第24話 ノゾミ対リヒト! Aパート
アバンタイトル
ナレーション「謎の覆面戦士『マスクド・プリチュア』の挑戦を退けたノゾミ。同時に地球帝国第一艦隊も壊滅したが、部隊の被害も大きかった。修理できる少数精鋭でルードヴィッヒを討つという作戦が示され、その前に1日の休暇が与えられる。そこでクーに呼び止められたノゾミは、フィーアとの婚約を問いただされる。クーの想いに応えられなかった事を詫びて、泣き崩れる彼女にせめて胸を貸すノゾミ。家に戻るとフィーアのほかに捕虜のはずの謎の覆面戦士まで居ることに頭を抱えるのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「だいたい、お前、何でまだ覆面脱いでないんだよ!?」
思わずミス・アトミックを問い詰めてしまう。覆面さえ脱げば、捕虜宣誓なんぞしなくても別にこの家にいてもいいはずなんだから。元々家族な上に、一応「洗脳されてる」という建前になってるんだから、それが解けた事にすれば何も問題は無い。
「あれ、分かんないの? 『ヒカリ・ヘルム』は、この戦争が終わるまでは地球帝国側に立ってないといけないのよ。捕虜になってもダメなの、分かる?」
「ああ、なるほどな」
一貫してアーストリア帝国=地球帝国側に居ることで、あちら側の人間の信頼を得ないといけないワケか。こいつも、いろいろ苦労はしているんだな。普段のお気楽極楽ぶりがヒドいから、あんまりそうは思えないけど。
…どうせ正体バレバレじゃん、とは言うまい。そこで正体が分かるのはウチの部隊やあっちの部隊の人間ばかり。つまり身内なワケで、そこから外に拡散しなければヒカリが実家に戻っているという事は漏れない。
「ねーちゃーん、すんげえ久しぶりなんだから遊んでよ~」
「おねーちゃんじゃないの、マスクド・プリチュアさんなの! …でも、マスクド・プリチュアさんには遊んで欲しいの」
「うん、ツバメちゃんは賢い子ね。いいわよ、遊ぼうか」
ツバサとツバメにまとわりつかれるミス・アトミック。うん、微笑ましいホームドラマだね…覆面かぶってなければ。
「あんなヒカ…彼女は初めて見た」
「あいつは色々な顔を持ってるのさ。知ってるだろ?」
半分感心して、半分呆れたような顔をしているフィーアの横に座りながら、彼女の肩に手を回す。一瞬、驚いたようにビクッとしたフィーアだったが、すぐに僕の肩に頭を寄せてきた。
「そこ! 所かまわず桃色のふいんきを出さない!!」
「『ふいんき』って何だよ!?」
「なぜか変換できない言葉よ!」
そして、容赦なく邪魔しくさるミス・アトミック。この世界でも書類作成用の魔道具は存在して、やはりワープロと呼ばれてたりはするのだが、インターネットは無いので、これは完全にリヒト由来の前世ネタである。こいつは…
「…あれは放っておきましょう。私はそろそろお暇しますね」
「あ、マーサさん、一緒に外で食事しません?」
「あら珍しい。いいわよ」
呆れたマーサさんが帰るのに合わせて、リンがマーサさんを外食に誘う。何か話でもあるんだろうな…どんな話かは想像がつくが。
「お疲れ様でした、お気を付けて」
出て行く2人を見送りながら、くしゃみには気をつけないといけないな、と思う僕なのであった。
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草木も眠る丑三つ時、という言葉はこちらの世界にもある。もっとも、輪廻転生についての信仰が前世よりも広く浸透しているので、「幽霊」というものを恐れる風潮は無かったりする。さすがに異世界だの前世の記憶だのというのは特殊例だが、死んだら誰かに生まれ変わるというのは、この世界では普遍的な宗教観なのだ。怨念が残って幽霊になるという概念自体はあるものの、あまり信じられてはいない。
そんな深夜に、うら若き女性の部屋~双子の妹のものであるにせよ~に忍び込む、というと実に犯罪的なニオイがする表現なのだが、実の所マジでインモラルな事をしようとしてはいるのだ。バレたらかなりヤバい…特にフィーアには。
