第18話 女帝リーベ誕生 Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「ちょっ、おまっ、何つう事をさらすんじゃ! 発射パンチを至近距離から撃つとか、美学が無いにも程があるわい!!」
ガーランド伯が激怒してるんだが、怒りのポイントが何か違う気がするんだけど。
いやね、本当は惑星ロボみたく腕だけ瞬間移動で飛ばせないか試してみたんだけど、さすがにイメージ化が難しくて無理だったんだ。その実験を見てたカイが「どうせ視認できる相手に撃つなら自分ごと転移する方が早くないか?」って言ってきて、なるほど、と思っちゃったんだよね。
「確かに美学は無いかもしれないけど、この初速で弾体を叩きつけるだけで打撃力はあるでしょ? オリハルコリウムの強度だと弾体が崩壊することもないし」
「ぬうう…」
「だが、疑問はある」
「何か?」
ガーランド伯はやり込めたんだけど、アインには何か聞きたい事があるらしい。
「至近距離からの攻撃にするなら、腕にこだわる必要はなく、電磁射出式のパイルバンカーでよいのではないか? 打撃部位を細長くする方が貫通力は上がるだろう」
「あ…」
「ぬ?」
その鋭い指摘に一瞬詰まった僕と、なぜか唸ったガーランド伯だったが、次の瞬間には…
「「腕が飛ぶのがロマンなんだっ!!」」
綺麗にハモって反論していた。その事実に自分で自分が嫌になる。
「ノゾミ、貴公も父上の同類項だったのだな…」
「代替案がパイルバンカーって時点でお前もそうだろう!」
「…血は争えぬという事か」
アインがツッコンできたので反論したら、あっちも思い当たる事は多々あったらしく、言い返せなくなったようだ。そう、変な父親を持ってしまった以上、どうしようもないんだよ…
「とにかく、一騎打ちはこちらの勝ちでいいな」
「むう、ここまで派手にやられては負け惜しみも言えんわ。今日は大人しく引き下がろう。だが、これで終わりだとは思うでないぞ。フムハハハハ、フムハハハハハハハ!」
「総員撤収」
言えんわ、と言った舌の根も乾かないうちに負け惜しみを吐いて悪役笑いと共にレオパルドの向きを変えて去って行くガーランド伯と、それを追うアインたち。それにしても、あのオッサン、悪役笑いのバリエーションが豊富だなあ。
「こちらも撤収する。第一戦闘態勢解除。第一小隊から順に帰投せよ。オグナの状況は?」
戦闘中は通信状態を維持していたのでマーサさんに尋ねてみる。
「オグナは出撃準備を完了して待機中です」
「出番なかったみたいね~」
母さんからも通信が割り込んで来た。
「了解、出撃は不要なので第二種戦闘態勢に切り替えて30分ほど警戒配置。その後は通常配置へ移行」
「「了解」」
こっちも引き上げを命令して戦闘態勢を解除する。オグナは準備だけさせて結局出撃はしなかったから、母さんには無駄足を踏ませちゃったな。初の戦闘指揮がコレってのは今ひとつ締まらないけど、まあ無事に終わったのだから良しとしよう。
「ところでさあ、ノゾミぃ」
「何だ、クー?」
引き上げる前にクーが何か言いたげに聞いてきた。あの事かな? …この場で聞かれるのはさすがに嫌なんだけど。
とか思ってたら、全然違う事だった。
「腕、どうするの? ボクは取りに行くの嫌だよ。そもそも、どこに飛んでったのか見当もつかないし」
「あ…」
し、しまったァ~っ! 撃った後の回収の事、全然考えてなかった!!
