魔法をたたき込むか、あるいは手足に魔力付与して打撃技を使うか…何っ!?
「セパレート、爆発」
腕が、飛んできた。奴の腕が飛んできたのだ! ロケットパンチだと!?
その狙いは正確にブレバティの顎をとらえ、僕の意識は一瞬飛ぶ。
痛覚はないし、リンクで感じる衝撃も緩和はされるが、緩和された衝撃だけでも擬似的に「脳が揺れる」のだ。
その一瞬で十分。力が緩んだ隙を逃さず、奴は足を引き抜くと軽く飛行して距離を離す。
そうだった、赤いスーパーロボットは、ロケットパンチも装備していたのだ。技名が派手に画面に表示された上に、両腕が一緒に飛んでいく変なパンチを。
「片腕しか飛ばないってのは『紅の男爵』のパンチにしては美学が無いんじゃない?」
「さすがに両腕を飛ばす余裕はなくてね」
軽口を応酬するが、実はお互いにもう余裕はあまり無いはずだ。奴は足を守ったかわりに、左肘が大きく焦げており、左腕は飛んでいったきりだ。
さっきの呪文からすると、左腕を切り離して、そこに爆発魔法を発動させて、その反動で飛ばしたらしい。
原理としては火薬の代わりに爆発魔法を使っているだけで銃や大砲の弾丸と一緒なので、魔法攻撃ではなく物理攻撃になる。
誘導装置がないなら、手元には戻ってこないし、魔法の発動起点になったところはダメージを受ける。
爆発は火系だから耐火防壁を張ればダメージは防げるが、そうすると今度は爆発の反動を利用することができない。だからダメージ覚悟で防御せずに使ったのだろう。
おまけに、魔力はまだ回復途上。機体の性能差がある上に、組み技の技量差はあまりないため格闘戦は不利。あちらとしても攻め手に欠けるところだろう。
その一方で、こっちのダメージ自体は大きくないものの、相手を捕まえるという、今までで唯一のチャンスを手元から逃してしまった。
悔しいけど、奴の実戦経験は僕より上だ。魔法能力が反則級で同じくらいなら、経験を積んでいる方が強い。
格闘術の技量差はそれほど無いようだが、それが分かった以上、格闘戦を挑んでも避けられるだけだろう。
魔力残量はこちらが多そうだが、十分に動けるこいつを相手にクリーンヒットさせる自信はさすがに無い。
さっきは冷静さを失って追撃してきてしまったが、引くのも手か、と思ったとき、かなり強力な魔力弾の魔力を感じて慌てて後ろへ飛ぶと、直前まで僕のいたところに着弾して大爆発する。
発射元の方を見ると、遠くに赤い色の魔道戦艦が浮いていた。戦艦本体は魔力隠蔽していて気づけなかったが、発射された魔力弾には隠蔽効果が及ばないので気づけたのだ。今のは戦艦の主砲か!?
あんな威力のを防壁なしで食らっていたら、さすがに硬いブレバティでもタダじゃ済まないだろう。
マズい、遠目で見ても、オグナと同サイズ以上の戦艦のようだし、積んでいるAGが2機のはずはないだろう。さらに援軍が出てきたら退却も難しくなりそうだ。
つまり、全部計算済みだったってワケだ。あれだけ景気よく音速飛翔ですっ飛んで魔力切れになるのも、このあたりで格闘戦を挑んでみたのも、ここでランデブー予定だったのなら何の問題もない。
仮にさっき足一本折るのに成功していたとしても、それ以上の追撃はできなかっただろう。やられた、完全に掌の上で遊ばれたよ。
くそ、アレを言われそうだな。なら、いっそこっちから言ってやるか。
「なるほど、『戦いとは常に二手先、三手先を読んで行うもの』なワケだ。完敗だね」
「フフ、『戦いは非情さ、その位のことは考えてある』と言っておこうか」
あっさり定番セリフで返されたよ、この「赤い人」め!
しかし、どうやって逃げるか…
と、今度はその反対側から異常に大量の魔力弾を感知する。1発あたりの威力はそこそこだが、一度に100発を超える魔力弾が雨あられと戦艦に降り注いでいく。何だあの飽和攻撃!?
