第11話 ライガー強奪 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「休暇中に偶然マーサと出会い、デートっぽく昼食を取るノゾミ。そこに変装したフィーア少尉が現れる。意図を探るためフィーアをデートに誘ったノゾミだったが、ごく普通に楽しいデートになってしまったことに困惑を隠せない。だが、ヒカリも姿を現してAGを呼び出し、対抗してドラゴンを呼ぼうとしたノゾミがリモコンを取り出したものの、それをフィーアに奪われてしまう。リモコン無しでもドラゴンを呼び出してヒカリと戦うノゾミだったが、ヒカリは他人にバレないよう演武の型を演じながら次の作戦の情報を伝えてくる。『スターダスト作戦』という名前から作戦内容を読んだノゾミを残してヒカリは撤退するのであった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「ありがとうございました」
頭を下げる。当然だろう。最新の研究成果を頂いてしまったのだから。ここはエリア51~国立第5魔法研究所第1研究室~。新エネルギー研究でも主に核分裂を研究している所だ。以前に「愚者の石」~ウラン235~を取りに来た事がある。
「不完全な成果で申し訳ない」
それなのに謝ってきたのは、所長のサイラス博士。謙遜ではない。彼らが、そして僕たちが必要としている「完全な効果」はまだ達成できていないのだ。だが、まったく無いよりはよっぽどマシだ。
「いえいえ、これだけでも十分に助かります」
「早く、完全な効果を得られる魔法を開発したい。そうすれば危険度は随分と減る」
「ええ。でも、これだけでも、とりあえず一時阻止はできます。そこから先は、また別の方法を考えますよ」
「頼む。だが、本当にアレを実戦投入する気なのか、帝国は?」
「やる、でしょうね。デモンストレーションとして。そして、それを阻止しろということでしょう。そこまで含めて、デモンストレーションだと。だけど、真剣勝負でもあります。阻止に失敗したら、無駄に人が死ぬ事になる」
「嫌な事だ。だが『次』のためには、やむを得ない荒療治なのだろうな。絶対に阻止する必要がある。頼むよ。シュン君に、お父上に、よろしく伝えてくれ」
「はい。博士もお元気で。本当にありがとうございました」
改めてお礼を言って、研究室を後にする。建物の外に出ると、ブレバティのリモコンを取り出して父さんを呼び出す。この前フィーアに盗られたのと同型のリモコンだが、これは本当はヒカリの持ち物だったんだ。ヒカリがリヒトに誘拐された時には持っておらず、ライガーのコクピットに残されていた。盗られたリモコンの代わりとして僕が使わせてもらっている。
別に遠話の魔法なんて、この前やったように自分で使っても大した魔力は消費しない。それにも関わらず魔道具が作られているのは、単に面倒だからだ。遠話の魔法の場合はイメージ化をしっかりと行って、自分で相手の魔力周波数に合わせる必要がある。前世の電話に例えると自力で電話番号を全部入力するようなものだ。それに対して魔道具の通信機なら、連絡先を記憶させておけば、それを呼び出すだけで済む。電話帳機能付きの携帯電話と同じだね。
「よう、どうだった?」
すぐにつながって、父さんが返事をする。
「成果は半分だね。やっぱり、これだけだと足りない。プランBまで必要だ。予定通りエリア32とエリア41にも協力を頼みたいんで、連絡してくれるかな?」
「そうか、やはり『効果の永続化』まではできていなかったか。分かった、もう両方とも下話はしてあるから、これからアポを取る。直接回って大丈夫なようなら、連絡する。とりあえず飯でも食って待ってろ」
「了解」
遠話を切って、研究所の職員食堂の方に向かいながら、今度はクーを呼び出す。ここに来るのにロプロスに同乗させてもらったのだ。一緒に来られて喜んでいたな。
「終わったよ。次はエリア32か41に回ることになるかもしれないんで、先に食事をしよう。職員食堂に来てくれ」
