第16話 Dr.ヘルム空に散る!? Aパート
アバンタイトル
ナレーション「謎の島から脱出するために島内を探索するノゾミの前に、同時に飛ばされていたフィーアが姿を現す。脱出までと限定して共同で探索にあたる2人だが、紳士的に振る舞いながらもフィーアの少女の部分を意識してしまい、落ち着かないノゾミ。島に飛ばされた原因であろう古代遺跡の探索を進め、脱出方法を見つけ出した2人だったが、同時に伝説的な存在であった魔族の実在の証拠を見つけ、魔族こそが次なる真の敵であったことに気付く。その時、彼らの何かが遺跡の警報に触れ、遺跡内に待機していた巨大ゴーレムが動き出したが、大した能力がなかったので簡単に一蹴する。フィーアと別れてオグナに帰還したノゾミは、安堵の中に奇妙な喪失感を覚えて動揺するのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「海だぜっ!!」
「「おーっ!」」
珍しくハイテンションなカイの叫び声に、ツバサとツバメが応える。無理もない。目の前にはエメラルドグリーンの海が広がっている。そして、季節は真夏。抜けるような青空に焼け付くような太陽。秋も近づきつつあるとはいえ、クラゲが出るにはまだ少し早い。今日はたっぷり海水浴を楽しめそうだ。
元気がなかったツバサとツバメを慰めるために、遊びに連れて行くと父さんが約束していたのだが、行き先が遊園地から海水浴に変更になったのである。
もっとも、ツバサとツバメは純粋に海で遊ぶのが楽しいのだろうが、カイにとっては目の前に水着姿の美少女が立っていることの方が大事だろう。
黒いビキニ姿のリーベが、微笑ましそうにツバサとツバメを見ている。その胸に目が行ってしまうのは、雄の本能としてどうしようもないだろう。…ヒカリより大きいんだよな、顔はそっくりなのに、そういう違いがあるのはやっぱり従姉妹だからか。
「何を見てるんだ!?」
「お前と同じものだよ」
クレームはリーベ本人ではなく、カイから来た。人の事は言えまいと切り返す。
「? そんなに珍しいものでもないでしょう?」
「リーベも怒らないのな」
そして、恥じらいも怒りもせず不思議がるリーベ。恋愛感情以前に、セクシャリティというものを意識していないのだろうか?
「皇族なんて、アイドルと一緒で見られる事も商売の内なのよ~。顔でも胸でもお尻でも、高く売れそうなものは気にせず売らないと、皇族だの王族だのなんて商売はやってられないわよ~」
「…ああ、なるほど」
元皇女である母さんの解説に納得する。そう言われたら、僕だってスマイルの安売りぐらいはしてるんだ。でも、きっとそういう商売が嫌で冒険者になったんだろうな、母さんは。
しかし、そうだとすると今回のイベント~と言っていいのだろうか?~に姫様が参加していないのが残念でならない。恐らく先日の北コロンナ合州国大統領救出作戦の関係で、殿下と一緒に皇都に呼び戻されているのだ。
そういえば、僕たちとほぼ同時に「南コロンナ連合要人救出作戦」も行われたようで、何とあのジャヴァリー殿下たちが要人の救出に成功したそうだ。あの人もやる時はやるもんだと見直したよ。
「ツバサ~、ツバメ~、ちゃんと準備運動をしなさいね~」
僕の横に並ぶと、弟たちに注意をする母さん。その母さんは、面積が大きく大人しめなデザインながら色の方は派手な赤いセパレートの水着に、同色のパレオを巻いている。毎日の仕事の合間にも鍛錬を怠っていないせいか、しっかりとメリハリのきいたプロポーションを維持していて、とても34歳、4人の子持ちには見えない。
同じ事は、その横にやってきた父さんにも言える。あんだけ忙しそうにしているのに、いつトレーニングしているのか分からないが、まだ腹筋はしっかり割れているし、腕も足も棍棒のように太い…のだが、メンズビキニに近いようなスポーツショーツ水着はやめろ!
色は普通に黒とはいえ、そこは年甲斐というものを考えて欲しい。僕もカイも普通に膝丈のバーミューダーにしているというのに!
