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第17話 襲撃! ブラックフォックス! Aパート

アバンタイトル


ナレーション「発見した新魔法の実験という名目で無人島にバカンスに来たブレバティチーム。海水浴を満喫しながらも、わざとらしく縁起の悪い言動をする父に眉をひそめるノゾミだったが、そこにヒカリ率いる機動部隊が現れ、戦闘になる。クーの心得違いに激怒して教育的指導を加えるヒカリを横目にフィーアと戦闘するノゾミだったが、そこで強引に新魔法を発動させた父の乗る輸送機のコクピットが、フィーアの放った魔力弾によって粉砕されるのを見てしまう。父の魔力反応が消えたことを感知したノゾミは、思わず絶叫するのであった」


オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」


この番組は、ご覧のスポンサーの…

 世界が無彩色になっていた。何も聞こえない。何も感じない。


 …感じない? 違う!


 焼けつくような痛みを感じる、胸に。


 …悲しみ? 違う!!


 燃え上がるような熱を感じる、腹に、そして、頭に。


 これは、怒り?


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 誰かが、叫んでいる。


 …誰が? 僕が!


「フィ、イ、アァー!!」


 憎悪に満ちた叫び。憎む相手の名を呼ぶ叫び。僕の喉から出た、叫び。


 それを聞いて、ぎこちなく振り向く一眼巨兵(サイクロプス)


 その腹部、コクピット。今まで、一度たりとも狙ったことがないAGの急所。そこを目がけて、ドラゴン・ブレードを突き出す。


 その刃が、まさに腹部を貫こうとした、その瞬間…


 無彩色の世界に、突然鮮やかに色づいた姿が浮かび上がる。モノクロームの一眼巨兵(サイクロプス)に二重写しになるように、春の陽光に芽吹く若葉の色の髪と、深い海を思わせる濃い青色の瞳を持つ少女の顔が重なって見える。常日頃の勝ち気にあふれた表情ではなく、自らの命を絶つ刃を半ば呆然とした表情で見やっている顔が。


 僕は何をしているんだ!?


 まるで、観客席から演劇を見ているかのように、あるいは幽体離脱して自分自身の姿を見下ろしているかのように、現実感の無かった自分の行動。


 それが、まさに致命的な行為に至るその瞬間に、僕は自分を取り戻した。止めなきゃ、ドラゴン・ブレードを!


 駄目だ、もう間に合わない!!


 ガイィン!!


 だが、フィーアを貫くはずだったドラゴン・ブレードは綺麗に折れ飛んでいた。


 それを横合いからのショートソードの魔力撃でへし折ったのは、結界の内部でなら可能な瞬間移動(テレポート)で現れた深紅と純白に輝く機体。それを見て、僕は世界が色を取り戻した事を認識する。


「お兄ちゃん、やめて! お父さんは絶対にこんな事望んでないっ!!」


 妹の叫ぶ声が聞こえる。それは分かってる。分かってるさ、だけど!


「そいつは、フィーアは僕たちの父さんを殺したんだぞっ!!」


 分かっているのに、叫んでしまう。


 理性は言っている。あれはフィーアのせいじゃない、この戦争では人を殺してはいけない、攻撃をやめろ、と。


 だけど、(たぎ)る感情は復讐を叫ぶ。それでも、父さんは死んだんだ、報いを与えろ、と。


 自分の中の二律背反(アンビバレンツ)。理性と感情のせめぎ合い。それでも抑えきれない憎悪を視線に込めて、僕は柄だけになったドラゴン・ブレードを突きつけている相手をにらむ。


「あ…私…は…」


 戸惑う声。父さんを殺した女の声。フィーアの、声。


 その声を聞いて、僕は理解する。彼女もまた混乱している。人を殺してしまったことを。僕の父親を殺してしまったことを。すなわち、彼女の親友の父親を殺してしまったこと、を。


「これは、事故よ」


 無機質な声。感情を押し殺した声。ヒカリの、声。


「事故なの、フィーアは、悪くない」


 言い聞かせるような声。諭すような声。誰に?


 僕に。フィーアに。そして、ヒカリ自身に。


「お願い、お兄ちゃん。あたしは、お父さんと一緒に親友まで失いたくないの!」


 その言葉が、僕を()めさせる。僕が苦しい以上に、ヒカリはもっと苦しい。


 敵軍に寝返って、誰一人として知り合いもいない中でできた親友。その親友が事故とはいえ父親を殺したという事実を受け入れ、なおかつ、(ゆる)さないといけないのだから。


 それに比べれば、僕にとってのフィーアは、因縁が深いとはいえ、ただの敵だ。憎んでもいい、ただの敵。


 そう、ただの敵…のはず、だ。それ以上の関係なんて…無い! …よな?