「あ、お疲れ~。って、また別の所に回るの? 32は火魔法で41は風魔法だっけ?」
第3研究所は火と光、第4研究所は風と雷の属性魔法の研究を担当している。次に必要なのは複合魔道具だから、それぞれの成果を分けてもらうことになる。
「ああ、今度の所では、クーも話を聞いてもらうよ。たぶん、実際に使うのはクーになるはずだからね」
「え? ボクが?」
「正確には、ロプロスに搭載することになるだろうね。ペガサスじゃあ魔力量も頑丈さも足りない」
「何をしなきゃいけないのさ?」
疑問に思うのは当然だろう。詳しいことは、あっちに行ってから話すことにして、今はこれだけ言っておこうか。
「そうだね、空の彼方まで駆け上がってもらうことになるかな」
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「組み立て自体はもう終わるが、テストと微調整もしなきゃならん。あと1週間は必要だ」
父さんが渋い顔をしながら作業の進捗状況を見ている。ここは魔像研究所の工場だ。エリア32と41の協力を得て最新鋭の魔法陣を組み込んだ魔道具が組み立てられている。オリハルコリウム製の全長10メートルを超える円筒形の物体。完成すればロプロスの追加装備になる。
「それにしても、こんな物を準備して対抗する作戦の名前が『スターダスト』だと、まるで作戦内容が『人類初の有人月面探査』みたいだな」
父さんが前世ネタのギャグを飛ばす。あんた、そんなモンまで知ってるのかよ?
「『○ペ教徒』だったとは知らなかったな」
「脱会信者だ。100巻まで保たなかったぞ」
「僕は一応250巻までは行ってたな」
「…よくそこまで保ったな」
前世じゃ人類史上最長のSFリレー小説だったんだよなあ。いいや、前世の話はもうやめよう。
「あと1週間か。クーはそっちにかかり切りになるな」
「まあ、ペガサスも2機体制になったから、ロプロスが抜けてもシフトは何とかなるだろう」
「ヤマダさんはともかく、姫様はいまいち心配なんだけどね」
今後の警戒シフトのことを話し合いながら、反対側も見やる。そこでは弐号機が整備を受けている。こっちも考えなきゃいけない。
「アレのテスト準備は?」
「こっちは万端だ。いつでもできるが、場所の方がな」
「それだよなあ」
アレをテストするのに適切な場所が無いのだ。国内の砂漠には適当な場所がない。いや、1か所だけ、あることはあるのだが、そこは赤道直下で将来的には別の用途に使いたい場所なので、今「実験場」には使えないのだ。海はあるが、近海だと漁業に影響が出る。十カ国連邦には遠洋の離島領土がない。キングランド王国やアリアンサ連合王国は昔は結構保有していたのだが、南北コロンナ大陸が独立したときに、全部持って行かれてしまったのだ。このため領海内にはテストに適当な場所がないのだ。かといって、公海でこんな危険な実験をするのは国際法上の問題がある。先にテストできてしまえば、ヒカリの「スターダスト作戦」はそれだけでつぶせるのだが、適当な場所がないのだ。
「かといってテスト自体を『無かったこと』にするワケには…」
「いかんのだ。『次』を見据えると、な」
そう。テスト自体は早急に行う必要がある。「次」の「敵」、本当に危険な奴らが来る前に。
「一応、ライガーに登録されていたヒカリの認証はリセットした。パイロットにはお前を登録し直してある。これだけでも『スターダスト作戦』をつぶせるんじゃないかという気はするが」
父さんが話題を変える。認証については、まあ当然の措置だろう。だけど、この程度でヒカリの作戦を阻止できるとは思えない。
「そこまで甘くはないだろう。いちいち言ってくるぐらいだ、その程度は想定済みだろうな」
「だろうな。だが、形だけでもお前をライガーのパイロットにできて良かったのかとも思っているんだ。実はな、ライガーを誰に任せるかは、最後まで悩んでたんでな」
うん、どういう意味だ?
