第1話 一眼巨兵、襲来 Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「汎用人型決戦魔像『ブレバティ』だ。これが量産の暁には帝国などあっという間に叩いて見せるわ! さあ、初号機に乗るのだノゾミ、神にも悪魔にもなれるぞ!!」
「『混ぜるな危険』って言葉を知らないのかよぉっ!!」
父さんの言葉に、思わず全力でツッコんでいた。
汎用人型決戦だの初号機だのって、まんま「新世紀」ネタじゃん。それに次のは例の大人気ロボットアニメの悪役のセリフ。最後があんたの大嫌いな呼び方の元ネタ、元祖スーパーロボットの原作漫画版正義の博士のセリフじゃねーか!
ってことは、父さん、やっぱりあんたも転生者だったんだな…
「第一、アレどう考えてもスーパー系なデザインなのに、何でトリコロールなんだよ!?」
腕組みしてるAGは、基本的に角は丸めてあるが角柱主体のデザインで、腕と脛が太い。胸部には麗々しく我が国「十カ国連邦」を象徴する上部が大きく下部が小さいX字のマークがデカデカと据え付けてある。
頭部は基本的には竜を模したデザインだが、頭頂部の角が大きめになっており、また竜の口が開いた中に人間を模した顔がついている。もちろん、角張ったロボット顔だ。
肩と腕、足先にも竜の手と爪を模した意匠が施されている。
背中には背嚢があり、そこからは小ぶりの翼(竜の翼ではなく直線的なデザインのやつ)が生えている。
このあたりは、完全に前世のスーパーロボットアニメの主人公ロボ系のデザインだ。
ところが、カラーリングがひどい。基本的に白色で、胸と腰、腕、脛が明るい青色、腹と足先、背中の翼、それに胸のマークが赤のトリコロールカラーなのである。あと、目とか竜の爪や角みたいな部分に黄色が入っていて、背嚢は黒だ。
あの大人気ロボットアニメ、元祖リアル系の主人公機カラーを無理矢理スーパーロボットに塗りましたといった色使いなのである。ここは普通のセンスなら明るい青じゃなくて黒か紺色を使うべきだろうに!
「ブレバティとは『ブレード・オブ・リバティ』の略。『自由の刃』だ! 自由、平等、博愛の三色で塗るのは当然!!」
「その三色旗の由来は俗説で、本当は違うって話をネットで読んだ覚えがあるんだけど。ってか、ネーミング方法自体が『銃』と『自由』をくっつけたという大人気ロボットアニメそっくりじゃないかい?」
「もちろんパクった!」
「威張るな!!」
僕のツッコみをものともせず、ドヤ顔で続ける父さん。あんた、本当に大物だよ。そのヲタク心もな。
池割れせり上がりはもちろん元祖スーパーロボットのネタだが、さりげなく腕組みさせてるあたり「新世紀」監督のOVAのネタも入ってるのな。あの作品自体もパロネタ満載だったが…
「ちょっと、お父さん、お兄ちゃん、何話してるのかサッパリ分からないけど、もう一眼巨兵が結構近づいてきてるわよ!」
一人で置いてけぼりをくってたヒカリがツッコんできた。済まん妹よ、転生者でないお前には何言ってるか理解不能だろうな。だが、おかげで冷静になれた。
動きの鈍い一眼巨兵もそろそろ近づきつつある。父さんのAGの性能はまだ分からないが、あの巨体なら一眼巨兵とも十分やり合えるだろう。それに、一応研究者として最先端を行ってたはずの父さんのAGだ。帝国の品のない量産型に負けるような代物は隠していないと思いたい。
「詳しい話は後にしよう。とりあえず乗り方と起動方法を教えてくれよ!」
「ハッチは腹だ。手を当てて『オープン』で開く。乗ったらシートに座って『ブレバティ・セットアップ』で起動する。本格起動には『認証』も必要だ。お前を登録してある」
「認証登録済みかい!」
最初から僕を乗せる気マンマンだったのな。パイロットは息子って、本当にロボット博士のお約束に忠実だな。まあ、この際は役に立つから別にいいけどさ。
「まあいいや、操縦法は前の試作型と変わらないんだろ?」
「おう、基本は変わらん。ただしパワーが段違いだから、振り回されないように注意しろよ」
「了解。父さんとヒカリは下がっててくれ」
ブレバティに向かって飛び、腹のところに手を当てると、魔力を流しながらキーワードを唱える。
「オープン」
魔道具を使用する際は必ず使用者の魔力を流す。魔力内蔵型の魔道具であっても、起動時には使用者の魔力が必要なのだ。巨大な魔道具ほど起動のための魔力が多く必要になる。
もっとも、全長100メートルを超えるような魔道軍艦クラスの巨体になると、それこそ一人では絶対に起動できないから、今度は起動専用の魔道具も使われるようになるのだが。
このハッチはAG本体とは独立した魔道具になっているらしく、起動魔力はほとんど必要なかった。前面装甲が上にスライドして、コクピットがあらわになる。
前世で見慣れた車の座席に近いが、シートベルトは6点ハーネスになっており、ヘッドレストとアームレストがついている。腰の鞘を外し、出しっぱなしだった剣を納めてシート横に置き、皮鎧と兜は身につけたまま、さっさとシートに座る。