「催眠」
よし、かかった! 扉越しな上に、かなり精神力の強い相手にかけるのだから、効くかどうか微妙だったのだが、さすがに久しぶりの自室~ではない事になっているが~でのんびり休んでいる時まで気を張っていることはできなかったようで、寝てる上に催眠を重ね掛けしたのだから、そう簡単には起きないだろう。
扉にカギはかかっていない。静かに扉を開けて室内に侵入すると、カギをかけてから部屋の外周部だけ音を遮断するように範囲を限定した沈黙の魔法をかける。これで、室内でどんな音がしようとも外部に漏れることはない。
あらかじめ暗視の魔法はかけていたので、部屋の中は明かりがなくとも真昼のようによく見通せる…のだが、ベッドを見てみたところ、寝るときまで覆面をかぶっていたので少し呆れる。
催眠が効いてはいるが、それでも鋭いヤツだから、起こさないように細心の注意を払ってベッドに近づくと、寝ている首元に魔封じの首輪をつける。
これも魔法を封じる道具の一つで、声は出せるのだが、呪文を唱えても魔法が発動しないように干渉魔力波で妨害するもので、原理としては剣術訓練場の魔防結界と一緒だ。やはり人体に影響は出るが、首の周囲だけに弱い干渉波を出すものなので魔防結界よりは長時間使える。丸1日くらいはつけていても問題はない。
主に、犯罪者や捕虜の尋問に使うための道具で、警察や軍施設ならどこにでも常備されている。そうした相手の魔法を封じるのは、普通は沈黙の魔法が常時発動している留置場や捕虜収容所に入れるのだが、それだと音声による尋問ができないからね。
剣術や格闘術の訓練で使わないのは、拘束して使用することが前提のため耐久性が低い魔封じの首輪をそういう用途で使ったら壊れてしまうからである。装置単体で見れば高くとも魔防結界の方が長期的に見ればコストが安くつくというだけの事なのだ。
もう暗くしておく必要もないので、部屋の明かりをつける。
「拘束、覚醒」
拘束の魔法を掛けた上で、強制的に眠りから覚ます魔法で強引に起こす。拘束破壊の魔法が使えなければ、この拘束から逃れる術は無い。
「な、何!?」
「おはよう、と言うには少し早いかな、ミス・アトミック」
「な、何してるのよ、深夜に人の部屋に忍び込んで…って、拘束!? 拘束破壊!! ウソ、発動しない!?」
「魔封じの首輪をつけているからな。それに、この部屋の周囲に沈黙をかけてある。音は外に漏れない」
「何考えてるのよ、このクソあ…ノゾミっ!!」
「うん、いい根性だ。実はね、僕は常々フィーアとの仲をひっかきまわしてくれた妹に、ひっじょ~ぉに怒っているんだけど、さすがに実の妹を『拷問』にかけるのは憚られてね。そこでだ、妹からライガーを受け継いだという君に八つ当たりすることにしたんだ」
「ちょっ、待ってよ、捕虜に拷問するなんて許されると思ってるの!?」
さすがに顔をひきつらせるミス・アトミック。っても目元と口元しか見えてないけど。
「確かに、普通の捕虜に拷問なんかしたら戦争犯罪だ。だけどね、賭けてもいいけど地球帝国の士官名簿に『ヒカリ・ヘルム』中佐の名前は載っていても、『マスクド・プリチュア』なんてふざけた名前は載ってないはずだ。いない者に拷問しても問題にはならないだろう」
「それなら『魔術師艦長』だって士官名簿に載ってないでしょ!?」
「…恐ろしい事に、その名前で官報にも人事移動の公示がされたんで載ってる」
「…十カ国連邦の国防省って、意外にファンキーだったのね」
その感想には心底同感だが、今重要なのはそこじゃない。
「まあ『拷問』とは言ったが、さすがに体に傷をつけるような事はしないから安心してくれ…恥ずかしい思いはするかもしれないけどね」
そう言いながら、部屋のクローゼットの中を探す。案の定、ヒカリが隠していた、人に知られると少し恥ずかしい物が見つかる。
「ちょ、どうしてソレを!?」
「妹の事なら隠してたって分かるんだよ」
「ソレで、何をする気よっ!?」
さらに顔をひきつらせながら叫ぶミス・アトミック。フハハ、怖かろう! いいぞ、泣け、わめけ!!
