第12話 太陽が増える日 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「ヒカリの『スターダスト作戦』を阻止すべく手配を進めるノゾミ。だが、ヒカリは先に奪取したリモコンを使ってノゾミの裏をかき、ライガーを奪取する。リューのドラグーンを鎧袖一触で蹴散らしたライガーに沈黙の魔法をかけて魔法抜きで格闘戦を挑むノゾミのドラゴンだったが、それすらもかわされてしまう。地の底に逃げようとするヒカリに対して、外に聞こえない状態で説得を試みるノゾミだったが、逆にヒカリの覚悟を知らされ、『スターダスト作戦』を現場で阻止する決意を固めるのであった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「今回の捕虜交換式は、いよいよ本日正午より、ここイモータル市外の演習場にて執り行われます。既にご覧のように会場の準備は整えられております。この交換式の模様は全世界に生中継される予定となっております。それでは、スタジオにお返しします」
「はい、現場のニシオカさん、ありがとうございました。それでは次に、今回の捕虜交換式の意味を政治部のナカタニ記者に解説してもらいます」
「はい、今回、戦争開始以来初めての捕虜交換式となったわけですが、これには2つ大きな政治的意味が…」
食堂のテレビには皇国中央放送のモーニングニュースが間近に迫った捕虜交換式について説明しているのが流れている。それを聞き流しながらとっていた朝食の、スクランブルエッグに箸を伸ばしたとき、ふとそれがヒカリの好物であることを思い出す。ピュアウォーターの館と同じくらいに慣れ親しんだイモータルの屋敷の食堂。常に隣の席にはヒカリが座っていた。今、そこには誰もいない。
「ツバサちゃん、お食事は、きちんとしましょうね」
「モガっ、ガフっ!」
2つ隣の席でトーストにむしゃぶりついていたツバサが、母さんに注意されてトーストを喉に詰めそうになり、慌ててミルクをがぶ飲みする。減点3、お仕置きだな。母さんはマナーに厳しい。僕たちが貴族子弟として恥ずかしくないようにきちんと育てたいと思っているからだ。僕もヒカリも、その点では優等生だったのに、いたずら者のツバサはしょっちゅう母さんの逆鱗に触れるようなことをやらかす。それを既に諦念の域に達している顔で見守るツバメ。いつもの光景だ。だが、そこに一人足りない。いつも、ツバサのいたずらに、時には乗って、時にはからかい、時にはやさしく諫め、時にはやり返す元気な姉。その不在を冷たく示す空の椅子の方を、ツバサもツバメも決して見ようとはしない。
「捕虜交換だと、お姉ちゃん、戻ってこないんだよね」
「言うなよっ!」
ぽつりと漏らしたツバメに、噛みつくように叫ぶツバサ。最近は、僕も忙しくて面倒を見てやれていない。当然ながら、父さんも母さんも忙しい。リーベだって反ルードヴィッヒの象徴としてマスコミや政治家への対応をする仕事がたくさん入っているのだ。こいつらの面倒はアルフレッドやアンナが見てるのだが、やはり寂しさはあるのだろう。今度の休みの日には一緒に遊びにでも行こうかな…マーサさんとのデートに弟妹連れはマズいか。と、やはり寂しい思いをさせていたと感じていたのか、父さんがツバサたちに言う。
「今度の休みの日には遊園地にでも行くか?」
「連れてってくれるの!?」
「行きたい!!」
父さんの言葉に嬉しそうに答える双子。
「おう、急な仕事が入らなきゃ連れて行ってやるよ。ママはお仕事だがな」
「「え~」」
不満そうなツバサたちだが、さすがに司令官と副司令官が両方休みというのは問題があるので無理だ。やっぱり、弟妹連れであることを最初から伝えてマーサさんを呼んでみるかな。
「わたしも行こうかしら」
「なら、オレも付き合うぜ」
…と思ってたら、リーベとカイが立候補したよ。リーベは純粋にツバサたちのことを思ってだろうけど、カイはリーベとのデートの実績作りが狙いだな。
「ノゾミはどうするの?」
クーが聞いてくる。ちなみに、こいつら姉弟はウチに居候しているわけではなく、すぐ隣にやはり別宅があるのだが、食事だけたかりに来ているのだ。ウチには専属料理人がいるので、2人くらい増えても別にどうという事はないからいいんだけどね。料理自体はごく庶民的なものなのだが、下っ端とはいえ貴族なんだから、母さんが料理を作ったりはしないのだ。…まあ、そもそも母さんの手料理という物自体が、なかなか破壊的なシロモノだったりはするのだが。以前に出された時は、さすが「破壊女帝」の異名は伊達じゃないと思ったモンだよ、うん。
