第16話 Dr.ヘルム空に散る!? Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「結構ダメージを与えたはずなのに、パンターは修理終わってたのね」
「帝国の軍艦補修技術は優秀ね~」
「んな事言ってる場合か! 早く瞬間移動するぞっ!」
のんびり会話するリンと母さんを急かして、AGを置いていた場所へ瞬間移動する。
元々、そんなに遠くには駐めていないのだから、転移先からもヒカリたちのAGは視認できる。
当然ながら着替える暇など無いから、パーカーこそ羽織っているものの、全員水着のままでコクピットへ飛び込む。
「ブレバティ、セットアップ! 認証、ノゾミ・ヘルム…っと、アブねっ!」
セットアップと認証が終わる間もなく、魔力弾が飛んでくるのを間一髪避ける。
「おにいさま、バカンスとは余裕ですわね。こちらは作戦行動だというのに…」
撃ってきたのは、我が妹だった。微妙に恨みがましい口調なのは、自分が仕事しているのに遊んでた僕らを妬んでのことだろうか。
「物理防壁、魔力防壁、魔力感知、生命感知、ドラゴン・ブレード!」
とにかく早口で基本魔法をかけてドラゴン・ブレードを抜くと、ライガーに斬りかかる。こいつとは距離を取るより接近戦に持ち込む方が有利だ。
ライガーは遠距離の魔法攻撃が主体の機体だが、近接格闘武器も一応は持っており、ショートソードを抜いてドラゴン・ブレードを受け止める。
鍔ぜり合いの格好に持ち込んだので、ちょうどいいからヒカリに話しかける。他人に聞かれないように拡声はまだかけていないのだ。
「ヒカリ、戻ってきてくれ! お前がいないと、クーがダメ過ぎる!!」
「は?」
唖然とした声のヒカリ。やったぜ、キャラひっぺがした…じゃなくて!
「クーの水着、見たか?」
「そこまで余裕はありませんわよ」
お、キャラを戻したな。だが、これを聞いても冷静でいられるかな?
「ピンク色のヒラヒラなんだ! アレを見た僕やカイの気持ちが分かるか!?」
「はぁ!?」
な、お前だって、それがどんだけクーに似合わないか、想像できるだろうが。
「…おにいさま」
…キャラが戻っているんだが、何かこう、威圧感がある話し方になってるぞ、オイ。
「何だ?」
「どうやら、今日はお相手できないようです。フィーアと遊んでいてくださいな」
そう言うと、力ずくでドラゴンを突き放し、距離をとって身を翻すライガー。
…ああ、怒ってる。本気で怒ってるよ。話し方は静かだけど、もの凄いプレッシャーだ。「大・激・怒~!」ってヤツだ。額のあたりで太陽のマークがピコンピコン光ってそうだよ。
「フィーア、おにいさまを抑えてください。あたしには、やるべき事ができました」
「了解、です」
フィーアは自分の愛機でロデムやポセイドンに向けて牽制の魔力弾を放っていたが、ヒカリの命令を受けて僕の方に向かってくる…ヒカリの迫力に気おされてるようだが。
「音速飛翔ぉ!」
そのヒカリは、音速飛翔をかけると、もの凄い勢いでロプロスに向かって突進していった。そして…
「くおォのブァカ弟子があぁァァァァァァッ!!」
ライガー渾身の右ストレートが、AG形態で量産型一眼巨兵の相手をしていたロプロスの顔面に横合いからクリーンヒットした。
おーい、ヒカリさ~ん、キャラ変わってますよ~。それは東の方の先生じゃないかい?