いや、腕自体はAGの一部だから感知できるはず、なんだけど、遠くまで飛びすぎていて魔力感知の範囲を軽く超えてしまっている。最初に撃った右腕はかなり急角度で上向きに逸らされてたから、放物軌道を描いて落ちてるはずだが。
まあ、弾道方向は分かってるから、そっちの方に飛んでいけばその内感知できるだろうけど、他人に尻ぬぐいをさせるワケにはいかないよな。
…人家だの航空路だのから外れるように海側に向けて撃ったんだけど、もしかしなくても海に潜る必要もあるな。こっち側の海には大した漁場も航路も無いはずだから、人に迷惑をかける心配はほとんど無いけど。
「いいさ、自分で探すよ。みんなは帰っててくれ。留守中の指揮は副司令に任せる。飛翔」
経済巡航速度で飛ぶ必要があるし、それでも途中で魔力切れを起こしかけて充魔のために休憩を取ったりして、結局、両腕を見つけて帰って来れたのは、その日の夜遅くだった。
…もう、この技使うのはやめよう。今回は二次被害は出さなかったけど、射線も考える必要があるし、どうせ瞬間移動阻止結界が実用化されたら無効化される技なんだから。
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「お帰り」
「ただいま。さすがにちょっと疲れたから休みたいけど、その前に報告があるわ」
あの戦闘から3日後、連邦首都から戻ってきたリーベが執務室に顔を見せた。今は僕が司令官なんだから帰着報告をするのは当然だろうが、何か急ぎの報告もあるらしい。
「今回呼ばれた理由か?」
「そうよ。かなり急な話だけど、わたしがアーストリアの帝位に就くことになったの」
「は!? …ああ、なるほど」
一瞬驚いたものの、政治的にはある意味当然の策だ。クーデターによる政権交代なのだから、地球帝国に政治的正統性はない。武力による実効支配を行っているだけだ。だから、第一皇位継承者であるリーベが即位して、アーストリア帝国の正統後継者たることを宣言するだけで、十分に政治的効果がある。
「それだけじゃないわ。南北コロンナ両政府首脳も亡命政府を正式に設立した上で、一気に世界統一政府を結成する事になったの。もちろん、わたしの『アーストリア帝国正統政府』も参加するわ」
「正統政府?」
そのネーミングは縁起が悪いんじゃなかろうか…と思わず聞き返してしまったが、リーベは政府の説明を求めていると思ったらしい。
「主体は元々連邦に政治亡命していた反ルードヴィッヒ派だけど、この前捕虜になった保守派の一部も加わって表面上は超党派の挙国一致政府という形になってるわね。一応名目上は皇帝親政だけど、統一政府内での折衝みたいな実際の政務は宰相のデアフリンガー伯にお任せね。軍隊の方も、実際に戦闘能力がある戦力なんてわたしのロデムしかないけど、形式上の総司令官はコンスタンティン大将にしてあるわ」
あのオッサンも捕虜の身から出世したもんだ。捕虜にした当のリーベに仕えなきゃならんというのも業腹だろうけど、世の中に置き忘れられるよりはマシだろう。
「それじゃあ、リーベは女帝として独立部隊を率いる事になるのか?」
今はロデムだけにせよ、正式に亡命政府が設立されたら、軍事支援が行われるだろう。ドラグーンやペガサス、あるいは鹵獲した一眼巨兵を供与か貸与してAG部隊が編成され、リーベはその司令官になるはずだ。
仮に司令官はコンスタンティン大将に任せるとしても、リーベ自身は少なくともヘルム私領軍からは離れる事になるはずだ。寂しくなるし、カイが落ち込むだろうな…と思っていたのだが、リーベの返答は意外なものだった。
「将来的にはそうなるかもしれないけど、当面は新しく設立される精鋭部隊の所属になるはずよ」
「精鋭部隊?」
「そう、その事もあって報告に来たの。ヘルム私領軍を中心にして、各国の実戦経験者や有能な騎士を集めた精鋭部隊が結成される事になったの」
「ウチを中心に!?」
「AGによる実戦経験が一番豊富だから、という理由みたいよ…表向きは」
「表向き、というと?」
「ええと、その…ね」
何やら含みがある言い方をするので聞き返してみると、非常に言いにくそうな顔になって言いよどんでいる。僕に言いにくい理由? あ!
