第19話 仮面の男・キャプテン・ウォーロック Aパート
アバンタイトル
ナレーション「結局ガーランド伯にかつがれていただけという事が分かったノゾミは、かねてから準備していた必殺技、超電磁直撃拳でブラックフォックスを粉砕する。それから数日後に連邦首都から帰還したリーベは、自分が皇帝に即位してアーストリア帝国を復興することと、ヘルム私領軍を中心にして、各国の皇族や王族を集めた精鋭部隊が設立される事を告げる。リーベの即位式に現れたリヒトは、ノゾミに変装し、同じ変装をしたヒカリと共にドラゴンに偽装したライガーで逃走する。ヒカリの去り際の言葉を不審に思ったノゾミだったが、新部隊の指揮官を名乗る仮面の男を見てその意味を理解し、その男の顔面に全力のパンチを叩き込むのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「ほーぉ、オヤジにもぶたれた事がないと。その言葉、爺さんの墓の前でも言えるか試してやろうか!?」
僕はこの目で何度もアンタが元気だった頃の爺さんにどつかれてるのを見てるんだよ!
「いや、待て、何を誤解しているのか分からんが、俺はお前さんの祖父とは何の関係もない…待て、話せば分かるッ!!」
「問答無用!」
「やめろォ、武器を捨てて原隊に戻れッ! お前たちの家族は逆賊となるのでみな泣いているぞ!」
「人をクーデター部隊扱いするなっ!」
さすがに今度は大怪我をする気もさせる気もないので、適当に手加減しながらタコ殴りにする。
「ちょっと待て、話が進まないから、とりあえず落ち着け!」
「…いいだろう。きちんと理由を聞かせてもらいたいしな」
カイが仲裁に入ってきたので、とりあえず矛を収めることにする。気分はスッキリした…後で責任は取らなきゃいけないだろうけどね。でも、その前に何でこんな事をしたのかだけはキッチリ説明してもらおう。それまで許す気はないぞ。
まだフラフラしてる仮面男を冷たい目で睨んでいると、リーフさんがおずおずと声をかけてきた。
「ノゾミくん、怒るのも分かるわよ。私だってどうお悔やみを言おうかと思っていたのに、来てみたらこの人がいるんですもの。でも、これから部隊の結成式だっていうのに、その前にこんなの見せられたら、わたしたちどういう顔をして立ってればいいのよ?」
…お説ごもっとも。どう答えたものか、と脳内を検索していたら、とある超有名なセリフが思い浮かんでしまった…ちょっと直せば使えるか。
「嘲笑えばいいと思うよ」
こういうシチュエーションで言うセリフじゃないんだけどね(泣)。
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「俺は一介の魔術師に過ぎんが、本部隊の指揮官とオグナ号の艦長を任されたからには、その義務は果たす積もりだ。訳あって名は明かせんので、魔術師艦長とでも呼んで貰おうか」
「…某宇宙海賊のバッタモンにしか聞こえないんだけど」
正体はメンバー全員にバレバレなのだが、あくまでも名乗る積もりはないらしい。その偽名には思わずツッコんじゃったけどね。いや、由来と役職を個別に見れば変な所は無いんだけど、この2つは組み合わせちゃいかんだろう。
この自己紹介に先だって、全員が整列する前で、まず部隊指揮官としての任命書が読み上げられたのだが、何と名前の欄が不記載で、代わりに「本書を持ちたる者」などという、およそ公文書としては考えられないようなふざけた表現になっていたのだ。オイオイ、誰かに盗られたりしたら大変だろう。…まあ、この人がそんなヘマをするはずもないが。
ちなみに、公文書上の部隊名は、「統合参謀本部直属独立特務部隊」というもので、規模も何も示されていない。要するに、今後どうにでも規模の拡縮ができるようにするためだろう。戦時特例なんだろうが、適当もいい所だ。
「諸君らは、来年1月1日を持って正式に設立される『地球連邦』構成各国の要人の子弟である。この世界大戦において陣頭に立ち、最前線で戦うことが高貴なる者の義務であることは各人がよく理解している事と思う。我が部隊は世界大戦終結のための主戦力としての働きが期待されている。各員一層の奮励努力を望む。以上をもって部隊結成の挨拶とさせてもらおう。部隊の編成予定は各自に配布した資料の通りだ。今後、各員と個別に面談を行う。質問などは、その際に受け付けよう。まず、ノゾミ・ヘルムおよびクリスティーナ・ヘルムからだ。では、解散!」