「ちょっ、ヒカリ、一体何を!?」
「黙らんかァ、このバカ弟子が、バカ弟子が、バカ弟子がぁッ!!」
凄いラッシュだ。ってか、ライガーは遠距離攻撃用の機体な上に、ヒカリとクーなら近接戦闘だけなら明らかにクーの方が上のはずなのだが、怒りのパワーなのか、素手格闘なのに完全にヒカリがクーを圧倒している。
「あれだけセルフプロデュースが大事と言っているのに、どうしてピンクのヒラヒラ水着なんかを選ぶかッ!?」
「えええっ、そこ!? いや、だって、普段から男っぽいとか言われてるから、ボクもせめて水着くらいは可愛いの着たいな~、とか思ったりなんかしたりして…」
「だからお前はアホなのだぁッ!!」
「げふっ」
またも渾身の右ストレートが炸裂して、吹っ飛ぶロプロス。
「小手先でコスだけ変えても痛くなるだけだと、どうして分からんかぁッ! 第一、自分の武器を全く理解しておらんのは、どういう事かッ!? その胸、有効に使う気が無いなら半分よこさんかぁッ!!」
…ヒカリ、少し妬み入ってるぞ。リンはひんぬーだけど、お前はそこまで貧しいワケじゃないんだから別に嫉妬せんでもいいだろ…というのは男の見方なのかね。
と、そこで周囲の雰囲気に気付いたのか、周りを見回すと口調を普段モードに戻して指示を出すヒカリ。
「皆様、何をやっていますの!? フィーアはおにいさまの相手、シュミット小隊はポセイドンを、ミラー小隊はロデムを抑えなさい! クラウザーはドラグーンなら一人でも相手できるでしょう?」
「「「「りょ、了解!」」」」
ヒカリのあまりの迫力に、思わず敵味方全員が見入ってしまっていたのだが、叱咤されて動き出す敵部隊。
うん、クーへの「教育的指導」はヒカリに任せて、こっちはこっちで戦闘してようかね。
ざっくり戦場を見回してみると、さっきヒカリが言ってたように、ポセイドンとロデムには3機ずつが相手をしている。見たところ、それぞれの小隊長格はなかなかの腕だが、残りは新兵っぽいへっぴり腰だ。
それに対して、ドラグーンの相手をしている一眼巨兵は、機体の性能差を物ともせずに互角に戦っている。リュー君は実戦経験こそ少ないものの戦闘能力は決して低くない事を考えると、このクラウザーとかいう名前らしいパイロットは、かなり腕がいい。
「なんか、博士からのリクエストがあったので、この歌にするよ。『FLYING IN THE…」
戦場から少し外れたところから、リンの立体映像が浮かび上がる。呪歌の支援だ。あそこに指揮装甲車があるんだな。
着替えてる暇なんぞ無いから、当然水着姿。何か、どさ回りで海水浴場のイベントに出てる売れないアイドルみたいな雰囲気だなあ。
…にしても、この選曲は実に父さんらしい。ヒカリが東の方の先生モードになってるからなんだろうが、それの登場作品の初期OPってどうよ?
ノリのいい歌だし、格闘戦能力に支援がありそうだけど、何か敵であるヒカリの格闘能力まで底上げされそうな気がするんですがね?
ブンッ!
「よそ見とは余裕だな!」
既に聞き慣れてしまった声と同時に斬撃が襲ってきたのを避ける。っと、確かによそ見してる場合じゃないな。
「拡声。今の君を相手によそ見してる余裕は無いよ、フィーア」
「その軽口が余裕だと言うのだ! 魔力散弾ォ!!」
至近距離から魔力弾を乱射すると同時に斬りかかってくるフィーア。これは何発か受けざるを得ないな。
咄嗟に半身になって被弾面積を最小にしつつ、ドラゴン・ブレードで槍斧の斬撃を受け流す。左肩と腰と脛に着弾し装甲にヒビが入るが、致命傷にはならない。
以前のフィーアが相手なら、ここで斬り返せたんだが、今のフィーアは攻撃の隙が少なくなっている。体勢が崩れていないから、斬りつけても槍斧の柄でガードされるだろう。ならば…
「高圧水流、魔力隠蔽、幻影、闇散弾」
「なっ!?」
攻撃力は低いが圧力が強く体勢を崩すのには最適の水魔法で牽制し、これまでかける余裕がなかった隠蔽をかけてから、幻影の魔法でフィーアの周りに闇を作り出し、それに隠れて闇魔法をバラ撒く。
幻影は光魔法だから、闇を作り出したにせよ実は闇魔法との組み合わせは相性が悪い。それでも、闇を隠すには闇の中。弾自体の魔力を感知できるにせよ、避けるのに専念せざるを得ないだろう。
それとほぼ同時に、地擦り下段から逆袈裟に斬り上げる。
ガィン!
とっさに飛び退られたのでAG本体には刃が届かなかったが、槍斧の穂先と斧の刃の部分を斬り飛ばした。
「まだだッ!」
ただの棒でしかなくなった槍斧の柄を、そのまま突いてくる。貫通力は落ちるが、打撃武器としてならまだ使えるということだ。
打突はかわすが、それは相手も織り込み済み。旋回した石突き側がドラゴンの頭を狙って殴りかかってくる。
バギィン!