展開していた魔法はすべて解除し、ベルトを着け、シートの左右のアームレストにつけられた操縦桿を握り、足下のペダルに足を乗せる。もっとも、操縦桿やペダルとは言っても、これらを動かして指示を与えるものではない。ここから魔力を通して機体に接続するための、言わば端子なのだ。
「クローズ」
既に起動しているのでキーワードを唱えるだけでハッチは閉まる。さて、本体の起動だ。操縦桿とペダルに魔力を流し、起動キーワードを唱える。
「ブレバティ・セットアップ」
コクピット前面に据え付けられた薄い水晶のディスプレイが光り「起動」の文字を表示する…って、白画面に黒い太字明朝かよ、オイ! 本当にぶれないな、父さん…。
とりあえず、起動はしたようだが、まだAGの体を動かすことはできない。盗難を防止するために、個体識別認証がかけられているからだ。起動だけはできるのは、整備時の各種機構のチェックに起動が必要な場合があるからである。
「認証、ノゾミ・ヘルム!」
これは魔道具のキーワードではなく魔法である。個人の魔力パターンを個体認証に使用する魔法なのだ。この魔法があるため、この世界の「身分証明カード」~個人情報を記録した魔道具~は偽造不可能なのだ。
水晶スクリーンの画面に「認証:ノゾミ・ヘルム 完了」の文字が表示される。
認証が済むと同時に、手の操縦桿と足のペダルを通じて体からものすごい量の魔力が流出していくのを感じた。
常人よりも遙かに魔力量が多い危険な子供たち、その中でも幼少時から魔法の訓練を重ねることで、さらに反則じみた魔力量になっているはずの僕の魔力量が、一時的にとはいえ底をつきそうになるほどの量だ。
だが、その失われていく魔力を通じて、僕の感覚はこの巨大なAGの全身とリンクしていく。この巨体の頭から手の指先、足の先まで、僕の魔力が行き渡っていくのが分かる。
ブレバティの目が光るのを感じる。僕の目には、ブレバティの目がとらえた外界の様子を背景に、その前にヘッドアップディスプレイのように僕の肉眼で見えるコクピット内部の様子が薄く二重写しになっている。
「手」を握る。僕自身の手は操縦桿を握りっぱなしになっているのに、それとは別に手を動かしている感覚がある。
足も同じ。ペダルに乗せた僕自身の足とは別に、格納庫エレベーターの床を踏んでいる感覚がある。水晶画面に文字が表示されたので、確認のために読み上げる。
「同調率、100%」
石を投げないでくれ。これ、AG起動時の必要確認事項なんだから。自分とAGが完全に同調していることを確認するんだ。重要事項だから声出し確認する必要があるんだよ。
でも、このネーミングは、今なら分かるが、完全に「新世紀」のパクりだ。前に試作AGを動かしたときは、父さんが転生者だなんて思ってなかったから、偶然の一致、と言うよりは普通に考えたら同じネーミングになると思ってたんだが、甘かった。
それにしても、その試作AGに比べてこのブレバティの蓄積魔力量は…
「すごい、50倍以上の魔力量がある…」
興奮して思わず口に出してしまってから、正気に戻って赤面した。これ、大人気ロボットアニメの主人公のセリフじゃん! いや、あっちは「5倍以上のエネルギーゲイン」だったけどさ。
AGは体全体に魔力を蓄積する。普通は待機状態にする前に魔力をフルチャージしておくから、起動したてのAGは言うなれば完全充電状態。電気と違って待機中に放電することもない。これだけの魔力量があれば、相当派手に魔法を使っても大丈夫だ。
ガン! と突然衝撃を感じる、胸元が熱い。危うく後ろに倒れそうになるのを、踏ん張って持ちこたえる。
今、僕はブレバティの全身に通した魔力を通じて完全に同調している。それによってブレバティの体を自分の体と同じように動かせるし、魔法も放てる。逆に、ブレバティの体に受けた攻撃は、自分の体に受けたように感じるのだ。
ブレバティの体には、目、耳、鼻といった感覚器の働きをする魔道具が組み込まれていて、これは人体のものと同様に働く。ただし、触覚や痛覚のような感覚器や神経にあたるものは装備されていない。
それでも、ブレバティの全身に通した魔力を通じて、衝撃や温度などの、ある程度の感覚を共有することはできるのだ。この巨体で小さなものを壊さずつかむことだってできる。また、直接的な痛みを感じることはない。
今の衝撃は一眼巨兵が火炎弾を放ってきたのを食らったのだ。以前に生身で撃たれたときに比べると、格段に巨大な弾丸になっていた。
やはり、生身の子供には手加減していたのだろう。こちらもAGと見て、本気の攻撃をしてきたらしい。それが胸元を直撃したのだが…
「さすがブレバティだ、何ともないぜ!」
いかん、またしても思わず前世ネタセリフを言ってしまった。まだ拡声かけてなかったから、誰にも聞こえなかったのが救いだが。
世界観に合わないと思いつつも、巨大ロボットに乗っているかと思うと、つい前世に封印してきたはずのヲタク心がうずき出す。それとも、父さんという同志を発見してしまったからだろうか。
いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。目の前には、もう敵が迫っているんだ!