「行ってもいいかな」
僕が行くならクーも来るだろう。そうしたらマーサさんを呼べるはずがない。次回のデートは諦めるか。
「それなら…」
「ノゾミが行くなら、あたしも行こうかな~」
クーの言葉を露骨に潰しにかかる発言は、案の定リンだ。こいつは別宅がないのでウチに居候している。もっとも、こいつも仕事があるとはいえ、一番暇ではあるので、よくツバサたちと遊んでくれてはいるのだ。発言を潰されたクーがもの凄い殺気をみなぎらせてリンの方をにらみつけるのだが…
「お前はもともと引率要員だ」
「拒否権なし!?」
父さんにあしらわれて、ショックを受けたような顔をするリンと、それを見て笑うツバサたち。クーも毒気を抜かれて苦笑いする。馬鹿話でも笑える方がいい。こんな風に、のどかな朝食を食べている家がイモータル中にあるだろう。もちろん一人で居る鉱山労働者も多いだろうし、既に子供が独立した老夫婦もいるだろう。それぞれの朝、それぞれの幸せ。
もし、今日、僕たちが失敗すれば、それらすべて、イモータル7万市民の命とそれぞれの幸せが、そして世界唯一の貴重な神金鉱山と「敵」に対抗する戦力を生み出すための最精鋭の研究所が一気に失われる。ここにいる大事な弟も妹も、家族同然の使用人たちも、すべて業火の中に消え失せる。そして、残るのは生涯、いや末代までもべったりと落ちない大量殺戮者の汚名を着ることになる妹のみ。
そんな結末を残すワケにはいかない! 楽しげに笑う弟たちを見ながら、僕は決意を新たにしていた。
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既に太陽は天頂近くに位置している。正午ちょうどに開始される捕虜交換式を直前にして、準備は既に整っている。
イモータル市外の特設会場には、大きな演壇とプレス席が設けられている。既に両軍とも捕虜は会場入りしており、捕虜を乗せてきた魔道戦艦~連邦側のスフィンクス号と帝国側のパンター号~も会場の西と東にそれぞれ待機している。両国の捕虜ともきちんと騎士服や軍服をまとっている。どちらも捕虜宣誓している高級貴族が多いからだろう。帯剣している捕虜も多い。
貴賓席には、今回の捕虜交換式の連邦側総責任者である第2軍司令官グリーンウェル伯爵と、帝国側総責任者である皇太子親衛隊第3艦隊司令長官ホルスト中将が既に随員ともども着席している。ホルスト提督というと、僕の記憶では第一次イモータル市防衛戦で撤退の指揮をとった少将だったと思ったんだけど、どうやら出世したらしい。そのほかに、中立の立場から立会人として参加する北コロンナ合州国作戦部次長ビンソン中将の姿も見える。あと、捕虜を取った立場であり、交換会場のイモータル市の防衛責任者として、父さんも一応貴賓席の端っこの方に席をもらっている。
会場には、互いにAGも入れている。連邦側はロプロスを除く僕たち3機と殿下、姫様のペガサス2機、リュー君ともう2人訓練中の新人のドラグーン3機の計8機。帝国側は一眼巨人が8機だが、1機は額中央に角がついている。色は普通の量産型と同じ緑の塗装だが、角の位置はアインやヒカリの専用機と同じで、背嚢の大きさもヒカリの専用機と同じサイズ。たぶん、ヒカリの専用機を塗り直したんだろう。なら、乗っているのは彼女だろうな。会話を交わしてはいないし、魔力も隠蔽してあるから分からないけど、間違いはないだろう。
正午ジャスト、会場に並んだ両国軍楽隊が同時に演奏を開始する。この世界の伝統的な行進曲だ。
「ぜんたぁーい、進めぇ!」
かけ声と共に、会場の東西それぞれに並んでいた捕虜が行進を開始し、会場中央で向かい合う。
「ぜんたぁーい、止まれっ!」
「右向けぇー、右っ」
「左向けぇー、左っ」
かけ声と共に止まり、それぞれが中央の演壇を向くように向きを変える。
「敬礼!」
連邦と帝国、それぞれの敬礼が行われる。前にも説明したように連邦式の敬礼は右拳を左胸に水平に当てる形だが、帝国式は伸ばした掌を斜めに額に当てる普通の敬礼だ。
まず、立会人であるビンソン中将が登壇し、捕虜交換式開始の挨拶を述べる。体の方は鍛えられていて軍人らしいが、顔はどちらかというとやり手の官僚のように見える。作戦部次長という肩書きからすると参謀畑の人なんだろう。年齢は40代後半といったところか。
