第19話 仮面の男・キャプテン・ウォーロック Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
ガキィン!
ドラゴン・ブレードが相手の剣を受け止める。その剣は、刃こそ直剣の形になっているが柄の意匠はドラゴン・ブレードにそっくりなXマークである。そして、それを振るうAGの外見もまた、僕の愛機とほとんど同じ姿をしている。一番大きな違いは色で、明るい青だった部分が薄紫になっている。あとは、背嚢の左右から2本の巨大な魔力砲の砲身が突き出している事だろう。格闘状態である今は収納モードになっているが、砲撃時には両肩の上に展開される。
鍔迫り合い状態になっているが、相手のパワーに押されて少し後ずさる。
「ワハハハハ、良い! 良いぞ、これは! ドラグーンとはパワーが段違いだ! さすがはドラゴンだけのことはある!!」
そのAGから聞こえてくるのは、ジャヴァリー殿下の嬉しそうな声。
ブレバティ・バスタードラゴン。新部隊結成と時期を同じくして完成したジャヴァリー殿下の専用機の慣熟訓練中なのである。全体の意匠はドラゴンそっくりに作ってあるが、実は中身はライガーに近い。どちらかというと遠距離からの魔法戦が得意な殿下の特性に合わせてあるのだ。殿下は近接戦もできるからドラゴン・ブレードは装備しているが、殿下の愛剣に合わせて直剣型になっているので、むしろドラゴン・ソードというべきかもしれない。
…慣熟訓練でいきなり模擬戦を所望してくるあたり、ジャヴァリー殿下は相変わらずマッスルブレインなお方なのだが。
それでも、AGの扱いにはだいぶ慣れたようで、以前の訓練時とは段違いに上達している。生身での戦闘能力はそれなりに高い人なので、リヒトやヒカリほどではないにせよ、リュー君よりは強くなっているようだ。まあ、リュー君の乗機はドラグーンだけど。
「こっちも使ってみるぞ、くらえぃ『バスター・キャノン』!」
殿下が起動キーワードを放つと、バスタードラゴンの背嚢の大型魔道砲~名前の由来になってもいる~が展開モードに入る。おいおい、この近接状態から魔道砲を展開するのかよ!
「殿下、いい加減にしてください!」
バコン、とバスタードラゴンの後頭部にツッコみチョップが入る。入れたのも、またドラゴンによく似た意匠のAGだが、基本色は黄色になっている。
ブレバティ・スピリットドラゴン。これも一見ドラゴン系に見えるが、中身は実はロプロス系の可変AGだったりする。胸のXマークも完全な飾りで剣は別装備だ。殿下のお目付役として一緒に転任してきたフィリアさんの専用機である。
「格闘能力の確認はまだしも、砲撃能力の確認なら、まず演習場で標的を狙ってください!」
「むう…だが砲撃演習場はタケル殿が使っているだろう」
「終わったようですよ」
砲撃演習場の方を見ると、陽光を反射してまばゆいばかりに光り輝く金色のAGと白銀のAGがこちらに歩いてくるのが見える。
全身金色の機体は、我がヤマト皇国の皇太子である「タケル殿下」の専用機、ブレバティ・ゴールドライオンであり、全身金色なのは耐光・耐雷防御効果のある特殊装甲オリハルコリウムGのテスト機だからである。白銀の機体がその妹であるホムラ殿下の専用機、ブレバティ・シルバーフェニックスで、ロプロス系の飛行可変型AGなのだが、耐光防御効果のみのオリハルコリウムSのテスト機となっている。
いや、もうね、金色の方は機体名からして「オ」が「タ」になったらヤバいだろうとか思ったんだけど、実は意匠の方がもっとヒドい。その名の通り胸にでっかくライオンの顔がついているのだ。どこの黄金勇者だよ!?