「能力から言えば、万能型のお前にドラゴンを任せて、魔法火力型のヒカリにライガーを任せるのが適切だろう。実際にもそうした。だがな、ヒカリにライガーを任せていいものか、ずっと悩んではいたんだ。ライガーは『2号機』だ。他の機能はともかく、アレは重荷だからな」
父さんの説明を聞いて納得する。
「そういう事か。僕なら『耐えられる』と」
「ああ。お前には前世記憶がある。人格は変わっているとは言っても、その人生経験はまっさらの14歳に比べれば大きい。だが、ヒカリは、いくら魔法能力は高くても人生経験は追加なしの、ただの14歳。まだ未成年だ」
「確かに、ね。僕にだって重荷ではあるよ、アレの引き金を握るってのは」
いや、むしろ重いのかもしれない。前世での実戦使用の記録を知っているからこそ。だが…
「だけど、ヒカリはあえてライガーを自分の手に取り戻そうとしてる。アレも含めて、ね」
「その重さを分かっているんだろうか、あいつは?」
父さんの疑問に、僕は答えられなかった。
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「捕虜交換交渉が成立したぁ!?」
カイの声がブリーフィングルーム中に響き渡る。だが、僕も声にこそ出していないものの気持ちは同じだ。いや、ブリーフィングルームに集まっている他のメンバー、ウチの両親と殿下、クー、リーベも同様だろう。それほど意外な知らせではある。
「ああ、1週間後にな。それもイモータルでだ」
さらなる情報を追加する父さん。渋い顔をしているのも当然だな。
「早っ! それに、国境じゃなくてイモータルでなのか?」
意外に思って問い返したのだが、父さんはうなずいて肯定を示し、愚痴のように続ける。
「それも、両国だけじゃなくて世界各国の報道機関を招いて交換式をやるそうだ。正直、統合参謀本部が、いや十人委員会が何を考えているのか、サッパリ分からん」
「こんな話は、私も聞いていません」
殿下も不審そうに話す。皇太子として国家戦略については皇王陛下に知らされることも多いはず。それでも聞いていないというのは、どういう事か?
報道機関を招いて交換式を見せるなら、確かに何も無い国境の爆心地よりはイモータル市の方がいいだろうが…ん、報道機関に見せる?
あ! 一点思い当たることがあった。
「それじゃあ、これは偽装か?」
「偽装?」
「本当は捕虜交換なんてする気が無いってこと。この式典が『スターダスト作戦』の標的さ」
「なるほど。戦時中に『観艦式』なんぞやってる余裕はないからな」
僕の言葉に父さんが納得したようにうなずいてから、ある事に気付いたのかギョッとした顔になる。その顔を見て、僕は他の人に対して説明を続ける。
「つまり、統合参謀本部は『スターダスト作戦』に乗る事に決めたということになる」
そして、父さんの方を見て尋ねる。
「手加減の指示は?」
「ない」
父さんの答えはシンプルだ。なら、やることは変わらない。
「それなら、僕たちのやることは『スターダスト作戦』阻止で変わらない。敵はまずアレを奪うことを第一段階作戦としてくるはずだ。そこさえ阻止すれば『スターダスト作戦』は頓挫する。捕虜交換式がドタキャンになるだけで終わりだ。捕虜交換が1週間後というなら、ここ数日が山になるだろう。格納庫、特にライガーに厳重な警戒を。誰もライガーに近づけさせないことだ」
「ライガーを分解整備しちゃえば?」
クーが提案してくる。ライガー自体を盗まれないためには、それがベストなんだけど…
「肝心のアレの本体を盗まれる危険性が高まる」
「そっか、ライガーの中にある方が安全か」
「ライガー自体を動かせなければ、全高18メートルのライガーその物が目立つ重荷だ。直径1メートルのアレ本体よりも盗みにくい」
「ヒカリの認証は解除したのよね?」
今度はリーベが聞いてくる。
「している。だから、動かせるのは新たに認証登録をした僕だけだ」
僕が答える。それに、さらに父さんが補足する。