もっとも、戦艦も魔力防壁は張っているようで、艦体表面に爆発が起きてはいるものの、装甲を貫通してはいないようだ。
思わず振り返ってみると、2機のAGと1機の飛行機らしきものが空を飛んでこちらに向かってきている。AGの1機はリヒトにも負けないような深紅で、もう1機は紺色、飛行機はオレンジ色である。
帝国の戦艦に攻撃しているところを見ると、オグナの艦載機だろうか? 味方であることは確かなようだが。
「そちらにも迎えが来たようだし、お楽しみはここまでにしておこうか。君の名前を教えてもらえるかな? 私は帝国軍皇太子親衛隊のリヒト・ホーフェン大佐だ」
「『紅の男爵』の名前くらいは知っているよ。僕は、ヤマト皇国ヘルム男爵家長男、ノゾミだ。まだ無位無官だよ」
新型機の増援が来たことで奴も引く気になったようで、名前を聞いてきた。ほとんど一方的に遊ばれたようなものだから悔しいが、ここで答えないのも余裕の無さを示すだけなので、一応名乗る。
「やはり君がノゾミだったか。舞台に上がってきてくれて嬉しいよ。一人舞台は意外につらいものでね」
「はぁ!?」
「いずれ分かるさ。それでは、また会おう。牽引光線」
何やら意味深なことを言われて驚いていると、牽引光線の魔法を使って左腕を回収し、そのまま戦艦目がけて飛び去りやがった。左腕がどこに飛んでいってたのか、あらかじめ把握してたな。
それにしても、あの口ぶりだと僕を知っていたのか?
しかし、僕は言っちゃあ何だが、ただの成り上がり者の田舎貴族の跡取り息子に過ぎない。
いや、父さんは元冒険者としても魔像研究家としても、それなりに知名度はあるようだけど、それは父さんの知名度であって、その息子だからといって僕が知られているわけではない。何でリヒトほどの有名人が僕を知っている?
「ちょっとぉ、魔力波妨害解いてよ!」
大声をかけられて我に返った。AG達が近くまで来ている。この声はヒカリか。ということは、あのAGか飛行機のどれかにヒカリが乗っているんだな。
「悪い、すぐ解く」
そういえば魔力波妨害使いっぱなしだった。通信できないよな。
もっとも、魔力波妨害で探知できない範囲を調べれば、その中心に僕がいることは分かるから、それで位置を特定して飛んで来たのだろう。
慌てて解除すると、さっそくオグナから強制通信が入ってきた。
「ノゾミ君、無事なの!?」
「ノゾミ、お前もっと冷静なタイプかと思ってたんだが、意外に熱血系だったんだな」
「あ、マーサさん、大丈夫です。言わないでくれよ、父さん。自分でも意外だったんだから」
「魔力残量はあるのか? 飛べるならすぐ戻ってこい。オグナの修復もしてもらうぞ」
「了解。すぐ戻るよ。通信終了」
「「通信終了」」
マーサさんに心配され、父さんにはからかわれた。恥ずかしさに頬が赤くなる。大失態だよ、クソっ。
あ、マーサさん、僕の呼び方が「君」付けに変わってる。ガキだと思われたんだろうな。それにしても、このAG達は?
「ヒカリ、そのAGは?」
「ブレバティ弐号機『ライガー』よ、あたしの専用機♪」
深紅のAGが答える。愛称付きなのか。
基本は僕のブレバティ初号機とおなじような形をしていて、色使いも似ているが、青の部分が深紅になっていて、赤の部分も深紅になっているから、白色部分はほとんど同じなのに深紅の印象が強い。
全体の意匠が竜ではなく獅子というか虎というか、猫科の猛獣系だ。ライガーってのはライオンと虎の雑種だから当然か。てか、名前の元ネタは「怒りの獣神」なのか? 何かイメージが違うような気もするが。
というのは、胸のXマークがないかわりに観音開きになりそうな蓋らしきものがついていて、いかにもここが開いて魔道砲を撃ちそうな感じなのだ。あと、右肩にでっかい魔道砲らしき砲身がついているのと、背中に大きなコンテナらしきものを背負っている。
見るからに遠距離砲撃支援型で、同名プロレスラーの元ネタになったバイオアーマーのイメージとは違いすぎる。ん? 砲撃型ということは…
「さっきの魔力弾の雨はお前の仕業か?」
「そーだよ。ライガーの魔力量凄いでしょ。さっきので8割方使い切っちゃったけどね、てへ♪」
…てへ、じゃないだろ。はっきり言ってヒカリも反則だ。
僕が小さい頃から魔法の訓練してるのを見て一緒にやってきたもんだから、前世記憶はないのに、通常の危険な子供たちより魔力量が多い。
僕に比べると剣術や格闘戦は苦手にしているが、代わりに魔法の細かいコントロールは上手だ。さっきのように大量の魔力弾を狂いもなくコントロールできるんだから恐ろしい。
「オレのは参号機『ポセイドン』だぜ!」
「ボクのは四号機『ロプロス』だよ!」
「はぁあああっ!?」
残り2機からも声が聞こえる。声自体には聞き覚えがあるが、それ以上にその愛称にツッコみどころが多すぎる!!