「分かるだろう?」
「ちょっ、それ本気でやるなら、あたし『クッ、殺せ』とか言っちゃうわよ! 実の妹…じゃないけど、うら若き乙女にそんなセリフ吐かせるような事していいと思ってるの!?」
おうおう、ここには僕たちしかいないのに、まだ「別人」と言い張る気かね。いい根性だ。それに、そんな程度の事は脅しにはならないぞ。何しろ…
「言っておくけど、この前フィーアに本気でそのセリフ吐かれたから、そんなの脅しにならないよ」
「マジ!?」
「超マジ」
「…フィーア、恐ろしい子っ!!」
恐れおののくミス・アトミック…何か違う気もするけど。
まあいい、これからが本番だ!
「冗談はここまでだ。さあ、始めようか」
「いや、待って、そ、そんな事を本気でヤる気!?」
「ボロ雑巾にしてやる、と言ったはずだぞ。恥辱の海で悶え死ぬがいい」
「イヤー、やめて、人の情けがあるのなら…」
「ねェな、そんなものわ」
どこぞの極悪エロ魔術師のセリフを剽窃しつつ、ベッドの上で動けないミス・アトミックにせまり、おもむろに…
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
本気で嫌がるミス・アトミックを無視して、クローゼットに隠してあった「薄い本」を開くと、パラパラとめくってラブシーンらしき所を見つけて、おもむろに彼女の耳元で朗読を始めた。
「ああ…や、やめてぇ…」
悶え苦しむミス・アトミック。ライト・ビートルなどというペンネームを使っているが、ヒカリ・ヘルム作のBL小説である。どうだ、恥ずかしかろう、フハハハハ!
まだ在庫は何冊かあるぞ。このまま精神的にボロ雑巾になるまで朗読を続けてやる!!
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「リヒトぉ…汚された…どうしよう…汚されちゃったよぉ…」
しくしくと泣き濡れるミス・アトミック…と言いたい所だが、ネタゼリフ吐いてる時点で、あまり効いてないな、畜生め。
2冊目くらいまでは本気で恥ずかしがっていたが、その後は耐性ができたのか、もう開き直ったのか、ネタゼリフで対抗してきやがった。
むしろ、朗読してるこっちの方がSAN値が下がりそうだ。お前、処女のクセにえらくハードなBL書くのな…存在は把握してたけど中身までは見てなかったから、ここまでキッツいのだとは思わなかった。
「もうやめだ。意外に効かなかったな」
「ふーんだ、このヒカ…マスクド・プリチュア様がそんな程度の攻撃にやられるモンですか」
舌を出してあっかんべーの顔をするミス・アトミック。ぬう、生意気な!! もう少し嫌がらせしてやろうか。
「よし、そんな態度をとるなら、これ全部リヒトに送ってやる」
「ちょ、やめてよねっ! マジで!!」
「リヒトなら、これ見たくらいで婚約解消とか言わないだろうよ。散々からかい倒されるだろうけどな」
さすがに婚約解消とかになったらかわいそうだが、リヒトの性格と趣味からすれば、そこまでは行かないだろう。恋人に散々からかわれて苦しむがいい!
「いや、そっちは心配してないけど…」
はて、反応が微妙なのはなぜだ?