今朝、他の専用機と一緒にロールアウトしてきたのを見て、思わず父さ…もとい魔術師艦長にツッコんでしまったのだが「作ったのはヘルム男爵だ」と他人事のように言われた上に「王侯にふさわしい意匠じゃないかね」といなされてしまった。元ネタにしても、黄金勇者以外にも元祖本家の未来戦士から、勇者王だの、特撮なら超獣戦隊だっているんだから、今更気にするような意匠でもなかろう、と言われてしまえばそこまでだ。
そうそう、ようやくと言うべきか、今更と言うべきか、新部隊結成を期にタケル殿下も正体を明かすことにしたのである。ヤマト皇国としても、ホムラ殿下のほかにタケル殿下も陣頭に立っているという事を誇示したいのだろう。他国の公子だの公女だのどころか、女帝すら在籍している部隊なのだから、皇太子が居てもいいって事らしい。…もともと魔術師艦長並みに正体バレバレだったとか言わない!
「これ、胸の魔道砲の使いどころが難しいですね。威力はあるけど射程が短い。砲撃戦用というよりは格闘戦時の牽制か奇襲用ですね」
ライオンの口に火魔法の魔道砲が仕込んであるのだ。お約束だけど、そういうロマン武装を積んでも、実戦での使い方に頭を悩ますのは殿下なんだからなあ。役立たずとは言わないけどさ。ちなみにドラゴンの頭、竜の意匠の眼の部分にも仕込んであったりするが、一度も使った事ないよ。自前の魔法の方が便利だもん。
にしても、正体を現したのに殿下の口調は丁寧だ。演技と言うよりは本来の性格だったらしい。
「それでは、我々も砲撃演習場を使わせて貰うか。ノゾミよ、格闘戦テストに付き合ってもらって助かったぞ」
「礼には及びませんよ。皇太子殿下と姫様も格闘戦テストを行いますか?」
言い残して砲撃演習場に向かうジャヴァリー殿下とフィリアさんを見送りながら、タケル殿下たちに今後の予定を聞く。
「仕方のない事だけど、その呼び方は何とかなりませんか? ああ、格闘能力は模擬戦より前に機体の運動性をチェックしたいので、後でお願いしますね」
「了解です。準備ができたら呼んでください。あと、呼び方は…」
「タケルでいいですよ。それなりに親しくなった積もりなんですが、ダメですか?」
ううむ、皇太子殿下にここまで言われては、断る方が不敬だろう。
「了解です。今後はタケル様とお呼びしましょう」
「そういえば、ドラゴンの新装備もあるとか博…艦長が言ってましたよ」
タケル様も、つい「博士」と呼びそうになってたな。しかし、ドラゴンの新装備だと?
「行ってみます」
ゴールドライオンもシルバーフェニックスも運動能力のチェックをはじめたので、魔術師艦長を探すために格闘戦演習場を離れようとする。
「おーい、ノゾミぃ、これが新装備の一つだってよ」
そこにカイがポセイドンがやってきた。その肩には探そうとしていた魔術師艦長も乗っている。すると、ポセイドンが抱えている物が…って、細長い円錐形の槍!?
