第17話 襲撃! ブラックフォックス! Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「艦型照合、パンター級レオパルドと推定されます」
司令室に転移すると、すぐにマーサさんから報告が入る。レオパルドって事は、ガーランド伯だな。…ヒカリも、今は定例の出撃をやれる状況じゃないんだろう。
だが、レオパルドって事は、オグナの準備もしておく必要があるか。僕が自分で動かすか、母さんに任せるか…悩んでる時間は無いな。
「パターンBで行く。オグナは最低要員で出撃準備。マーサさんは司令室で管制をよろしく。僕も前線に出る」
パターンBは副長~母さん~がオグナを起動して艦の指揮をとり、僕はドラゴンで出撃するパターンだ。
「了解、パターンB、オグナ出撃準備、3分で完了します」
「イモータル市防衛形態へ、玻璃障壁、魔力重砲展開」
「了解、玻璃障壁、魔力重砲展開」
僕の命令をマーサさんが復唱し、各部署へ伝達する。
「小細工はないと思う。第一小隊は僕が直率、第二小隊はヤマダさんが指揮して出撃」
現状、ウチの実戦部隊は2個小隊が使える状態にある。帝国は1個小隊が3機だが、我が国は部隊によって3機編成と4機編成が混在している。現状のウチの部隊は、2機1組の分隊が2組で1個小隊になっている。練度が低いパイロットが多いので、2機1組の編成の方が互いにフォローしやすいのだ。
第一小隊は、僕のドラゴンとリュー君のドラグーンの分隊と、カイのポセイドンとこの前も出撃したロキ・アンダーソンのマーマンの分隊になる。マーマンは水陸両用機だが近接戦闘向けの機体でもある。ロキは近接戦闘が得意なので、カイのポセイドンとも相性が良いマーマンにあえて乗せているのだ。
第二小隊は、ヤマダさんこと殿下と姫様の双子兄妹によるペガサス分隊と、クーのロプロスと今回が初陣の新人マヤ・ミコシバのペガサスによる分隊で編成される。別に狙っているワケじゃないが、ペガサスは女性パイロットが多い。耐G能力が高いのか、超音速飛翔を習得できるのは女性パイロットの方が多いようだ。
戦闘経験ならクーが上だけど、戦術指揮能力は殿下の方が高いので、第二小隊の指揮官は殿下にお願いしている。
なお、リーベがいないのは、今ちょうど連邦首都に呼ばれているからだ。地球帝国に対する政治的な動きがあるらしい。
「了解、AG部隊は第二小隊から出撃開始します」
「それじゃあ、管制はよろしく。瞬間移動」
第一格納庫に転移すると、既に殿下たちが出撃を開始していた。すぐにドラゴンに飛び乗って起動し、基本魔法をかける。
「第二小隊出撃完了。第一小隊出撃よろしいですか?」
マーサさんの声が魔道通信機から聞こえてきたので応答する。
「コール、こちらドラゴン、出撃準備完了」
「了解。進路クリア、ドラゴン出撃よろし」
「了解。ドラゴン、発進!」
既に飛翔もかけているので、開いている格納庫の扉からそのまま飛びだす。上空では、既に飛行形態に変形した第二小隊が滞空している。
「第二小隊は先行して状況を確認。第一小隊もすぐ追う」
「了解、先行して状況を確認します」
命令を下すと、第二小隊の4機はすぐに翼を翻して北西方向へ向かう。
すぐに第一小隊の残り3機も僕の横に揃うので、編隊を組んで第二小隊を追う。
「レオパルドは時速300キロでイモータル市めがけて直進中。直衛機が8機出ています。約7分後にはイモータル市に到着の見込み」
マーサさんの報告が入る。8機? パンター級はAGを9機搭載できるはずだが、あと1機はどうしたんだ?