「なら何が心配なんだ?」
「これ読んだリヒトが、おんなじプレイ要求してきたらチョット嫌かな、とか思ったりして…」
「おいおい、これ全部BLだろう?」
「あのね、女の穴は男には無いけど、男の穴は女にも有るのよ。お分かり?」
…ダメだ、こいつにはコレ以上何をやっても効かんわ。
「よく分かった。コレ全部のし付けてリヒトの所に送っとくから、結婚後の夜の生活を楽しみにしとけ」
「ちょ!? 待ってよ、待ってってば!!」
「その拘束は朝になる前には効果が切れるよ。魔封じの首輪は母さんに返しといてな。んじゃ、おやすみ~」
わめくミス・アトミックを置き去りにして、僕は隠してあった薄い本を全部持って、明かりを消してからヒカリの部屋を後にするのであった、まる。
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拘束が切れた後でミス・アトミックがお返しにくるかと思って少し警戒してたんだが、朝まで特に何もなかった。
正直、僕にとって一番こたえる反撃はフィーアにバラされることだが、それをやるには、あいつ自身が腐女子である事をフィーアにカミングアウトしないといけない。フィーアに聞いた様子だと、あの趣味については隠してるっぽいから、そういう事はまずやらないだろう。
「おはよう…皆さん、おはようございます」
食堂に入ると、もうガーランド一家は全員揃って席に座っていたので、改めて挨拶する。私服は持ってきていないからか、朝からビシッとした軍服姿である。魔道戦艦に着替えの軍服ぐらいは置いてあったんだろうな。
そういえば、アインたちとも知り合ったのはフィーアと大差ない時期なのだが、顔を見たのは昨日が初めてだった。一卵性だから当然だが3人ともそっくりで、違いは真ん中、右、左と搭乗するAGの角と同じ部分で分けている前髪くらいなものだ。黒髪青目も含めて全体的な印象と既に180センチを超えていそうなガッチリした体格は父親似だが、目元あたりは隣に座っている母親にも似ている。
ヒルデガルド中将とも昨日のうちに顔合わせは済ましている。金髪青目なので、フィーアの緑髪は彼女の遺伝子から受け継いだものではないらしいが、目元をのぞいた顔立ちなどは確かにフィーアによく似ている。母さんとは冒険者時代から親友だったようで、話がはずんでいた。
ウチの家族の方は、ツバサ、ツバメとリーベ、それに仮面オヤジはまだだが、母さんとミス・アトミックとリンは既に席についていた。
客が多いので、いつもと席の配置が違うが、僕の席は普段と同じで、ずっと空席だった隣にミス・アトミックが座っている。フィーアは向かいの席だ。
「おはよう、ノゾミ」
「おはよ…」
「おはよう、フィーア。ついでにお前もおはよう」
フィーアに朝の挨拶をされるだけで気分が高揚してくる。横でブスッとしてる覆面女の事なんか気にもならないね。
「何かあったのか? ヒカ…マスクド・プリチュアがえらく不機嫌そうなんだが」
「夕べ、ちょっとからかったのさ」
「フィーア、本当にコレでいいの? 結構ヒドいヤツよ」
フィーアが聞いてきたので軽く誤魔化す。ディスってくるヤツがいるが、まあその程度の反撃はしてきて当然だろう。
「知ってる。ヒドい目には何度も合わされてきたから…」
何気にフィーアにもディスられてる気がするが、それも含めて互いを深く知り合ってきたんだから、否定できる事でもない。
「お互い様だからな。あと、ヒカリにヒドい目にあわされた分を、代わりにコイツに夕べ少し返しといたんだ」
「ああ、なるほど」
「それで納得するの!?」
「ヒカリにも結構ヒドい目に合わされてきたからな」
「ん~、あたし他人だからよく分かんな~い」
フィーアにジト眼で見られて、明後日の方向を向いて口笛を吹く覆面女。この調子なら、昨晩の事をバラされても平気かもしれない。
席に座りながら、母さんに今日の予定を確認する。
「あとでドラゴンの整備状況だけは見に行くけど、基本、今日は休暇でいいんだよな?」
「そうよ~。明日に備えてゆっくり休んでね~。あ~、そうそう、フィーアちゃんとデートするのはいいけど、疲れすぎないようにしなさいね~」
「前向きに善処する」
やる気のない政治家の答弁のように誠意の無い答えを返す。せっかくのデートのチャンスを逃してなるものか!
