第23話 ミス・アトミックの挑戦 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「ノゾミに命がけの決闘を挑んできたフィーア。傷つきながらも彼女を打ち倒したノゾミに、フィーアは魔族の因子を埋め込まれた化け物である自分を殺して欲しいと懇願する。それを受け入れると思わせておいて、唇を奪い、愛を告白すると同時に転生者であるという自分の秘密を明かすノゾミ。最初は戸惑っていたフィーアもそれを受け入れ、彼女もまたノゾミを愛していたと告白する。その様子を密かに見ていて勝手に婚約まで話を進めてしまった父親たちに苛烈な『恩返し』をする2人だったが、そこに敵襲の知らせが入る。出撃したノゾミを待っていたのは、ライガーをヒカリから譲り受けたという自称謎の覆面戦士『マスクド・プリ○ュア』だった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「そこに○入れたら『プリピュア』にしか聞こえんぞっ!!」
あまりにもあんまりなネーミングに、思わず他の人間には全然分からないツッコミをしてしまった。
「あー、それは確かにエロ系のバッタモンくさい名前っぽいわねー」
そこは琴線に触れたらしく、ちょっと小首をひねる自称「謎の覆面戦士」…後ろに(笑)ってつけたくてしょうがねえ。
「あと、お前、自分が伝説の戦士3号と同じ名前だって分かってるのか!? 大体、父さんがアレやってるからって、お前まで覆面かぶってどーする!? ウチはすっかり変人一家になっちまうじゃねーかっ!!」
…いや、まあ、変人一家であることは否定できないか。と、ツッコんだ後で半分冷静になってしまう自分がいる。
「だからヒカリ・ヘルムとは別人だって言ってるでしょ! あと残念でした○の中は『キ』じゃなくて『チ』で~す。正解は『マスクド・プリチュア』でした~」
顔の横で両手をひらひらさせて人を小馬鹿にするポーズを取るマスクド・プリチュア。そうかい、伝説の戦士じゃなかったのかい。
…ん? その名前、どこかで聞いたことがある。脳内検索をしてたら、おっそろしく古いネタと一致してしまった。確か力道山の伝記を読んでた時に出てきたプロレスラーの本国でのリングネームだ。日本でのリングネームは、力道山が「もっと派手な名前にしろ」と命令して違うリングネームになったと書いてあったんだが…あれ、でも、日本でのリングネームだと確かにこいつにピッタリなのかな?
「それって『ミスター・アトミック』の本国でのリングネームじゃねーか!! 街頭テレビ時代のプロレスラーなんて誰が知ってるんだ…って、よく考えたらお前『原子力女』だったか?」
「その呼び方やめてよねっ!! 大体、ドコのダレよっ、人に『核を操る娘』なんて小っ恥ずかしい二つ名付けたのはっ!?」
意外にも怒るマスクド・プリチュア。おろ? お前、それを小っ恥ずかしいと思う感性の持ち合わせはあったのか。むしろ喜んじゃうくらい厨二病を患ってるかと思ってたんだが。あと、その二つ名がついてるのは覆面かぶってない状態の時だろうに。
「文句ならマスコミに言え。ってか、そこで怒ってる時点で、お前ヒカリだろう?」
「だ、か、らぁ! いちいち覆面かぶってる人間の正体を口に出さないでよねっ!! …って、そういえば、お兄…じゃなくて、あなたは『ドラゴンの中の人』! そりゃ空気読めないのもしょうがないか」
ムカっ! その発言、許せん!!
「『ドラゴン』をバカにするなあっ! あの『相手の5の力を9まで引き出した上で3の力で勝っちゃう』ドラゴン殺法こそ正にプロレスの神髄だっ!!」
思わず力説してしまった。普通は「5の力を9まで引き出した上で10の力で勝つ」アントニオ猪木の方が分かりやすいんだろうけど、相手の技を受けて受けて受けまくった上でコロッと丸め込んで勝っちゃう晩年(いや、まだ現役だけどさ)の「ドラゴン」藤波辰爾こそ、プロレスの面白さを見せてくれるという意味では最高のレスラーだと僕は信じてやまない。
…いや、まあ、普段の言動や空気を読めてないマイクアピールにツッコみどころが多いところも藤波のチャームポイントだってのもわかるんだけどね。
「…あなたの趣味が前世でどんだけ偏ってたのか、その発言だけで理解できちゃった」
しみじみと言うマスクド・プリチュア。解せぬ…じゃなくて、さすがに脱線しすぎたかな。周りがみんな唖然としてるし。そろそろ本題に戻ろう。
「やかましい! それで今日は何しに来たんだ!? いくらお前が居ようと、魔導戦艦1隻分の戦力ではウチの部隊はどうにもできないぞ」
相手よりも高性能のAGで、数も多いのだ。さらに、まだ予備兵力としてアニー・エリック中尉らの第4小隊もイモータル市内に控えている。
「お説ごもっとも。でも、ここにいるのが全戦力だとは誰も言ってないわよ」
「なに?」
「第一艦隊カモ~ン」
次の瞬間、我々の周囲に複数の転移魔法の反応が感知される。
魔道戦艦が、全部で5…いや、6隻!
