第22話 緑の髪の少女 Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「フィーア、好きだ。君を、愛してる」
その言葉を聞いたフィーアが硬直する。
真っ赤だった顔から血の気が一度引いて、それから再び真っ赤になる。…信号機みたいだな、とか言っちゃいけないよね、このシーンで。
「おま! …そ、いや、あの…」
言葉が出てこないフィーアに半分呆れながら声をかける。
「おいおい、そんなに慌てるなよ。本当は僕の方から言いたかったのに、先を越したのは君の方だろ?」
「誰が先を越した!?」
「『せめてお前の手で殺してくれ』なんて滅多に聞けないような熱烈な愛の告白をしてくれたのは誰だい?」
「えっ!? ちょ、待って、それは…」
「そういう意味、だろ? 違うとは言わさないよ」
「…」
真っ赤な顔で黙り込んでしまったフィーアに近づくと、顔を上げさせて、再びキスをする。フィーアは、拒まなかった。
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「でも、本当に私でいいのか?」
長い口づけのあとで、フィーアの口から出た最初の言葉はそれだった。
「間違えないでくれ、君でいいんじゃない、君がいいんだ」
前にアインに言ったのと同じことを繰り返す。
「さっきも言ったが、私は化け物なんだぞ。確かに敵を倒すためには有効かもしれないが、人の枠を超えているんだ」
先ほどのように捨て鉢になってはいないが、まだ不安そうに言う。
「なら、僕だって『化け物』の内さ」
「…なに?」
虚を突かれたように、僕を見返すフィーア。そんな彼女に対して、口の端に薄く笑みを浮かべながら、僕は自分のことを語る。
「僕の魔力量は並みの危険な子供たちの約3倍。0歳の時から魔法の練習をしてきた結果さ。生まれ落ちてすぐに、はっきりと意識を持って魔法の練習をする赤ん坊。化け物でなくて何だと言うんだい?」
「なん、だ、と…」
「僕には、前世の記憶があるのさ。それも、この世界じゃない、まったく違う世界を生きた記憶が。だから、ルードヴィッヒの言う『異世界からの侵略』も不思議には思わなかった。普通じゃないという意味でなら、僕も立派な『化け物』だ」
「…」
完全に絶句したフィーアに、さらにたたみかける。
「だから、僕は君を『化け物』なんて思ったりはしないよ。そしてね…」
しっかりと彼女の目を見つめて言葉を続ける。
「僕は、この事を告白したからって、君が僕を忌むとは思わない。君はそんな人じゃないと信じているから」
「そ…」
何かを言いかけたフィーアを遮って、そのまま言いつのる。
「だから、君も僕を信じてよ。僕は決して君を忌み嫌ったりしない。世界中の誰もが君を恐れ、忌んだとしても、僕だけは絶対に君を信じて、守るから」
フィーアの顔が歪む。こらえていた涙が溢れ、それを隠すかのように僕の胸に顔をうずめてくる。そんな彼女の肩をやさしく抱きしめると、か細い声が聞こえた。
「いいのね、信じても」
それは、勇猛果敢な女騎士ではなく、14歳の少女の声。
「ああ」
僕は、ただ一言、だけど全ての思いを込めて答える。
「私も…ノゾミが好き」
鈴の音のような、とても透き通った、小さな、小さな声。だけど、僕の耳はそれを聞き逃したりはしなかった。
「好きだよ、僕のフィー」
あえて、もう一度言う。その中にある、ほんのちょっとした変化。でも、そこには大きな意味がある。意志がある。ただ1字削っただけでも、それは親愛の表現。
それに気付いてか、フィーアも僕の背に腕を回して、抱きしめてくる。
ただ、抱き合うだけなのに、こんなにも気持ちいい。愛し合うって、何て素晴らしいことなんだろう。
僕たちは、時間を忘れてお互いの体温を感じ合っていた。
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「前はそんなに普通の人と変わってるようには思えなかったんだけど、確かに今日の君はえらく強くなってたね。どうして急に?」
ちょっと落ち着いたので、あえて聞いてみる。彼女が自分の力を厭っているのは分かるが、まずはその力がなんなのかを教えてもらわないと。
僕の言葉を聞いて、キリッとした騎士の表情に戻ったフィーアが答える。
「リミッターを外した、ということらしい。今までは深層心理にブロックをかけて、力を抑えていたのだ、と父上が言っていた」
そんな事をしてたのか。だけど、何でだ? …そうか!
