第14話 大統領救出作戦 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「クーデターを起こし、世界大戦を勃発させたルードヴィッヒ。彼はノゾミたちの前に大規模な映像を投影して、南北コロンナ2大国を事実上征服したと発表し、『地球帝国』の樹立と、その初代総統への就任を宣言する。それに圧倒されながらも通信・探知機器を修理したところに、今度は所属不明機をノイエ・シュバルツ・ゲシュペンストが追撃してくる。追われていたのは北コロンナ大統領の娘アニー・エリック中尉だった。ノゾミたちがノイエ・シュバルツ・ゲシュペンストを撃退すると、アニー中尉は空を飛ぶ魔道潜水艦を呼び寄せ、亡命と軍事援助を要請してくるのであった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
ヒュルヒュルヒュル…
遠くに島影が一つ見えるだけの広大な海の上に、かすかに音が聞こえる。わずかな風切り音。それだけが、そこに魔道戦艦が飛行していることを示す微かな証拠である。
おそらくは、魔力隠蔽のほかに幻影と魔力波散乱をかけているのだろう。見ることはできず、魔力探知機にも反応しない、完全なステルス状態。しかし、唯一、音だけは消せない。沈黙は空間にかける魔法だから、移動中の魔道戦艦の飛行音を消すことはできないのだ。また、先に飛翔をかけておけば、その後に沈黙をかけても飛翔の効果は失われないが、それ以降の魔法が使えなくなる。仮に使えたとしてもデメリットの方が大きいだろう。もともと、前世のジェット機のような轟音を立てるわけではない。いや、憤進の魔法などで加速するのなら話は別だが、飛翔で巡航するなら風切り音くらいしか出ないのだ。
それに対して、こちらは完全に無音。同じように魔力隠蔽、幻影、魔力波散乱で完全に姿を隠して待ち伏せしている。ようやく修理と艤装を終えて戦線復帰がかなった戦艦オグナ、その右舷前方側胴の飛行甲板は既に展開済み。その上に立つ僕のドラゴンの後ろにはペガサスが3機待機している。通常の明灰白色の塗装だが、右肩のみ緑、青、ピンクに塗られている。そして、左肩には青い星のマーク。北コロンナ合州国軍所属を示す印だ。十カ国連邦の場合は赤色で上部が大きいXのマークになるが、ウチのAGは今までは所属マークなんかつけてなかった…胸にでっかくついてるドラゴン以外は。
この3機に乗っているのは、北コロンナ合州国陸軍所属の若い女性士官、アニー・エリック中尉と、その三つ子の妹であるクララ・エリック中尉とベル・エリック中尉だ。もちろん全員が危険な子供たちで、実はクララ中尉とベル中尉も前回の追撃戦に出撃していたのだが、戦闘で機体に大ダメージを受けて母艦であるシーサーペント号に退却したのだそうだ。彼女たちの愛機は北コロンナが独自に開発したAG「トマホーク」なのだが、さすがにダメージが大きかったのでこの作戦には修理が間に合わず参加できないので、完成したてのペガサスを貸与することにしたのだ。アニー中尉の機体だけは大したダメージは無かったのだが、共同作戦をとりやすいように同じ機体に乗ってもらう事になった。
…というか、父さんが強硬にそう主張したのだ。他の誰にも分からなくても、僕には分かる。三つ子の三姉妹と聞いて「ペガサスナイト三姉妹」をさせたくなったに決まってる!