「馬上槍じゃないか!」
「そうだ、ドラゴン用の新装備の1つだぞ。名付けてドラゴンラン…」
「ストーップ! それ以上はヤバいだろうがっ!! ただのランスなら何の問題も無いし、別にドラゴンしか使えないワケでもないんだろうから、そんな名前付けるなっ!」
ヤバい名前を出しそうになったので慌てて制止する。鈴木さんが土下座したって有名な都市伝説があるんだから、あそこと黒ネズミの所はネタでも名前出すのはやめた方がいい。
って、そこにまず気を取られたけど、そもそもランス自体が槍としてはかなり特殊なんで、そこの所もツッコみたい。
「騎兵突撃かますなら役に立つかもしれないけど、現状で使い道あるのか?」
確かにAGは結構高速で走ることもできるが、こんな形の槍で突撃するなら、普通のロングスピアの方がよっぽど取り回しがよくていい。歩兵の武器じゃないよ、これは。
「ドラグーンに騎馬を組ませて騎馬戦の要領でだな…」
「どこのブロッカー軍団だよっ!? 第一竜が竜騎兵にまたがるって、何か完全に間違ってるだろう!」
「冗談だ。実は、もう一つAGの高速走行用装備を準備してある。見よ、新兵器『シルバーホイール』だ!」
芝居がかった動作で振り返った魔術師艦長が指さす方向を見ると、ロデムが大型の車両にまたがって走行テストをしているようなのだが…
「自転車かいっ!」
マウンテンバイク型の荒地走行も可能なタイプに見える。
「これはもしかしてギャグの積もりなのか?」
「…冷たいリアクションだな」
「確かにAGなら、これを使って時速300キロくらいで機動戦を展開できるだろうさ。だけど、何が悲しくて巡航速度だって同じくらいの速度で飛べる魔道戦艦があるのに地上を自転車で走らないといけないんだ?」
「そこでだ、このランスを装備してランスチャージをかければ…」
「相手を貫く前に魔法で吹っ飛ばされるか、ロングスピアか槍斧の槍衾に立ち往生するだろうよ」
基本的に地上で進行方向への移動しかできない自転車では回避もままならない。
「…やっぱりダメか」
「作る前に分かるだろう!」
「いや、そのランスは使わせて貰えませんか?」
「え?」
予想外の声に振り返って見ると、そこに居たのはスピリットドラゴン…なのだが、飛行形態とAG形態の変形の途中で止まっている? いや、これは超時空要塞で一世を風靡した腕と逆関節足のついた飛行機モードじゃないか!
「こんな形態取れたんだ!?」
「おう、ロプロスやペガサスの時点では操縦系がまだ未完成で、この形態だとうまく同調できずに機体を思うようにコントロールできなかったんだが、ようやく調整に成功して中間形態で固定した場合でも機体をコントロールできるようになったんだ。ロプロスやペガサスも制御系をアップデートしたんで、この形態を取れるようになってるぞ」
「しかし、この形態を取るメリットは…あ、それでランスか!」
「ええ、この形態なら高速飛行しながらランスチャージをかけられます」
フィリアさんの言葉に納得する。もともとクーのファイヤーバード・アタックみたいな突撃系の技を使うロプロス系の機体なら、こういう形態があれば通常攻撃としてランスチャージもできるだろう。自転車なんかより遙かに速いし、三次元で回避運動もできる。
「なるほど、ランスの方は使えそうだね。ところで、射撃試験の方はどうしたの?」
「殿下は嬉々として射撃訓練中ですが、この機体には射撃系の新装備は無いので、さっさと切り上げてきました。これから、このランスを使ったチャージのテストをしてみましょう」
「あ、それならわたしも試したい!」
「そんならオレが仮想敵をやるぜ。クーが飛行訓練空域で中間形態の訓練をしてるはずだから、そこへ行くといいんじゃないか」
近くで運動能力をチェックしていた姫様もテストすると言うと、カイが敵役で付き合うと言いだし、3機で飛行訓練空域の方へ飛んでいった。
「で、あの自転車の方はどうするんだよ?」
荒地走行のテストをしているらしいロデムの方を見ながら、ポセイドンの肩から降りてその場に残っていた魔術師艦長に問いかける。