「それと、何らかの方法で認証を解除された時の用心に、誰も認証されていない状態だと本起動ができない設定にもしてある。これはライガーだけじゃなくて、今のウチのAG全機がその状態だ。ドラグーンやペガサスもそうだ」
一度言葉を切って、さらに続ける。
「ヒカリもノゾミも俺の手伝いをしてるから色々と変な魔法を知ってるが、認証を解除する魔法も、登録し直す魔法も教えていない」
「だから、ライガー強奪で心配するのは、敵AGによる強襲。こっちも常時1機は起動状態で警戒するシフトを組む必要があるだろう。瞬間移動は予兆があるから、感知したら即座にライガーに貼り付く。僕がライガーに乗り込むまで止められれば、それで阻止は可能なはずだ」
父さんの言葉に続けて、僕の考えた対策案を話す。
「それじゃあ、姫様やリュー君も含めてシフトを組みましょうね~」
母さんの言葉に、一点だけ訂正を入れる。
「クーはシフトから除いておいて。万一にも盗まれた時には、ロプロスが阻止の切り札になるんで、そっちの準備も続けておく必要がある」
「まだ、あの追加装備の準備も必要なんだ…」
嫌そうに言うクー。最近は追加装備の準備にかかりっきりだからな。
「第一段階で阻止できなかった時に慌てないように準備しておく必要があるのさ。僕の方も練習しなきゃな」
せっかくエリア51の最新魔法を教えてもらったのだから、肝心の僕が失敗するワケにはいかない。そうか、第二段階まで行ったら報道機関も居るんだから、派手に決めないといけないんだな。ちょっと演出の方も凝ってみるか。
「というわけで、準備の続きだ。クー、行くぞ」
「うぇ~」
嫌そうな顔をしながらも、僕に続いて席を立つクー。おーい、ズボンの尻尾穴~獣人用のズボンやスカートには大抵存在する~から出てる尻尾が嬉しそうに振れてるぞ。何のかんのと言いつつも、僕と一緒に作業できるのは嬉しいらしい。が、ここでツッコむと自爆にしかならないから知らんぷりをしておこうか。
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特に襲撃もなく1日が過ぎた。クーの方の追加装備の調整は明日には終わるだろう。僕の練習も順調に進んで、魔法の発動自体は完全にできるようになった。大規模にして発動する実験も終わったから、あとはイメージトレーニングを続ければいい。
明日はシフト的には休暇だけど、この状況だと市街地で気分転換とはいかないだろうな。前回みたいにデートなんて出来るわけもない。いつでも格納庫に行ける準備はしておいて、家か研究所の休憩室でマーサさんに借りた本でも読んでいようか。この前の本以外にも、結構いろいろなシリーズを持ってたんで借りたんだ。…野郎一人で少女向け恋愛小説を読んで休日を潰すとか、何てむなしい青春だ。これじゃ前世と変わらないじゃないか! おのれヒカリめ!! …せめて今度マーサさんとデートするためのレストランでもピックアップしておこうかな。
うん? すぐ近くの廊下の隅で遠話の魔法が発動したぞ。誰だ、こんな所で遠話してるのは?
おや、アンナじゃないか。ヘルム男爵家のメイド長だ。年の頃は40代で、美人ではないが愛嬌のある顔とやさしい雰囲気の持ち主で、人柄が良い。僕たち兄妹にとっては、忙しい両親の代わりにいろいろ面倒をみてもらった乳母でもある。
あ、乳母って言っても、母乳をもらったワケじゃないぞ。ほ乳瓶も粉ミルクもこの世界にはきちんとあるんだからね。出が悪かったのか、母さんの母乳すら飲んだことないんだから。だから、赤ん坊時点から記憶がある転生物のお約束「美人のお母さんのおっぱい」は未経験なんだよ、ド畜生!
ついでに言うと、お風呂はベビーバスだったし、それを卒業したら入浴係は父さんの担当になったんで母さんと一緒にお風呂に入ったことは一度もない。ヒカリと一緒に入ってたのは10歳前までだから、ご幼少のみぎりのつるぺたヌードしか見たことはない。いや、どっちも家族なんだから、変なことを思ったりはしないよ。しないってば!