「魔力感知、魔力隠蔽、拡声」
一度切っておいた基本魔法を再度かける。AGに同調してから使用する魔法は、AGの蓄えている膨大な魔力を使ってかけられるし、効果はAG全体に及ぶ。これからは本気の戦闘だから魔力隠蔽も使う。
「待たせたね、精一杯『おもてなし』させていただくよ!」
そう挑発すると、溜め池中央の格納庫エレベーター床を蹴ってジャンプし、池の岸に着地する。目の前には一眼巨兵がいる。
「あの程度では効かないか。ならば、これでお相手しよう!」
一眼巨兵が槍斧を振るってきた。攻撃魔法が発達しているこの世界で、いまだに剣や斧といった格闘武器が主流なのは、攻撃魔法に対する防御魔法も発達しているからだ。
格闘武器に対する防御魔法もあるのだが、属性攻撃魔法に対する防壁の魔法の防御力が95%以上になるのに対して、物理打撃への防御魔法は、最高クラスの防御魔法でも50%、つまり威力半減にしかならない。
これが実弾系の射撃武器になると、防御率は格闘武器と変わらないのだが、今度は弾丸の進路をそらす防御魔法が有効になるので、銃器類の有用性も格闘武器に比べると低いのだ。
それまでの鈍い動きが嘘のように、敏捷に斬りかかってくる一眼巨兵。だが、こっちだって両親や父方の祖父母~二人とも数年前に天寿を全うした~に、幼少時から実戦剣術と格闘術をたたき込まれてきたんだ、その程度の攻撃に当たるかよ!
30センチ、この巨体同士では本当に当たるか当たらないかギリギリの差で斬撃をかわしつつ、カウンター気味に胸元へ蹴りをたたき込むと、あの巨体が吹っ飛んでいった。
「なッ、グゥっ!」
「逃がさないよ!」
そのまま追撃して、仰向けに倒れた一眼巨兵の右肘に跳び蹴りを放つ。バギッという音とともに、右肘が砕けて槍斧を持った右腕がもげた。
アレ、何か脆くないかい?
「ば、バカな、ミスリウムを一撃で破壊するだと!?」
驚愕する一眼巨兵。
「まだ終わりじゃないよ」
倒れている一眼巨兵の左腕をつかむと、強引に引き起こしてから俯せに押し倒し、左肘を逆関節に極める。バキッという音とともに、左腕ももげる。はい、これで両腕使用不能。
「クッ、何てパワーだ、連邦のAGは化け物かッ!?」
オイ、何でここでそんなセリフが出てくるんだよ!! まさかお前も転生者じゃないだろうな!?