転移と同時に、甲板上で出撃体勢だった一眼巨兵がすぐに飛びだして、僕たち12機の周りを半包囲する形で着地する。その数は、全部で54機。元の8機と合わせて総勢62機!
「フッフッフ、前に一度使われたセリフですが、あえて言っちゃいましょう! 『戦いは数だよ、兄貴!』『AGの性能の差が戦力の決定的な差ではないことを教えてやろう』ってね!! 言っとくけど、ここに居るのは帝国の最精鋭パイロットばかりだからね」
おーい、セリフの中に込みだけど、お前そこで「兄貴」って言っていいのか? …じゃなくて、これだけの戦力が集まると、さすがに厳しいな。
「第4小隊も出撃、それからオグナとスフィンクスは魔像形態のままで出撃を要請! あと出撃の一瞬をのぞいて瞬間移動妨害結界の維持よろしく!」
「了解。第4小隊およびオグナ、スフィンクス出撃します」
魔導通信機越しの僕の要請に即座に答えるマーサさん。僅かなタイムラグで第4小隊とオグナ、スフィンクスが玻璃障壁の外に現れる。
とはいえ、戦力的にはかなり厳しい。特に、エリック家の三姉妹の乗る3機のAGで構成される第4小隊は、実は政治的な意味合いで配備されていて、戦力としてはあまり当てにならないのだ。
パイロットのエリック三姉妹の腕は標準より少し上くらいで、悪くはないがウチの部隊では下の方になる。しかも、乗っている機体はブレバティシリーズの量産型~一時貸与したペガサス~ではなく、北コロンナ合州国の試作機「トマホーク」なのだ。
装甲材質はミスリウム合金どころか、超硬ハイマンガン・スチール合金…どこかで聞いたようなのが組み合わさってるが、要するに超硬化高張力鋼にすぎない。装甲強度も劣るだけでなく、畜魔量は一眼巨兵に比べても更に半分程度しかない。
その分、武装の方を豊富に取りそろえていて、火炎弾とか雷撃を結構な強度で発射できる魔導火器を装備できるようになっている。コンセプトとしては、自力で魔法を使うのが前提のAGよりも、火器は別扱いになっている魔導戦艦に近い設計思想なのだ。
このため、予備兵力、基地の守備などに回る事が多いのだが、この戦力差では彼女たちにも戦ってもらわなくてはならないだろう。
そして、オグナとスフィンクスは、戦闘力だけなら通常の魔導戦艦と互角に戦えるが、数が違う。そう、量産型であっても一眼巨兵より遙かに高性能なブレバティシリーズと異なり、スフィンクス級と帝国の魔導戦艦には性能面、特に砲撃力では大差が無い。砲撃力に大差が無い以上、数の差が3.5倍というのは非常に厳しい。その差を魔像形態での格闘戦で補えるかどうか…
「さあ、勝負しましょうか、ノゾミ・ヘルム!」
僕をビシリと指さして叫ぶと、コクピットに戻るマスクド・プリチュア…とそのまま呼ぶのも何だな。こいつ、嫌がってたから「ミス・アトミック」って呼んでやろう。
勝負することは別にかまわない。こいつこそ、リヒト以外の帝国騎士で、唯一僕と張り合える実力の持ち主なんだからな。AGの性能もほぼ互角。たまには本気でやりあったっていい。
とはいえ、終戦までのシナリオの中で、ここで戦う意味は何なのかが、今ひとつ分からない。直接聞いてみるか。
「狙いは何だ、ミス・アトミック!?」
「ってえ、その呼び方続ける気!? …まあ、いいわ、その呼び方したことを後悔させてあげるから。狙いはもちろん、この戦争の主導権よ! ここに居るのが両国の最精鋭、つまり勝ち残った方が戦争を終わらせる力を持つということよね、おわかり?」
…そういう事かい。ルードヴィッヒが打倒されるというシナリオ自体は変わらないが、それを誰がやるのかが変わるって事か。ウチの部隊と僕が主体になるのか、それとも第一艦隊の反逆という形でヒカリたちが主体になるのかが変わるって事だな。
と、そこに転移してきた黒色の魔導戦艦~おそらくは以前にコンスタンティン中将が座乗していたティーゲル2だろう~から声がかかる。なお、第一次イモータル防衛戦の時にリーベが切り取った艦橋周りは修理されているのだが、何か外見が某大人気ロボットアニメの敵側独裁者の政庁みたいな感じの悪魔の顔を思わせるようなデザインに魔改造されている。これ、絶対にお義父さんの趣味だろうな。
「ライガーの戦術指揮任務を解除します。ライガーはドラゴンを抑えることに専念してよろしい」
落ち着いた感じの女性の声だが、フィーアによく似ている。恐らく彼女の母親、ヒルデガルド中将が指揮を取っているのだろう。
「ノゾミ君もライガーを抑える事に専念してください。戦術指揮はこちらが行います」
魔導通信機からマーサさんの声が聞こえてきた。正直、あいつの相手をしながら指揮も取るのは厳しいから助かった。
「「了解」」
奇しくも僕とミス・アトミックの応答が重なる。いや、不思議でもないか。それだけの絆があるんだから。この世界に生まれた時から常に一緒にいた相手。互いの手の内もクセまでも知り尽くした、組むなら最高の相棒。そして、敵に回るなら、間違いなく最も油断できない好敵手!