全員、ビシッと敬礼~国ごとに違うので我が国式と普通のが混ざってたりする~してはいるものの、納得がいかないという表情の人が多い。まあ、一番納得できてないのは僕なんだけど。一番に呼ばれているので、そのまま退出する魔術師艦長に母さんと並んでついていく。
「君の執務室を渡して貰いたいのだが」
「了解です。それも含めて部隊の引き継ぎをしましょう」
事務的な会話をしながら、執務室へ向かう。多少片付けはしたものの、基本的には父さんがいた頃のままだから、この人にも使いやすいだろう。
「さて、まず何から話すべきかな?」
執務室に入り、まるで自分の部屋のように平然と執務机の椅子に座った魔術師艦長が口を開く。
「喧嘩…いや、暴行の処罰からではないでしょうか?」
あえて、そう言ってみる。
「フン、確かに上官や部下を殴ったならラインの問題だから建前上でも処罰の必要はあるが、お前自身が言ってたように、まだ上官でも部下でもない時だ。同僚同士の『スキンシップ』なら黙認するという不文律もある。部隊結成早々にAG部隊の総指揮官を処罰するワケにもいかんよ。俺の指揮統率力も問われる事になるしな」
「おとがめ無しと?」
「公式にはな。公文書に残さない処罰としては、書類仕事を手伝ってもらおう。ここ1月ほどでだいぶ熟練したはずだからな」
「了解しました」
公式な処分も覚悟してたが、見逃すから仕事を手伝えときたもんだ。別に公式な処罰をされたところで構わないが、これは和解のサインだろうから一応受けてやろう。書類仕事の方は、どうせ今やってることの延長線上だし。
「それでは、今回の茶番の理由を教えていただきたいものですが? まさか僕の書類仕事の能力を鍛えるためとは言わないでしょうね?」
一応は、上司と部下という関係ではあるので、言葉遣いは崩さず尋ねてみる。
「それこそ、まさかだ。理由は、大きく言えば世界大戦の終結のためだな」
「これはまた、随分とご大層な理由ですね」
「事実だ。だが、そのことを言う前に、大事なことを一つ伝えておく必要がある」
「何でしょう?」
これ以上無いくらい真剣な雰囲気を漂わせる魔術師艦長に、思わず気おされそうになりながらも、その目を見つめ返す。大事な事とは、一体何だ?
「お前の父親は、実は生きている」
僕は再度右腕に魔力を纏わせて無言で執務卓の上に飛び乗った。
「ま、待てっ! 最後まで話を聞けっ!!」
「そんな一目見て分かることが『大事な事』だと?」
「待て待て『ヘルム男爵』は地球帝国にとらわれの身となっているんだッ!!」
「はァ!?」
何だかワケの分からない事を言っているが…あ、そういう事かい!
右手に込めた魔力を霧散させながら、机から降りて、前のように机の前に立つ。横で母さんが「ああ、何てことでしょう」とか小芝居してるのはスルーしながら言う。
「…なるほど、そういう設定だと」
「何を言っているのかよく分からんが、無人島での戦闘においてシュン・ヘルム男爵は実の娘であるヒカリ・ヘルム中佐の捕虜になり、秘密裏に帝国に軟禁されているのだ。これは地球帝国においても秘匿されている最高機密だが、俺はとある筋からこの真実を知ったのだ」
そういう設定にして、全くの別人という触れ込みで魔術師艦長がやって来るってか。何て茶番だよ。
「了解しました。それでは、全く別人の魔術師艦長殿にお尋ねしたいのですが、何でまたヘルム男爵はとらわれの身になる必要があったんですかね?」
「分かったようだな。まあ、俺は全くの別人だから推測する事しかできないが、大戦終結のシナリオを書くためだろうな。彼は今度の大戦のメイン脚本家の1人ではあるが、制作者でも監督でもない。監督が大幅に脚本を書き換えてしまった以上、今後の展開を直接聞きに行く必要があったんだろう」
「裏で通信くらいできるでしょうに」
「いいか、筋書きってのはきちんと顔を合わせて作るモンだ。『プロレス』の試合にだって事故やミスは付き物だろう? ちょっとした齟齬が試合にとんでもない大穴を開けちまう可能性だってあるんだからな」
まあ、そう言われると、アンタ…もとい「父さん」がいちいち地球帝国まで足を伸ばす必要があったというのは分からなくもない。だが、それだけか?