ちなみに、アニーが緑髪、クララが青髪、ベルがピンク髪と三つ子なのに髪色が違っていたのだが、本来は金髪なのを見分けやすいように染めているらしい。なので、機体の方も髪色に合わせて肩に色を塗ったのだ。…この髪色を見たら、確かに「三姉妹」させたくなる気持ちも分かるんだけどね。
左舷前方側胴には、ロプロスとロデムに殿下と姫様のペガサスの計4機が出撃準備を整えている。カイとリュー君たちは別の所で待機している
作戦開始の時間まで、あと1分。僕は頭の中で、一昨日説明された今回の奇襲作戦の手順を反芻していた。
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「大統領をはじめとする合州国要人の帝都への護送は明日行われる」
イモータル市防衛軍本部=魔像研究所のブリーフィングルームで、水晶スクリーンに映った地図を示しながら父さんが説明する。
「早いな」
思わず、そう感想を漏らす。何しろ、ルードヴィッヒの演説からまだ2日しかたっていないのだ。
「現地に置いておくほど、奪還作戦みたいなものを警戒する必要があるだろう。早く本国へ送る方が賢明だ」
「確かにね」
実際、合州国軍の主力は壊滅したらしいが、シーサーペント号が我が国に亡命してきたように個々の戦力にはまだ残っているものもあるし、各地の州軍の戦力は無傷だ。奪還作戦を起こされる前に安全な本国へ運ぶ方がいいのだろう。
「だが、急ぎだけあって計画自体は漏れやすい。情報部の暗号解読によって、護送コースと作戦概要がつかめた」
父さんが画面を示すと、世界地図が映り、北コロンナ大陸西海岸の合州国首都「ウェリントン」から東デューラシア大陸中央部の帝都「ケルンボルン」~アーストリア帝国が地球帝国に変わっても首都は変わっていない~までの長い矢印が表示される。北コロンナ大陸を横断して、西海岸から「太平洋」~前世と同じ名前だ~を横断する長いコースだ。ちなみに、東デューラシアと北コロンナ東海岸の間の大洋の名前は、やっぱり「大西洋」だったりする。
「北コロンナ大陸ではバルバロッサが護送するらしい。西海岸でレーヴェに乗せかえて太平洋横断を行い、東デューラシア東岸でパンターに乗せかえる。魔力隠蔽、幻影、魔力波散乱をかけて隠れての飛行になるだろう。こっちの理想を言えば北コロンナ大陸内で仕掛けたいところだが、残念ながら間に合わん。オグナはもう出撃できるんだが、北コロンナまで高速飛行したり瞬間移動で行くと、帰りの魔力が足りなくなる。今回は大統領以下の要人を救出して、無事に戻ってくるところまでが作戦だからな」
何しろ、我々がいるのは西デューラシアの東端。北コロンナは地球の裏側なのだ。敵地である東デューラシア大陸は迂回しないといけないので、さらに時間がかかる。
「かと言って、東デューラシア内で仕掛けるのは無謀でしかない。だから、仕掛けるのは太平洋の真ん中、『ハロウィン諸島』の近くにする。敵艦がここに到着するのは、明後日の昼頃になる予定だ」
「ハロウィン諸島って、あのおっきい『ジャック・オー・ランタン』像がある所だよね?」
「そうだ」
クーの問いを父さんが肯定する。
この世界にも前世と同じようなハロウィンの祭りは存在する。転生者が持ち込んだにしては歴史が古そうなので、あの神様が最初から用意していたのかもしれない。なお、ジャック・オー・ランタンは普通に植物系の魔物として存在する。やっぱり顔がついた動くカボチャで、ドラゴンなどと同じように魔力を使って炎を吹いたりもするのだが、カボチャなので倒すと美味しく食べることもできる。で、そのジャック・オー・ランタンの巨大な石像が存在するので「ハロウィン諸島」という名前がついたのだ。誰が作ったのか、何のために作られたのかはまったく不明。世界各地に存在する遺跡や地下迷宮と同様に、謎の古代文明の遺産ではないかと言われている。不便すぎて観光名所にはなってないが、魔道旅客機が発達して航続距離が伸びれば、そのうち観光地になるだろう。
「あと、護衛部隊の指揮官だが、北コロンナ内ではリヒト、東デューラシアに入ってからはヒカリになるらしい。なら、その間の護衛が薄い時点で狙うのが正解だろう」
「当然だな」
父さんの言葉にカイが同意する。ここまで暗号解読で分かってるのか。我が国の情報部は優秀だ。