「イモータル市北方30キロ地点で敵艦確認。…停止しました。攻撃してきません」
「レオパルド停止しました」
殿下とマーサさんの報告が重なる。ふむ? 戦闘目的ではないのかな。それとも伝統にのっとって「前口上」を言ってから戦闘を開始する気なのか。
「反撃は許可するが、こちらからは手を出すな。第一小隊は瞬間移動で第二小隊の背後に転移する。瞬間移動」
とりあえず様子見をさせておいて、僕たち4機も瞬間移動で会敵地点へ転移する。
空中に静止しているレオパルドの周りを8機のAGが囲んで護衛している。うち3機は黒い機体。ノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト…フィーアの兄たちだ。
「来おったな、ノゾミ。古式ゆかしく一騎打ちを所望じゃ!」
「は?」
レオパルドから聞こえてきたのは予想通りガーランド伯の声なのだが、言っている意味が分からない。
「なに、作戦自体は定例の威力偵察よ。お主がヘルム私領軍の指揮権を継承したことさえ確認できれば、今回の偵察目的は達成じゃ。あとは、我が終生の好敵手に香典のひとつくらい出そうかと思ってな。こいつは新機軸じゃぞ。出でよ『黒い狐』!」
その言葉と共に、レオパルドの格納庫から1機の黒い魔像が出撃してくる。すらりとした長身は一眼巨兵に比べるとスマートで、胴体部にも手足にも余計な飾りは一切無い。頭部にはポセイドンとよく似た角状の飾りがある…いや、これはむしろ獣人族の耳を模しているのかな。狼族に比べると少し大きめだが。顔には目のみあって、他はのっぺらぼうだ。ということは、つまり…
「雄牛じゃなくて狐なんだ…」
思わずつぶやいてしまったのはしょうがないだろう。一番最初の版の鋼鉄人間のライバルにそっくりなんだから。もっとも無手じゃなくて黒色の槍斧を持ってはいるが。
と、そこである事に気付く。
もしかして、これはAGとは違うものなのか!?
確かに、サイズは身長18メートルとAGと同サイズだし、感じる魔力も強大だ。一眼巨兵の約10倍、ドラゴンやライガーといったブレバティの初期シリーズと大差ない魔力量がある。
だが、その体内には生命反応が無い。人が乗っているなら、必ず 生命感知に反応するはずなのに、それが無いのだ。
これは、AGではなくて、この前の島の格納庫にあったような巨大なだけの在来型魔像だ! …が?
「大きさや魔力量はともかく、他は古式ゆかしい在来型魔像に思えるんだけど、どこが新機軸?」
「クックック、教えて欲しいか? 良かろう!」
思わず尋ねてしまったのだが、ガーランド伯は律儀に答えてくれる。…違うな、父さんと同じで自慢したいだけなんだろう。
「制御系よ。光属性の精霊を憑依させた超高速演算制御ユニットを組み込んだのだ。だが、それだけではないぞ。気付かんかな? こやつが空を飛んでいる事を」
「あっ!」
その事を指摘されて、僕は驚愕する。AGならば、飛翔などの魔法で空を飛ぶ事は不思議ではない。中に人が乗っていて、魔法を使う事ができるからだ。
だが、在来型魔像は魔法を使えない。制御ユニットに組み込まれた定型動作命令に従って動くので、命令を受けて体を動かすことはできるし、言葉も発することはできるが、それだけだ。確固たる意志、すなわち精神力を持たない魔像は、呪文を唱えても魔法を発動することはできないはずなのだ。
「どうじゃ、魔法の制御が可能な完全自律思考型魔像だぞ。お主やリヒトのような極一部の選ばれた人類しか使いこなせない超高性能AGと同等の魔力量を有する魔像を量産して実戦投入できるようにする画期的な新機軸じゃ!」
そこまでは誇らしげに言い放ったガーランド伯だったが、そこで一旦言葉を切って、しんみりした口調になって続ける。
「吾輩は、これで今度こそシュンの奴の鼻を完全に明かせてやれると思っておったのじゃ。それが、何じゃ、勝手に勝負のつかない所へ行きおって…」
『我が終生の好敵手』。さっき聞いた言葉が耳の奥に蘇る。この人にとっても、父さんはかけがえのない存在だったんだ。
「さあ、勝負せい! あ奴の最高傑作、ブレバティ・ドラゴンを倒せば、吾輩の黒い狐こそが世界最強の魔像じゃ!!」
再びスイッチを切り替えて挑発してくるガーランド伯。そこまで言われちゃあ、乗らないワケにはいかないだろう。
「父さんのドラゴンが、ブレバティが、そんな人形に負けてたまるか! その勝負、受けるぞっ!!」
僕の方も、あえて大見得を切って一騎打ちを受諾する。どうせ、この戦いもまたTVで放送されたりするんだ。そういう戦争なんだから、自分の仕事はきっちりと果たさないと、父さんに申し訳が立たない。
…あ、父さんの事は秘密だった。まあ編集すれば使えるか。
「他の者は手出し無用じゃ!」
「こっちも手を出すなよ。リンも、今回は支援無しでいい。純粋な一騎打ちだ!」
双方とも他の者の手出しを控えさせて、僕のドラゴンと黒い狐が互いの中間地点の平原に着陸する。
「ドラゴン・ブレード」
刀を抜いて青眼に構えて叫ぶ。
「いざ尋常に!」
「「勝負!!」」
僕の声とガーランド伯の声が重なった瞬間、大地を蹴って黒い姿目がけて突進する。普段ならもう少し慎重に様子見するところだが、今日の僕は好戦的な気分なんだ。
ブゥン!