「乗ってるのはカイとクーか? 詳しい話はあとで聞くとして、とりあえず戻ろう! 飛翔」
まずは、父さんにツッコまないと気が済まない。燃費の悪い音速飛翔を切って飛翔に変え、とりあえずオグナの方を目指して飛び立つ。
紺色のAGが幼なじみにして親友のカイの乗っている参号機、オレンジの飛行機がカイの双子の姉のクーの四号機らしい…ってことは可変型AGなのか?
ポセイドンという名前らしい参号機の方は、初号機や弐号機が角柱主体なのに対して円柱主体のデザインになっていて、体型もずんぐりしている。
頭部の飾り角らしき部分以外に余計な突起はなく、名前からしても水陸両用っぽそうだ。
色は胴体が深い紺色で二の腕や股が青色の塗り分けになっており、潜水迷彩っぽい塗装になっている。
四号機のロプロスは、大きな翼をもった飛行機で、全体が鳥を模したデザインになっている。
透明なキャノピーはないので、初号機と同じく機体の目で外部を確認するのだろう。
腕や足になりそうなパーツが胴体の側面と下部に見えるので、やはりAG形態に変形しそうだ。
色は全体的に濃いオレンジだが、おそらく二の腕や股になりそうな部分に黄色っぽい色が混ざっている。
そんなに遠距離飛行はしていなかったから、すぐにオグナが見えてきた。右の主翼が無残に折れ飛んでいる。折れた主翼の方も森の木をなぎ倒していたので、すぐ場所が分かった。
「コール オグナ。主翼の修理は行いますか?」
「ノゾミ君、できるの?」
「まだ魔力に余力はあるので」
「それなら、お願いできるかしら」
「了解です、通信終了」
オグナに通信して確認をしてから、折れた主翼を拾う。オグナに向けて飛ぶと、主翼の破断面に合わせる。一人だとやりにくいので、助けを呼ぶ。
「ヒカリかカイ、これ押さえててくれる?」
「ごめん、あたし魔力残量少ないから降りてていい?」
「んじゃ、オレがやるわ」
ヒカリめ、さっき魔力使いすぎたな。
「ボクも変形できるけど?」
「オレだけで大丈夫だから戻っとけ」
「了解」
「…やっぱ変形するんだ」
「当然!」
クーの声が自慢げに答えると、目の前で四号機が人型に変形し、既に展開している飛行甲板に弐号機と一緒に降りていく。
そのカッコよさが、ちょっとだけうらやましい。やっぱり変形合体は男のロマンだ! …よね?
「それじゃ押さえるぞ」
「頼む、これでいいかな? 修復!」
カイの参号機に翼を支えてもらって、破断面を合わせてから修復の魔法をかける。珍しい魔法だが、父さんの魔像研究に付き合ってきたのだから、自然に覚えてしまったのだ…が!?
