第18話 女帝リーベ誕生 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「激高してフィーアを殺そうとしてしまうノゾミだったが、ヒカリに止められて戦闘をやめる。イモータル市に戻ったノゾミを待っていたのは、自分が父の代わりをしなければいけないという現実だった。激務に逃避しながらも、精神的再建を果たそうとしていたところに、ガーランド伯が新機軸を称する巨大魔像『黒い狐』で挑戦してくる。その戦い方がフィーアにそっくりである事に気付いたノゾミに、ガーランド伯は黒い狐の制御ユニットにはフィーアの脳が使ってあるとほのめかしたのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「フン、面白い反応じゃな。自分が殺したかった、というワケではあるまい?」
面白そうに尋ねてくるガーランド伯。戦艦の中にいるのでその顔は見えないが、さぞや悪魔的な笑みを浮かべているのではないだろうか。
「…あんな詰まらない事故のせいで、さらに人が死んだことが許せないだけだ」
嘘は言ってない、嘘は。
「ほほう、そうかね。では、こう聞いたら、お主はどう反応するかな? 脳を制御装置の一部として使っている以上、脳死に至っているワケではない。そこまで死んでいたら、制御にも使えんでな。その一方で、脳を取り出した体の方は、冷凍生体保存してある、と言ったら」
「何っ!?」
それは、つまり!
「生き返らせることができると!?」
「ククク、お主の対応次第ではな」
焦らすガーランド伯。何か条件を持ち出してくる気か?
「何をしろと?」
「簡単な事よ。ドラゴンを寄こせ」
「なっ!?」
このドラゴンを!? これは、今となっては…
「別に、戦って倒すばかりが勝つことにはならんからの。ライガーは既に分析済みじゃが、ドラゴンも分析すれば、より高性能の魔像を作れるでな。どうじゃ?」
「…いいだろう」
迷ったのは、ほんの一瞬。僕はすぐにその提案を受けていた。
「なんじゃと!?」
「オイ!!」
「ちょっと、ノゾミ!? ドラゴンは博士の形見じゃないの!」
カイやクーが驚くのは当然だけど、提案した当のガーランド伯まで意外そうにしているのはどういう事だろう?
「ドラゴンは確かに大切な父さんの形見だけど、フィーアの命には替えられない。僕が父さんから貰ったものは、別にこのドラゴンだけじゃない。魔法の使い方、戦闘の技術、人としての生き方、そして何より、この生命だ」
形にならない大切なものを、たくさん貰ってきた。形あるものにとらわれる必要はない。
「だけど、お前のAGはどうするんだよ! それに、軍事機密じゃないのか!?」
僕の言葉に、カイが至極当然の反論をする。
「図面も製造ノウハウもあるんだから、ドラゴンタイプの2号機ならヤマムラさんが作れる。それまではドラグーンでもペガサスでも使いこなしてみせるさ。軍事機密? さっきガーランド伯も言ってたけど、ライガーが既にあっちにあるんだからオリハルコリウムだって解析済みだろう。今更機密もクソも無い」
だいたい、この戦争自体が茶番だ。あと半年以内には味方になるのに情報漏洩の心配なんて無意味だ。それよりは、有能な騎士を一人救う方がいい。そう、それだけのこと、だ。
「ハッハッハ! 面白い、面白いぞ、ノゾミ!! 吾輩の目的は達成された。そこまでフィーアを気に入っておったか」
高笑いするガーランド伯だが、さっきとは笑い方が違う。悪魔的というよりは、心底楽しそうに笑っている。そして、盛大にちゃぶ台をひっくり返してくれた。
「心配せんでもよいわ。フィーアは基地でピンピンしとるぞ」
「は?」
「バカめ、さっきからの吾輩の言葉をよく思い出してみい。全部『仮定』じゃ。断言なんぞしておらんぞ」
「あっ!?」
そういえば最初の前提となる所では『とかはどうじゃな?』とか言ってたな! 後の発言もだいたい『と言ったらどうする?』みたいな表現だった。
「でも『責任を取らせた』とか言ってなかったか!?」
