第22話 緑の髪の少女 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「ノゾミとアインたちによるガーランド大将誘拐作戦と、それに伴って行った悪戯は成功した。だが、その場にいないはずのフィーアが居合わせたことで、本当にガーランド大将を殺害したと誤解されてしまう。何とかその誤解を解いて、前よりも更に親密になる事に成功した思ったノゾミであったが、家族との話し合いの後で奇妙に固い態度となったフィーアに命がけの決闘を挑まれ、困惑するのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「さあ、剣を抜け。正々堂々と勝負をつけよう」
僕に向けてレイピアを突きつけて言い放つフィーア。その険しくも凜々しい表情は、彼女にとてもよく似合っていて、つい見ほれそうになってしまう。
いや、待て、そんな場合じゃないだろ、僕!
「勝負をつけることについてはやぶさかじゃないけど、決着が命ってのは困るだろう。もう君は敵じゃないんだし…」
「問答無用!!」
説得しようとしたのだが、それを無視して刺突を放ってくるフィーア。
うぉう! 本気かよっ!?
武器がレイピアというのもあって、彼女の攻撃は普段のAGとは異なっている。何よりも、全身これ装甲のAGとは異なり、人間に対して最も殺傷能力が高い攻撃は刺突なのだ。
治癒魔法の効果が強く、即死しなければほとんどの怪我が治ってしまうこの世界において、確実に相手を殺すには、脳もしくは心臓を攻撃して即死させるのが最善手である。
頑丈な頭蓋骨に守られた脳を狙うよりは、心臓を刺し貫くのが最も有効な手段なのだ。そして、フィーアはその原則を忠実に守って、フェイントを交えながらも確実に僕の左胸を狙ってきている。
その攻撃を何とかかわしながらも、僕は自分にとっての最善手が何かを考える。彼女が本気であろうと、僕はフィーアを殺すわけにはいかない。
鋭い連続攻撃。何だか普段よりもスピードが速い気がする。確実にかわしているはずなのに、練習着の端が貫かれてる。
あぶね、先に流血で負けルールだったら、あっさり負けてたかも。それカッコ悪すぎだよ。
「いい加減にっ!」
何回目の刺突かをしゃがみながらかわしたときに、ちょうど居合い腰気味に腰を沈めることができたので、そのまま抜き打ちで彼女の左腿あたりを狙う。
かわされた。練習着を切っただけ。
「ようやく抜いたか。これからが本番だっ!」
さらにギアを上げて突きの乱打を見舞ってくるフィーア。おいおい、某剣豪格闘ゲームの女騎士の百裂必殺技みたいになってるぞ!
必死に避け、一部を刀で受け流しながら、何とか体勢を立て直そうとするが、大きく離れる事を許されない。クソ、このままじゃジリ貧だ!
ジリジリと壁際に押し込められそうになるが、そうなったら詰む。円を描くようにして、何とか後退をしながら隙を狙うのだが、こいつ、前より絶対に動きが速くなってる!
それに、こちらの動きに対する反応も早い。何か、あのブラックフォックスを思い出させる反応の早さだ。この前までのフィーアと明らかに違う。何だ、これは?
何とか体に傷を負う事だけは避けているが、防戦一方の展開のままで、入り口の側まで押し込まれている。四隅に追い込まれたら、相当に拙い。
何か手は…と思った時、今僕がいるのは入り口の側だということに気付いた。結構博打だが、一つ手がある!
フィーアが心臓を狙ってきた剣先を、わざと左肘を当てて少し下へ逸らし、脇腹を貫通させる!
「ギッ!」
「ッく!?」
激痛に、普段は出さないような変な声が出る。フィーアも、まさか僕がこんな手に出るとは思っていなかったようで、かなり驚いたようだ。
次の瞬間、一瞬動きの止まったフィーアの左膝を僕の刀の切っ先が貫く!
即座に自らのレイピアを引き抜こうとしたフィーアだが、一瞬遅い!