「シルバーホイールと言え。これを戦術行動に使うのは冗談だが、元々戦略移動用に作った物だ。これならAGの身体運動のみで高速移動が可能だから、瞬間移動や飛翔系魔法を使うのと違って魔道エンジンで自然補給できるくらいしか魔力を使わないで済むだろう。そりゃ確かに魔道戦艦に載せる方がいいには決まってるが、魔道戦艦の配備がAGの生産に追いつかんのだよ」
そう言われると、確かにAGの方は毎日数機ずつロールアウトしていくのに、魔道戦艦の方はそう簡単には増産できない。拠点防衛ならともかく攻勢作戦を行うなら機動力は必要だろう。確かに前世では自転車を使って電撃戦やらかした国もあるから理屈は分かる、のだが…
「マジで銀輪部隊やるのかよ…」
都市間移動なら舗装道路があるから、それこそ平均時速250~300キロで移動できそうだし、荒地でも時速150キロ位は出せるだろう…が、自転車を連ねて走るAGを想像するとげんなりする。
「ウチはきちんと魔道戦艦が2隻もあるんだからマシな方だと思え。それでも補用機を合わせて1隻10機までしか積めないんだからな。2~3機なら甲板上に積んでもいいが、10機ともなると積み切れないのも出てくるだろうから、アレで地上移動させるんだ」
ウチも大所帯になったので、訓練機も含めればAGだけで30機近く配備されている。全戦力を投入するには、こういう移動手段も必要ということか。あれ、でも…
「AG輸送車を使えばいいんじゃないのか?」
前に使ったことがあるし、今だってロールアウトした機体を各地に輸送するのにはAG輸送車を使っているんだ。
「速度が遅い。特に荒地走行能力が段違いに落ちる。路面だって時速100キロ出せないんだからな。あと、輸送車は魔道エンジンを積んでるから、魔道エンジンはAGのもので済むシルバーホイールの方が生産コストも安くなるんだ。どうせ魔道戦艦が配備されるまでのつなぎだしな。もっとも、パイロットがいない状態で輸送するなら輸送車が必要なんだが」
そうか、生産コストまで考えれば合理的なのか。確かにパイロットは必要だが…って、そこにも問題があるな。
「なるほどね。でも移動中も操縦するパイロットの疲労はどうなんだ? 魔道戦艦や輸送車なら待機していられるけど」
「ネックはそこだな。拠点間移動なら問題ないが、移動後にすぐ戦闘を行う場合はパイロットの疲労を考える必要がある。交代要員を用意するとか、そういった事も考えないとな」
そんな風に話し合っていると、後ろから声がかかった。
「ちょっとすみません、格闘能力を確認したいんで模擬戦をお願いできますか」
お、タケル殿下も運動能力チェックが終わったのかな。
「了解で…す?」
振り返って見ると、黄金のライオンがいた。いや、マジで。
「そ、その格好は?」
「格闘戦形態、だそうです。この機体には変形機能もついているんですよ」
「武器を使わない近接格闘戦なら、人間型よりも百獣の王であるライオン型の方が強いだろう」
自慢気に言う魔術師艦長。あんたヘルム男爵とは他人だったんじゃないのかい? なんてツッコみは今更だが。
「理屈は分かるけど…」
何か、実用性よりはロマン優先の機能な気がしてしょうがない。
…と、思ってた頃が僕にもありました。
ガイン!
黄金の爪が容赦なくドラゴンの胸部オリハルコリウム装甲を引き裂いていく。ドラゴン・ブレードを外した後なので少しだけ薄くなっているのだが、何とか魔道エンジンまで達する傷は避けられた。
とにかく動きが素早い上に、前後の足の爪も口からのぞく牙も鋭くて、ちょっとでも隙を見せたら腕の一本くらい簡単に持って行かれそうだ。
格闘能力のテストということで、ゴールドライオン相手に魔法無しの純粋な模擬格闘戦をやっているのだが、こっちはドラゴンブレードを持っているのに相手をするのが容易じゃない。刀の方がリーチは長いのに、動きが素早すぎて有効打を与えられず、懐に飛び込まれたら爪や牙で装甲を削られる。
何とか捕まえて投げ飛ばしてみたら、空中でくるりと一回転して着地された。本物のライオン並みの運動能力を持っているらしい。