「取らせたぞ。3日間の強制労働だ。3日間缶詰で行動パターンなどのパーソナリティ転写実験のほか、動きを再現するためのモーションキャプチャーや、音声用のボイスサンプリングにも付き合わせたんでヘロヘロになっておったわ」
「ははは…」
乾いた笑いしか出てこない。思わず膝から力が抜けそうになったのを何とかこらえる。と、そこにガーランド伯が、今度は微妙に怒りのこもった声で尋ねてくる。
「それよりも、じゃ。何で吾輩が自分の娘の脳ミソ取り出して魔像に組み込んだとか聞いて、これっぽっちも変だと思わんのじゃ!? 常識的に考えて『殺人事件』じゃろうが!」
「…あ」
言われてみれば…
「地球帝国の刑法や軍法は旧アーストリア帝国のものを継承しておるが、一般刑法でも卑属殺人、つまり親による子殺しは特に重罪、軍法でも上官による部下への私的制裁による暴行や殺害は重罪じゃ。どっちにせよ、旧アーストリアでさえ貴族特権の対象外、ましてや特権の廃止された地球帝国では完全に犯罪じゃよ」
「ええと、命令違反の罪で死刑、とかは?」
「民間人や捕虜の虐殺とか、明確な国家への反逆行為でも無い限り死刑は無いわい! ましてや、あれは事故じゃ。過失致死にしたところで、味方に対しての誤射でも死刑は無いのに、戦闘中に敵を事故死させたことで死刑なんぞにしてたら軍隊が崩壊するわ! それに、仮に死刑にしたにせよ、その遺体を人体実験に使用するなぞ人道的に許されんわい!」
「それもそうか…」
「なのに、どうして吾輩がそういう事をしたというのを、これっぽっちも疑わんで信じるのじゃっ!?」
た、確かにそう言われるとガーランド伯が怒るのも無理はない気がするけど…
「自業自得、という言葉をご存じではないのですかな、父上?」
反論できない僕に代わって答えたのは、護衛としてレオパルドの周りを飛んでいたアインだった。
「なぬ?」
「憚りながら、出撃前にフィーアの姿を見ていなければ、それがしですら信じてしまう所でござった」
「言えてる。だってよぉ、こないだヒカリが『体を真っ二つにしてつなぎ合わせる』とかいう『Dr.ヘルム』の冗談の事を話してたとき、オヤジは真面目な顔して『一卵性の三つ子なら拒絶反応は無いな』とか言ってたじゃねえか。オレは本当にぶった切られるんじゃないかと思って怖かったぜ」
ドライとツヴァイも追撃する。
「お、お前たち…吾輩の事を何だと思っておるのじゃ!?」
「「「キ印博士」」」
きれいにハモりながらドきっぱりと断言する3人。さすが一卵性の三つ子だ、ここまでシンクロ率高いセリフは僕とヒカリでもそうはないぞ。
「お前らっ!!」
怒鳴りつけるガーランド伯。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、喧嘩ができる親子であることが、僕にはうらやましい。相手がいなければ喧嘩はできないんだから。
ま、敵の親子喧嘩なんぞ見ててもしょうがないから、一つだけ聞いてから続きをやろうか。
「はいはい、親子喧嘩は帰ってからやってくれ。それで、もし僕がそちらの嘘に気付いたらどうするつもりだったんだ?」
「うん? ああ、そうじゃな。もともと、すぐに気付くだろうとは思っておったから、黒い狐に対するお主の態度を見て判断しようと思っていたのじゃよ。フィーアの行動パターンを写してあることは本当じゃ。それを見てお主が個人的恨みを叩きつけるか、それとも冷静に対応するかを見たくてな。それに、恨みを叩きつけてくるなら少しは発散になるかとも思ってはおった」
結果としてはあっちの思惑以上に恨み以外の感情を持ってる事を晒したワケだ。未熟だね、僕も。
…ってか、よく考えたら騙されたんだよな、僕は! それも、自分でも無視しようとしてたとは言っても、隠してた一番大切な感情を人前に晒す羽目になったんだ。そう考えると何かムカついてきたぞ!!
「OK、それじゃあ見せてあげようかな、僕の本気を」
「おお、見せてもらおうか。じゃが、吾輩のTPGをそう簡単に倒せると思うなよ!」
「TPG?」
何か国技館で暴動でも起きそうな略称だが、何だソレは?