ちなみに、僕の水着は白地に空色のライン、カイは紺色に青のストライプと、愛機と同じ色だったりする。あ、同じ事はリーベにも言えるのか。
「あら、ノゾミ君は巨乳好きなの?」
「いや、そんな事はないですよ!」
「それなら、わたしも希望は持てそうね」
「いやいや、マーサさんも十分大きいじゃないですか」
後ろから聞こえてきたマーサさんの声に、振り返りながら慌てて否定したものの、なんだか余裕をもってあしらわれているような感じだ。
彼女の水着は純白のワンピースなのだが、大きく切れ上がったハイレグな上に胸元に大きくスリットが入っていて、彼女の形のよい胸を強調している大胆なデザインだ。白は清楚な色なのに、スタイルの良い彼女の色気も両立させている。
僕とはわずか4歳しか違わないし、前世ならまだ女子高生か女子大生くらいの年なのだが、何というか年齢以上に「大人っぽい」人だ。
大人数とはいえ、今回のイベントにマーサさんが参加してくれたのは素直に嬉しい。この前のデートの時は邪魔が入ったし。
…邪魔が、ね。
「ボクも参加して良かったんでしょうか、先輩?」
一瞬、考え込みそうになった僕を引きずりもどしたのは、マーサさんの後ろからついててきていたリュー君の声だった。
「父さんが参加しろって命令したんだから、良い悪いじゃなくて仕事だよ」
と、答えはしたのだが、マーサさんと彼以外は家族同然のメンバーなのだから、気後れする理由も分かる。
しかし、見れば見るほど少女っぽい顔立ちをしてるなあ。濃緑色のショートパンツ姿だから女子と間違えるはずもないのだが、鍛えられているとはいえ細身で色白の体を見ると、父さんにそっちの気があったらBL展開を疑いたくなるような容姿だ。
いや、僕にもカイにも、そっちの気はまったく無いからね!
「息抜きがてらにツバサたちと遊んでくれると助かるな。本来の任務からはほど遠いんで申し訳ないけど」
「いや、ボクには兄弟がいないので、弟や妹ができたみたいで嬉しいですよ。任せてください!」
リュー君もまんざらではなさそうなので、少しホッとする。先の作戦ではカイと一緒に活躍したから、少しぐらい息抜きしてもいいだろう。もう一人の新人君は、今回は留守番で貧乏籤を引いた形になってるから、何か埋め合わせを考えておかないとな。
「「ノッゾミ~」」
と、少し遠くから、聞き慣れた声が僕を呼ぶ。仲よくハモって聞こえてくる、仲のよくない2人の声だ。無意味に口喧嘩するから着替えに時間がかかるんだよ。
声の方を見てみると、クーとリンが走ってくるのが見える…の、だ、が!?
リンはいい。髪色に合わせた、緑色で胸元や腰回りにフリルのついた可愛いデザインのワンピースの水着は、どちらかというと身長が低くスレンダーな体形で、目が大きく童顔の彼女によく似合っている。
自分の魅力が「カワイイ系」であることを把握した彼女らしいチョイスだ。今日はツインテールにしている髪型も、いつぞやの残念ツインテールに比べて段違いに似合っている。比較する事自体がリンに対する冒涜だろう。そのはずだ。
…なのに、なんで僕はあいつの顔を思い出している!?
いや、比較対象として似合わない方の顔を思い出すのは当然だろう。そうだな、うん。
そんな事よりも今問題なのは、何をとち狂ったのか、同じようなひらひらフリル付きの可愛いデザインの水着を着ているクーの方だ。サイズは合っているはずなのに、彼女の巨乳を全然引き立てていない。しかも、色は派手なピンク!
基本ワイルド系で、どこぞの女騎士とタメを張る鋭い目つきのクーには、全然似合っていないのだ。
…いや、確かにそうなんだけど、どうしてまたここであいつの顔が出てくる?
うん、これも似たような目つきをしてたから思い出しただけだ。そうだろう。
それに、ここで気にするのはクーの水着のことだろう。おかしい、去年はオレンジ色のスポーツブラ風トップとショートパンツを組み合わせたスポーティなセパレート水着だったはず。
胸の破壊力は生かせてないものの、言動に色気が皆無でスポーツウーマン風な健康美にあふれているクーにぴったりで、赤い髪色にもよく合っていた。あれだけ自分の雰囲気に合わせたチョイスができていたのに、なぜ今年はこうなるのだ!?
「なあ、クーの去年の水着を選んだのは誰だ?」
「ヒカリに決まってる」
カイに聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。
「プロデューサーって、大事だな」
「こと恋愛に関しては、相手も自分も知らないから、あいつは百戦ことごとく危ういんだ!」
「激しく同感」
孫子を引用して姉を切り捨てるカイに賛同する。自分の武器を全く生かせてないどころか、逆効果になるような演出をしてどうする!?
「「どぉ、似合う?」」
にっこり笑って聞いてくる2人。これまたきれいにハモっているのだが、お前ら本当は仲いいんじゃないか?