返した刀がフィーアの右肘を斬り飛ばし、僕の脇腹にレイピアが残る。
即座に、残った力で横っ飛びに入り口側の制御盤の近くに飛ぶと、魔防結界を解除してから脇腹のレイピアを引き抜き…
「グッ、治癒」
脇腹と肘の傷を魔法で癒やす。痛みは残っているが、これで僕の方は命の心配はない。
フィーアも自分の傷を癒やすか、と思ったのだが、なぜか呪文を唱えずに、僕を睨んで叫ぶ。
「クッ、殺せ!」
「似合い過ぎてて涙が出そうだ…」
思わずこぼしてしまった。君、正式に騎士叙勲を受けた女騎士だよね…このセリフが死ぬほど似合う女騎士ってどうよ!?
まあ、足を貫かれ右腕を斬り飛ばされた状態、しかも剣術の練習着姿~長袖長ズボンで、前世のフェンシング着のように体に密着したようなタイプではなく、むしろジャージに近い~では色気もへったくれもあったもんじゃないが。
とにかく、手足だから致命傷ではないが、このまま放っておくと出血の方が心配だ。レイピアを取り返されないように遠くに放ってから、彼女の右腕を拾いながらフィーアに近づき、治癒魔法をかけつつ問いかける。
「治癒。さて、これ以上無駄なことはしたくないんだけど、理由を聞かせてくれるかい?」
膝の傷も直り、右腕もつながって出血も止まったが、うつむいたまま答えないフィーア。
重い沈黙が僕たちの間を漂う。
十秒、二十秒…いつまで続くのか分からない、その沈黙に耐えかねて、僕の方が口を開いてしまった。
「殺されるほど、憎まれてるとは思いたくないんだけどな」
あえて、軽い調子で言ってみる。
「…逆、だ」
ぽつりとフィーアがつぶやく。
「逆?」
「お前に…殺してもらいたかった」
「え?」
あまりに予想外の言葉。
「な、ぜ?」
かすれそうになる声で、つっかえながら問い返す。
「私が、人間ではないから」
「なに!?」
「私は…人間ではなかったのだ! だから、せめて、お前の手で殺してくれ!!」
「!!」
顔を上げて、まるで血を吐くかのように叫んだフィーア。驚愕する僕に追い打ちをかけるかのように、さらに言葉を続ける。
「ただの、作られた人造人間、それも魔族と戦うために、魔族の因子を埋め込まれて作られた戦闘人形でしかなかったのだっ!!」
そこまでやってたのか、あのオッサン!!
それを聞いて思い出す、あの島の防衛機構の制御ユニットの言葉「不純物発見」。
遺伝子改造か何かによって魔族の因子を埋め込まれていたフィーアを発見して、それが純魔族と異なる存在である事に気付いて排除しようとしたのか!
その事に気付いて、フィーアの顔を見直してギョッとする。その顔には、今まで見たことも無いような表情が浮かんでいた。
絶望。孤独。恐れ。
そんな感情が複雑に入り交じった、一種言いようのない思い詰めた表情。
これは、マズい。ここで一言間違えたら、彼女は本当に死ぬ。
彼女の、心が死ぬ。
「それが、どうして殺す理由になるのかな?」
だから、あえて深く聞く。その理由を、彼女自身に再確認してもらうために。
「こんな…『化け物』、気持ち悪いだろう!」
一瞬言いよどみ、しかしはっきりと己を「化け物」と言い放ったフィーア。
それに対して、僕はあえて冷静に、冷徹に言い返す。
「どこが化け物?」
「どこが!? 私は試験管の中で発生して、人工子宮で育った人造生命なんだぞ!」
「不妊治療の一環だな。今日の治癒魔法でも治せない高難度の不妊への対策として人類の未来に貢献する技術だ。それ以外の意味は無い」
「魔族の因子を埋め込まれているんだ!」
「魔族そのものじゃない。魔族と戦うための力だ。使いこなせれば、これほど心強い味方はいない」
だが、それを聞いた瞬間、フィーアは激高した。
「お前も、お前までも、私を『兵器』だと言うのかっ!!」
ッ、しまった!!