「人格転写魔像の略じゃ。この黒い狐と同じような人格由来の判断力を持つ高度な自律型魔像をそう名付けたのよ。まあ、人格とは言っても、ごく一部でしかないがの」
ああ、なるほど、その名前を先に出したら人格の転写に過ぎないことがバレるから今まで言わなかったのね。にしても、適当っぽいネーミングだなあ。
「なら、いきなり瞬殺させてもらおうか! 新必殺技の試し斬りだ。『超電磁パァーンチ』ッ!!」
僕がキーワードを発すると、ドラゴンの右腕側面が展開し、そこから細長いバーが2本前方に伸びていく。そして、伸びきった瞬間に、各バーに高圧電流が流れる。かなりの魔力を込めた雷撃よりも更に強力な電流が流れ、それに伴って電磁場が発生する。
同時に、右前腕部のクローは前に出て拳をカバーし、ドラゴンクロー・ロケットの発射態勢と同じ形に変形している。そして、ドラゴンクロー・ロケットと同じ部分で本体から切り離される。しかし、今回は憤進の魔法で噴射推進するのではない。代わりに摩擦力をゼロにする魔法が前腕部側面を覆う。
これらが、ほぼ全自動で展開され、電位差によるローレンツ力が推進力となって、前腕部を超高速で前方に叩き出す。
そう、前に考えていたレールガン式の飛翔パンチを実現したのだ。その初速は秒速8キロメートル。つまり、第一宇宙速度以上! 空気抵抗があるからそのまま衛星軌道を描いて飛び続けることにはならないだろうが、そもそもこの距離でなら外すはずがない! …のだが。
「大嵐防壁」
僕がキーワードを叫ぶのと、ほぼ同時に黒い狐はフィーアの声で魔法を唱えていた。「パンチ」とか名前に付いてる時点で飛翔パンチ系の技だと読まれてはいたんだな。
いかに高初速であろうと、着弾以前にこの魔法が使われている限り、瞬時に展開される偏向結界が弾丸の運動ベクトルをねじ曲げ、逸らしてしまう。
ドォン!
レール展開後、一瞬にして消えた前腕部は、そのまま黒い狐を捉える事なく、超音速による衝撃波と衝撃音のみを残して空の彼方へ飛び去ってしまった。
「だーっはっはっは! 確かにレールガンは初速が高いかもしれんが、レール展開に時間をかけていては、その間に大嵐防壁を張ればいいだけのことよ!! 反応速度も光速のTPGなら対応も瞬時にできるわ! 新必殺技とやらも大した事は無かったの」
勝ち誇ったように笑うガーランド伯。まあ、その反応は予想通り。でもね…
「今のは『見せ技』さ。これからが本番だよ」
「なぬ!?」
「超電磁パンチ」
「は、何度やっても同じこと…」
「くらえぇぇぇッ、超電磁直撃拳!!」
あざ笑うように言うガーランド伯を無視するように必殺技名をわざとらしく叫んでから、本命の呪文をぼそりと唱える。
「瞬間移動」
「え?」
左腕のレールが展開した瞬間を見計らって転移したのだ。転移場所は、黒い狐の真正面、距離、0メートル!!
ドガァァァァァン!!
いかに運動エネルギーのベクトルを逸らすことができる魔法であろうと、その偏向結界の中から発射してしまえば、ベクトルを変える余裕はない。ドラゴンの左前腕部は、レールの磁場に誘導されて、その至近にあった黒い狐の胸板へ秒速8キロメートルの超高速で激突し、貫通する。超音速の衝撃波が二次破壊をもたらし、胸の内部機構を爆砕しながら貫通したドラゴン・クローはその抵抗によって速度を大幅に落としながらも、まだ十分な推進力をもって空の彼方へ消えていった。
残ったのは、胸の中央部の穴から上半身が四分五裂して爆散し、腹部より下のみになった黒い狐の残骸。その下半身がゆっくりと後ろに倒れていくのを見やりながら、僕はうそぶいた。
「弾が逸らされてしまうなら、逸らすことができない距離から撃てばいいじゃない」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