「つッ、やるね!」
「グっ、おのれッ!」
左腕のドラゴンクローで受け止めたのだが、片方の爪が折れ飛んだ。格闘武器になるように硬度が高い爪を破壊できたのは、ただの棒による打撃じゃなくて、かなり魔力を込めた魔力撃になっていたからだ。こんな技も使えるようになっていたのか。
だが、同時に僕の右手のドラゴン・ブレードは彼女AGの左胸を貫き、そのまま左肩へ切り裂いて左腕を使い物にならなくしていた。
本当は胸の中央の魔道エンジンを狙ったのだが、そこは避けられてしまったので、打撃を与えてはいるが、まだ致命傷じゃない。
「何だ!?」
と、ここで突然、周囲に異常が発生する。妙な空間魔法が周囲の半径1キロメートルほどに張り巡らされたのだ。この感覚には覚えがある。
「「あの島の結界!?」」
僕とフィーアの声がハモる。3重になっていた結界のうち、転移阻止結界らしい奴が発生したのだ。続けて、通信阻止結界と防御結界も発生する。
「お前らが設置せんから、しょうがないから俺が自分で起動したぞ。幸い魔道エンジンも近くに置いてあったしな」
父さんの声と共に、少し離れた位置に駐めてあった輸送機が空に飛び上がる。そういえば、僕たちがAGで持参した魔法陣や魔道エンジンは、あの辺りの空き地に並べて置いておいたんだ。
魔法陣自体は、持ち運びできるように直径10メートルほどのステンレス鋼板にミスリル塗料で描いて魔法石を埋め込んである。そこに、畜魔装置も一体化している魔道エンジンから魔力伝達線を引いて、起動キーワードを唱えれば魔法陣は発動する。
魔道エンジンも魔法陣と並べて置いておいたから、父さんが一人でも魔力伝達線を引けたんだろう。
本来は、きちんと効果を調査したり計測したりしやすい場所に設置すべきなんだろうが、戦闘中に無理矢理テストとかするのに場所なんか選んでる余裕もないから、結局仮置き場所でそのまま発動させたわけだ。
「ちょっと待て、父さん、結界内は狭い! いくら垂直離着陸機だって飛行機使うのは無謀だよ。飛行機も安くないんだし、観測機器も無料じゃないんだから、さっさと避難しとけ!」
結界の形はつぶれた半球型。半径は1キロあるが、高さも1キロあるわけじゃなく、せいぜい500メートルといった所。飛行機で飛び回るには高度が足りないし、範囲も狭い。
非武装の輸送機だから、いちいち狙うとも思えないが、流れ弾は飛んで来るし、防御力なんか無いに等しいから1発でも当たったら危ない。
「むう…しまった、防御結界は張らない方が良かったか。あれは中からも出られん」
残念そうにこぼす父さん。未練たらしく機体をふらふら動かしてる。憤進の魔法を応用しているらしい方向可変型推進機で垂直離着陸を実現しているのだが、機体の魔力保有量からすると、長時間の静止滞空は無理なはず。無意味に魔力を無駄遣いするなよ。
「うっとおしいぞ! とっとと失せろッ! 火炎弾」
邪魔されて苛立ったフィーアが、牽制に火炎弾を撃つ。弾速が遅い火炎弾をいちいち使っている上に、飛行機からはかなり外れたところを狙っているのだから、牽制と威嚇以外の意味はない。
「つれないなぁ、フィーアちゃん。最近何回かウチの愚息とデートしてるみたいだけど、あんなんでも気に入ったなら、俺を『お義父さん』と呼んでくれてもいいんだよ」
「「なっ!?」」
言うに事欠いて何つー事をホザくか、このクソ親父っ!?
さっきに続いて思わずフィーアとハモってしまったが、これはどっちも不可抗力だ! 別に仲がいいワケじゃないぞっ!!
「ふざけるなッ、火炎弾ォ!」
フィーアが怒って火炎弾を放つが、当てるほど我を忘れてはいないようだ。
「フハハ、当たらんよ」
オイ、余りからかうなよ、父さん!
それに、今は方向可変型推進機で強引に機体を垂直方向に動かしたみたいだが、そんな機動してると機体に無理がかかるぞ。ほら、方向舵が変な動き方してる。
…え、方向舵!?