僕の斬撃が宙を薙ぐ。
えっ!?
次の瞬間、僕は慌てて飛び退っていた。
ザリッ。
槍斧の刃先が軽く当たったドラゴンの左肩の飾りが削れる。かすり傷だ…が!?
「迅い」
運動性能自体はそれほど優れているわけではない。回避も斬撃も、動くスピード自体は僕のドラゴンとも他のAGとも大差は無いだろう。
だが、反応が迅速だ。コンマ以下のタイミングではあるが、並の相手に比べて動き出すのが前倒しされているのである。
「凄いな、反応速度だけならリヒト並みだ」
思わず感嘆の声を漏らしてしまった。さすがに制御装置に光精霊を憑依させただけのことはある。さしずめ光コンピューターといったところか。
「そうじゃろう、そうじゃろう。リヒト級の達人の数をどれだけ揃えることができるのかを考えれば、これが量産できるメリットは計り知れんぞ」
ガーランド伯の自慢も頷ける。確かに、これは軍事バランスを変える発明だ…が!
「だけど、戦術はどうかな? 魔力散弾ォ!!」
「魔力散弾」
僕が魔力散弾を放つと、黒い狐も同じように魔力散弾で反撃してくる呪文を唱えているあらかじめ聞いていたとはいえ、魔像が魔法を使うというのは衝撃的だ。しかし、この無機質だが中性的な声はどこかで聞いたことがある…
ガガッ、ガガッ!
魔力弾が数発着弾して、ドラゴンの表面装甲にヒビが入る。だが!
ガン、ガィィン!!
槍斧をはじいて、ドラゴン・ブレードが黒い狐の胴体を薙ぐ。両断を狙ったものの、その反応速度で咄嗟に飛び退さられてしまったので、傷は浅い。
単純なフェイントだ。僕は魔力弾を放つと同時に既に突進しており、被弾を気にせずに弾の回避を行おうとしていた黒い狐に斬りつけただけ。
この程度のフェイントにも引っかかるのだから、やはり自律思考型とはいっても、複雑な戦術を駆使できるほどの思考力は無いらしい。
「フン、確かに今後の改良点じゃな。だが『大軍に戦術無し』。数を揃えればよいだけの事じゃ。それに、いかに戦術を駆使しようと、この反応速度では致命傷を与えるのは難しかろう!」
「っく、言うだけの事はあるみたいだね」
飛び退って致命傷を回避した黒い狐は、即座に反撃に出てきたのだ。魔法は使わず斬撃を連続で放ってくるが、斬撃の速度は普通なのに反応速度が早いので、受けたり避けたりするのもテンポが違って結構やりづらい。
…それにしても、この斬撃のコンビネーション、どこかで見たことがある。テンポが違うので、すぐには分からないが、斬り合った事がある気がしてならない。
帝国の騎士剣術や戦斧術は士官学校で習うものなのだろうから、基本的な型は同じだろう。だが、それでも一人一人個性というものは出てくる。明らかに、この斬撃のクセは、前に経験がある。
テンポの違いにも慣れてきたので、こちらも少しギアを上げて反撃してみる。斬りつけてくるところをギリギリまで引きつけてかわし、下段から右手を狙って斬り上げる。
ガスッ!