「なるほど、ヘルム私領軍の指揮官が若輩者になったんで、心配になったんだな」
「そうみたいなの。わたしたちが一番実戦経験があって、連邦でも一番の戦力である事は間違いない。その部隊の指揮官が、実戦経験はともかく指揮能力は未知数の若者に代わる事は連邦軍としては望ましくない。でも、私領軍の人事に介入することは法制上できない。だから、私領軍全体をより上位の部隊に取り込んで、そこに司令官を置く形で統制しようとしているんだと思う」
なるほど、リーベとしては言いにくいワケだ。にしても姑息だねえ。僕に根回しするにしても、まず従姉妹であるリーベに言わせてくるとは。
もっとも、僕としては怒る気は無いけどね。上の方が心配になるのは分かるし、僕自身としても、指揮官の責務から逃げる気はないけど、誰かが代わってくれるならその方がいい。将来的な事を考えると、その司令官から戦闘指揮のやり方を学びたいところではあるし。
「わかった。僕としても部隊の指揮の指揮を誰かが代わってくれるというなら、正直、まだ助かる部分も多いからね」
「そう言ってくれてホッとしたわ」
「そう言うリーベ自身だって、本当は皇帝なんぞやりたくはないだろう?」
「そう言われれば、そうよね。逃げる気は無いけど、好きこのんでやりたいわけじゃない」
「本当なら母さんあたりの仕事なんだろうけどさ」
「叔母様には無理を言えないもの。かといってコンスタンティン大公を皇帝にするのは危険すぎるし…わたしがやるしかないわ」
「なるべく力にはなりたいと思ってる…僕に手助けできることなんて大して無いだろうけど」
「ありがとう。でも、わたしも当面はお飾りでしかないもの。実際は新部隊で小隊長あたりをやる程度。つまり、今と変わりは無いわ」
「それなら助けることも色々できると思うけど…皇帝が小隊長でいいのか?」
「それも新部隊を作る理由のひとつみたいよ」
「ん?」
「各国の王族、皇族で、戦闘能力は高いけど指揮官にするには若い人たちを、この部隊にまとめるらしいの。強いけど扱いにくいのを集めて管理しようって腹でしょうね」
ああ、そう言われると、非常に扱いにくい人の名前が思い浮かぶ。
「…なるほど、ジャヴァリー殿下とか、ジャヴァリー殿下とか、ジャヴァリー殿下とかをひとまとめにしようってワケだ」
「うくっ、そ、そう言っちゃうと身も蓋もないけど…」
思わず笑いそうになったのをこらえながら答えるリーベ。
「言われてみれば、ウチには既に殿下も姫様もいたりするんだから、そういう面倒な人を集めちゃおうって事か。皇族だの皇位継承者だのなんて、部下にしたら気苦労ばかりだろうし」
と言った僕を、なぜかジト目で睨むリーベ。あれ、何か変な事言ったかな?
「…人事みたいに言ってるけど、アーストリア帝国が復興する以上、ノゾミの皇位継承権も復活するわよ。わたしが即位するから、ひとつ繰り上がって第七皇位継承者になりますからね」
「グハッ」
「詳細は後日きちんと書類が来ると思うわ。それでは、失礼します」
そんな事すっかり忘れてたよ! 本日一番のダメージを受けてよろめく僕に対して、きれいに我が国式の敬礼をして執務室を出て行くリーベだった。
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「出なくて済むかと思ったのに、まさか近場で即位式をやるとは」
「ここが、一番アーストリアに近い大都市ですもの~」
イモータルから東北東に約100キロ、アーストリア国境に一番近い大都市であり、大規模な港を持つ国際貿易都市サイドビーチ。その中心街にあるサイドビーチ・パークアイランドホテルは世界的にも有名な格式あるホテルであり、併設されている大会議室や大公会堂は高位貴族や芸能人の結婚式に使われたり、国際的な式典やシンポジウムの舞台になったりもしている。
今日は、その大公会堂においてリーベのアーストリア皇帝への即位式が行われるのだ。皇位継承権を持つ僕や母さんは、それに出席しないといけない。リーベから皇位継承の事を言われてからまだ半月ほどしか経過していないのだから、本当に急ぎでやっているのだ。
これが連邦首都あたりでやるんだったら、前線部隊の指揮を理由に欠席もできたんだろうけど、常駐しているイモータルよりも国境に近い都市でやるんだから欠席はできない。