「父さん!?」
「まあ、遊びはそろそろ…何だ、これは!?」
「当ててやろうか!? 魔力弾!」
父さんの声とフィーアの呪文が重なる。
度重なるからかいに苛立っているフィーアだが、それで父さんを本気で殺そうとするような奴じゃない事くらい知っている。
この前、ジャック・オー・ランタン像の島で、この戦争の意味だって理解したはずだ。
だから、彼女は飛行機に当てても、殺す気なんて無かったんだろう。方向可変型推進機で垂直離着陸できる飛行機なら、翼端くらい吹っ飛ばしてもすぐに墜落にはつながらない。前世だって、翼が半分折れ飛んだのに着陸に成功した飛行機だってあった位だ。
また、仮に墜落したとしても、父さんが飛翔を使えることはフィーアも見て知っている。前世なら飛行機の墜落は即、死につながるが、空を飛べる僕たちにとっては窓から飛び出して自分で飛べばいいだけのこと。
コクピットを直撃でもしない限りは、致命傷になるなんて事はない…そのはずだった。
だから、当たってもいいが避けられても構わないという前提で、ただ直進するように誘導なしで放たれたフィーアの魔力弾が狙っていたのは、機体の翼端だったのだろうと思う。
まさか、それに機体の不調が重なるなんて、誰が思うだろう。
奇妙な機動で急旋回した機体が、まるで魅入られたかのように機首、すなわちコクピットから魔力弾に突っ込むのを、僕は見てしまった。
グシャッ!
ボガァアン!!
機首が潰れ、機体に食い込んだ魔力弾が炸裂する。
「えッ?」
「なにッ!?」
その奇妙に現実感のない光景に、僕もフィーアも一瞬、何が起こったのか理解できずに間の抜けた声を上げる。
生命感知の魔法を使っていた僕は、魔力弾が当たった瞬間に、機体から生命反応が消えたことを感じていた。
ただ、それは即死を意味しない。同時に、空間魔法、瞬間移動の魔力も感じていたからだ。咄嗟に瞬間移動を唱えて転移した可能性はある。
だが、魔力感知の魔法も使っている僕には、この半径1キロメートルの範囲内に、つい先ほどまで感じられていた父さんの魔力は感じられない。
そして、今、この半径1キロメートルの範囲内は瞬間移動を阻止する魔力結界の中にある。
あの島で、僕が結界の外に瞬間移動しようとしたとき、魔法自体は発動したのに、僕自身はその場から動くことはなかった。この結界は、魔法の発動自体は阻止しないが、その範囲外に転移しようとしたときは効果を発揮しないタイプの結界なのだ。
それが、意味するのは…
「嘘だろ、父さん…。あんた、転生者で、反則能力者なんだろ? これから、『本当の』戦争で人類を守るために、もっと活躍しなきゃいけない人なんだろう?」
僕は、意味も無くつぶやいていた。父さんが、以前に言った言葉が耳の奥によみがえる。
『事故は起こるから悲劇を完全に防ぐことはできないだろうが』
「それが、なんで、こんな、あんたが『事故』に合わなきゃいけないんだよ!?」
まるで、他人の声のように聞こえる僕自身の声。
「これって何か違うだろ!? 違うんじゃないか、なあ、父さん!? 答えろよ、答えてくれよ、父さぁああああああああん!!」
次回予告
「お兄ちゃん、やめて! お父さんは絶対にこんな事望んでないっ!!」
激高してフィーアを手にかけようとしたノゾミを止めたのは双子の妹だった。
戦闘を停止してイモータル市に戻ったノゾミたちの前に、冷たい現実がのし掛かる。
「戦闘中行方不明って…葬式も出しちゃいけないっていうのかよっ!?」
「この戦争が終わるまで『戦死』は認められないのよ」
そして、果たさなければならない義務も襲い来る。
「ノゾミ、あなたにはヘルム私領軍の司令官代理と戦艦オグナの艦長代理を勤めてもらいます」
「本当に、現実って奴は我武者羅にやって来るんだな」
傷ついた心を癒やす間もなく義務に追われるノゾミの前に姿を現す父のライバル、ガーランド博士。
「香典のひとつくらい出そうかと思ってな。こいつは新機軸じゃぞ。出でよ『黒い狐!』」
「雄牛じゃなくて狐なんだ…」
襲い来る漆黒の完全自律制御型巨大ゴーレムを相手に、ノゾミは刀を取る。
「父さんのドラゴンが、ブレバティが、そんな人形に負けてたまるか!」
次回、神鋼魔像ブレバティ第17話「襲撃! ブラックフォックス!」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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来週も、また見てくださいね!