「なら、君も分かってるんじゃないのか。ガーランド大将が、いちいちそんな事をしたのは、君を『兵器』じゃなくて『娘』と見ていたからだ、ってさ」
そう言った僕に、フィーアはうなずいて答える。
「ああ、そう言われた。最初は戦闘のための兵士として育てる積もりだったと。それが、どれだけ罪深い事か分かっていて、それでもなお人類のための捨て石にする積もりだったと。でも、実際に育てていくうちに、どうしても娘として見るようになってしまい、私が5歳になる前にリミッターをかけて、普通の子供として暮らせるようにして、戦闘訓練もやめる事にしたのだ、と」
そこでフッと笑い、さらに話を続けるフィーア。
「兄上たちにも言われた。子供の頃は、私に嫉妬していたのだ、と。訓練でも何でもそつなくこなし、実の子でもないのに母上に可愛がられていた私に嫉妬して、邪険に扱っていたのだと。今更ながら済まない、と謝られた」
「僕にも、そう言ってたよ」
「皮肉なものだ。実はその母上に遺伝子を貰っていたのだからな。血がつながっていないはずなのに、よく母上に似ていると言われて困惑することがあったのだが、それも当然だったわけだ」
「本当に愛されていたんだろう」
今まで、フィーアは家族との仲が悪いんじゃないかと思ってたんだが、実はそうじゃなかったらしい。行き違いはあっても、彼女は家族に愛されて育ってきたんだろう。
僕の言葉に、フィーアもうなずいて話を続ける。
「それに気付かず意地を張っていたのがバカみたいだ。兄上たちの後を追って帝国士官学校に入ろうとして反対された時もそうだったのに…」
「後を追って? …ああ、学年が違うのか」
「兄上たちは早生まれだからな。私は11月生まれだから」
この世界では、学校は9月入学が普通なのだ。
「あれ、僕と同じ月か」
「ん、そういえば双子だから当然ヒカリと同じ日なんだな。3日だったか。私は23日だから、20日違いだな」
もうすぐ誕生日か。こうなったからには、お祝いしないとな。おっと、それはまた後の話だ。
フィーアもそう思ったのか話を元に戻す。
「それでな、帝国軍士官学校に入ろうとしたときに反対されたのも、私に戦わせたくなかったからだ、と言われた」
そこで、自嘲するように笑って言葉を続ける。
「私はそんな親心を知らずに、ずーっと、妾の子、実の母親の顔も知らないような余計な子だから、貴族の家の子として、騎士として戦うことを認めてもらえないのかと僻んでいたんだ。それを見返したくて、無理矢理に貴族枠でなく一般市民枠で願書を出して帝国軍士官学校に入ってしまったんだ」
そんな風に自虐的に語るフィーアに、僕はあえて言う。
「それは僕にとっては良かったことだけどね」
「え?」
「そうでなければ、君には会えなかったもの」
一瞬、きょとんとした顔になってから吹き出すフィーア。
「フフフ…そうだな。士官学校に入らず貴族令嬢として暮らしていたら、会う機会など無かったか。でも…」
そこで、一度憮然とした表情になってから僕を睨みつけて言う。
「よく考えたら、最初に会った時からお前には随分ひどい目に合わされてきたな」
そう言われたら、僕も反論せざるを得ない。
「まずAGで追いかけ回されたのは僕の方だった気がするけど?」
「お前がドラゴンに乗ったら、すぐにボコボコにされたではないか!」
「捕虜交換のはずがヒカリは戻ってこなかったし」
「あれはヒカリ本人の選択だろう!」
「ものすごい大根役者にデートに誘われたし」
「それに乗ったのは誰だ!? 第一、あれもヒカリの命令だ!!」
「無人島では背後から襲ってくるし、川には落ちるし」
「簡単にかわしたじゃないか! 川は…不可抗力だ!!」
「楽しい海水浴の邪魔をするし…」
「あれはヒカリが嫉妬したせいだ! 第一、あそこで殺されかけたのは私の方じゃないか!!」
「今度は僕が殺されそうになったから、おあいこ様だろ!!」
「お前たちが変な事考えるから悪いんだろうが!」