と、驚いて一瞬力が抜けた隙をついて、一眼巨兵が胴体を反転させ、ブレバティの体を蹴り上げて拘束を逃れる。
「おっと、しまった」
この程度では、別にダメージは受けないが…
「飛翔! ここはひとまず引かせてもらう」
「飛翔、逃がすワケないでしょ」
互いに飛翔の魔法をかけて空に飛び立つ。飛翔の魔法は、質量が大きくなり、高速を出すほど魔力の消費が激しくなる。
身長が生身の10倍あるAGの場合は、単純計算でも消費魔力は生身で飛ぶ場合の1000倍になる上に、金属製で重い分、実際はもっと消費量が多い。
さっきの追いかけっこで一眼巨兵が飛翔を使わなかったのは、その燃費の悪さを嫌ったせいだろうが、ピンチになってなりふり構っていられなくなったのだろう。ほぼ全速、時速400キロで逃れようとする。
「遠話、大佐、聞こえていますか、大佐! 連邦のAGと交戦状態になりましたが、想定以上の化け物です。援護を!」
「魔力波妨害! 拡声外してないから、交信内容ダダ漏れだよ」
焦って拡声の解除もせずに遠距離通話の魔法で援護を求めだしたので、ツッコみながら自分を中心にして魔力波妨害魔法を使う。これで僕の半径500メートル以内では魔力波を使った魔法は効果を発揮しない。
遠距離通話や探知などの魔法は、魔力波を使って遠距離の相手を探ったり話したりする。魔力波は、言うなれば電波の魔力版で、使い方も同じようなものだ。
交信内容からすると、こいつの親玉は「大佐」か。そいつが来る前に落としておきたい。
右手を一眼巨兵に向かって突き出して、雷撃の呪文を唱える。高速で威力も高く、何より金属製のAGに対しては相性がいい。本体への打撃はもちろん、パイロットへの麻痺効果も期待できる。
「雷撃っ!!」
えらく気合い入ってるって? 当然なのだ。
何しろ、この世界の魔法というのは、空間中の魔素を変換した魔力をエネルギー源として、言霊を発動媒介とし、人間の持つイメージと、精神力、すなわち気合いでもって物理法則をねじ曲げるものなのだから。
その威力や効果は、魔力量と、イメージ内容と、込めた気合いによって変わってくるのだ。
つまり、同じ魔法を発動する場合でも、気合いを入れずにボソっと「雷撃」と言うよりも、「雷撃っ!!」と叫ぶ方が威力が上がるのである。いや、マジでそうなの!
さらに言うと、発動媒介の言霊自体は最低限のキーワードで済むので呪文は魔法名だけでいいのだが、これに延々と詠唱を加えると威力が上がったりする。
今は戦闘時だから最低限で済ませているが、これを「我が魔力よ雷となりて我が敵を撃ち滅ぼせ、雷撃」とか言う方が威力が上がるのだ。
これは、呪文を詠唱することで、イメージがより鮮明になったり、自分のテンションが上がるためではないかと言われている。従って、詠唱内容に定型文はない。自分のイメージを明確にするか、自分のテンションを上げるように適当に唱えればよいのだ。
逆に、自分のテンションが高まるなら、必ずしも絶叫である必要はない。ボソッと「氷弾」と唱えたとしても、その心の中で「クールに氷の魔法を唱える俺様カッケー!!」とか思っていれば威力は上がるのである。…僕には無理だから絶叫してるけど。
これが、何を意味するかお分かりだろうか。この世界の魔法というのは、つまり
厨 二 病 最 強 !
なのである。
…これ、絶対にあの敏腕営業マンみたいな神様がマーケットリサーチした結果だと思う。
ともあれ、手負いの一眼巨兵を逃がすつもりがない僕は、最大限の気合いを込め、ついでにブレバティの持つ膨大な魔力から1割の量を投入して右手から雷撃の魔法を放った。
「な、雷撃防…キャアァァァァァァっ」
魔力隠蔽しているので発動を感知できず、呪文を聞いて慌てて防御魔法を唱えようとした一眼巨兵だったが、間に合わずに直撃を食らった。
胸の上あたりを直撃したのだが、そこから上が頭部まで全部吹き飛んでしまった。さすがに飛行を維持できず、石のように墜落する。にしても、今の悲鳴は…
墜落した一眼巨兵の横に降り立ち、仰向けにひっくり返す。よく見ると腹部にコックピットのハッチらしき部分があったので、ブレバティのパワーで強引にこじ開ける。
ブレバティの目の性能はいいようで、コックピットの中もよく見える。
悲鳴から予想していたが、シートに座っていたのは、やはり少女だった。皮鎧と金属の兜をかぶっているが、その兜からは緑色の髪がこぼれており、鎧の胸はふくらんでいる。
その青い瞳は虚ろに僕=ブレバティを見ており、死んでこそいないものの、放心状態のようだ。
僕はシートベルトを外すと剣を手に取り、「オープン」と唱えてハッチを開け、一眼巨兵のコックピットへ飛んだ。
「さて、君は僕の捕虜だ。おとなしくしていれば、これ以上の危害は加えない」
「あ…あ…ば、化け物…」
剣を突きつけて宣言するが、少女はブルブルと震えながら壊れたようにつぶやくのみ。少しやり過ぎたかな。
それにしても、顔立ち自体はヒカリに勝るとも劣らない美少女なのだが、目は虚ろだし、口は半開きで端からよだれがたれていて、見られたモンじゃない。
おまけにこのコックピットから漏れるアンモニア臭は…
「漏らした?」
「女の子にそういうこと言わないでよ、バカ兄貴っ!!」
思わずつぶやいた僕の後頭部にすさまじい衝撃があった。
「何すんだヒカリ!」
飛んでくる魔力は感じていたので、驚きはしないが、いきなり後ろから殴ることはないだろうが! しかも剣使ってるよ!