「これより、アーストリア帝国と十カ国連邦間の戦時捕虜交換式を開始する。両国が戦火を交えていることは世界の平和を思うと誠に遺憾である。しかしながら、無用な残虐行為が行われていないことは人道と騎士道の名において誠に慶賀すべきことである。今回の捕虜交換においても、お互いに名誉を守り捕虜の公正なる取り扱いが行われることを立会人として求めるものである。今後も人道と騎士道の名のもとに名誉ある戦いが行われることを期待しつつ、近い将来に平和が来たることを祈念したい。合州国暦132年8月15日、北コロンナ合州国軍中将、アラン・ビンソン」
盛大なる拍手。続けて、今度は我が十カ国連邦のグリーンウェル伯爵が登壇する。予備兵力である第2軍の司令官として国内警備と後方支援の実働部隊の指揮をとっている人だ。50代半ばのロマンスグレーで、一見すると軍人らしからぬ穏やかな風貌だが、その瞳の奥には狡猾そうな光が見える。キングランド王国の貴族や紳士とはこういう者だという典型的な例だな。
「ただ今立会人よりご指摘があったが、我が国とアーストリア帝国が戦争を行っていることは、我が国にとっても誠に遺憾である。我が国は本来、戦争を求めてはいない。しかし、宣戦布告を受けた以上は、勝利もしくは名誉ある講和のために最後まで戦い抜く覚悟である。開戦初期には準備不足により不幸にして虜囚の憂き目を見た方々もおられたが、既に我が国の戦備は整いつつある。もはや一方的な蹂躙は不可能であることは、ここにおられる帝国の捕虜の方々がよくご存じであろう。アーストリア帝国政府に対しては、捕虜の公正なる取り扱いには感謝の意を表したく思うが、同時に世界平和のために無益なる戦争の継続については真剣に考慮を促したい。この捕虜交換が和平への第一歩となることを祈念する。連邦暦96年8月15日、十カ国連邦キングランド王国正騎士、ヤークシャー伯爵、ウォルター・グリーンウェル」
また盛大なる拍手。そして、アーストリア帝国のホルスト中将が登壇する。一度戦場で声を聞いたことはあるが、姿を見るのは初めてだ。いかにも「武人」といったいかめしい風貌の人だが、年齢的には父さんと同じ30代半ばぐらいじゃなかろうか。
「本日は我が国の提案した捕虜交換にご賛同いただき、誠に感謝の念に耐えない。我が国も世界の平和については常に希求している所である。そもそも、なぜ戦争が起こるかと言えば、世界に複数の主権国家が存在するためである。人類が一つの統一された政体によって統治されていれば、戦争は永久に起きることはない。我が国の求めるところは、人類の統一された政体による永久の平和である」
中将はここで一呼吸おいてから、再び演説を続ける。
「今回の戦争は、そのための一つの手段に過ぎない。そのためには、あえて先制攻撃も行い、例え騎士道において不名誉を成し、人道の敵と誹られようとも、最終平和のためにいかなる手段の実行をも辞さない覚悟である」
それまで静まりかえっていた会場がざわめき出す。この内容は、捕虜交換の演説としてはかなり不穏当だ。
「忠勇なる我が軍捕虜の諸君! 諸君らの国家と皇太子殿下への忠誠心は誠に見事である。その勇猛にして忠実なる精神は帝国騎士の、貴族の亀鑑であり、血の献身は不朽の大業として後世まで語り継がれることであろう。安んじて瞑されよ」
…これは「帝国のために死ね」って言ってるよな。あ、コンスタンティン大公とか顔面蒼白になってるよ。
「どういう意味だ!?」
コンスタンティン大公が叫ぶ。頭の悪い人じゃなさそうだから意味は分かってるんだろうけど、認めたくないんだろうな。
「誠に遺憾ながら、大公殿下、我が国は古いアーストリアに固執する頭の固い人材を既に必要としていないのですよ。忠勇なる皆様方の席は、残念ながらもはや我が国の、いや、世界の未来には無いのです。せめて、ここで世界新秩序建設のための人柱となって令名を後世に伝えられよ」
ホルスト中将がバッサリと切り捨てると、コンスタンティン大公がその場に崩れ落ちる。それを冷たく見据えたホルスト中将は、プレス席に陣取る報道陣のカメラの方に視線を向けると、言葉を続ける。
「この様子をご覧の世界中の皆様に申し上げる。本日こそが、人類の歴史において大きな分水嶺となるであろう。刮目してご覧いただきたい」