「僕たちが騙そうとしたのはガーランド大将だけだ! 勝手に見に来て誤解したのは誰だ!?」
「見に行こうと誘ったのはヒカリだ!!」
そこで何となく顔を見合わせる。
「…よく考えてみると、僕たちがひどい目にあってる原因の1/3くらいはヒカリのせいじゃないのか?」
「…そんな気がするな」
そして、どちらともなく笑い出してしまう。ダメだ、今は何をやっても彼女と居るとそれだけで楽しい。傍から見たら完全なバカップルモードだろうなあ…
ひとしきり笑った後で、あらためて本題に戻る。
「そこまで愛されている事が分かったのに、どうして『殺してくれ』なんて言ったんだ?」
「だからこそ、裏切られたと思ったんだ。今までは封印していた力を解放するということは、結局のところ私は『兵器』として使われるのかと、そう思ってしまったんだ」
そこで、一息いれてから、僕を見つめて言葉を続ける。
「そして、怖くなった。この秘密を知ったら、ノゾミも同じように『兵器』として私を見るんじゃないか、と」
「隠そうとは思わなかったの?」
「隠した所で、お前の目を誤魔化せるものか。そのくらいには注目されているとは思っていたからな」
…ブラックフォックスの件で僕の気持ちはバレバレになっちゃったからなあ。
「やっぱり、あのオッサンは驚かせる程度で済ますんじゃなくて、本気でぶん殴っておいた方が良かったかもしれない…」
「同意する。私にも殴らせろ」
そう言ってから、ため息をついて言葉を続けるフィーア。
「結局、お前は私の秘密を知っても動じることもなく受け入れてくれたわけで、盛大に空回りしていたのは私だけということになるな。今となっては、父上はこうなる事を予想していたからこそ、秘密を伝えてリミッターを解除したのだろうと分かるが、どうして大丈夫だと確信できたんだろう?」
「簡単さ。ガーランド大将も、ウチの父親も、どっちも僕と同じ前世記憶持ち、それも同じ世界からの転生者だからだよ。ちなみに、リヒトとルードヴィッヒと我が国のタケル殿下もそうだぞ」
「何だと!?」
「僕たちの前世の世界でも、まだ実用化はされてなかったけど、小説や物語では既に遺伝子改造による人体強化なんて概念は普通にあったからね。そう聞いたって僕は拒絶したりはしないと確信してたんだろうさ」
そう聞くと、うつむいてプルプル震え出すフィーア。ああ、怒りマックスモードだ。
「…それなら、そうと言ってくれれば、こんな風に決闘などしないでも済んだというのにっ!!」
「じゃがなあ、こんな面白い見世物、見ないで済ますにはもったいないじゃろが?」
「「えっ!?」」
突然、訓練場内に響いた怒りの当の相手の声に驚いて辺りを見回す。と、今度は魔術師艦長の声が響く。
「ここは最新の訓練場だぞ。前後左右に加えて真上の方向からも訓練の様子を録画できるカメラと、それを確認できるモニタールームが設置してあるのぐらい知っているだろう。それを元にアドバイスや指示をするための場内放送設備だってある」
「って、オイ、きちんとロックしたんだぞ!? モニタールームのロックにも連動してるから、あっちにも入れないはずだ!」
あまりの事に叫んでしまった僕に、余裕の声が降ってきた。
「駐留部隊司令官が訓練施設の合い鍵の一つも入手できないと思うか?」
うぐっ…この状況は、ある意味で詰みだ。
「つまり、さっきからの僕たちの行動はすべて…」
「録画済みじゃ。高画質じゃぞ」
予想通りだが非常に悪戯っぽいオッサンの声。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
フィーアから絹を引き裂くような悲鳴を聞けるというのは結構レアなのだが、僕も気持ちは彼女と同じだ。一人だったらムンクの叫びみたいな顔になってたかもしれない。
しかし、ここで負けたらそれこそ終わりだ。何より、一矢でも報いておかねば気が済まない。
「出てこいよ」
「そうさせてもらおう」