「『死ぬ』ほどの事ではないと思いますが?」
「上手の手から水が漏れる事もある。お前が、実の父親が死んだと思って疑ってないなら、誰も疑わないだろう。ヘルム男爵ほどの有名人が帝国に密行するには、そのくらい手が込んだ事をしておいた方がいいということだ。だがまあ、それは半分だな」
「残り半分は?」
「今回設立の『独立特務部隊』のせいだな。さすがのヘルム男爵も、こんな部隊の指揮官を素面でやる気にはならなかったんだろうよ」
その気持ちは分からなくもない。普段は傍若無人この上ない人だが、世間体という物を少しは気にする程度の常識は持ち合わせている。平民からの成り上がり小物貴族が皇族王族とり揃えた部隊の指揮官とか、普通なら胃に穴があくだろう…それを仮面被る程度の条件で引き受けるくらいの神経の太さも持ち合わせてはいるんだが。
「ぶっちゃけましたね。それで、匿名と仮面を条件にあなたが引き受けた、と」
「そうだ。だから決して俺の正体を詮索はするなよ」
「暴露の間違いでしょう」
「何の事だか分からんな」
白々しくうそぶく魔術師艦長。色々と納得のいかない事はあるが、とりあえず矛は納めよう。
「それで、世界大戦終結のシナリオというのは?」
そこが肝心だ。あと半年以内に大戦を終わらせるために「監督」兼主演俳優の話を聞きにいったんだろう。
「心臓部直撃だな」
「帝都を奇襲でもするんですか?」
「あそこは首都であっても心臓部じゃない。いや、確かに『アーストリア帝国』なら行政の中心部である帝都が心臓部になるだろう。有り体に言えば、皇帝の首が一つや二つ飛んでも帝都の行政組織が残っていれば『アーストリア帝国』は存続できる。そんだけの古さがあるからな。だが、新興国でしかない『地球帝国』の場合は違う。今、『地球帝国』を統一組織、国家として成り立たせている中心部、心臓部は一つしかない」
「総統ルードヴィッヒ」
「正解だ。それで、今ルードヴィッヒの『暴政』に対して、地球帝国の占領地のみならず、アーストリア領においても反ルードヴィッヒの動きが出てきている」
「『暴政』?」
妙だな、あのルードヴィッヒが、そんなに変な政策をとるとも思えないが。それとも、わざと変な事をしているのか?
「うむ、一つが『財閥解体』、もう一つが『独占禁止法』の制定、あと『国民皆保険制度』の導入、あたりだな」
思わずすっ転びそうになった。
「それ、どう考えても世界征服を目論む独裁者の政策じゃないんですけど!?」
「『独裁権力の確立のためには、独裁者に代わる力を持ちうる一部の富裕層の財産を減らすことで力を削り、その一方で接収した富を中間層や低所得層に再分配して、中間層の厚みを増すと同時に、その支持を得ることが大切』とか称しているらしい」
「…まあ筋は通っていなくもない気もするけど、それは『独裁権力』じゃなくて『健全な民主主義』を確立する方法ではないですかね?」
「本音はそうだろう」
「やっぱりかい!」
あの所信表明演説を聞いたときから違和感があったんだ。これから世界征服をしようって独裁者が、ポーズだけにせよ「民主主義が最後の勝利をおさめることは歴史の必然であろう」とか言うかって。あの部分は、演説の趣旨からすれば完全に余計な一節だ。無くてもいいのに、あえて追加したところにルードヴィッヒの思いを感じる。
何て喜劇なんだろうな。専制国家の皇太子からクーデターを起こして独裁者に収まった男が、本音では民主主義を信奉してるってのは。
思わずそんな感慨にとらわれてしまったが、魔術師艦長が話を続け出したので意識をそちらに戻す。
「だがまあ、急激な改革は反感を買う。直接的に損をする富裕層はもちろん、長期的には利益を得られる中間層にしても、被占領国では征服者に対する反感が邪魔をしているし、旧アーストリア領では特権を失った大貴族の配下が宣伝工作をかけている」
「そして、ルードヴィッヒ自身はそれを阻止しようとしていない」
「一部はしているさ。わざと強硬に弾圧して反感を煽っているんだ。一部の指導者層などは強制収容所送りにしてな。強制収容所の実態は最高機密とされている。ちなみに、ヘルム男爵も一時はそこに収容されていたらしいぞ」
「ほう、ぜひ父さんの感想を聞いてみたい所ですね。あなたは『伝聞で』知っているのではないかと思いますが?」
「分かってきたようだな。聞いたところによると『高級ホテル並みの設備を誇る強制収容所とか、地球帝国以外には存在せんだろうな』だそうだ」
思わず呆れてしまった。そこまでやるのかい。
…ん? 高級ホテル並みだと!?