「それでは、尋常の勝負といきましょうか。G3ね!」
以前に遊園地で型どおりの演武をやったときと同じように型の番号を言ってくるが、あの時とは意味が違う。何かマグネットコーティングっぽい型番だが、このGは真剣勝負を意味し、3は「殺し以外何でもあり」だ。あいつも本気だな。
「いいだろう、いざ尋常に」
「「勝負!」」
「「攻撃開始!!」」
僕たちの勝負開始と同時に全体の戦闘も始まる。
「みんな頑張ってね! 今日の歌は『翔べ! ガンダ…』」
リンの声が今日の呪歌を紹介しているが…大人気ロボットアニメの主題歌かい! いやまあ、燃える歌ではあるし、巨大な敵を撃つんだからいいのかもしれんが。
その歌い出しを聞きながら、僕はライガーに向けて初手の攻撃を放つ。
「魔力弾連続発射! ドラゴン・ブレード」
オリハルコリウムを壊せるだけの魔力を込めた魔力弾を6連射しつつ、ドラゴンブレードを抜いてライガーに向けて突進する。
「闇球」
それに対して、ライガーは両手に闇属性の大きな球体を作り出し、飛んできた魔力弾をそれで受け止めて相殺する。だが、これらが防がれることは想定の範囲内!
「耐闇防壁っ!」
闇属性への防壁を張ってドラゴン・ブレードにまとわせ、そのままライガーの胸を狙って突き込む。仮にあの闇球で防御しても、防壁をかけたドラゴン・ブレードは耐えられるはず、と思ったのだが…
「玻璃被膜」
聞いたことのない呪文がミス・アトミックの口から漏れると同時に、ドラゴン・ブレードがライガーの胸に突き立つ!
ガギリ!!
「何っ!?」
…はずだったのだが、実際には奇妙に神経に障る音を立ててブレードが止まる。
ドラゴン・ブレードの切っ先から刃全体が玻璃障壁と同じ材質とおぼしきガラスに覆われていたのだ。
玻璃障壁の応用魔法! 盾として使うのではなく、相手の武器をガラスでコーティングして鋭利な部分を封じ、刺突や切断の能力を奪うとは!!
そして、僕は今、相手のド真ん前で武器を封じられた状態にある!
「暴風雪!」
「耐氷防壁っ!!」
ライガーを中心に強烈な冷気の嵐が巻き起こる。咄嗟に防壁を張るが、イメージ化が雑だったためか、せいぜい9割程度の防御力になったようだ。かなり魔力を注ぎ込んでるらしく、ドラゴンの機体表面の温度が急激に下がり、わずかに凍り付く。
だが、機体の動きを妨げるほどに凍り付くわけじゃない。生身と違って、AGなら体がかじかんだりして動きが鈍ることもない。何のために、この魔法を使った?
「ブレストオープン! ファイアストーム!!」
「なんッ!?」
ミス・アトミックがキーワードを唱えると同時に、ライガーの胸が開いて、そこから強烈な炎が吹き出してきた。とっさに一歩飛び退りながら両腕で顔から胸のあたりをガードする。
ライガーの胸には本来は無属性の魔道砲が内蔵されていたはずなのだが、改造していたのか!
…って、この連続攻撃はもしやッ!?
「結合、疾風走破! 喰らいなさいよっ、必殺『サム・ストレートパァァァァァンチぃ』!!」
ライガーが距離を詰めながら右拳を叩き込んでくる!
さっき、咄嗟に炎をガードしてしまったので、この体勢からではカウンターを入れるには一手遅れる。
そんなに距離はないが、疾風走破で急加速し、結合で分子結合を強化したライガーの拳は、そのまま叩き込まれればドラゴンの胸を貫通して魔道エンジンを破壊できるはず。
僕は咄嗟にドラゴンの上体を反らして、ライガーのパンチに空を切らせると同時に、下からライガーの胴体を蹴り上げて飛ばす!