入り口が開いて2人が入ってくる。
「許さ…」
「その映像、人に見られてもよいのか?」
「クッ」
噛みつきそうな顔で自分の父親に飛びかかろうとするフィーアだったが、そう言われて歯がみして止まる。うん、やっぱり悔しげな「クッ、殺せ」顔が似合うんだよなあ、こいつは。
「どうせ見せる気マンマンのくせに」
あえて、そう言って反応を探ってみる。だが、仮面の男の返事は予想の斜め上を行っていた。
「武士の情けだ、結婚式の時だけにしといてやるよ」
「ちょっと待てぃ! 気が早すぎるぞっ!!」
「うん? さっきの様子だと、もうそこまで行ってもいいかな、という気もしてるんだが」
「いや、いずれそうなる事はやぶさかじゃない、というか望むところだけど、告った直後に結婚式の話とか、さすがに早すぎだろう!?」
「貴族の結婚なんて、どうしても家と家との関係になるんだ。早めにやっといた方がいいと思うぞ。とりあえず戦争が終わったら婚約は発表するからな」
「おい、何でそこまで話が進んでるんだよ!?」
「当事者の合意が成り立ってて、両家の家長も賛同しているんだから、そこまで進んで何の問題があるんだ?」
「両家の家長って!? …いるな、この場に」
僕の言葉にうなずく2人の中年男。クソッ、そこまで手の平の上で踊らされてるのか…
「そうじゃぞ。それに、妹に先を越されるのも嫌じゃろ?」
「へ、妹?」
オッサンが何やらフォローしたのだが、意味が分からず問い返してしまう。まさか…
「オイ、その事はまだクリスにしか伝えてないんだぞ」
「何じゃ、いちいち帝都まで来てホーフェン公爵にも挨拶したというのに言っておらんのか」
ホーフェン公爵って、リヒトの義父だよな。オイオイオイ、あいつら、そこまで進んでたのかい!?
「フィーア、知ってたか?」
「ああ、ヒカリに聞いている。というか、妹の婚約なのに聞かされていないのか?」
「聞いてないよ~!」
我ながら古いと思うが、つい口から出てしまった。いいさ、こっちの世界じゃ父さんたち以外は誰も知らないネタだろうし。
「戦争が一区切りついてから伝えようと思っていたんでな。まあ、めでたい事だし、まとめて発表する方がいいだろ」
言ってることは、まあ間違えてはいない。
…いないのだが、こんな場で聞かされる方の身にもなってみろ!
よし、やってやる! さっきの場面を録画したことが抑止力になると思って、この場に出てきたことが、あんたらの致命的なミスだ!!
「フィーア…」
僕は、あえて静かにフィーアに声をかけた。
「何だ?」
「この素晴らしい父親たちに、僕たちがどれだけ成長したのか、見せてあげるのが『恩返し』だとは思わないかい?」
「何を言って…あっ! なるほど、了解した。お前の言う通りだ」
「「なぬ?」」
僕の言いたいことに気付いたフィーアと、不穏な空気を察知した2人の父親。でも、もう逃がしはしないよ!
「瞬間移動妨害」
あらかじめイメージしておいた魔法の呪文を唱えると、この訓練場内では瞬間移動の魔法は使用不能になる。
「しまった!!」
「何じゃと!?」
焦る2人をよそに、僕は再び入り口の近くの操作盤で訓練場のドアをロックする。
「お主瞬間移動妨害を…」
「とっくに教えてるに決まってるだろう!」
そう、帝国魔導技術廠で実用化された瞬間移動妨害の魔法は、魔術師艦長経由で我が国にも伝えられている。
「さて、お2人とも。今回僕が申請したのは施設の私的利用でして、軍の訓練ではございません。私的に親睦を深めるための訓練、という名目で使用許可を得ております。したがって、この訓練場内での行為は軍法会議の対象とはなりません。また、訓練中の負傷については、事後にきちんと治療が行われれば一般刑法の暴行罪や傷害罪の犯罪構成要件とはなりません」
僕の言葉を聞いて、青ざめるお2人。
「ま、待て、話せば分かる…」
「あの映像を人に見られてもよいのか!?」
今更、それが脅しになるかい!