そして、今度は連邦代表のグリーンウェル伯爵の方に向き直って言葉を続ける。
「この席を設けていただいた十カ国連邦に対しては、捕虜交換ではなく我が軍の捕らえた捕虜のみをお返しすることで謝意を表したい。また、もう一つ、先日我が軍が奪取した『大量破壊兵器』についてもお返ししよう…」
そこで一度言葉を切り、おもむろに右手を高々とさし上げて言葉を続ける。
「ただし、弾体のみ、起爆状態でだ!」
そして、右手を振り下ろしながら命令を下す。
「『スターダスト作戦』発動!! 瞬間移動」
ホルスト中将が瞬間移動の魔法で姿を消すと同時に貴賓席の随員や軍楽隊も全員が会場から瞬間移動で消える。全員ではなく近隣の人に連れられた者もいたようだが、それでもこれだけ瞬間移動できる人材を揃えていたのは凄いな。
それとほぼ同時に、会場に控えていた8機の一眼巨人が飛翔の魔法で飛び上がり、6機が中空で正六面体の陣形を組む。角付き含めた残り2機は、その正六面体の中心部に位置取る。
そして、その2機の間に現れる深紅と純白の機体、2号機! それと同時に角付きの機体から案の定フィーアの声が響き、周りの7機もそれに同調して呪文を唱える。
「同調、玻璃障壁、大嵐防壁、物理防壁、魔力防壁、耐火防壁…」
うわ、AG8機の魔力を総動員して防御系魔法をフル展開してるよ。正六面体陣形の周りに、そのまま正六面体のバリアが張られる形になってる。ちゃっかりウチの新魔法「玻璃障壁」もコピーしてるし。イモータル防御機構の全属性の防壁まで再現してるから、この壁は簡単には抜けないぞ。無理矢理瞬間移動でバリア内に飛び込むこともできるだろうが、あの狭いバリア内で護衛の2機をかわしながらライガーを破壊するような戦闘は、それこそ自爆覚悟の魔法でも撃たない限りは困難だ。もっとも、僕の考えた「新必殺技」なら何とかできるけど、ここでアレを使ってしまうと、その次のための魔力が足りなくなる。
一瞬沈黙なら止められるかとも思ったのだが、前回のことを思い出して諦める。「弾頭」は発射直前までライガー内部にしっかりと固定されている。発射用の魔道具も、弾頭自体を起爆する魔法も、ライガー内部で音声が発せられるなら起動可能だ。もう止める手立ては無いな。
「『レインボーロード作戦』開始! 迎撃しろ!」
貴賓席の父さんが命令する。
殿下と姫様のペガサスが変形して飛び上がりながら攻撃魔法を放つが、やはり玻璃障壁に阻まれる。地上からのロデムとリュー君たちドラグーン3機の結構強力な攻撃魔法も効いていない。
「トライデント・ミサイル!」
カイが得意技を放つものの、これすらも玻璃障壁の表面に傷をつけるだけで貫通すらできない。かなりの魔力を注ぎ込んで厚みを増して強化されているようだ。
それらの攻撃を、余裕を持って睥睨していたライガーだったが、まったく効いていないことを確認すると、おもむろに背部背嚢の側面に収納されていた大型魔道砲を右肩に展開する。そして魔力と発動イメージを練り始めたのだが、魔力隠蔽していないので、その魔力の異質さと大きさがこちらにも感じられる。
膨大な魔力量を誇るブレバティシリーズの中でも、魔力砲撃支援用に特化されたライガーの蓄積魔力量は特に大きい。その魔力の90%以上が練り込まれて魔法が展開されていく。あまりに膨大な魔力が集中しているので、砲口周辺の空間中の魔素が励起して勝手に魔力に変わってしまい、光の粒子を放って消えていく。それが、まるで砲口に光が集まって来るように見える。
砲口の周りに五芒星魔法陣が二重に現れ、それぞれ時計回りと反時計回りに二重反転して回転を始める。まるで魔法陣が集気ファンのように周囲の励起した魔素を砲口に吸い込んでいるかのようだ。それに合わせるかのように、砲口の光はどんどん強くなっていく。
あまりに異様な光景に、会場に集まった人々からも声が消える。まるで沈黙の魔法でもかかっているかのような音の無い世界。だが、それはライガーの魔力が練り終わると同時に、普段の声とは異なる熱く最上級に気合いの入った叫び声に打ち砕かれる。
「人類救済のために! 世界統一の理想を掲げるために! イモータルよ、あたしは帰ってきたぁっ!! 食らえぇぇぇぇっ、水素熱核融合!!!」
次の瞬間、砲口から強烈な光を放つ光弾が発射された。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