「つまり、人が父さんの残した書類に埋もれてる時に、本人は高級ホテル並みの設備の所でのうのうと…」
「ゴホン! 話を元に戻すと、今の『地球帝国』はルードヴィッヒのカリスマで統一を維持しているに過ぎんが、それが揺るぎだしているということだ」
強引に誤魔化したな。まあいいや、この件は後で「本人」に追求することにして、今は本題に集中しよう。
「ルードヴィッヒ一人を倒すことで地球帝国は瓦解すると?」
「そうだ。ルードヴィッヒさえ討てば、地球帝国は瓦解し、アーストリア帝国が復興する。それこそ帝都の行政組織が看板をかけかえるだけでな。もちろん、そこから先はリーベが先頭に立って、改革派の有志を従えて大改革をしなきゃならん厳しい道が待ってはいるがな。他の各国は、連邦に亡命している要人が戻るだけで復興するだろう」
そういう筋書きか。そして、復興した各国が自主的に「地球連邦」を結成することで、世界の統一が成されるというワケだ。
しかし、ルードヴィッヒを討つというのにも「世間的には納得のいく」シナリオが必要なんだが、それはどうする気だ?
「なるほど…ですが、常識的に考えれば、地球帝国の総統を奇襲で討てるとは思えませんが」
「そのための手が一つあってな」
あえて疑義を呈した僕に対して、魔術師艦長は仮面からのぞいた口元を悪戯そうにニヤリと歪めて答えた。
「古来、独裁者に対するクーデターで成功したものは、最も信頼されている部下が起こしたものだ。ユリウス・カエサルは『ブルータス、お前もか』と嘆き、織田信長は謀反軍の旗印が水色桔梗と聞いて『是非に及ばず』と答えたという」
「…どっちも『この世界』の人じゃないんですケド」
「お前には通じるからいいだろ! とにかく、最も信頼している部下が裏切ることで独裁者はあっけなく倒れる。今回もその例に従ったシナリオになる」
「ルードヴィッヒが最も信頼している部下、というと?」
「元アーストリア帝国皇太子親衛第二艦隊司令長官にして、現地球帝国第一艦隊司令長官、兼、帝国魔道技術廠長官、ゲオルグ・ガーランド大将だ!」
「ゲッ!?」
あのオッサンかい!! …いや、確かに転生者だし、アンタとも目くそ鼻くそレベルのライバルで、「強敵」と書いて「とも」と読む関係だから、実はやりやすいんだろうけどさ。何というか、今の僕としては非常に協力しにくい相手だったりするんだけど…心情的に。
「まあ、今のお前には非常にやりにくい相手だというのは分かるが、これも世界大戦終結のため。個人的な思いは抑えて、協力して欲しい」
「…了解、しました」
そう言われたらどうしようもない。
「何、ここでイイ所見せたら『お嬢さんを僕にください』とか言いやすくなるだろ」
「待てやワレ!!」
思わず下品に怒鳴りつけてしまった。アンタにそういう風にからかわれたくないぞ! 第一、アンタのせいで僕はフィーアに…あっ!?
「…フィーアは、アンタ…もといヘルム男爵が生きてることは知ってるのか?」
「おう、知ってるぞ。というか、あの直後には会ったと聞いてるぞ。何しろ、ヘルム男爵は瞬間移動で飛行機のコクピットから直接ライガーのコクピットに転移したらしいからな。それですぐに魔力隠蔽をかけて、ヒカリ中佐に状況を説明してから別の所に再転移したらしい。で、撤退の際には再度ライガーに転移したから、母艦に戻った時点でフィーア中尉とは顔を合わせてたようだぞ」
「…そーかい、そういう方法だったのかい」
あれ、そういう事になると、この前ガーランド伯が言ってたことはどうなるんだ?