「どうぞ、ご自由に。どうせ結婚式では皆さんに披露されてしまうんですから。いいだろ、フィーア?」
「ああ、そこまで話が進んでいるなら、もう誰に恥じる事もないからな」
フィーアも腹をくくったらしい。そのフィーアにうなずいてから、改めてにこやかに笑みを浮かべてオッサン…もとい、これから義父になる人に向き直って口を開く。
「せっかくですから、直接お願いいたしますよ。『お義父さん、僕に娘さんをください!』」
「よ、喜んでくれてやるから近づくなっ!!」
「いけませんよ、お義父さん。ここは『お約束』通りに『娘が欲しければ自分を倒してみろ!』とかおっしゃっていただかないと」
「いや、吾輩はそういう『お約束』はだな…」
弁解しながら逃げようとするお義父さん。
逃がすものか、と追おうとした僕をフィーアが制して、代わりに自分が父親に向き合って口を開く。
「なら、先に私の方の『恩返し』をさせていただきますよ、父上。リミッターを外したあなたの娘が、期待通りの戦闘能力を得たのか、ぜひその体でご体験ください」
「待つのじゃフィーア、話せば分かるっ!!」
父親に対してジリジリと迫るフィーア。とりあえず、あっちは任せておいて、僕はもう一人の人を相手にしようかね。
「それでは、こちらも『スキンシップ』を通じて親睦を深めようじゃありませんか、魔術師艦長殿?」
「なあ、その前に少し話し合いをだな…」
「聞く耳持ちません」
その後、二人の中年男の野太い悲鳴が訓練場内に響き渡ることになった。
いや、充実したいい「訓練」だったよ。僕たちの実力を父親たちには存分に分かって貰えたと思うしね。
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「初めてだから、ちょっと痛かったが気持ちよかった…」
上気した頬に満足げな笑みを浮かべてつぶやくフィーア。その練習着の股の部分には真新しい血の染みがにじんでいる。
「いや、その格好でそのセリフはちょっと…」
「何か変か? 父上の顔面に膝蹴りを叩き込むなど、初めてのことだからな。片眼鏡が魔道具で予想以上に固くて痛かったことと、返り血で少しズボンが汚れてしまったのは誤算だったが」
悪びれずに答えるフィーア。いや、確かに何一つ間違えた事は言ってないけどね。
なお、その前の決闘騒ぎのときの血もたくさん残っているので、返り血はそんなに目立ってはいないのだが、場所が悪いよ。
「少しは手加減せい! 父親に向かってなんという事をするのじゃ!!」
「してますよ。してなかったら、首がもげてます。さすがにそこまですると母上が嘆かれますからね」
既に治癒したので鼻血も止まり顔面骨折も治ったガーランド大将が大声でわめくが、フィーアは鼻で笑って応じる。強くなったモンだ。
ちなみに魔術師艦長も既に治療は済んでるが、まだボロ屑の堆積物みたいな格好で訓練場の床にのびている。さっき壊した壁直すのと一緒に、服も修復しないといけないかな。っと、その前に…
「一つ聞いてもよろしいですか?」
ちょっと聞きたいことがあったので、改めてフィーアに文句を言おうと口を開こうとしたガーランド大将の機先を制する形で尋ねる。
「何じゃ、まだ何かあるのか?」
文句を邪魔されて少し不愉快そうな顔をしたものの、僕に向き直って答えるガーランド大将。
「なぜ、今、フィーアのリミッターを解除したんですか?」
その目をまっすぐに見つめて、改めて質問する。この理由ははっきりとさせておきたい。
「うん? ああ、その理由は、お主らがデキたからだな」
「ゲフっ!」
さらっと口にされた答えを聞いて、フィーアが変な声で咳き込む。まあ、気持ちは分かるけど、僕はその答えは予想していたんで焦らない。