「…おい、ノゾミ、誰もまだデートするなどとは…」
「「「言ってなくてもするんだろう?」」」
「「「言ってなくてもするんでしょ?」」」
フィーアの反論は、語尾以外はきれいにハモった6人の言葉に遮られた。三つ子兄弟と覆面女はともかく、リンや母さんまで息ピッタリとは。義両親が苦笑してるよ。
「おはよう、リーベ、ツバサ、ツバメ。艦長も、おはようございます。ほら、食事だよ。今日の予定はまた後で話し合おうか」
真っ赤になって爆沈したフィーアをどうフォローしようかと頭を悩ませているところへ、リーベがツバサたちを連れて入ってきて、魔術師艦長も姿を見せた。それを見たメイドたちが配膳を始めたので、これ幸いと話題を変える…ニヤニヤ笑うな、そこの6人!!
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「本当に良かったのか? こんな高価な指輪でなくとも…」
左手の薬指にはめた真新しい指輪を見ながら言うフィーア。まあ、魔道車1台分のお値段だから高かったのは事実だけど、せっかくの婚約指輪だから奮発したんだ。もっとも、口では済まなそうな事言ってるけど、頬が緩んでるぞ。まあ、喜んでもらえるのは素直に嬉しいからいいけど。
朝食を取って一休みしてから、すぐにイモータルの市街でフィーアとデートしているのだ。今回はショッピングである。せっかくなので婚約指輪を贈ることにしたのだ。貴族家の嫡男だから現金払いする必要もないんだけど、小切手なんて初めて切ったよ。
ただ、せっかくのデートなのにフィーアの口調は騎士モードだったりする…まあ、2人とも軍服姿だからしょうがないか。彼女の私服がないんで僕も合わせて軍服にしたんだ。さすがに、夕べあんな事をしておいてヒカリの私服を貸してくれとは言いにくいしね。
敵国の軍服姿じゃ目立つかと思ってたんだけど、捕虜宣誓した第一艦隊のメンバーが結構市内観光に出てきてるらしくて、あちこちで地球帝国の軍服姿が見られた。そういえばアインたちもリンの案内で観光する予定だって言ってたな。
実は婚約指輪の他に私服も何着か買ってあげたけど、その場で着替えると今度は僕が浮くんで、家に配送を頼んだんだ。それを着てのデートは、また今度の楽しみという事で。
まあ、指輪の方はすぐ身につけてもらいたかったから婚約指輪なのに特注品とかじゃなくて既製品にしたんだけど、代わりに高いものを奮発したんだよね。ただ、魔道車1台分はさすがに少し高かったかもしれない。いや、その程度は気にもしない貴族も多いんだろうけど、ウチと同じでガーランド家はたぶん宝飾品よりは別の物に金をかけるタイプの家だろうからね。フィーアが気にするのも無理はないか。ちょっとフォローしておくかな。
「そう何度も聞くなよ。ガーランド伯爵家ほど広い所領はないかもしれないけど、ヘルム男爵家には魔道戦艦1隻作れるだけの財力があるんだし、僕個人だって正騎士の俸給やAGパイロット手当と、その前の魔獣駆り修行で手に入れた素材だの魔石だのの売却益で結構貯金はあるんだから」
実際、僕個人の貯金の1/3くらいしか使ってない。残りの貯金で結婚式の資金も十分足りるはずだ。もっとも、貴族の結婚式なんてものは、お互いの家の見栄もあるんで、家の公費を出すことが多いんだけども。
「そうか…誕生日には私も何か贈りたいと思うんだが」
「手編みのマフラーとかだと嬉しいな」
お金をかけた物よりは愛情がこもった手作りの品だよね!