結局、オグナをサイドビーチ郊外に停泊させて、マーサさんに指揮代行をしてもらって緊急事態に備えている。
もちろんサイドビーチの常駐軍も厳戒態勢を敷いているし、第1軍からも第2軍からも部隊が派遣されているほか、統合参謀本部直属の機動部隊として実戦配備されているスフィンクス級戦艦がオグナ以外にも3隻来ているのだ。その搭載機以外にもAGが配備されており、総数は50機を超える。連邦がここまでAGを集中配備するのは初めてのことだ。さらには海には海軍の軍艦もいる。飛行戦艦に比べれば汎用性は低いが、洋上戦艦でも最低30センチ以上の魔道砲は積んでいて砲撃力は高い。
世界大戦勃発時に地球帝国が投入した戦力は合計で魔道戦艦12隻、AG108機程度だったようなので、これだけの戦力を置いておけば、そう簡単に攻めては来られないだろう。魔道戦艦の数は想定よりかなり多く、就役を急いだのがうかがえる。それでも、占領地が多い地球帝国は各地の維持防衛に精一杯で、ここへの攻撃にそんなにたくさんの戦力を投入はできないはずだ。
とはいえ、何しろ事がアーストリア帝国の復興なので、少数精鋭による奇襲は考えられるのだ。政治イベントだから大々的に告知しているし、各国首脳もここに集まっている。式典の阻止はできないにせよ、嫌がらせの攻撃はかけられるだろう。
だが、心配をよそに式典は滞りなく進んでいく。
もとより帝冠から何から、帝位を象徴するような道具の本物は帝都にあるのだろうから、即位だ戴冠だといったところで儀式めいた事はしない。亡命者代表のデアフリンガー伯爵がアーストリア帝国正統政府の設立を宣言し、それを十カ国連邦、北コロンナ合州国、南コロンナ連合の各国代表が承認することで、アーストリア帝国の政治的復興を表明する。その上で、デアフリンガー伯が正統政府宰相の名において、第一皇位継承者リーベにアーストリア皇帝への即位を要請し、それをリーベが受諾することでアーストリア帝国第21代皇帝リーベ一世が誕生するのである。
「はい、わたしはアーストリア皇帝への即位を受諾いたします」
壇上のリーベの声が公会堂に響き渡る。
「これをもってリーベ・アーストリアはアーストリア帝国第21代皇帝として即位…」
パチパチパチパチ。
デアフリンガー伯の言葉を遮るように、不躾な拍手が響き渡る。礼儀からすると早すぎる拍手。
公会堂内の全員が拍手の源へ振り返る。演壇とは正反対、会場最後方、二階中央。スポットライトや映像を使用する場合の映写装置が配置されているキャットウォークの中央に、その男はすっくと立って拍手を続けていた。
会場両サイドのキャットウォークに設置されていたスポットライトが回り、その人物に光を当てる。と、鋭い光が目元から反射される。白銀の仮面に赤い騎士服…って、オイ!
「おめでとう、リーベ…と言うべきなのかな?」
「リヒト兄様!」
「お前に責任を押しつけてしまったのはすまないと思っている。だから、せめて即位式くらいは出席しようと思ったのだよ」
どうやってここに来た!? …などと言うのは愚問だな。アーストリア帝国正統政府には元ルードヴィッヒ派も大勢いる。その中には、ルードヴィッヒから見限られたフリをして潜入工作員になっている者もいるはずだ。そういう奴らが手引きすれば、この場に現れるのは容易いことだろう。
「だが、兄としてはともかく、地球帝国としてはアーストリア帝国の復興などというアナクロニズムは許容しがたい。謹んでルードヴィッヒ総統からのメッセージをお伝えする」
そう言ったリヒトは一旦口を閉じ、会場中の耳目を集めた上でおもむろにそのメッセージを口にする。
「『バカめ!』 …以上だ」
あまりにも古典的なネタを聞かされて一瞬呆然としてしまい、総統も相当冗談がお好きのようだ…などと、それこそ床が抜けそうなジョークを思い浮かべてしまった。いや、口に出すほど下品じゃないよ、僕は。
と、そこでリヒトが身を翻してキャットウォーク後方の上映室の扉へ飛び込んだのを見て気を取り直す。ここは、動くべき所だろう。
「待て、リヒトっ!! 飛翔」
会場最前列のゲスト席から飛び上がって、リヒトの後を追う。手元に武器は無いが、抵抗してくるなら魔法で足止めくらいはできるだろう。
上映室を抜けて廊下に出たところで、リヒトの後ろ姿が廊下の角を曲がったのを見る。そのまま飛んで後を追ったのだが、角の側に来たときに、その先に気配があることに気付く。逃げてないのか?