「うぉっ、何だよ、この魔力消費は!?」
「どうしたノゾミ?」
「まだ3割近く残ってた残量が一気に2割食われたよ。もう残りはほとんど空になってる」
修復系や治療系の魔法の場合、先に魔力量を決めるのではなく、回復に必要な魔力をだんだん流し込んでいって、回復が完了した時点で打ち止めにするような魔法制御の仕方もあるのだ。回復優先の場合は、こっちの方法を取ることが多い。
それにしても、残量の2割食われるとは、結構な魔力量が必要だったんだな。
「ブレバティの魔力量でか!?」
カイも驚いている。同じブレバティシリーズなんだから、参号機の魔力蓄積量も相当なモンだろう。それで2割の消費量なんだから、相当の量だということが分かったようだ。
「とりあえず、オグナに降りよう」
「わかった」
連れだってオグナの飛行甲板に降り立つと、ディスプレイに「通信:オグナ」の表示が出たので応答する。
「一応、外装の修理はできたようだな。あとは内部の魔法陣と魔法機能の確認をする。オリハルコリウムの修理には結構魔力を食ったろう。そろそろ空も近いんじゃないか?」
父さんが出てきた。…何というか、非常にツッコみたい単語を言ってますが!?
誰かに聞かれるとマズい会話になりそうなので、拡声を切ってから答える。
「ああ、ほとんど空っぽだよ。ところで、何だよオリハルコリウムって!?」
「ブレバティやオグナの主要素材だ。神金とチタンの合金でな、神金並の強度と剛性、魔法耐性、魔力保持性を持ちながら、大量生産が可能な夢の超合金だぞ! 漢字で書くなら神の鋼で神鋼になるだろうな」
…すごくファンタジーっぽい素材と、ファンタジーから縁遠い素材が組み合わさっているんだけど!?
いや、チタニウム合金とか聞くとリアル系アニメロボの装甲材質みたいなイメージはあるけど、実際にはチタンってのは別にSF素材じゃなくて、前世でも既に眼鏡にも腕時計にも使われてた身近な卑金属だけどさ。ってことは…
「…推測するに、ミスリウムってのは魔銀とチタンの合金かい?」
「正解だ。こっちは魔銀並の強度と剛性、魔法耐性、魔力保持性を持っている。魔鋼と書くことになるかな。性能を考えれば悪くはないが、オリハルコリウムに比べると一段劣るな」
やっぱり、そうだったのかよ。どおりで一眼巨兵に魔銀の剣が通らないわけだ。あと、ブレバティと一眼巨兵の性能差にも納得がいく。
「で、修理に魔力が必要というのは?」
「魔法耐性が高い分、修理や加工の際にも魔力が多めに必要なんだ」
「痛し痒しだね」
「やむを得ん。もっとも、ブレバティにしろオグナにしろ、補助装甲材としてセラミックファイバーも使っているから、無垢のオリハルコリウムほど魔力は食わないんだがな」
「ちょっと、また変な素材が出てきたけど、まさか陶器を繊維状にしているの!?」
「ガラスが繊維になってグラスファイバーとか言ってるんだから、別に陶器が繊維になってもいいじゃないか、魔法世界なんだし。装甲材質は『オリハルコリウム合金セラミックファイバー複合材』ってカッコいいと思わないか?」
「ファンタジーなめんな!」
思わず言ってしまった。「オリハルコリウム合金セラミックファイバー複合材」…世界観に似合わなすぎるよ、父さん(滝涙)!
神様、神様! ロボットみたいな魔像や飛行戦艦は、前世のファンタジー系ゲームでも、それこそお約束レベルで出くることも多かった代物だからまだいいです。だけど、このネーミングはあんまりじゃないでしょうか!?
「魔法世紀0096、デューラシア大陸を二分する大国アーストリア帝国は、突如として十カ国連邦に宣戦を布告した」とか、故・永井一郎のナレーションが聞こえてきそうです。
「これって、何か、違うんじゃね…」
次回予告
外装は修理できたものの、内部の魔法石が失われていて飛行できないオグナ。そこへ今度は紅の戦艦が襲いかかる。魔力切れで戦闘できないブレバティ初号機と弐号機を屋敷に待避させることと、そこにいる彼らの従姉妹リーベの護衛を命じられたノゾミとヒカリ。魔力回復を待つ彼らの前に、仮面の英雄が潜入してきた。素顔をさらす彼を見たリーベは思わず口にする。
「リヒト兄様!?」
「オイィぃぃっ!!?」
あまりにもお約束な展開にツッコむノゾミ。
「『皇女様』ってお前だったのかよ…」
次回、神鋼魔像ブレバティ第3話「再会、兄よ…」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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