「作戦はシンプルだ。待ち伏せして敵艦が襲撃ポイントに到着した時点で、アニー中尉たちが遠話で大統領と連絡をとり、居場所が分かった時点でそこを目がけて外部から強行突入。大統領たち捕虜にされた要人を一人でも多く救出して撤収する」
「瞬間移動での敵艦潜入は?」
「敵艦内の様子が分からないから危険性が高い。救出後は即座に瞬間移動で待避だ。奇襲と同時に魔力波妨害もかかるだろう。とにかく、状況が流動的なので現場での臨機応変の対応が重要だぞ」
臨機応変と言うと聞こえはいいが…
「素直に『行き当たりばったり』と言うべきじゃないかい?」
「むう」
父さんが飾った言葉をバッサリ斬り落とす。とはいえ、時間も足りないから他にやりようもないのも事実だが。
「注意点は?」
「注意点じゃないが、コロンナ軍人の皆さんに『お願い』がある」
「『お願い』…ですか?」
父さんの言葉に、アニー中尉が不審そうに答える。一応「北コロンナ合州国軍」の看板を背負ってはいるものの、亡命してきて実質的には我が軍の所属になっているのだから、今は「命令」される立場なのだ。それなのに「お願い」されるのはどういうことか、不審に思っているようだ。
「ああ。命令できる内容じゃない。だから『お願い』でね。なるべく『殺さない』で欲しい」
「!!」
アニー中尉とその妹たち、それにシーサーペント号乗り組みの海軍軍人たちの顔がこわばる。もっとも、一人だけ、最高階級の人は顔色一つ変えていないが。
「それは…」
抗弁しようとするアニー中尉の言葉にかぶせるように、父さんが口を開く。
「言いたいことは分かるが、ちょっと聞いて欲しい。今朝の地球帝国の公式発表は聞いたと思う。先日の奇襲作戦の結果として、捕虜11万4千名を獲得。AG17機、魔道戦艦3隻を鹵獲。負傷者総数6万7千名。そして、戦死者数…ゼロ!」
父さんの言葉に、ブリーフィングルーム内が静まりかえる。
「帝国側だけじゃない。合州国軍と南コロンナ連合軍、それに民間人まで含めて、ゼロ、だ。こんな事で嘘をつく意味はない。偽りの数字を出しても後でバレたら信用は失墜する。この数字を出したことが、ルードヴィッヒと地球帝国の『本気』を示している。あいつは、あいつらは、本気で『人類を守る』ために『世界を統一する』つもりだ。それが、あいつらの『正義』だ」
この世界の治癒魔法は非常に進んでいる。治らない怪我はない。手足が吹っ飛ぼうが、内蔵がはみ出そうが、生きてさえいれば完治できる。負傷者6万7千人という数値は巨大だが、たとえ重傷者だろうが一時重体になっていようが、死亡さえしていなければ1日で健康体に戻る。この魔法世界で、取り返しがつかないのは、唯一「死亡」だけなのだ。それを「ゼロ」に抑えている意味はただ一つ。「人類を守る」ためだ。「世界統一」はそのための手段に過ぎない。たとえ敵対関係であっても「人類」の内である限りは、殺してしまうことは自らの掲げる正義を否定することになる。だからこそ、ルードヴィッヒと地球帝国は、あえて困難な「不殺」を貫こうとしている。
「だから、もう一度言おう。あえて『お願い』する。こちらも『殺さない』で欲しい。あいつらの『正義』に対してこちらの『正義』を立てるためにも」
「…では、こちらの『正義』とは何ですか?」
父さんの言葉に問い返すアニー中尉。
「『多様性を残した統一』だな。目的自体は同じ『人類を守るための世界の統一』だ。だが、あいつらは『敵』と戦うための効率を最優先する道を自分たちの『正義』としている。だからこそ『独裁』による強硬手段を是としている。だが、それとは違う統一の道もある。各国の持つ多様性を生かした統一。我が『十カ国連邦』が選んだ道だ。ヤマトやキングランドのような立憲君主制もある。プランタンのような完全な代議制民主主義もある。央華のように外見は民主主義をうたっていながら内実は一党独裁の国もある。コンメルシオのような貴族共和制やドラガオンのような専制帝政もある。それでも統一国家としてまとまってやっている。効率は落ちるかもしれないが、代わりに『生存性』は高くなる。自然界を見ても分かるだろうが、多様性が無い生物は環境の変化に弱い。異世界からの侵略という非常事態に備えるために多様性を失ったなら、その侵略には対抗できたとしても、その後の人類の生存性を損なうことになるだろう」