「ちが…」
「お前には、お前にだけは、そんな風に思われたくなかった! 殺せっ!! お前に兵器と思われるくらいなら、いっそお前の手で殺してくれっ!!」
鋭く僕を睨みつけた青い瞳は、しかし潤んでいた。それに自分で気付いたのか、頭を垂れて僕から顔を隠す。だが、頬を伝う水滴を、僕は見逃さなかった。
初めて見るフィーアの涙。
クソっ、大失敗だ。フィーアが求めていたのは、理性的な説得なんかじゃないんだ。
いいさ、この失敗は絶対に取り返す。ちょっと想定とは違うが、最初からそのつもりで来たんだから!
「分かった、殺してやるよ!」
「え?」
あえて、そう言い放ち、その言葉に反応して顔を上げたフィーアの胸ぐらをつかんで立たせ、近くの壁に押しつける。
「何を…」
ドォン!!
フィーアの顔の左の壁面が、大きくなヒビを伴いながら丸くへこむ。僕が、左手に魔力を通して魔力撃にしながら平手を叩きつけたんだ。
左手の親指の爪がかすめたフィーアの頬が、細く切れてうっすらと血をにじませる。
「ッ!!」
顔をひきつらせるフィーア。口では殺せと言っていて、実際に覚悟もしてはいるのだろうけど、実際に至近距離を殺傷能力のある攻撃がかすめたら恐怖はあるだろう。
実の所、僕も痛い。魔力を通しているとは言っても、コンクリートの壁を大きくへこませるほどの威力で叩きつけたんだ。骨にヒビくらい入ってるだろう。
だが、そんな痛みはこれっぽっちも表には見せずに、あえて冷たい表情を浮かべてフィーアに言う。
「覚悟しろ」
「…!」
僕の言葉を聞いて、目をつぶり歯を食いしばるフィーア。
そのフィーアに向けて、僕は右手を振り上げると…
そっと、左の頬に右手を添えて軽く上を向かせ、ゆっくりと彼女の唇に僕の唇を重ねた。
「もっ?」
その感触に驚いて目を見開き、何か言おうとするフィーア。
でも、言葉を出そうとするということは、唇が開いてしまうわけで…
その隙を見逃さず、僕は自分の舌をその間に入れる。
「ん~~~~ッ!!!」
身をよじろうとするフィーアを、優しく抱きしめる。
ゆっくりと舌をからめているうちに、身じろぎしていたフィーアが動きを止め、体の横にあった腕が、おずおずと、しかし、しっかりと僕の体に回る。
一方的に僕の舌に絡まれていた彼女の舌も、己の意志をもって動き、僕の舌を求める。
このまま、時が止まってしまえばいい。
そんな風に思えるような刹那を、僕たちは過ごしていた。
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「っく、何の積もりだッ!」
残念。一瞬とも永遠ともつかぬ刻は過ぎ去り、フィーアは正気を取り戻した。まあいいさ、これが終わりじゃない。これは始まりなんだから。
彼女の問いに、ニヤリと笑って答える。
「死んだろ?」
「?」
怪訝そうなフィーアの顔を見ながら、言葉を続ける。
「死にたいとか思ってたフィーアが、さ」
「お前っ!!」
さっきとは別の意味で顔を真っ赤にして怒るフィーア。そんな所も可愛いと思ってしまう僕がいる。
「からかってる積もりはないよ。僕は真面目さ」
「ふざけ…」
「ふざけてなんか、ない」
彼女の言葉を遮って、思い切り真面目な顔になって、その青い瞳をまっすぐに見つめて言う。
「フィーア、好きだ。君を、愛してる」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