「フィーアが僕の横に立って戦えるように、という事でしょうか?」
「正解じゃよ。こやつの性格は分かっておる。好きな男が出来たからといって、自分は安全な所に引っ込んで守ってもらうようなタマではないわ。そういう所は、本当にヒルダによく似ておる」
「母上に?」
フィーアが口を挟む。ヒルダというのは、ガーランド大将の奥さん、ヒルデガルド・ガーランド中将の事だろう。地球帝国軍第一艦隊参謀長、兼、魔導技術廠副長官。要するに、あらゆる意味でガーランド大将の次席指揮権を握っている人だ。公私ともにパートナーとして夫を支えているという意味では、ウチの母さんにもよく似ている。
「おう、冒険者をやってた頃から、ヒルダは吾輩の側を離れず、常に共に戦ってきたからな。お前もそうしたいのじゃろう?」
「…はい!」
はっきりと答えるフィーア。それを見て満足そうにうなずく、その父親。
「ならば、自分を『兵器』などと卑下せずに、その力を愛する男のために使え。この『まやかし戦争』はともかく、その次の戦いは本当に過酷なものになるはずじゃ。吾輩は自分の娘に名誉の戦死なんぞされたくはないからな。生還率を上げるためなら、悪魔の力だろうが何だろうが、使える物は何でも使うぞ」
「はい、父上!」
力強く答えるフィーア。これで、父親へのわだかまりも無くなったことだろう。うん、期待通りの答えだ。これで聞きたいことの半分は聞いた。
「あと一つだけ。もし、僕たちがこうならなかったら、フィーアをどうするつもりだったんですか?」
「軍を退役しろと言っても聞かんじゃろうから、『まやかし戦争』が終わったら後方の訓練部隊か新型AGのテストパイロットにでも転属させようかと思っておったよ。その程度の職権濫用は許される地位にはあるからな。そうしたら、こやつの事だから『戦士として認めて貰えないのか』とか改めて恨まれてたかもしれんが、それでも、たった一人の娘を過酷な戦場には出したくなかったんじゃ」
「父上…」
「じゃがな、その娘に愛する男ができたというのに、それと引き裂くなどということはせんよ。じゃから、リミッターの方を外すことにしたのじゃ」
そう言ってから、改めて僕の方に向き直ると、何と頭を下げて言った。
「ノゾミよ、娘を、フィーアを頼む。力を解放したとはいえ、まだ使いこなしてはおらんし、その力があったとしても、なお生き残れるとは限らん戦争になるじゃろう。じゃが、お主ならきっとフィーアを守ってくれると、吾輩は信じておるぞ」
「任せてください。絶対にフィーアは守ります。守り抜いて見せます!」
僕も力強く誓った。愛する人の父親に、ここまで言われて発憤しない男がいるものか!
「ノゾミっ!!」
僕の誓いを聞いたフィーアが僕の胸に飛び込んでくる。
…のだが、それと同時に大きなサイレン音が館内放送から聞こえてきた。
「空襲警報、空襲警報! 敵軍魔導戦艦らしき飛行物体がイモータル市北西50キロ地点に出現。総員、第一種戦闘配置!!」
マーサさんのアナウンスを聞いて、思わずため息をついて愚痴をこぼす。
「いい所で邪魔が入るな。まあ、お義父さんの前で、これ以上イチャつく気はなかったけどさ」
「え? どうせ一度見られてるんだから、別にいいと思うんだけど…」
「君、意外に大胆だね…」
どうやら、僕の誓いを聞いてフィーアは騎士モードから女の子モードに変わっていたらしい。騎士モードの時はガチガチに生真面目なのに、女の子モードだと結構感情的で大胆になるんだよな、こいつ。
「敵軍魔導戦艦はパンター号と推定。ライガーらしきAGを確認。ブレバティチーム緊急発進」
マーサさんの声が追加報告をする。おっと、行かなくちゃあ!