兜かぶってるから素手で殴ると痛いかもしれんが、だからって抜き身で兄の頭を殴るな!!
「何すんだ、じゃないでしょ! いくら敵でも、女の子なのよ! もう完全勝利して捕虜にしたんだから、これ以上辱めるようなことは言わないでよね。ウチも一応貴族なんだから、戦争でも礼節を持って行動して欲しいわ」
「あ、ああ、そうだな。済まなかった。それじゃあ、この子の扱いはお前に任せていいか? 僕がやるよりいいだろ」
「オッケー」
言われてみると、ごもっとも。着替えなども必要だろうし、僕が連れて行くより女の子同士の方がいいだろうから、世話をヒカリに任せることにする。
「あと、この一眼巨兵の残骸は…ブレバティで屋敷に運ぶかな?」
と言ったところで、すさまじく巨大な空間魔法の魔力を感じると同時に、あたりが急に陰る。見上げると、今まで存在していなかった巨大な飛行物体が空に浮いていた。
「瞬間移動の魔法か。あれは魔道戦艦?」
「そう、スフィンクス級魔道戦艦の7番艦『オグナ』号だ。ようやく到着したようだな」
いつの間にか来ていた父さんが、僕の疑問に答える。
「艦長、ご指示のポイントに到着いたしました。ご命令を」
戦艦から声が響く。艦長って、まさか…
「『コール オグナ』…って妨害入ってるのかよ。おい、ノゾミ、魔力波妨害を消せ」
腕時計通信機で連絡しようとした父さんだが、僕の周囲は魔力波妨害がまだ切れていないので通話できなかったようだ。慌てて解除すると、父さんが再度通話先を指定して話し出す。
「マーサ聞こえるか、これから一眼巨兵とブレバティ初号機を回収する。格納庫を準備させろ。それから捕虜1名を収容する。拘禁室と尋問室も準備しておけ。女性用の着替えも、下着込みでな。サイズはヒカリから連絡させる」
慣れた口調で命令する父さん。ああ、やっぱりあんたが艦長なんだね。
「さあ、ノゾミはブレバティで一眼巨兵をあの艦に運べ。ヒカリは捕虜の武装解除をしてから、俺と一緒に捕虜の護送。いいな?」
「「了解」」
異口同音に答えて、僕は再びブレバティのコックピットへ飛ぶ。
まだ起動中のブレバティは初回起動時とは異なり、シートに座って操縦桿を握りペダルに足を乗せるだけで再び全身へのリンクが再構成され、自由に動かせるようになる。
父さんたちが離れるのを確認してから一眼巨兵を抱え上げると、まだ発動中の飛翔を調整して、戦艦に向かう。
それにしても、神様…確かにあなたは何も嘘は言いませんでしたよ。
ここはとても夢あふれる剣と魔法の世界です。やさしくて強くて頼りになる両親と家族にも恵まれました。ちょっと女顔だけど美形にもなれました。
反則級の力も手に入れて「俺Tueee!」もやっちゃいました。こんな転生をさせてくれて、とても感謝しています。それは嘘じゃありません。
お約束もたくさんありました。ええ、確かに言ってましたよね「転生ファンタジー系とは少し違う」って。
それでも…それでも、あえて言わせてください。
「これって、何か違うんじゃねぇっっっ!!?」
次回予告
ブレバティを駆りサイクロプスを撃退したノゾミだったが、一息つく間もなく新たなる敵が襲い来る。その速度は通常飛行の約3倍! 亜音速で飛来するAGの色は深紅に染まっていた。それは「紅の男爵」の異名を持つ仮面の英雄。その「お約束」っぷりにあきれながらも、その実力に圧倒されるノゾミに対して、赤き騎士は言い放つ。
「私の愛機には軍馬100万頭分のパワーがある!」
「『紅の男爵』って、『100万馬力』の方なのかよっ!!」
ツッコみながら慄然とするノゾミ。
「やっぱり、こいつも転生者なのか?」
次回、神鋼魔像ブレバティ第2話「赤き騎士、君は!?」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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