「「リンは似合ってる」」
僕とカイの答えもハモった。男同士でハモるのもどうかと思うけど、僕たちは本当に仲がいいから別に問題ないだろう…だからBLとか絶対に無いからな! またぐなよ!!(長州力風に)
「やった~、嬉しぃっ!」
「ちょっとぉ、それどういう事!?」
「「鏡を見ろ」」
素直に喜ぶリンとは対照的に文句を言ってくるクーに、またハモって答える僕たち。
「似合わない…かな?」
にべもない僕たちの返答に、自信をなくしたように聞いてきたクー。
「「うん」」
ここでお為ごかしを言うような仲ではないので、あっさりとうなずいてトドメを刺す僕たち。
「じゃあ、みんなでビーチバレーでもやるか?」
「いいねえ」
「「え~、先に泳ごうよ~」」
「暑いですし、体をぬらした方がいいんじゃないかしら?」
「わたしも先に泳ぎたいですね」
「日焼け止めが落ちないか?」
「今年の水着は耐光防御の効果がある高級品を買ったんだよ! 発動させれば体全体に効果があって、太陽光の紫外線なら60%カットするやつ。日焼け止めを塗るより楽ちんな優れモノなんだよ」
「わたしのもそうです」
「へえ、便利なモンだな」
「わたしのは違いますが、自分で耐光防御を張ればいいですし」
「オレらは日焼けなんか気にしないしな。特にリューは少し焼いた方が男らしくなるぞ」
「え、そうですか?」
「うん、日焼けした男の人って、カッコいいと思う♪」
「じゃ、じゃあ、少し焼いてみようかな…」
「その前に、まず泳ぐのではなかったですか?」
「それじゃあ泳ぐか。よし、ツバサ、ツバメ、あの小島まで競争するぞ」
「「わーい!」」
「待て、俺も参加させろ。昔とった杵柄、まだまだお前らには負けん!」
「年寄りの冷や水を地で行くような…」
「俺はまだ35だっ!!」
「あらあら、急に沖に行くとあぶないわよ~。沖に行くのは少し泳いで体を慣らしてからにしなさいね~」
「あの~、クーさんはこのままでいいんでしょうか? さっきから微動もしてないんですけど」
「放っとけば勝手に復活するわよ。さ、泳ぎましょ!」
一人浜辺でorz状態で沈没しているクーを置き去りにして、僕たちは海に飛び込んだのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ああ、子供たちの相手は疲れるが、気持ちはいいもんだ。すぐに大きくなっちまうんだけどな。なあクリス、この戦争が終わったら、こいつらに弟妹を増やしてやろうか?」
「あら、それは確か以前に聞いた『死亡フラグ』というものではありませんでしたかしら?」
「そんな物は迷信だ。帰ったらパインサラダも食わせろ」
「確かに迷信かもしれんが、だからってわざとらしくフラグを立てるな!」
前世ネタを口にした父さんに思わずツッコむ。
パインサラダってのは某骸骨マークのエースパイロットの死亡フラグとして余りにも有名なネタだが、母さんに作らせたら別の意味で死ぬと思うぞ…口に出して言ったら、それこそ母さんに殺されそうだから言わないけど。
「しかし、こんな事してていいんだろうか?」
「これでいいのだ! 反対の反対は賛成なのだ!」
「あんたは、どこぞの天才の父親か!?」
「お前とヒカリは立派に天才の範疇だと思うぞ」
「…褒め殺ししても何も出ないぞ」
父さんに軽く聞いてみたが、簡単にあしらわれた。何しろ、今は本来は作戦行動中のはずなのである。
しかし、現実にはただのバカンスだ。ひと泳ぎして、さらに浜辺でビーチバレーを楽しんで、今は昼食休憩中である。我が家の料理長による心づくしのお弁当をみんなで美味しく頂いていたのだ。
「しょうがあるまい、俺とクリスは保安上の問題で同時に休暇を取れん。なら、作戦行動という名目で一緒に来るしかなかろう。これは海水浴ではない、お前がこの前の遺跡で発見した古代の魔法の再現実験を行う作戦行動の一環なのである!」
「ツバサやツバメを作戦行動に帯同していいのかよ?」
「貴族や騎士の子弟が幼くして戦陣に加わるのは古くからよくあることだ。お前だってツバサたちくらいの時に魔獣狩りに連れて行ってやっただろうが。あいつらは既にオグナに乗って実戦だって経験済みだぞ。ましてや、今回は実戦は想定していない」
「そりゃそうだけどさ…一応、戦争中なんだけどな」
名目は立つとはいえ、公私混同もここに極まれり。私領軍で自腹切ってるからこそできる事ではあるが、褒められた事じゃないよなあ。
「戦争を理由にバカンスを否定するような国は負けるぞ。前線で戦闘したらローテーションで休暇を与えるくらいの余裕がないとな」