 でも、あの瞬間に幻視()たのは…いや、今は考えるのはよそう。


「分かった。兵を引け」


 自分の心の奥底にある何かから目をそらしながら、僕はヒカリに答える。


「ありがとう、お兄ちゃ…」

「だけど! そいつを、しばらく僕の前に出すなよ! 理性では分かっていても、感情を抑えきれないことはあるんだからな!! 切断光線(ライト・カッター)


 ヒカリの言葉を遮って叫びながら、切断光線で結界魔法陣と魔道エンジンをつないでいるであろう魔力伝達線があるあたりをなぎ払う。すると案の定、すぐに三重の結界が消える。


「分かったわ…総員撤退!」


 ヒカリの命令と同時に、残っていたAG部隊~小隊長格以外は結界発動前に撃破されて撤退していたようだが~が瞬間移動(テレポート)で消える。


「お兄ちゃん…あの…いえ、またね。瞬間移動(テレポート)

「あ、瞬間移動(テレポート)


 何かを言いたげな様子で、しかし何も言わずに別れのみ告げて消えるヒカリ。そして、一緒に消えるフィーア。それからすぐにパンター号も転移する。


 戦闘が、終わった。何の意味も無かったはずなのに、重大な結果を残してしまった戦闘が。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


戦闘中行方不明(MIA)って…葬式も出しちゃいけないっていうのかよっ!?」


 僕は思わず母さんに食ってかかっていた。


「この戦争が終わるまで『戦死』は認められないのよ」


 沈痛な表情で答える母さん。普段ののんびりした雰囲気なんかどっかに行ってしまっている


 既に、全員イモータルに帰還している。善後策を母さんと話し合うために、父さんの執務室に2人きりで籠もっているのだ。


 父さんの戦死は、まだ一部の人間しか知らない。あそこに居た騎士だけだ。ツバサやツバメにすら、まだ教えていない。あいつらには母さんが「お父様は秘密のご用があってヒカリお姉ちゃんの所に行ったのよ。誰にも言っちゃ駄目。行方不明という事になるの」と説明している。


 だからって、それと同じことを戦争が終わるまで続けなきゃいけないのかと思うと、やりきれない気持ちになる。


 確かに、この戦争の意義を考えれば、父さん一人の死が蟻の一穴になる事は防がなくてはいけないから隠蔽は必要かもしれない。


 でも、密葬くらい許されてもいいじゃないか! そうしないと、僕の心の整理がつかない。そう、葬式なんて、死んだ人のためにする事じゃない。生き残った者が、心を整理するためにする事なんだから。


 だけど、母さんは違ったようだ。


「それにね…遺体が無いのだもの。まだ、信じたい気持ちがあるのよ。どこかで生きてるんじゃないかって…」


 そう言われると、僕も何も言えなくなる。


 墜落し、大破した機体は持ち帰った。前世の飛行機のようにガソリンやジェット燃料は積んでいないから火は出ない。だが、コクピット部分は魔力弾の直撃を受け、それが炸裂したために粉々に吹き飛んでいて、遺体どころか着衣の欠片すら見つからなかった。


 だから、僕だって、あの殺しても死なないような父さんなら、しれっとした顔で、どこかで生きてるんじゃないかと思いたくなる。


「それに、ヒカリちゃんだってお葬式には出たいでしょうし。ね、待ちましょう。ヒカリちゃんが帰ってくるのも、そんなに遠い事じゃないわ」


 そんなに遠い事じゃない。そう言われれば、そうだ。ルードヴィッヒは敵の侵攻を1年以内と言っている。その前にこの戦争は終わらせないといけない。どちらが勝つシナリオなのか僕には分からないが、あと半年もたたずに、戦争は終わるだろう。


「分かったよ」


 うなずいた僕を見て、母さんは表情を引き締めて、話題を変える。


「それからノゾミ、あなたにはヘルム私領軍の司令官代理と戦艦オグナの艦長代理を勤めてもらいます」


「え?」


 一瞬、その意味が分からずに問い返す。


「普通は副司令で副長の母さんが昇格するんじゃないの?」


「普通はね。でも、この戦争が終わって、あの人の戦死が認められたら、あなたがヘルム家を継ぎ、私領軍の司令官になりますのよ。成人して、騎士叙勲され、武勲も立てている跡取りがいるのに、妻が当主や領主、軍司令官をする例はありませんわ」


