第12話 太陽が増える日 Bパート
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」
「人類救済のために! 世界統一の理想を掲げるために! イモータルよ、あたしは帰ってきたぁっ!! 食らえぇぇぇぇっ、水素熱核融合!!!」
次の瞬間、砲口から強烈な光を放つ光弾が発射された。
同時に玻璃障壁の正面部のみが消え、光弾を通す。
だが、ほぼ同時に僕の方も隠蔽に隠れて準備していた魔法を発動する。
「させるかぁぁぁっ! 中性子妨害!!」
次の瞬間、ドラゴンを中心に直径1キロメートルにも及ぶ巨大な六芒星魔法陣が出現し、そのまま垂直に光を放つ。この光は成層圏や中間圏を突き抜け、高度100キロメートル以上、宇宙空間まで達しているはずだ。ドラゴンの膨大な魔力量をもってしても、これだけの広範囲でこの魔法を維持するのは、せいぜい数分が限度。
しかし、維持している間はこの魔法の結界の内部では中性子の自由運動は完全に停止する。弾体内で発射と同時に集積され臨界量に到達した「愚者の石」~ウラン235~といえども、その核分裂反応は停止するのだ。そして、中性子の運動と核分裂によって発生する超高熱がなければ、その愚者の石に取り囲まれている二重水素と三重水素も熱核融合反応を起こすことはない。
だが、起爆こそ魔法をトリガーにしているが、核反応を起こすのは弾体内に封じ込められた核物質だし、一度起こった核反応は物理法則に従って継続する。中性子妨害の魔法が切れた瞬間に、押さえ込んでいた中性子が動き出して核分裂が再開され、そこから放射された中性子と高熱が熱核融合を引き起こす。そこに現れるのは、寿命こそ極度に短いが太陽と同じ膨大な熱エネルギー。イモータル市全域を瞬時に蒸発させ、イモータル山さえも消し飛ばしてしまうであろう終末の炎だ…地上ならば。
「拘束、音速飛翔」
間髪を入れずクーが光弾に拘束をかけ、中性子妨害の魔法結界内に固定する。そして、ドラゴンの傍らに幻影、魔力隠蔽、魔力波散乱で隠れて飛行形態のまま待機していたロプロスが飛び上がる。拘束は空間魔法の一種で、特定の空間座標に固定するだけでなく、相対位置固定もできる。機体前方に起爆状態の弾体を相対位置固定したロプロスは、そのまま垂直に上昇する。
「いっくよ~ぉ、ロプロス! ボクたちの力を見せるんだよ!! 点火!」
クーが気合いを入れて起動キーワードを唱えると、機体の上面と下面に2基ずつ、計4基装備された先端が半球状になっている細長い円筒形の追加装備の下部から強烈な炎が吹き出す。ドラゴンの腕と同じく憤進の効果を持つ魔道具だが、推力は段違いだ。ロプロスはその推力に押されて、天空を指して駆け上がっていく!
「耐風防壁、耐氷防壁、耐火防壁、耐光防壁」
耐風防壁は風魔法の攻撃を防ぐ魔法だが、空気抵抗の低減効果もある。高度が上がるにつれて下がる温度への対応のための耐氷防壁と、途中のオゾン層で急上昇する温度に対応するための耐火防壁、そしてオゾン層突破後に強烈になる紫外線などを防御するための耐光防壁といった各種防壁が展開される。
「重力制御」
追加装備の憤進が力を発揮し、どんどん加速を続けるロプロス。前世の常識では考えられない加速力なのだが、当然コクピット内には強烈なGがかかる。それを緩和するための重力制御魔法も追加装備には組み込んであるので、クーはそれを発動したのだ。しかし、その効果はすべてのGを中和できるほど強力ではない。それだけの効果を出すことも不可能ではないのだが、今度は消費魔力が多くなりすぎて、肝心の推力に影響をきたすのだ。
この追加装備には魔道エンジンは組み込まれていない。純粋に内部に蓄積された魔力を推力と重力制御に使用している。その両方を満たす魔力量を蓄積するには、オリハルコリウム合金といえども巨大になってしまい、ロプロスに装備するのが難しくなる。推力と重力制御に使用する魔力量のバランスをとって、コクピット内が最大3G程度に抑えられる程度にしているのだ。かなり苦しいはずだが、クーの声はそれを感じさせない。どちらかというと感情的なクーにしては珍しく、むしろ冷静沈着に操作している。
「クー、あんたの事は嫌いだけど、でもみんなのために、世界のために、そしてヒカリのために頑張ってる事は認めてあげるわよ。だから、あたしの歌を聴きなさい! 曲名は『鉄腕…』」
「…感謝はするけど、恩には着ないからね!」
コクピット内の魔道通信機からリンの声と、それに言い返すクーの声が響き、音楽が流れ出す。これも前世の有名なアニソン、元祖テレビアニメにして元祖ロボットアニメ~「巨大ロボットアニメ」ではない「ロボットアニメ」だ~の主題歌、前世ならほぼ誰もが知ってる、あの有名な曲だ。なるほど、今のシチュエーションには一番ふさわしいだろう。呪歌の効果は肉声の範囲に限られない。通信機越しでも効果はあるはずだ。クー、この歌に合わせて空を越えていけ!