「「衝撃波」」
角を曲がると同時に衝撃波の魔法を放つが、これは相手も想定していたらしく、まったく同じ魔法で相殺してくる。
だが、そこに立っていた人物を見て、僕は一瞬唖然とした。顔に仮面は無く、素顔を晒している。だが、顔自体は変わっていないものの、その髪は金ではなく黒、瞳も青ではなくダークブラウンになっている。そして服装は赤い帝国の騎士服ではなく、白い連邦の騎士正装。つまり…
「それはヒカリが一度使った手だ!」
思いっきりツッコんでしまった。そう、リヒトは僕に変装していたのである。あの短時間で、ということはつまり、服以外は最初から僕に変装する積もりで準備していたのだろう。いや、服さえも幻影で誤魔化していたようだ。
「何度使っても有効な手なんだから使わせてもらうよ」
「そういう事」
うそぶくリヒト…の背後から、その言葉に同意しながら更に1人が姿を現す。え!?
リヒトの横に並んだのは、まったく同じ顔、同じ姿。こんな事ができるのは…
「ヒカリっ!?」
「さあ、誰だろうね?」
しらばっくれてるが、他にいるわけないだろう!
そこへ、背後から警備員が駆けつけてくるものの…
「なっ、これは!?」
「「騙されるな、この2人は偽物だ!」」
僕と同じ声で、目の前の2人が異口同音に同じ言葉を叫ぶ。オイ!
仲間同士でも互いに偽物呼ばわりすることで本物だと思わせる手なんだろうが…
「魔力隠蔽してない時点で僕が本物だと分かるだろうに」
と冷静に指摘する。ところが警備員の代表が困った声で言う。
「すみません、我々は本物のノゾミ殿の魔力周波数を知りません」
「あ…」
そう言われればそうか。もっとも、別に問題はない。
「別にいいさ、3人とも拘束すればいい。誰が本物かは、母さんかカイに確認してもらえばすぐ分かる」
母さんは一緒に式典に参加していたし、カイはリーベの護衛として会場に来ている。
「それは困るね」
「しょうがない、派手にいくか。来い!」
あくまでも僕の真似をしながら、ヒカリらしき方が何かを呼ぶ…って、オイ、まさか!?
ドガァン!!
外壁が破壊され、巨大な手が室内に侵入してくる。その上に飛び乗る偽物2人。この手の形は…
「ドラゴン!?」
壊れた壁の外には、僕の愛機、ブレバティ・ドラゴンの姿がある。だが、これは僕のドラゴンじゃない!
「ライガーだな!?」
元々からして基本構造は同じ準同型機だ。意匠や装備を付け替えればドラゴンに偽装するのは簡単だろう。
「今日の任務はメッセンジャーボーイと送迎だからね。これで失礼するよ」
リヒトかヒカリか分からないが、偽ドラゴンから僕と同じ声が聞こえる。メッセンジャーボーイはともかく送迎って何だ? …とか考えてる場合じゃないか。
「逃がすかっ! ブレバティ・セットアップ、認証サーティフィケート ノゾミ・ヘルム! 瞬間移動」
即座にドラゴンを起動して呼び寄せ、乗り込む。基本魔法をかけている間に、偽ドラゴンは港の方へ目がけて飛び去ろうとしている。僕も即座に飛翔で後を追ったのだが…
「ドラゴンの識別信号が2つあります! サイズ、質量からも識別できません!」
魔道通信機からマーサさんの悲鳴じみた報告が聞こえる。オイオイ、そこまで凝った偽装してたのかよ。ホテルに近づけるのも無理はない。ドラゴンも僕も有名だから、多少不審に思われてもヒカリが応対してたら短時間なら誤魔化せるだろう。
「ちょっとは偽物らしいポイントぐらい残しておけよな!」
「魔像なんだからマフラーも無いし、元々ツリ目気味だから、これ以上ツリ目にするわけにもいかないだろう? 別に小さな子供をいじめたりはしてないから安心して欲しいな」
「なんで数ある偽物の中で一番スケールが小さい悪事を働いてる奴を引き合いに出すかな!?」
今ひとつ緊張感の無い会話をかわしながらも追撃は真面目にしている。もっとも偽ドラゴンは建物の合間を縫うように飛んでいるため、迂闊に攻撃魔法は撃てず、後を追うだけになっている。建物への流れ弾を出すわけにいかないからね。
ホテルの周りに立っていた数機のドラグーンは追撃よりは警護を優先して追ってきていないが、上空を警戒していたペガサスが3機、前方を抑えようと翼を翻したものの…
「切断光線」
あっさりと偽ドラゴンに翼端を斬り飛ばされて姿勢を崩し、AG形態に変形して着地する。建物や地上への被害は無いようだが、やはり練度不足だ。
そうこうしている内に港の上に出る。停泊している水上艦の砲塔がこちらを指向しているのだが、味方の識別信号が出ているためか、砲撃はしてこない。逃げてる方を狙えよ! …というワケにもいかないか。
ドガアァァァァン!!