やはり超反応で避けられ、右手切断を狙ったのに傷は浅い。人間なら表皮の傷でも痛みや出血につながり戦闘力の低下を招くが、魔像ならかすり傷どころか半分くらいまで切断された状態でも、耐久力はともかく戦闘力の低下にはつながらない。
にしても、今の避け方もやはり覚えがある。誰だ? リヒトとは違う。ヒカリはそもそも剣術が帝国流ではなくヤマト流で型が違う。ツヴァイには似ているが、ちょっと違う。もしかして、これは…
「修復」
黒い狐が腕と腹の傷を魔法で修復する。
修復の魔法まで使うのか! と驚く以前に、その呪文の声が、以前に聞いたことがある声とまったく同じだったことに気付く。生まれて初めて戦った一眼巨兵。その膝に斬りつけた時に、今と同様に修復した呪文の声。
「フィーア?」
「気付いたかの。そうじゃよ。少し待て、黒い狐」
僕が思わず漏らした声を聞いたガーランド伯が、その疑問を肯定して、黒い狐に待機を指示する。
「フィーアの行動パターンを定型動作命令に埋め込んだのか?」
「クックックック…教えて進ぜよう。これが、ただ行動パターンを写したものだと思うかな。もう少し画期的な魔道技術を使っていると言ったらどうするね?」
いちいち黒い狐を止めたのは、たぶん自慢したいんだろうな、と思ったので尋ねてみると、案の定もったいをつけて語り出した。こういう所は、本当に父さんと同じタイプなんだよな。父さんと…同じ…
一瞬、思い出したくない事を思い出しそうになって、ここは戦場だぞ! と自分を叱咤し、ガーランド伯の声に意識を集中する。
だが、次にガーランド伯が口にした言葉は、もっと僕を驚愕させるものだった。
「例えば、人間の脳をそのまま制御ユニットに組み込んである、とかはどうじゃな?」
「な、に!?」
愕然として、静かにたたずむ黒い狐を見やる。そのシンプルな黒いシルエットはさっきまでと何ら変わるものではない。だが、今の言葉を聞いた後では、実に不気味な雰囲気を纏っているように見えてくる。
「のお、ヒカリの嬢ちゃんから聞いたぞ。殺したいと思っているようじゃな、アレを。コレなら、壊してもよいのだぞ。この戦争、人殺しはしないのが前提じゃが、既に死んでいる者の脳なら、壊そうが何しようが人殺しにはならんぞ。どうじゃ?」
すさまじい悪寒が背筋を走る。
「あんた、まさか自分の娘を!?」
「責任を取らせただけよ、責任を、な。ファーッハッハッハッハッハッハッハ!!」
狂ったように高笑いするガーランド伯の声に合わせるように、黒い狐の目がギン、と赤く不気味に光る。
そのシルエットに、目つきが鋭い緑の髪の少女の姿が重なって見える。
僕の初陣の相手、幾度となく戦い腕を上げてきた宿敵、僕のリモコンを盗んだ女策士、そして父さんの仇…
遊園地で屈託無く無邪気に笑う少女、水に落ちて恥じる女騎士、共に遺跡を探索した冒険仲間…
世界で最も憎らしい敵。
だが、同時に最も気にかかる相手。
それが…それがっ!!
僕は思わず絶叫していた。
「それは絶対に何か違うだろぉっ!!」
次回予告
「くらえぇぇぇッ、超電磁直撃拳!!」
黒い狐の真実を知って激怒したノゾミは、かねてより準備していた新必殺技で黒い狐を葬る。
その数日後に連邦首都から戻ってきたリーベは、自分がアーストリアの帝位に就くことと、各国首脳の合意によって十カ国連邦が残りの各国も合わせた地球連邦に発展統合されることを伝える。
それに伴い、ヘルム私領軍を中心として、各国VIPによって構成される「愛国連隊」が結成されることも伝えられ、ジャヴァリー殿下やアニー中尉らがイモータル市にやってくる。
再会を喜ぶノゾミたちだったが、同時に「新指揮官」としてやってきた仮面の男を見た瞬間に、ノゾミの表情は一変する。
「そんな大人、修正してやるッ!」
次回、神鋼魔像ブレバティ第18話「女帝リーベ誕生」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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来週も、また見てくださいね!