コホン。アンナに話を戻すと、最近はすっかりイモータルの別宅住まいになってしまったんで、執事のアルフレッドともどもピュアウォーターの本宅からこっちに移ってきているのだ。にしても、普通は研究所には来ない人なんだが、父さんか母さんに届け物でもあるのかな? それでも館内で遠話をかける必要はないだろうに。
遠話が終わったら声をかけようと近づいていくと、ちょうど話し始めた所だったのだが…
「こちらバルフィッシュ」
何だと!? おいおい「スターダスト作戦」の元ネタに出てくる潜入スパイのコードネームじゃないか。
「…というのは、何か意味があるのですか、お嬢様?」
!! アンナがお嬢様なんて呼ぶ相手は2人しかいない。こんな会話をツバメとするはずがないから、相手はあいつしかいない。
「アンナ、ヒカリはどこにいる!?」
「あ、お坊ちゃま。お嬢様なら、すぐ近くにいらっしゃるみたいですよ?」
勢い込んで尋ねたのだが、いつも通りののんびりとした返事が返ってきた。遠話すれば大まかな相手の居場所くらいは分かるんだが、すぐ近くだと? ちょっとマズいが、あいつがアンナに何をさせたのかも知る必要がある。
「何でヒカリと話しているんだ? 何を話しているんだ? 何か頼まれたことはあるのか?」
矢継ぎ早に尋ねる僕に、目を白黒させながらも落ち着いて答えてくれるアンナ。
「先々週の土曜日に、久しぶりに会いたいと呼び出されて遊園地でお会いしたんですよ。それで、今日のこの時間に、お坊ちゃまのすぐ側で遠話をかけて、今の何だか分からないお魚の名前を言ってくれ、って頼まれたんですけどね。あら?」
「どうした?」
「切れちゃいましたわ。お坊ちゃまによろしく、とだけおっしゃって。何だったんでしょう?」
先々週の土曜日は、例のコスプレ大作戦のあった日だ。そうか、あの作戦の真の目的は、あいつ自身がアンナと接触することだったのか。リモコン奪取だけじゃなくて、その間に僕を足止めしておくのもフィーアの任務だったワケだ。だが、接触して何を頼んだんだ? この連絡だけじゃあるまい。
「他に何か遊園地で頼まれたことはあったか?」
「お坊ちゃまの持ってる『リモコン』とかいう道具の魔力周波数を教えて欲しいとおっしゃってましたけど」
「なぬ!?」
「この前、お坊ちゃまがお風呂の時に衣類を交換する際にちょっと拝見して、お嬢様にお伝えしてしまったんですけど、何か問題でもございましたか?」
「いや、それくらいなら問題はないが…」
心配そうに聞くアンナ。口ではこう答えたものの、ちょっとマズいかもしれない。いや、アンナは別に悪くない。アンナにとっては、ヒカリは「ウチのお嬢様」でしかない。心配するといけないから帝国との出来レースの話は、父さんからしてあるはずだ。だから、ヒカリからの指示には素直に従ってしまうのも無理はない。
だが、僕のリモコンの魔力周波数を知って何になる? 元々ヒカリ用だったんだからよく分かっているだろうに。いや、僕がヒカリ用だったヤツを使っていることを確認したかったのか?
と、その時館内に警報が鳴り響き、緊急放送が入った。
「総員、第一種戦闘配置、繰り返す、総員、第一種戦闘配置」
マーサさんの声だ。さらに警告を続けたのだが…
「敵の工作員が潜入した。敵工作員はノゾミさんに変装している可能性が高い。格納庫以外でノゾミさんを見かけたら、すぐに報告するように」
「何ぃ!?」
やられた! ヒカリのヤツめ!!
恐らく、手品の種はリモコンだ。人間の場合は固有魔力周波数を変えることはできないが、通信魔道具の周波数は変えられる。あいつは盗んだリモコンの周波数を、今僕が使っているリモコンの周波数~元々があいつの持ち物な上に、念を入れてアンナに確認までさせている~に変更した上で、それを使って僕のふりをしてマーサさんに連絡したんだろう。声くらい魔法で簡単に変えられるし、あいつは僕の真似ならお手の物だろう。
「お坊ちゃま?」
「アンナ、すぐに屋敷に戻れ。僕はヒカリに用がある。瞬間移動」
何だかワケが分かっていないアンナに言い置くと、格納庫へ瞬間移動する。間に合うか?