空を見上げても、もうロプロスの姿は肉眼では確認できない。本当なら望遠の魔法で見てみたいところだが、僕は今中性子妨害を維持するために魔力を節約する必要があるから余計な魔法は使えない。目には見えずとも、イモータルの管制室では状況をモニターしているはずだ。
「ロプロス、第一宇宙速度到達」
リンの歌声に重なるように、マーサさんの落ち着いた声がロプロスの状況を知らせてくる。惑星や恒星のパラメータが前世と同じである以上、第一宇宙速度も前世と変わらない。秒速7.91キロメートルだ。試験飛行ではここまでしか加速していない。だが、今回は安全係数を見込んでそれ以上に上げる必要がある。それにしてもわずか数十秒でここまで加速するのだから、やはり魔法があるというのは前世に比べると凄いアドバンテージなのだ。
「ロプロス第二宇宙速度到達」
「推力安定、弾体射出用意」
秒速11.2キロメートル、惑星脱出速度だ! マーサさんの報告に、クーが答える。それと同時に…
「同調、玻璃障壁、物理防壁、耐風防壁」
地上ではカイのポセイドン、リーベのロデムほか、ドラグーンとペガサスも協力して強固な玻璃障壁を円形に張る。
「ロプロス、成層圏突破。弾体射出よろし。宇宙空間まであと5、4、…」
マーサさんの報告が入る。成層圏とオゾン層を突破したということは、高度50キロを越えたわけだ。僕の展開している中性子妨害結界の上限も近い!
「いっけぇ~、投射ぉ!!」
クーが固定していた弾体を、そのまま前方に投射する魔法で撃ち出す。脱出速度を越えているので、このまま重力を振り切って宇宙に飛び出すはず。そして…
「瞬間移動、逆噴射!」
宇宙空間に到達する直前のロプロスは、その経緯座標を変えず、高度のみを地上スレスレの位置まで転移し、同時に追加装備を逆噴射する。
高度100キロメートルというともの凄い高空だが、距離にすればたった100キロ。ブレバティシリーズの魔力を使えば転移できる距離だ。そして瞬間移動の魔法は位置エネルギーが高い所から低い所に転移する場合は魔力消費量は抑えられる。宇宙空間ギリギリではあるが、惑星重力圏内ではあるので、この法則は効くはずだ。
だが、瞬時に地上近くに現れたロプロスは、秒速11キロメートルの超高速である。運動エネルギーとそのベクトルは変わらないのだから、また垂直に天を裂いて飛び上がる。わずか1秒で対流圏を突き抜けて成層圏に上がってしまうのだ。耐風防壁で空気抵抗をやわらげ、残った抵抗による摩擦熱も耐火防壁で強引に防御しながら、逆噴射によって速度を強引に落としながら上昇していく。
もちろん、極超音速の機体が突然地上付近に現れたのだから、その衝撃波はすさまじい。それを予測してカイたちが協力して厳重に張っておいた玻璃障壁があっさりと破壊されてしまうが、何とかその範囲で影響を食い止める。爆風は少し周囲に漏れているが、イモータル市の方は戦闘開始と同時に玻璃障壁を張っているので、大丈夫。式典参加の要人や捕虜の方も移動式の玻璃障壁展開魔法具で保護されている。そして…
カッ!!
大空が光る。高度100キロメートル以上の高空で炸裂した熱核融合弾は、その膨大なエネルギーを宇宙空間に解き放った。地上でなら致命的な破壊をもたらしたであろうその力の大半は、宇宙空間にむなしく消えていく。だが…
「うわっ!!」
バツッ!!
思わず悲鳴を上げてしまった。頭を貫く激しいショック。それと同時に一瞬だけ非常に耳障りな雑音が聞こえ、通信機が沈黙する。何だ、これは!?
「予想よりも、きつかったですわね…でも、おにいさま、お見事でしたわ。おかげさまで『スターダスト作戦』は無事成功いたしました」
「何だと!?」
発射態勢こそ解除したものの、まだ玻璃障壁陣形の中央に位置するライガー。そこから発せられたヒカリの言葉に思わず問い返す。先ほどの衝撃で精神集中を乱してしまい、維持に精神集中が必要な中性子妨害の魔法は既に消えている。
「あら、お分かりになりません? 『元ネタ』でも核を撃つのは所詮陽動作戦に過ぎなかったではありませんか」
「あっ!」
「そして、博士の予想通りの効果が出てくれました。これで奇襲の成功率が上がります」
何やら聞き捨てならない言葉がいくつか出てきたが?