「フィーア中尉の処罰は? ブラックフォックスを作るのに協力させられてたみたいですが…」
「それは処罰じゃなくて、帝国魔道技術廠長官の業務命令だな。そもそも処罰の対象になる事象自体が存在してない。というよりはヘルム男爵を『捕虜』にするアシストをしたんだから、むしろ手柄だ」
「…だろうと思いましたよ」
そこも騙されてたって事かい。憮然としてしまったが、そこに魔術師艦長が更に追い打ちをかけてきた。
「あ、ついでに、前回のブラックフォックスとの戦闘だが、全部、基地に生中継されてたからヘルム男爵もヒカリ中佐も、もちろんフィーア中尉も全部見てたからな」
「はいぃっ!?」
何じゃそりゃあ!!
「ヒカリ中佐に何やら耳打ちされたフィーア中尉は顔を真っ赤にしてた…らしいぞ。良かったな」
思わず執務卓に突っ伏してしまった僕に、さらに追い打ちをかける魔術師艦長。
ゆ、許せん! 今度こそ軍法会議かもしれんが、もう一度全力の鉄拳を叩き込んで「修正」してや…いや、待てよ! いい復讐方法を思いついたぞ(黒笑)。
その前に、母さんに確認することがある。僕はガバッと身を起こすと母さんに向かって尋ねた。
「ところで母さん、母さんも父さんが生きてるって知ってたの?」
「…ごめんなさいね~。でも、あなたの成長のためにも、こういう経験はしておいた方がいいと思ったのよ~」
つまり、最初から、こういうシナリオで父さんが帝国に行くと知ってたんだな。よし、母さんも復讐対象だ。
「分かった。一つだけ僕の言うことを聞いてくれたら怒るのはやめるよ。なに、無理なことは言わないさ。実の親に対する子供の希望としては、世間の一般常識に照らしても、ごく真っ当で倫理的にも正しいお願いだからね」
「あら、何かしら~」
「簡単さ。母さんは父さんのことを愛してるよね?」
「? ええ、もちろん」
「だったら『不倫』なんて事は絶対しないよね?」
「当然じゃないの~」
当たり前のように頷く母さん。そして、僕たちの話を不思議そうに無言で見つめる魔術師艦長。よし、言質は取ったぞ。
「ああ良かった。魔術師艦長は魅力的な人だし、父さんによく似てるから、母さんが『不倫』するんじゃないかと思って冷や冷やしてたんだよ。特に父さんが帝国に捕らわれている間なんかは、寂しくて間違いを起こすかもしれないと思って心配しちゃってさ。ゴメンよ、母さんと父さんの間の絆は、そんなに簡単に壊れるはずないよね」
「え?」
「なぬ?」
「そういえば、父さんが『捕虜』になる前に弟か妹を作ろうかとか言ってたけど、もちろん戦争が終わって父さんが帝国から帰ってきてからの話だよね。月足らずの子供が生まれたりしたら、僕は弟妹とは認めないからね」
「ちょっと待て、お前っ!」
慌てたように口を挟んでくる魔術師艦長を遮るように、にっこり笑いながら言葉を続ける。
「ああ、魔術師艦長には、ぜひ我が家にご滞在いただきたいと思います。『客間』をご用意しますよ。朝夕の食事はぜひご一緒ください。弟達も喜ぶと思います。あと、資料を調べるために父さんの私室にもご自由にお立ち入りください。でも、当然ながら夫婦の寝室だけは出入り禁止ですからね」
絶句する魔術師艦長。さて、トドメを刺してやろうか。
「そうそう、父さんの私室には変な資料もありますから、あまり見ないでくださいね。まあ、母さんの基礎体温表なんてものも簡単に見られる所に残しているのは、父さんが迂闊なんでしょうけど」
この世界には、小数点以下2桁まで計れる魔道体温計もあるのだ。仕事の資料を探しに行った時に、基礎体温表をつけて家族計画してるのを見つけちゃったんだよ。その時は泣きそうになったけど、今となっては笑い話だ。
それで、表には「仲良し」した日も記録してあったんだな。結婚15年にもなるのに安全日には1日おきでヤッてるなんて仲が良いなあ、ウチの両親は。
でも、これから戦争が終わるまでは禁欲生活だよ。
「絶対に『不倫』なんて見逃しませんからね。それでは、仕事の話に戻りましょうか」
目を白黒させている2人にもう一度釘を刺してから、今度は部隊編成についての打ち合わせを始めるよう促す僕なのでした。アッハッハッハ、ざまァ見ろ!
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