「それは戦争が終わったら、だろ?」


「その前から、あなたが指揮をとる方が都合がよいのよ。わたくしも司令や艦長の職務は果たせますわ。だけど、そうなるとあなたが副司令と副長を務めることになります。職務内容が違いますの。副司令や副長に求められるのは、内部調整と指揮官の補佐。もちろん、あなたもできるでしょうけど、手慣れているのはわたくしの方。あの人がいなくなって、ウチの軍のみなさんも動揺していますわ。それを抑えるのはわたくしの方が向いているでしょう。オグナの副長にしても、ダメージコントロールの仕事があるから、あなたが兼務すると出撃できなくなって戦力ダウンになりますの」


「司令官や艦長なら出撃してもいいのか?」


「リヒト君とか、実際にやっているじゃありませんか。指揮官先頭は騎士団でもよくある事。艦の指揮については、出撃中くらいならわたくしが代行できますわ」


「なら、母さんが艦長と副長を兼務すればいいんじゃないの?」


「『出撃中くらいなら』と言いましたわよ。普段から兼務したら過労で倒れますわ」


「…そっか、そうだよな」


 普段から飄々(ひょうひょう)として忙しい様子なんかあまり見せてない人だったけど、父さんの仕事って結構多かったんだ。


「つまり、今の内から…」


「僕が指揮をとることに慣れておいた方がいいってワケだね。()のためにも」


「そういう事」


「OK、やるさ。逃げないって事は、前にも約束したんだ。…父さんとね」


 そう、自分の果たすべき義務からは逃げない。なら、今回もやってやるさ。


 それを聞いた母さんが、フッと微笑む。


「ノゾミちゃん…あなたは、やっぱり希望の子なのよ」


「え?」


 予想外の言葉に目を丸くしている僕に、母さんは悪戯っぽく笑って言う。


「あなたたちが生まれたとき、あの人はこう言ったの『この子たちが人類の未来に希望と光をもたらす存在になって欲しい』って」


「まさか!?」


「本当よ。あなたたちの名前は前世の高速鉄道にちなんだ、と冗談めかして言っていたけど、その裏には、あなたに人類の希望になって欲しいという願いがあったという事は疑わないで欲しいの」


「父さん…」


 それ以上、言葉が出てこない。父さん、卑怯だろう、死んだ後にこんな事を聞かせるなんて、さ。


 視界が歪む前に上を向く。前世のヒットナンバー、飛行機事故で亡くなった歌手の最大の持ち歌で、海外でも知られているあの曲のように。


 だって、僕は男なんだから。


 しばらく無言で涙腺が静まるのを待ってから、母さんに向き直って、自分の決意を伝える。


「父さんの代わりができるとは思わないよ。だけど、できる事から一つずつやっていくさ。それが、父さんの遺志を継ぐ事につながるはずだから」


「そう…なら、お願いね」


 そう言って、やさしく微笑んだ母さんは…父さんの机を指さした。


 乱雑に物がとり散らかった父さんの執務室の中でも、書類が山の様に積み上がっているのが特に目立つメインの机。その意味を理解して、紅潮していた僕の顔面から血が引いた。


「あの、母さん、もしかしなくても?」


「あの人、自分が好きな仕事はどんどん進めるのに、書類は溜めちゃうのよね~」


 普段の調子を取り戻した母さんの言葉に軽い絶望感を覚えながら、僕は父さんの机に向かうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「何か、やせてない?」


「顔色が悪いぞ」


「ちゃんと寝てるの?」


 クー、カイ、リンがそれぞれ心配するように言ってくる。うう、外見からも疲労が見て取れるのはマズいな。部下に心配させるようじゃあ、指揮官失格だ。どんなに辛くても外見上は泰然としている必要がある。その点、父さんはやっぱり大した人だったんだな。


「大丈夫さ、食事と睡眠はきちんと取ってる。だけど、本当に、現実って奴は我武者羅にやって来るんだな。ングっ」


 現実の一部、書類の山をフォークの先で指しながら答えて、野菜ジュースのストローを咥え、一気に飲む。


 父さんの執務室で書類を片付けてたら、みんなが昼食を持ってきてくれたのだ。時計を見たら、もう13時半過ぎ。書類に集中してて時間の感覚がなくなってた。


 ランチセットのパスタを行儀悪く啜りこんで、チキンナゲットを頬張る。


「ちゃんと噛まないと消化に悪いよ」


「分かってるけどね」


 リンに注意されるが、時間が無いんだ。訓練の時間も、みんなと一緒に取れなくて、夜に一人で稽古してるくらいだし。そのせいで顔を合わせる頻度も減ったから、心配させちゃったみたいだな。