「ハードルを上げるな!! …手芸は苦手なんだ」
…ああ、得手不得手はあるよね。
「得意な物でいいよ」
「あ、ああ、分かった。…剣術と攻撃魔法で作れる物って何かあるのか?」
…後半部のつぶやきは聞かなかった事にしよう。僕は耳が遠いんだ。
「それじゃあ、どこかで昼食にするかな」
話題を変えよう。時間的にもちょうどいいだろうし。
「あ、それなら、あの店がいい。お前と初めてジュースを飲んだ…」
「お、なるほど。パスタがおいしいんだ、あの店は」
席を手配しようとした時、聞き覚えのある声が空から振ってきた。
「フィーア、せっかくのデート、邪魔してごめんね~」
ほぼ同時に、僕たちの周囲に一瞬影が落ちる。空を見上げると、飛行形態になったロプロスが超低空を旋回して北西方向を目指して飛び去るのが見えた。
「今の声はヒカ…マスクド・プリチュア!?」
「何であいつがロプロスに乗ってるんだ!? 遠話」
咄嗟に、店につなごうとしていた遠話の連絡先を司令室に切り替えて発信する。
「ノゾミ君!? ちょうど良かった、休暇の所悪いんだけど、来てくれる? ロプロスが何者かに強奪されたの!」
「今、上を飛んでったよ。盗んだのはヒカ…マスクド・プリチュアだ」
「え!? …なるほど、彼女には認証は無力ね」
「副司令は何やってんだ! 誰か追撃できるのは?」
「無事な機体がドラゴンしかないの。格納庫まで来てもらえる?」
「了解、通信終了」
通信を切って、さっそく頭の中で瞬間移動の座標設定をしながら、フィーアに話しかける。
「残念だけど、今日のデートはここまでみたいだ。僕はロプロスを追う。格納庫まで一緒に来るか?」
「分かった、行こう」
手を差し出しながら聞くと、その手を握るフィーア。
「瞬間移動」
第一格納庫に転移してみたら、扉が吹っ飛ばされていた。あと、駐機位置にある2機のうち、ドラゴンは無傷だが、ゴールドライオンの胸には大きな穴があり、魔道エンジンまで貫通されているようだ。
「坊ちゃん、ゴールドライオンがやられた! 損傷が少ない機体から順に修理してたんだが、ロプロスが直った時点で盗まれちまった。ポセイドンとロデムはまだ直ってない。ありゃヒカリ嬢ちゃんだな!」
ヤマムラさんが言って来た。…まあ、バレバレだよね。しかし、ほぼ無傷だったゴールドライオンがやられたのは痛いな。
「ドラゴンは?」
「そっちは無事だ。あと、第二格納庫に置いてあるフィーアさんやお兄さんがたの一眼巨兵も無事だが…」
「さすがに、それを出撃させるわけにはいかないよ。『フライトブースター』使える?」
「そうか、アレがあったか! もちろん、いつでも使えるぞ」
最近完成したばかりの、陸戦用AGで高速長距離飛行を可能にする追加装備について聞いてみると、使えるようだ。さすがに 自転車だけだと戦略機動能力が低いので、こういう物も開発していたのだ。飛翔の魔法だと消費魔力が大きすぎて陸戦機で遠距離は飛べないからね。
「それで追うよ。あれは大きいから第二格納庫かな?」
「ああ、手前の方に置いてあるはずだ」
「オッケー、それじゃ僕が追うよ。フィーアはここかウチで待っててくれ」
「分かった…気をつけてな」
ところが、ここでヤマムラさんが予想外の事を言い出した。
「フライトブースターには人が乗れるぞ。パイロットが乗ってれば、AGから切り離して単独の航空機として運用が可能だ」
「なぬ!?」
アレ、てっきりスクランダーだとばっかり思ってたけど、実はダブルスペイザーだったのか!! 細かい仕様は聞いてなかったから、初めて知ったよ。
驚いている僕を尻目に、ヤマムラさんは勝手にフィーアと話を進める。
「フィーアさんは飛行機の操縦は?」