「予想通り、とは?」
「電磁パルス、お分かりですわよね。高高度核爆発によって広範囲に生じる強力な電磁パルスは、物理法則が同じである以上、この世界でも起こります。電子機器のないこの世界では、電磁パルスの影響は大したことはありませんが…」
そこで一旦言葉を切るヒカリ。だが、ここまで聞いたら、何が起こったのか推測はできる。
「魔力波パルスか!?」
「正解ですわ、おにいさま。物理現象としての核爆発は変わらずとも、魔素と魔力に満ちあふれたこの世界では、魔法効果も加わることをガーランド博士は予想されていました。核爆発で放出されたエネルギーが空間中の魔素を瞬時に励起して魔力化し、広範囲に強力な魔力波パルスが発生することを。そして、それに対する対応策もね」
「魔力ケーブルのシールド化か?」
「それも正解ですわ。帝国の一線級兵器と主要機関が使用する魔道具は魔力波パルスを防ぐようシールドしてあります。例えて言うと『Xネブラ対応型』でしょうか」
「それは違うだろう!!」
「太陽の牙」なネタを持ち出してきたので、思わずツッコんでしまった。
それにクスクス笑いで応えながら、言葉を接ぐヒカリ。
「いずれにせよ、世界中の耳目をここに集めること。高高度核爆発、それも核分裂を起爆媒介とする熱核融合の実戦使用規模での実施。そして、その弾頭を高高度まで数分で輸送しうる超高速輸送手段の確認。その副次効果として、もし起きるなら魔力波パルスによる通信系精密魔道具の破壊。そして、それらすべてを世界中にさらすこと。これが全部『スターダスト作戦』の作戦目的ですわ」
「…なるほど。確かに大成功、だな。そして、その陰で『奇襲』をもくろんでいたワケだ。目的地はどこだ? 既にそっちの作戦も進んでいるんだろう」
さっき自分から「奇襲」と言ったのだ。既にバラしていい状況なんだろうから、あえてストレートに聞いてみる。
「そうですわ。たった今、暗号『ティーガー』を3つ、『レーヴェ』を4つ受信しましたの。作戦目標3か所の奇襲に成功したようですわね。あと4か所は強襲になったようですが」
「7か所だと!?」
「ええ、北コロンナ大陸では、北コロンナ合州国首都『ウェリントン』、同陸軍第一軍駐屯地『ハリオポリス』、同海軍第一艦隊泊地『サファイヤ・ハーバー』、同第2艦隊泊地『ウエスタン・ポート』の4か所と、南コロンナ大陸では南コロンナ連合最高評議会所在地『リオ・リブレ』、同陸軍合同演習場『ヴェルデ・マイオ』、同海軍合同泊地『プエルト・コラル』の3か所、合計7か所です」
「なっ!?」
世界4大国のうち、十カ国連邦とアーストリア帝国を除く残り2国の首都と陸海軍の主要根拠地じゃないか! 「ヴェルデ・マイオ」だけは違うが、確か今はちょうど南コロンナ連合の陸軍はそこで合同軍事演習中だったはず。つまり、陸軍の主力はそこに集まっているワケで…
「世界大戦を起こすつもりか!?」
思わず叫んだ僕に対して、ヒカリはごく冷静に事実を指摘する。
「『つもり』ではなく、既に『起こした』のですよ。『戦争を終わらせる戦争』、これが最初にして最後の『世界大戦』を」
「狂太子…ルードヴィッヒは本当に狂ったのか!?」
僕はこのまやかし戦争は、せいぜい連邦と帝国の統一で終わらせるものと思っていた。だが、ルードヴィッヒは一気に世界統一まで持って行くつもりらしい。いくら「敵」の侵攻が近いことが予想されるとは言え、無茶すぎるだろう!
だが、ヒカリの次の言葉は、まったく想定外の内容だった。
「おにいさま、ルードヴィッヒ様は既に『狂太子』ではありませんわ。本日未明、アーストリア帝国ではクーデターが発生し、皇帝ウィルヘルムは退位しました。帝政は廃止され、アーストリア帝国という国家は既にこの世に存在しません。当然、ルードヴィッヒ様も既に『皇太子』ではありません」
「何だと!? 誰がクーデターなんかを?」
混乱しながら問い返す僕に、ヒカリは芝居っ気たっぷりに応える。
「もちろん、ルードヴィッヒ様ですわ」
ちょっと待てぃ!
「国家を実効支配している人間が自らクーデターを起こすって、それは何か違うんじゃないか!?」
次回予告
ルードヴィッヒのクーデターによるアーストリア帝国の崩壊と全世界を敵に回しての世界大戦の勃発。核爆発による魔力波パルスのせいで通信網が混乱する中で奇襲を受けた南北コロンナ大陸の両大国は一気に国家指導者と軍の主力を失って大混乱に陥る。
そんな中で全世界に向けて自らの所信を表明すべく姿を現すルードヴィッヒ。
「私の名はルードヴィッヒ、地球は狙われている!」
隠されていた「敵」の存在をついに明かし、それに対抗すべく世界統一政府を自らの手で樹立すると宣言するルードヴィッヒ。
「私はここに、汎人類統一政府『地球帝国』の成立と、その初代『総統』に就任することを宣言する!」
まやかし戦争の予定調和が崩れ、混乱する世界の中で、ノゾミたちの進むべき道はどこにあるのか?
次回、神鋼魔像ブレバティ第13話「地球帝国の野望」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
この番組はご覧のスポンサーの…
来週も、また見てくださいね!