生身で魔獣狩りをしていた時にはキマイラみたいなライオン型魔獣の相手をしたこともあるけど、ほとんど魔法で遠距離から攻撃して倒していて、近接格闘戦なんかやった事はない。野生動物なんてのは、飛び道具や槍みたいなリーチの長い得物無しで人間が相手にするモンじゃないよ。
「そこまでにしておこう。それ以上やられたらドラゴンの修理も大変だからな」
どうにも反撃のしようがなく防戦一方に追い込まれていたら魔術師艦長に止められた。確かに致命傷こそ負ってないものの、手足や胸は傷だらけだ。修復の魔法で修理はできるけど、オリハルコリウム装甲の修理にはかなり魔力がかかるから、ただのテストでこれ以上の損傷は増やしたくないので妥当な所だろう。
「正直侮ってたけど、これ強いよ。もちろんタケル様の腕もいいんだろうけどさ」
ドヤ顔してる魔術師艦長はちょっとムカつくけど、この性能の高さは素直に認めよう。
「魔法を使えたら話は違うでしょう?」
タケル殿下が言ってくるけど、それは違うな。
「どちらも魔法を使えるなら条件は同じですよ。遠距離の魔法戦なら人型と同じようにできて、近接したら戦闘能力が高いんだからライオン型の方が有利になります。この性能を考えると、地上戦機も全部変形機能付けてもいいんじゃないかって思えますね」
そうお答えした時に、ふと思いついたことがあったので魔術師艦長に向けて質問する。
「ってか、そもそも人型になる必要ってあるのかな? ライオン型AGを量産してもいいんじゃないかい?」
空戦型のロプロスやペガサスだって、実際は飛行形態での運用が多い。まあ、あっちは格闘戦をするために人型になれる方が便利な事は事実だが、地上運用のみの陸戦型AGならコスト増につながる変形機構なんかは外した方が安く量産できるだろう。
ところが、それを聞いた魔術師艦長が顔をしかめた。いや、大半は仮面に隠されているのでその表情は読めないのだが、仮面から見える口元のゆがみ方が、父さんが苦い顔をした時の形なんだ。
「そいつはな、やりたくないんだ…ヘルム男爵は」
「何でだ?」
父さんならライオン軍団とか喜んで作りそうな気もするんだが…と思っていたら、魔術師艦長が逆に質問してきた。
「そもそも、AGが何で人型をしてると思う?」
「何でって…そもそもゴーレムってのは人型だからじゃないのか?」
予想外の質問に反射的に答えたのだが、魔術師艦長はかぶりを振った。
「違うな。ガーゴイルみたいな人型でないゴーレムも存在する。まあ、あれは魔物型とは言っても全体的な形は人に近いが、もっと変な形のゴーレムもある。お前が言うように、ライオン型に作ることだってできる。更に言えば、野生動物型である必要すらない。砲撃能力と重装甲が必要なら、前世の戦車型に作ったっていい。空戦能力に特化するなら、ロプロスやペガサスは、そのまんま戦闘機型にしておいて、人型に変形させる必要はない。だが、そいつはやりたくないんだよ」
そこで一旦言葉を切って、僕の方をじっと見る。仮面の奥からのぞく鋭い瞳に思わず気押されて言葉を失っていると、さらに説明を続けてくる。
「それをやったら、AGは兵器に堕ちる。完全に戦争の道具になってしまう。俺は…いやヘルム男爵は、それを嫌ったんだ」
予想外の言葉に思わず大きく目を見開く。もちろん、コクピット内にいる僕の顔は見えないだろうが、どういう反応をしたのかは魔術師艦長にも分かったらしい。仮面の下でちょっと傷ついたような顔をしたように、僕には思えた。
「ヘルム男爵はな、確かに魔族との戦いのためにAGを考案した。だが、それを兵器としてのみ使えるような物にはしたくなかったんだ。むしろ、AGを『人間の能力を拡張する道具』にしたかったんだよ」
「『人間の能力を拡張する道具』?」
思わず問い返すと、魔術師艦長は大きくうなずいて言葉を続ける。
「そうだ。その巨体は人間の何千倍もの力を持つ。そして、魔力量も何千倍にも拡張できる。それは、破壊だけでなく建設にも使える力だ。物を作る手を持ち、生身では魔力量が足りずに魔法を使っても作り出せない重元素だってAGを使えば生み出せる。それは、人間の能力の拡張なんだ。だから、AGは搭乗者と同調する形で操縦するんだ」
「人間の、能力の、拡張…」