突然、いくつかの軍艦の舷側や艦尾から大きな水しぶきと爆発音が上がる。
「水中からの攻撃です! 戦艦ドレッドノート、インヴィンシブル、タケル17世、アルバート・ストリームが艦尾損傷! 巡洋艦リントー、ラ・ソーヌ、サイレントヒルが艦底から浸水…」
マーサさんから被害報告が来るが、それは目の前の港の混乱状況を裏付けるだけのものでしかない。被害を受けていない艦はむやみに海面を掃射しているが、たぶん何の効果も無いだろう。
攻撃を受けたことで腹をくくったのか、偽ドラゴンに向けて対空砲火を浴びせる艦もあるが、大して効果はなく、かえって魔力弾による反撃を受けて対空火器を潰されている。
ガン、ガン!
間違えてこっちを撃ってきてる艦もあるし、偽ドラゴンを狙ったはずの流れ弾がこっちにやってくる事もある。魔力防壁を張っているところへ小型の魔道砲の弾だから大して効いてはいないけど、鬱陶しいね。
ザバァ!
と、突然海面が割れて、1隻の潜水艦が海中から飛びだしてきた。この外観は!?
「シーサーペント号!?」
「シーサーペント級2番艦『アーケロン』さ。この前の戦闘で魔道潜水艦の隠密作戦における有効性は嫌というほど思い知ったんで、艤装95%と完成間近だったのを接収して使わせて貰っているんだ」
偽ドラゴンがうそぶく。クソっ、ただでさえ単機で逃走も可能だろうに、こんなのまで居たら追い切れるモンじゃない!
使うのはやめる積もりだったが、上に向けて撃てば何とかなるだろうから、艦底方向に瞬間移動して超電磁直撃拳でもかましてやろうか?
とか思ったのだが、偽ドラゴンが格納庫に飛び込むと同時に、アーケロン号の周りに魔力の結界が張られる。
「これは!?」
「がーっはっはっは、お主とフィーアが発見した瞬間移動阻止の新魔法『瞬間移動妨害』じゃよ。解析して実用化に成功したんだでな。本艦周囲200メートル以内に瞬間移動することはできんぞ。これでもう超電磁直撃拳は使えまい!」
艦からガーランド伯の自慢気な声が聞こえてきた。おいおい、既に実用化できたのかよ!? 早い、早いよオッサン!
それにしても、もう使う気はなかったとは言っても、一回こっきりで無効化されるとはね。よっぽど悔しかったのかな?
「それではさらばじゃ!」
「お兄ちゃん、あたしも被害者なんだから恨まないでよね!」
ガーランド伯と、なぜかキャラを外したヒカリの謎の言葉を残して、再び海中に消えるアーケロン号。それにしても、ヒカリの言葉はどういう意味だろうか?