「士官学校で教習を受けている」
「なら、マニュアルさえ導入すれば操縦できるな。マニュアルはコクピットに置いてあるし」
「おい!?」
いくら亡命客扱いだからって、ウチの部隊どころか連邦軍所属ですらないフィーアに最新装備を使わせていいわけないだろう、とツッコもうとしたのだが…
「よし、それなら借りよう。私も行くぞ」
「よしきた、こっちに来てくれ」
僕が止めるよりも早く、2人とも第二格納庫の方に走っていってしまいました。…しょうがない、僕はドラゴンを起動しよう。
「ブレバティ・セットアップ、認証、ノゾミ・ヘルム…あれ?」
コクピットに乗り込んでドラゴンを起動しようとするが、前にライガーを盗まれた時と同じで、認証が解除されてる。まあ、対処法は分かってるから問題ないけど。
「入力、認証、ノゾミ・ヘルム」
認証を再設定して起動すると、壊された扉から外に出る。基本魔法をかけながら待っていると、第二格納庫の方から大型の飛行機が低速で飛行してきた。主翼長だけで40メートル以上ある全翼機。翼幅も広く翼面積が大きいのは、身長18メートルのAGに揚力を与えるための機体であるから当然だ。主翼以外には垂直尾翼しかない全翼機形状なのは、合体後には不要な部分を少なくするためだろう。主翼と一体化している胴体部もかなり大きいのは、そこに憤進の魔道具が埋め込まれて推進力を得られるようになっているからである。
「こちらから合体する。後ろが空いた場所に立ってくれ」
フィーアの声が聞こえたので、格納庫前の開けたスペースに移動して立つ。
すると、機体を垂直に立てた状態で水平移動するという通常の飛行機ではあり得ない機動で近づいてくるフライトブースター。これは飛翔じゃなくて浮遊の魔法を使っているな。
「合体!」
フィーアが口にしたキーワードに合わせて、機体が軽く振動する。背後から、胴体上部の首の横の位置と腹部を固定する形でドッキングアームがドラゴンの体を固定する。胸のドラゴン・ブレードは外せる状態だが、この状態だとコクピットハッチを開けられないな。
「よし、合体は成功だ。機体の制御はどうする? そちらに渡すこともできるが、そうするとフライトブースターとドラゴンの魔力消費も合算になるぞ」
フィーアが尋ねてくる。そうか、前にロプロスに付けたロケットブースターみたいに本体とは魔力を別枠扱いにして空を飛ばすだけじゃなくて、ドラゴンと一体化して魔力増槽的にフライトブースターの魔力をドラゴンで使えるようにする事もできるのか。だが、飛行で魔力を使いすぎると今度はドラゴンの魔力を失う事にもなるな。どの程度飛行に魔力を消費するか分からないから、ここはドラゴン本体の魔力を温存しておこう。
「追いつくまでは、そちらで制御してくれ。戦闘になったらこちらが制御を貰う」
「了解。それじゃあ、飛ぶぞ。点火!」
フィーアの声に合わせて、背後のロケットブースターが点火され、ドラゴンは力強く空に飛び上がる。
飛翔の魔法ではなく、純粋に翼の揚力と憤進の魔法の推進力で飛行を実現しているのだ。ドラゴンみたいに複雑な形状のものを飛ばすには、その方が魔力消費が少ないんでね。
「ロプロスを追うぞ。北西へ向かってくれ」
「了解」
よく考えたら、生身では共闘したことはあるものの、AG戦では初めてフィーアと一緒に戦うんだな。その相手があいつというのは皮肉だけど。
そんな事を思いながらも、ロプロスの現在位置を確かめるために、管制室のマーサさんにつなごうと魔動通信機を起動する僕なのだった。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