「そうだ。これが戦車や戦闘機ではそうは行かない。人間が同調するには、形が違いすぎる。ロプロスやペガサスだって、人型から変形するからかろうじて同調を保てるんであって、ゴールドライオンについても同じだ。さっき見た飛行機と人間の中間形態で同調させるのが難しかったのも、それが原因だしな。だが、同調しないだけなら、別に変形する必要はない。それこそジョイスティックやキーボードを使って操作したっていい。ライオンの動きだって野生動物を元にプログラミングしておけば定型動作で再現できる。同調しないと魔力は使えないが、攻撃力が必要なら魔道砲を搭載すれば補いはつく。だが、それじゃあただの兵器だ。破壊にしか使えない力だ…魔道戦艦と同じようにな」
「え?」
てっきり嬉々として魔道戦艦を作っていたのかと思っていたので意外な言葉に驚いてしまったのだが、そんな僕の様子を見て、今度は苦笑するような感じで説明を続ける。
「魔道戦艦は、兵器だ。創造には使えない。アレを作らなきゃいけないという事に忸怩たる思いがあった。だから、蛇足とは思いつつも人型への変形機能を追加したんだ。まあ、魔道戦艦の場合は起動用魔道具を通さないと起動できないんで、同調してもAGと違って戦艦自体の持つ魔力は身体の動作にしか使えないから、あの膨大な量の魔力を自由に使う事はできないんだが、それでもただの兵器よりはマシだと思ったんだよ」
そう、起動用魔道具を使った場合は、使用者の魔力は起動用魔道具を満たす段階で終わるので、その起動用魔道具が持つ魔力までしか自由に使えない。さらにその起動用魔道具の魔力を魔道戦艦などの大型魔道具に通すことで、間接的に操作できるようにしているのだ。同調しても蓄積した魔力は体を動かすことにしか使えず、それを使った魔法は撃てない。その蓄積魔力で攻撃をするには艦載魔道砲みたいな攻撃専用の魔道具を使う必要があるのだ。
「そしてだ。戦争をやるなら、勝つために最善の努力をする必要がある。そして戦いが終わった後の事も考える必要もな。魔族との戦争は、負けたらそこで終わりだ。全人類の滅亡か奴隷化が待っているだけだからな。だが、勝った場合はさらにその後の事を考えておく必要がある。勝った後に残されるのが戦闘以外に使えない大量の兵器と戦い以外に何も知らない兵士だった場合はどうなるのか?」
そこで一旦言葉を切る魔術師艦長。その仮面の奥の瞳がギラリと光る。
「最悪の場合、内戦だ。せっかく勝った人類が、今度は守ったはずの地球を取り合って殺し合う。そんな救いの無い未来を作るワケにはいかんのだ。だからこそ、AGは人の姿をしている必要がある。そのまま、戦災被害からの復興、再建や、荒地の開拓、宇宙や深海の探検や開発といった用途にも使える汎用性が必要なんだ。そして、AGのAがどうして上級であって装甲ではないのか。あるいは機動や戦闘でもないのか。前に言った理由も嘘じゃないが、本当はな、戦闘専用みたいな名前を付けたくなかったからなんだ」
父さんがそんな思いを持ってAGを開発していたとは全然知らなかった。思わず仮面に隠された顔をまじまじと見てしまったのだが、僕の視線に気付いてか、突然照れたように咳払いをすると冗談めかして話題を変えた。
「…とまあ、ヘルム男爵はそういう風に思っていたらしいぞ。俺は話しに聞いただけだがな。そんな事よりも、まだテストすべき新装備があるぞ。遠話、リュー、アレを持ってきてくれないか?」
何だ、まだ新装備があるのか。どうやらリュー君に持ってきてもらうらしいが…
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「何じゃこりゃあ!?」
「輸送用オプションだそうです」
僕の悲鳴じみた疑問にリュー君が答える。ドラグーンが乗ってきた自転車…もといシルバーホイールがリアカーを引っ張っていたのだ。ううむ、確かにこれなら輸送力も確保できるが、更にイメージが悪いぞ、オイ! その上…
「この、リアカーに積んであるシロモノは一体何だ?」
「リアカーと呼ぶな、『シルバーホイールキャリアー』と呼べ! あと、それがドラゴン用の追加格闘武器だぞ」