大型艦の主砲の旋回は間に合わず、対応できた小型対空火器ではアーケロン号には傷一つつけられていない。海中に逃げられた今、これ以上追うのは無理だろう。
「発砲停止! 発砲を停止せよ!! 今は被害艦の救援が優先だ!」
岸壁の大型戦艦から司令長官のものらしき声が聞こえてくる。港内はまだ混乱中だが、砲撃は止まった。
「ドラゴン、聞こえますか? 速やかにサイドビーチ防衛軍司令部に出頭して状況を報告してください」
「了解」
魔道通信機からマーサさんの声が流れてきた。偽物は逃げたとはいえ、僕が現場にいると混乱の元だろう。すぐに指示どおりに司令部へ転移しようか。
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結局、地球帝国の奇襲は嫌がらせの攻撃以外の何物でもなく、リーベの即位式は多少滞りながらもそのまま終わった。さらに、その最後には来年1月1日をもって汎人類統一政権「地球連邦」が設立されることも合わせて発表され、それに先立つ形で統合軍事組織「地球防衛軍」が発足することも明らかにされた。
地球帝国の方では派手に戦艦4隻、巡洋艦3隻大破、AG3機撃墜などと宣伝しているが、AGの方は小破だし、軍艦も推進部などが破壊されていて修理は多少手間だが、被害程度で言えば中破くらいにしかならない。一方的にやられたのは事実だけどね。
そして、栄えある「地球防衛軍」…このネーミングは何とかならんモンか? の最初の特務実戦部隊として、我がヘルム私領軍を中心とする新部隊の発足が決まった。
で、その構成メンバーとか僕の上に来る新指揮官がイモータル市にやってくるというので、執務室で母さんから説明を聞いているのだが…
「仮称『愛国戦隊』の指揮官なんだけどね~」
「その仮称はやめてくれっ!!」
思わず母さんの言葉を遮ってしまった。そんな名前つけた日には、ガーランド伯だのヒカリだのがどんな敵を出してくるか知れたモンじゃない。ミンスク仮面とかと戦うのは嫌だぞ、僕は。
「あら~、戦艦2隻、AG20機あたりになりそうだから戦隊規模の部隊なんだけど、駄目かしら~?」
「せめて陸軍式に『愛国連隊』か『愛国旅団』にしてくれ」
「規模から考えると旅団の方がいいかもしれなど、語呂がよくないから『愛国連隊』の方にしとこうかしら~」
語呂で決めるなよ、と言いたいがどうせ当面使うだけの仮称だ。正式名称はその内統合参謀本部あたりの参謀連中が、国民の士気高揚を考えて派手な名称を付けるだろう。
…つまり厨二くさい名前になるワケだが、それも仕事の内。耐えるしかない。
「とにかく、部隊の指揮官がオグナの艦長も兼任してくれるらしいから、あなたはAG部隊指揮官に専念してもらうわ~。何しろ扱いにくい子が多いから、大変でしょうし~」
「ジャヴァリー殿下とリーフさんは想定内だけど、エリック家の三姉妹も参加か」
部隊のメンバーリストを確認したら、知った名前ばかり出てくる。まあ、各国の王侯やら大統領やらの子弟親族をかき集めて最前線に立たせての士気高揚が目的なんだから当然か。
しかし、肝心の指揮官については、経歴どころか名前さえ、どこにも書いていない。
「で、来る指揮官の名前は? 資料に載ってないよ」
「うふふふふ…ヒ、ミ、ツ♪ すぐに顔を合わせるんだし~」
エラく嬉しそうに答える母さん。オイオイ、僕にも秘密にしてどうするんだよ? しかし、これだけ母さんが嬉しそうにしている所を見ると、旧知の人なんだろうな。部隊に配備されるもう一隻の戦艦はスフィンクスになるらしいから、ブルさんたちもこの部隊所属になるようだし。
と、ドアがノックされてリンの声が聞こえてきた。
「ノゾミ、クリスさん、みんなブリーフィングルームに集まったよ」
どうやら、AG部隊のメンバーが集まったらしい。
「分かった、すぐ行く」
答えてすぐに扉を開け、母さんとリンと一緒にブリーフィングルームに向かう。さて、指揮官はどんな人なのやら…って、リンの奴、えらく微妙な顔をしてるが?
「どうした?」
「…会えば分かるよ。怒らないでね」
? 何だそれ!? 僕が怒るような人選なのか?