「父さんが溜めてた書類の処理と、指揮権継承に伴う書類はもうすぐ終わる。これが一段落したら事務仕事の時間も減るはずだから、通常の訓練には参加できるようになると思うよ」


「そっか…なあ、ノゾミ、本当に大丈夫なのか?」


「だから栄養も休息もきちんと…」


「そうじゃなくて! 心の方だよ!!」


 カイが怒鳴る。心配、させちゃってるなあ。


「一応、大丈夫さ。まだ、完全に整理がついたワケじゃないけどね」


 忙しいのをいいことに、仕事に逃避しているというのは自分でも自覚してはいるんだけどね。


「まあ、オレだって何か現実だと思えてないんだけどな」


「「うん」」


 こいつらも、父さんには色々と教わっているし、かわいがって貰ってもいた。喪失感も悲しみもあるはずだ。


「なあ、ノゾミ。お前や博士は転生してる記憶があるんだよな。神様にも会ったって言ってたよな」


「ああ」


 ? 何が言いたいんだ?


「…博士も、もう次の転生をしてるのかな?」


「ああ…そうだろうね」


「じゃあ、転生した博士に会うことも、できるのかな?」


 ああ、そういう事か。僕もその事は考えなくもなかった。だけど…


「どうだろうね。神様は、同一世界に転生する場合は前世の記憶は失うと言ってた。この世界に転生してるなら、僕たちのことは覚えてないはずだ。前世記憶保持特典を使って異世界転生したなら覚えてるかもしれないけど、異世界に行く方法は、今のところ無い。それに…」


 一度言葉を切って、3人を見回しながら続ける。


「仮に、異世界に行く方法が見つかって、父さんが転生した人に会えたとしても、それはもう父さんじゃないんだ。父さんの記憶を持っているだけの、別人なんだよ。新しい親がいて、新しい友達がいて、新しい人生を送ってる、まったくの別人なんだ」


「そう…なのか?」


「僕自身が前世とはまったくの別人なようにね。僕にとって前世の親や姉は、既に他人だよ。その思い出は確かに僕の一部、大切な一部ではあるけれど、もう僕にとっての家族は父さんや母さん、ヒカリたちなんだ。だから…」


 また少し緩みそうになった涙腺を見せないために、明後日の方向を向いて言葉を続ける。


「もう、父さんは、シュン・ヘルムという人はいないんだよ」


「…」


 僕の言葉を聞いて、3人とも押し黙ってしまう。う、こいつらの気分まで重くしちゃったか。ちょっと雰囲気を変えよう。


「なに、父さんのことだから、もう次の転生をして、さっさと新しい世界でその世界の魔法だか、それに類する不思議な術でも学ぼうと画策してるはずさ」


 わざとらしく、明るく言う。


「そうだな、博士ならそんな感じだろうな」


「でも、まだ赤ちゃんなんじゃないの?」


 良かった、カイもクーも乗ってきてくれた。


「そこが前世記憶持ちのアドバンテージ。僕だって赤ちゃんの頃から魔法の使い方を練習しようとしてたよ。言葉が出ないから魔法は使えなかったけど、魔力自体は感じてたから、練ったり身体強化に使ってみたりしてたんだ」


「何ソレ、反則じゃない!」


「だから反則(チート)なんだって」


 リンも乗ってきて、何とか普段通りに話せるような雰囲気に戻ったな、と思ったところで、突然館内放送から警報音とマーサさんの声が飛び込んでくる。


「空襲警報! イモータル市北西50キロ地点に魔道戦艦出現!!」


「コール、全館。総員、第一種戦闘配置!」


 インターコムを起動して命令を発する。今回からは、暫定とはいえ僕が指揮官なんだから。


「僕は司令室に行く」


「じゃあ、オレたちも配置につくぜ」


「頼むよ、瞬間移動(テレポート)


「「「瞬間移動(テレポート)」」」


 それぞれ、配置の場所に転移する。さて、今回はどんなお客さんが来るのかな?

アイキャッチ


「神鋼魔像、ブレバティ!」


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