「んなっ!? 雷撃ォ!!」
「クッ、水刃!!」
飛ばされながらも雷撃を放ってくるライガー。パンチを避けたばかりの不安定な体勢では避けようがない!
バガァン!
咄嗟に左腕で受けるが、あらかじめ戦闘開始前から雷撃防壁を張っていたにもかかわらず、左腕が砕け飛ぶ。
ガスッ!
一方で、ライガーの着地点を狙って放った僕の水刃~ダイヤモンドをもカットできる超高圧の水の刃だ~はライガーの右腕を斬り飛ばしていた。
すぐ、互いに起き上がって向き直り、相手の出方をうかがう。
相打ちだが、お互いに右利きだから利き腕~それも拳を魔法で強化してある~を取った分、こちらが有利だろう。
「利き腕を取ったぞ! にしても、お前が格闘攻撃で来るとはな」
得手の魔法じゃなくて近接格闘で来るってだけで意表を突かれたのは事実だけどね。
「女子だって三日会わざれば刮目して見て欲しいわね! っても、付け焼き刃じゃ空手ロボの技をパクってきても通じないか」
…やっぱり闘将の必殺技のパクりかよ!! でも「サム」って何だ? あの技だったらストームとかになるんじゃ…あ! 「烈風」~ゼロ戦の後継機の米軍側コードネーム~かよ!!
「マニアックなネタ振りやがって!!」
「文句なら知識寄こしたリヒトに言ってよね! ま、通じないのは分かったから、もう自分の得意技で行くわよ、魔力弾連続発射ぅ!」
蹴り飛ばしたとはいえ間合いは50メートル程度。この距離で高威力の魔力弾を連射されたら避けきる事は不可能。かといって魔法の撃ち合いは相手の得意フィールドだから悪手。ここは肉を切らせて骨を断つしか方法はない!
イモータル市の防衛機構である瞬間移動妨害結界は玻璃障壁の範囲内しか効果はないものの、転移してきた帝国第一艦隊の魔導戦艦群が各艦ごとに周囲数百メートルまで効果が及ぶ瞬間移動妨害結界を張ったようで、この周囲もその範囲内に含まれていることが周囲の微細な空間魔法の魔力から感じられる。あまりに微細なので、あの島に居るときは気付かなかったけど、慣れれば瞬間移動妨害結界も使われている事が分かるのだ。
つまり、転移が封じられている以上、僕はこの目の前に迫ってくる十数発の魔力弾の弾幕を突っ切ってくしかないワケだ!!
「こなくそォ!!」
ガリン、ガン、ザン!
ドラゴン・ブレードで魔力弾を叩き落としながらライガー目がけて突進する。幸いにも、というか皮肉にもと言うべきか、ドラゴン・ブレードは玻璃被膜とかいう魔法によって特殊ガラスでコーティングされており、かなりの威力が込められた魔力弾を叩き落としても、そのガラスが削られるだけで刃自体にダメージが通っていない。
うん、威力が低い!?
確かにオリハルコリウムを破壊できるだけの威力はあるが、ライガーならこの数の魔力弾にはもっと魔力を込めて威力を強化できるはず。これは牽制なのか?
と、ライガーが右肩の大型魔力砲を展開しようとしているのが見える。まさか、ここで核を使う積もりはないだろうが、アレで高威力の魔法を撃つ気か。だが、展開する前に懐に飛び込んでしまえば、どんなに高威力の魔法だろうと無意味!
「取ったァ!!」
いくつか魔力弾をくらって肩や脇腹、腿のあたりを削られたりしたものの、致命傷は受けずにライガーの至近距離まで接近に成功する。ドラゴン・ブレードを覆っていたガラスは全て砕け散っているが、刃自体は無傷。ライガーの魔道砲の砲身は展開が終わったが、僕は既にその砲身の横にいる。このまま魔力撃で突きを決めて魔道エンジンを破壊すれば僕の勝ちだ!
「レールガン! 今よ、切って!! 瞬間移動ッ!!」
「な、しまっ…」
ライガーの巨大魔道砲の砲身に強力な雷属性の魔力が走るのを感知すると同時に、周囲から瞬間移動妨害結界が消える。
そして、ライガーは僅か数メートルだけ後ろに転移する。だが、それで十分。僕の目の前では、片膝立ちにしゃがんだライガーの右肩にある魔道砲の砲口がピタリとドラゴンの胸を狙っていた。
「仰角俯角ゼロ! ついでに距離もほとんどゼロ! これがホントの零距離射撃ィ!!」
ミス・アトミックの勝ち誇る声が戦場に響き渡った。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