見当もつかないまま、ブリーフィングルームのドアを開くと、よく見知った顔やら、面識のあるメンバーがいたのだが、何やら困惑した顔をしている。
そんな中で、久しぶりに顔を合わせたブルさんと、その奥さんでスフィンクス副長のカテリーナさん~クーによく似た赤目赤髪超巨乳の美人である~の2人はニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべている。
そして、窓際に立つ男が1人。なぜか魔力隠蔽して己の魔力を隠しているのが気になるが、これが新指揮官なのだろう。純白の騎士服をビシッと着こなし、身長は180センチほどの鍛え抜かれた肉体を持つ、歴戦の軍人を思わせる風格の持ち主。軍帽の下の短くクールカットした黒髪は見慣れないのだが、それを除くと、この後ろ姿は誰か見慣れた人物を思い出させる。
そして、僕たちが入ってきた音を聞いて振り向いたその顔は、鈍色の仮面に覆われていた。目と口元のみ露出した面は、半面しか覆わないリヒトの仮面よりもさらに隠す面積は多い。目の部分からは意志の強そうなダークブラウンの瞳が鋭く僕を見据えてる。
だが、いくら仮面を被っていようと、僕がこの人を見間違えるはずはない!!
「なっ!?」
あまりの事に絶句した僕に向かって、その男は口を開いた。
「ノゾミ・ヘルム君だな」
聞いたことの無い声。魔法で変えているのだろう。そして他人行儀な口調。
…そーかい、そーいう事かいっ!!
ヒカリの謎の言葉やリンのビミョーな表情の意味が、ようやく分かったよ。
「はい、あなたが新部隊の指揮官ですか?」
その男の前に進んで、その目を見ながら冷静に、丁寧に尋ねる。
「そうだ。これで主要メンバーが揃ったようだから、任命書を読み上げさせてもらおうか」
「その前に一つ確認させていただきたいのですが、その任命書を読み上げるまでは、新部隊の指揮権は発生しない。従って、あなたと僕の間に上下関係はない。まだ、上官でも部下でもない」
ここは重要なポイントだから確認しておかないとね。
「その通り。赤の他人だ」
だが、恐らくわざと言ったのであろうその返答に、とうとう僕の堪忍袋の緒が切れた!
「そうかよ、だったら、そんな大人、修正してやるッ!」
そう叫びながら、魔力を込めた右拳を全力でその男の仮面の真ん中叩き込んだ。
「うごぉっ!?」
奇妙な悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ仮面の男。その仮面は陥没しており、顔面複雑骨折を負っているはずだ。
その一方で、僕の拳も無事ではない。鍛えている上に魔力をまとわせたとはいえ、金属の仮面に全力で叩き込んで生身の拳が無事に済むはずもない。複雑骨折の激痛に耐えながら、僕はそのまま男に追いすがって、砕けた右手を倒れた相手の顔面に添える。
「治癒」
治癒魔法を唱えると、すぐに折れた拳の骨がくっつくのを感じる。まだ少し痛みは残っているが、すぐに抜けるだろう。相手の顔面も治るように魔法をかけたので、一緒にあちらの骨も元に戻っているはずだ。
「修復」
ついでに、歪んだ仮面も直しておく。この仮面の材質は、鉄などではなくチタン合金らしい。なるほど、軽くて丈夫で金属アレルギーも起きないから仮面の素材としては鉄よりいいだろう。
「お、お前…」
「言っておきますが、上官も部下でもない以上、上官への暴行だの部下への虐待だのには当たりませんよ」
喧嘩とか暴行の処罰は受けることになるだろうが、このくらいなら軽くて戒告、重くても数日間の営倉入り程度の処分で済むはずだ。
ところが、相手の返答は僕の予想の遙か斜め上を行っていた。
「ぶったな! オヤジにもぶたれた事なかったのに!!」
「そのセリフは何か違うだろう!!」
次回予告
「俺は一介の魔術師に過ぎんが、本部隊の指揮官とオグナ号の艦長を任されたからには、その義務は果たす積もりだ。訳あって名は明かせんので、魔術師艦長とでも呼んで貰おうか」
「…某宇宙海賊のバッタモンにしか聞こえないんだけど」
新指揮官のもとで編成が進む新部隊。そして戦争の終結に向けて新しいシナリオが動き出す。
「ルードヴィッヒの『暴政』に対して、地球帝国の占領地のみならず、アーストリア領においても反ルードヴィッヒの動きが出てきている」
「ルードヴィッヒ一人を倒すことで地球帝国は瓦解すると?」
「そのための手が一つあってな」
誰もが知ってる謎の人「魔術師艦長」が指揮杖を振るうとき、まやかし戦争の終わりへの道が示される。
次回、神鋼魔像ブレバティ第19話「仮面の男・キャプテン・ウォーロック」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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来週も、また見てくださいね!