「またヒカリが邪魔するし!」
「まあ、そう言うなよ。あいつも僕たちのことを心配してるんだろうさ」
不満そうに言うフィーアをなだめる。以前は「ヒカリ様」だったのが、だいぶ慣れたモンだ。まあ、これからは義姉妹になるんだから仲がいいのは助かるけどね。
「それは分かってるけど…」
「ちょっと行ってくる。さすがに一眼巨兵で出撃というわけにもいかないだろうから、君とアインたちやガーランド大将は基地で待っててくれ」
「ん、分かった」
「了解じゃ」
フィーアたちが答えるのと同時に、床のボロ屑が起き上がって声をかけてくる。
「おい、瞬間移動妨害を切れ。俺も司令室に行かないといかん」
こいつ、気絶したフリして全部聞いてやがったな。まあいいや、今回だいぶ「恩返し」して気は晴れたし。
「解除した。出撃するよ。瞬間移動」
そう言い残して、ついでにフィーアの頬に軽くキスをしてから、僕は格納庫へ転移したのだった。
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「すまない、遅れた」
「大丈夫だ、まだ始まってはおらぬ。指揮権を引き継ぐぞ」
第二種戦闘配置中だった第3小隊~ジャヴァリー殿下たちのチームだ~が先にイモータル市外で迎撃準備をしている所に、僕のドラゴン以下の第1小隊とタケル殿下のゴールドライオン以下の第2小隊が合流する。
総勢12機、ほんの数時間前に行ったTPG迎撃戦と同じメンバーになる。あの時はそんなに激しく戦ってないし、一応、機体の整備くらいは済んでるだろう。
それに対して北西方向からパンター号と共に進撃してくる敵軍のAGは8機。おかしいな、パンター級の搭載可能数は9機だから1機足りない…あ、そうかフィーアのAGが抜けてるんだ。
ライガーを先頭に7機の一眼巨兵が飛来して、僕たちに対峙するような位置に着地する。パンター号は少し後ろで待機しているが、主砲は既に展開済みのイモータル市の玻璃障壁を狙える位置にいる。
「何しにきたヒカリ!? ゲオルグ閣下ほかのガーランド家の皆様にはお客人としてご滞在いただいている。全員無事だが、返す積もりはないぞ」
まずライガーに向かって、ガーランド大将もフィーアも無事だという事を伝える。それを心配して来たんだろうからね。
だが、ライガーの反応は、少し予想外のものだった。
まず、バン! とコクピットハッチが開き、そこから一人の少女が飛びだしてきて、同時に差し出されたライガーの右手の上に降り立つ。
どうやら帝国の方もパイロットスーツを実用化したらしく、体にぴったりとした金属光沢のスーツを着ているのだが、色は派手な赤と銀である。胸元には連邦のパイロットスーツと同じように保護板が入っているようだが、その下の胸はあまり大きくはなさそうだ。
だが、頭部にはヘルメットの代わりに、まるで鬼のような角がついた意匠の覆面を被っており、目もメッシュになっているので口元しか見えない。後頭部からはピンクのロングヘアが伸びている。
ってか、その覆面、どう考えてもプロレスラーの方の怒りの獣神っぽいデザインなんだが?
そして、おもむろに口を開くと、ある意味では予想外、ある意味では非常にお約束通りのセリフを吐いてくれた。
「ヒカリ・ヘルムは帝都の風となりました。あたしは彼女からライガーを受け継いだ謎の覆面戦士…」
いや、お前いくら「ライガーの中の人」だからって「風になった」はないだろう! あと自分で「謎の」とか言うなよ!!
…とか内心でツッコんでいたのだが、その後の名乗りはさらにヒドかった。
「人呼んで、『マスクド・プリ○ュア』!」
僕は思わず全力でツッコんでいた。
「それって何か違い過ぎるだろう!!」
次回予告
「お前、自分が伝説の戦士3号と同じ名前だって分かってるのか!?」
「だからヒカリ・ヘルムとは別人だって言ってるでしょ! あと残念でした○の中は『キ』じゃなくて『チ』で~す。正解は『マスクド・プリチュア』でした~」
「それって『ミスター・アトミック』の本国でのリングネームじゃねーか!! 街頭テレビ時代のプロレスラーなんて誰が知ってるんだ…って、よく考えたらお前『原子力女』だったか?」
「その呼び方やめてよねっ!!」
周囲を置き去りにしていがみあう兄妹。ついにドラゴンとライガーの最後の戦いが始まる!
そして、戦いの後には、もっと恐ろしい敵がノゾミを待ち構えていた!
「ノゾミ、フィーアさんと婚約したって、本当?」
次回、神鋼魔像ブレバティ第23話「ミス・アトミックの挑戦」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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