「拘束!」
格納庫に転移した瞬間、魔法が襲ってきた。体を動かせなくなる。転移反応を感知して準備してたな。だが、この声はヒカリじゃなくて…
「姫様! 偽物はあっちです! 魔力を調べてください!」
咄嗟に叫ぶ。人間に限らず、この世界の生物の持つ魔力周波数は固有のものだ。前世の指紋と同じで個体識別に使える。そして、今の僕は魔力隠蔽をかけていないから、魔力感知で簡単に識別できるはずだ。
「え?」
一瞬ぽかんとしてから、慌ててライガーの方を振り返る姫様。
そこには、ライガーのコクピットに乗り込もうとしている僕の姿があった。当然、魔力隠蔽して魔力を隠蔽しているので僕からは感知できなかったが、あいつの方は僕がどこに居るか、双子の感応能力でずっと分かっていたはずだ。アンナに僕の居場所の確認を頼んだのは、僕が魔力隠蔽している場合に備えた保険だろう。
十カ国連邦の白い正騎士服をビシッと着こなしている。女顔だが黒い短髪と父さん似の鋭い眼、そして女とは違う厚い胸板。誰がどう見ても僕自身だった。僕と姫様を振り返りながら、口を開く。
「もう来たか。なら変装は無用だね」
その声も、話し方さえも、僕とまったく変わらない。やはり声は魔法で変えているんだろうが、話し方なんかもそっくりだ。まったく芸達者なヤツだよ。
だが、次の瞬間、その姿が変わる。劇的に、ではない。身長は変わらない。服装も髪型も同じだ。胸元も締め付けているのか、女性的な膨らみはない。だが、足もとは普通の革靴だったのが上げ底のブーツに変わっている。そして何より、眼が母さんと同じ形に変わっている。幻影を解いたのだろう。きちんと変装した上で、最低限の部分だけ幻影で誤魔化していたな。
正体を現したヒカリが叫ぶ。
「おにいさま、あたしのライガーを返していただきますわよ! 『初期化』!!」
次の瞬間、ヒカリのライガーを中心として、格納庫の床に五芒星魔法陣が現れ、そのまま拡大する。この魔法は!?
「まずいっ!」
急いでドラゴンに向かおうとするが、まだ姫様の拘束が解けずに動けない!
「姫様、拘束を解いて!!」
「あっ、はい」
ようやく拘束が解かれたが、既に魔法陣は格納庫全体に広がっていた。ドラゴンを始め、ポセイドンもロデムも2機のペガサスも、格納庫内のAGは全機がその範囲内に入っている。と、その魔法陣から光が吹き上がり、格納庫全体を包み込んでいく。
その光の中心から、クスクス笑いと共にヒカリの声が聞こえる。
「これで、全機の認証は初期化されましたわ」
「それで勝ったと思うな! 認証が無ければ動かせないように仕様変更したんだ!! 飛翔!」
飛び上がりながらヒカリに言い返すが…
「想定済みですわよ。『入力』『認証、ヒカリ・ヘルム』」
ライガーのコクピットに乗り込んだヒカリが、さらに魔法を唱える。これは!?
「その魔法、どうして!?」
「フィーアのお父さまも、ウチのお父さまと同じ『紙一重の天才』ですわよ」
クソっ、初期化どころか再入力の魔法まで身につけてやがった! 確かにガーランド伯なら、そういう魔法を知ってるだろうし、ヒカリなら一発で使い方を覚えられるだろうよ。
「さすがだな『天才ヒカリちゃん』!」
「…幼い頃の古傷をえぐるのはやめていただけませんこと」
天才つながりで思い出したのだが、小さい頃は、こんな風に自称していたのだ、こいつは。してやられた腹いせに、この程度の意趣返しはしてもいいだろう。
「さあ、行きますわよライガー!」
高らかに叫ぶヒカリ。テンションが上がって珍しく感情的だ。
その声と共に、ライガーの目がギン! と光り、コクピットハッチが閉じると同時に足を踏み出した。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