「…異世界からの侵略については否定しないんですね」
「大統領から聞いていないか? あれは本当のことだ。俺自身が現場を見た生き証人だよ」
「例え娘であっても、国家機密は明かしてもらえません。でも、父はそれを知っていてAGと魔道戦艦の開発を進めていたんですね。アーストリアや連邦へ対抗するためじゃなかったんだ」
納得したようにつぶやくアニー中尉。彼女に代わって海軍の高級士官が口を開く。合州国海軍潜水艦隊司令長官ヘンリー・エリック海軍中将。アニー中尉の叔父で、大統領の末弟。最新鋭潜水艦のAG搭載運用試験に立ち会うために同乗していて捕虜になるのを免れたのだそうだ。現時点で連邦に亡命している北コロンナ軍の最高責任者になる。
…確かに公海上かもしれないけど、わずか半日でウチの領地に到達できるなんぞという北コロンナ本国から遙かに遠い所まで出張って、しかもこんなに偉い人が直々に「運用試験」を行っていた、というのが実にキナくさいんだけどね。
「要望のことは了解した。当方としても可能な限り『善処』しよう」
「ご理解いただいて感謝する」
言質は与えない、か。まあ、こんなものだろう。その後は具体的な戦力配分などが決められて会議は終了した。
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出撃準備時に一斉に合わせた時計が、ちょうど正午を刻む。
「作戦開始! ペガサス軍団、変形、攻撃!! さあ、戦いだ!」
通信機から父さんの命令が聞こえるんだが…ソレはやめないかい。確かに変形ロボット軍団の指揮をとるならそういう命令を出したいのはよく分かるけど、あんたは船団司令官じゃないんだから。あと、ナレーターのセリフも入ってるんですけど。まあ、ペガサスのパイロットでこのネタの意味が分かるのは殿下ぐらいだろうけどね。
「「「「「「変形」」」」」」
僕の思いとは関係なく、ロプロスとペガサス全機が変形して飛行甲板を飛び出す。もちろん、僕のドラゴンやリーベのロデムも即座に飛び出す。待ち伏せに入る前に飛翔はもちろん、基本魔法や防御魔法も全部かけてある。維持にも魔力消費が必要なので非効率的ではあるのだが、今回は時間との勝負の奇襲作戦だから、あえて先にかけておいたのだ。
ほぼ同時にオグナのスフィンクスの姿の肩にあたる部分~前方側胴部の上方~に設置されている2基の3連装46センチ魔道砲が大型魔力弾を放つ。もう1基の主砲塔は主艦体後方上面に配置してある。スフィンクス級は奇妙な艦体形状をしているせいで、3連装3基で合計9門の主砲があるのに、射界の関係で前方と側方にはそれぞれに主砲2基6門しか向けられない。後方のみ、全力斉射が可能なのだ。…やっぱ父さんの設計は何かおかしいよ。
その魔力弾が一見すると何も無いように見える空間に突き刺さり、炸裂する。その瞬間、幻影の効果が一瞬だけ崩れ、魔道戦艦の姿が浮かび上がる。パンター級魔道戦艦レーヴェ号。第一次イモータル市防衛戦で見たことがある。見えない相手に初弾命中とは、ウチの砲手もなかなかやるもんだ。掌砲長のジュウゾウを褒めてやらないとな。
「大統領とコンタクトが取れました! 艦橋上部、艦長室のようです!」
アニー中尉からの通信が入る…のだが、艦長室だと!? いくら重要な虜囚だからって、常識ではそんな所に留置するはずないぞ! これは、まさか!?
次の瞬間、レーヴェ号の位置から8発の大型魔力弾がオグナ目がけて撃ち返される。そして、それとほぼ同時に、その左右の空間からも多数の大型魔力弾が出現してオグナを狙って殺到する。狙いは甘い。しかし十数発の物量があるのだから何発かがオグナを直撃する。もとより、魔力防壁はじめとする各種防壁は展開済みだから、外部装甲に多少の損傷はあるが、お互いに主要防御区画を抜くような致命傷にはなっていない。
しかし、もはや幻影は不要と判断したのか、敵艦が姿を現す。狙いのレーヴェ号だけでなく、その左右にも見慣れた姿がある。リヒトの赤い戦艦バルバロッサと、ヒカリがいつも乗ってくる戦艦パンター。その飛行甲板からは、既にそれぞれ深紅のAGに率いられた一眼巨兵部隊が僕たち目がけて飛び立っている。
「しまった、謀られたか!?」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