まあ、前世アメリカ軍は第二次大戦じゃあ、二正面作戦しておいても、そんだけ余裕があったって話だが。
「否定はできないけど、ウチの国そこまで余裕あるのか?」
「ウチにも大して余裕は無いが、地球帝国にはもっと無いだろう。何しろ、急激に占領地を広げたから、占領地対策と現地の治安維持だけで手一杯で、こっちに攻めてくる余裕なんて無いはずだ。来てもせいぜい威力偵察ぐらいだろうな」
「それもそうか」
確かに、相手の事を言われたら納得するしかない。反攻作戦を仕掛けるには、まだこっちの戦力が整っていないことを考えると、相手が手一杯の内に休みを取っておくのも悪くはないのか。
「第一、某『白い基地』の連中だって、戦争中に敵の占領地域を隠れながら逃走中なんてシチュエーションなのに海水浴してたじゃないか」
「それはアニメの話じゃねえか!」
「ところで、あいつらどうして水着を持ってたんだと思う? 着の身着のまま、せいぜい手荷物一つで軍艦に逃げ込んで、その軍艦はロクに補給も受けられずに敵地を逃走中。塩が足りなくて塩湖で補給するような状況なのに、女性陣が海水浴用の水着を持ってるっておかしくないか?」
「…そこはツッコんじゃいけない所だと思うぞ」
僕のツッコみを無視して前世ネタ話を続ける父さんだったが、そもそもサービスシーンに文句を言ってはいけないだろう。大した必然性がないし、理屈にも合わないからこそ「サービス」シーンなのだ。
「まあ、ひと遊びしてツバサやツバメとスキンシップもできたことだし、午後は真面目に仕事をするさ。お前の見つけてきた魔法も実に面白そ…ゴホン、役に立ちそうだからな」
仕事の方も趣味丸出しじゃねえか!
…などとツッコむとブーメランになってしまう。僕自身が楽しみにしているのだから。実のところ、自分自身でも似た者親子だと思う。
前世の記憶を持って生まれてきたとはいっても、性格自体はリセットされている。血のつながった、この親のDNAと、今世に生まれた時から一緒に暮らしている影響というのは、どうしても出てくるのだ。
…前世からヲタク気質だったのも事実だけどね!
「まずは防御結界からか?」
「ああ、あの島を物理攻撃からも魔法攻撃からも防御していた力場の再現実験だな。昔から色々試されていたのに、実現していなかったシロモノだ。今まで、土壁だの氷壁だのといった基本魔法から、ウチ自慢の玻璃障壁まで、物理的な防御壁を作る魔法はいくつもあったが、逸らす系や軽減系のシールド以外で、物理媒介無しの防御壁なんて初めて見たからな。空間魔法とは、盲点だった」
「ちょっと見、自力では突破できそうもないから遺跡探索の方に向かったんだけどね」
「あの時は、島自体が覆われていることはすぐに分かったが、消えたお前らがどうなってるか分からなかったから、こっちも少し様子を見ていたんだ。あと半日待って何も無かったら、攻撃してたろうな」
「それで破壊できたかな?」
「解析結果からすると、強度的には魔道戦艦の主砲なら貫通できたと思うぞ」
「それなりには硬くても破壊は可能か」
「だが、物理媒介無しの防御力場というだけで利用価値は高い。使用魔力を上げることで防御力も強化できそうだしな。まずは再現実験だが、持ってきてもらった1/10サイズの魔法陣を使う」
それだけで直径10メートル。AGでなきゃ持って来られないサイズだ。オグナは前回の戦闘のダメージ~致命傷は無かったが、結構撃ち合ったので損傷部分は多いのだ~を修理中なので、僕たちがAGで持ってきたのだ。
再現実験の結果を調べる計測機器は、父さんが新型飛行機で運んできた。30メートル級だが、垂直離着陸ができる優れもので、ペイロードが15トンもある輸送機のくせに運動性も高い。こういう地味に前世より高性能な魔道機器を見ると、魔法って不思議パワーだなあとつくづく実感する。
もっとも、父さんはそれで悪ノリしすぎて、試験飛行の時に「プガチョフ・コブラー!」とか叫んで飛行機を垂直に立たせたりしてたんだけどね。
それにしても、輸送機にあんな運動性を付与して何の意味があるんだろうか。荷物を積んでたら絶対に積み荷が崩れて大惨事になるだろうし。
ちなみに、その後で母さんに「なにバカやってますの~」と鉄拳制裁をくらっていました。つるかめつるかめ。
「それじゃあ、食後に一休みしたら、僕たちはAGで魔法陣を配置するかね。もう少し中央側に大きな空き地があったから、あそこで…」
打ち合わせを続けようとしたときに、魔力を感知する。ここにいる人の中で、僕にしか感じられない魔力。
これはっ!?