名前だけ糊塗したところでどうしようもないだろうに。まあ、そんな事よりも積んでる追加武装の方が問題だ。ドラゴンの腕よりも一回り大きい円筒形で、先端部に小さな穴が空いている。一見すると腕部に装備する砲っぽいのだが、格闘武器と言っている以上、ここから射出されるのは砲弾じゃない。恐らく前世のフィクションで大流行していたロマン武器のひとつ。
「これ、パイルバンカーじゃないのか?」
「原理的には同じような物だが、少し改良してある。試しに使って見ろ。起動キーワードは『スマッシュ』だ」
言われるままに、ドラゴンの右腕の先端部に装備して、格闘訓練場にある打撃訓練用の超大型ダミー人形に向かって正拳突きの要領で打ち込みながら、せっかくなのでちょっと気合いを入れながら起動キーワードを叫ぶ。
「スマーァァァッシュぅ!」
先端部が人形に激突する瞬間に、円筒の内部で爆発らしき反応があり、その反動で内部に収納されていた先端部が勢いよく打ち出される。
だが、その先端部は単純に撃ち出されるのではなく、砲弾のような高速回転を伴っていた。オリハルコリウムの武装を受けることを想定して作られているため、同じオリハルコリウムで作られた強度のあるダミー人形を容易く貫通する威力。
「なるほど、回転も追加して威力を上げるように改良したワケだ」
「先端部の形状も少し工夫してある」
「ドリルか何かにでもなってるのかな…って、何じゃこりゃあ!?」
ダミー人形から引き抜いた先端部を見た瞬間に、もう一度さっきと同じセリフを叫んでしまっていた。その先端部が十文字の形になっていたのだから。
「プラスドライバーじゃないか!」
マイナスドライバーだったら、まだ空間湾曲で有名な奴があるけどさ…
「普通にパイルバンカーやドリルやマイナスドライバーの武器を作るんじゃ面白くないんで混ぜてみた…と、ヘルム男爵は言っていたな」
「相変わらず『混ぜるな危険』って言葉を知らない人だな…」
思わず愚痴ってしまったが、そんな僕の様子は気にせずに魔術師艦長は自慢気に話を続ける。
「これが新兵器『スクリュードライバー』だ。これを両腕に装備して、通常の2倍の高さに飛び上がって、3倍の回転をかけて突撃すれば何と通常の12倍の威力を発揮できるぞ!」
その、あまりにも超人的な名前と理論に、僕は思わず叫んでしまった。
「その名前も理論も何か違うんじゃね!?」
次回予告
「『R-1号作戦』って、惑星破壊級の核ミサイルでも開発する作戦なのか?」
「違うな。このRは鎮魂歌から取ったんだ」
「…それだと、ルードヴィッヒが死なないといけないんじゃないかい?」
「そうだ」
まやかし戦争を終わらせるための最終作戦「R-1」の発動が迫る。そのためには、地球帝国の重鎮、ゲオルグ・ガーランド大将との打ち合わせが必要となる。その下準備として、ガーランド大将の息子であるアイン・ガーランド中佐と接触を図ることを命じられたノゾミだったが、偶然に居合わせたマスコミを誤魔化すために派手に戦闘しなければならないはめになってしまった。
「ちょうどいい、貴公とは一度本気で戦ってみたかったのだ」
「魔法の実力は知ってたけど、近接戦闘や防御も弟たち並みに上手かったとはね!」
ノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト三兄弟の長兄であるアインの実力に驚嘆するノゾミ。だが、そこには一つの秘密が隠されていた。果たしてノゾミはその秘密を見破れるのか!?
次回、神鋼魔像ブレバティ第20話「迫撃! ノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
この番組はご覧のスポンサーの…
来週も、また見てくださいね!
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前回との間に書いていた短編「水の星のプリンセス」(http://ncode.syosetu.com/n0646cq/)をアップしています。ネタ短編ですが、もしよろしければご覧いただけますと嬉しく存じます。