「魔力隠蔽っ! 総員、第一種戦闘態勢! 敵が来る!!」
「「「「「「「え?」」」」」」」
突然立ち上がって叫んだ僕を、みんな唖然とした顔で見ている。そりゃ驚くだろうけど、本当に来るんだって!
「たった今、ヒカリがここから北北東50キロ圏内に来た!」
そう、双子ならではのお互いの魔力感応力だ。僕が魔力隠蔽するのと、ほぼ同時にあいつの魔力も消えたけど、互いに場所は分かったはず。
僕たちがいるのは、イモータル市から南東50キロほどの距離にある無人島だ。大陸沿岸からは30キロほどだが、そこそこの大きさで静かな入り江があるので、主に漁船の荒天避難場所に使われている。飲料水になる湧き水があるし農業ができる土地もあるので、住もうと思えば人も住めるのだが、まだ大陸の方も人口密度がそんなに高くないので未開発で放っておかれている。
そこで、発掘魔法の再現実験、という名目のバカンスに来るには最適の場所だったワケだが、位置的にはイモータル市より20キロ以上は帝国寄りになる。
ヒカリのヤツは、おそらくは東側からイモータル市の方に向けて航行中だったのだろう。もう少ししたら魔力隠蔽をかける積もりだったんだろうが、僕が普段よりも東側に来ていたせいで、お互いに居場所が分かってしまったわけだ。
父さんが言っていたように、今、地球帝国に本格的な攻勢をかけてくる余裕は無いだろうから、威力偵察あたりが関の山だろう。
だからと言って、ヒカリを相手にして手を抜けるワケもない。すぐに戦闘配置を…
「ちょうどいい、ぶっつけ本番だが、魔法の実戦テストだ。ノゾミ、カイ、クーはすぐに持ってきた魔法陣を展開。リューは持ってきた魔道エンジンと畜魔装置をそれぞれに設置」
「ちょっと待てぃ!」
いきなり実験じゃなくて実戦テストをやろうとする父さんに思わずツッコむが、それで止まる人じゃなかった。
「こんなチャンスを逃せるものか! こんな事もあろうかと、輸送機には指揮装甲車も積んできたんだ。クリスとマーサは指揮装甲車に乗って指揮と管制。リン用の音響ホログラフィシステムも積んでるから、支援も頼む。子供たちも指揮車に乗せておけ」
父さん…あんた、10トンもある指揮装甲車なんか積んできたら、ペイロードの2/3はそれで潰れてるじゃないか!
確かに計測機器なんて大した重量にはならないだろうけどさ…
「あなたはどうなさいますの~?」
「もちろん、輸送機で飛んで空中から魔法陣の状態を計測するに決まってる!」
いちいち、垂直離着陸できる新型輸送機で来たのは、もともと実験を空中から計測するためだ。父さんが一人でも計測できるように、コクピットから計測機器をコントロールできるように設定したのだが、だからって実戦での使用は想定していない。
「無茶過ぎるだろう!?」
「無茶をするのがヘルム家の家風だ、行くぞ! 瞬間移動」
「勝手に家風作るな!」
どこぞの特殊部隊みたいな家風をこの場で作られたことに抗議しようとしたものの、その時には父さんは既に飛行機に瞬間移動した後だった。
「あの人がああなったら、もうわたくしにも止められませんわよ~。ノゾミちゃん、諦めて言う通りにしましょ~」
母さんにさえ、さじを投げられているのだから、もうどうしようもない。
「それじゃあ、みんなで瞬間移動を…」
言おうとした瞬間に、空間魔法による巨大質量の転移を感じると同時に、空が陰る。
「もう来たみたいだぜ」
見上げたカイがつぶやく。
もう見慣れてしまった魔道戦艦パンター号。ヒカリの部隊が毎回乗ってくる艦から、これまた見慣れた赤と白のAG、唯一帝国側に回ったブレバティシリーズの1機を先頭に、次々とAGが出撃してきたのだった。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




