表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/55

第8話 黒い指令 愚者の石略奪作戦 Bパート

アイキャッチ


「神鋼魔像、ブレバティ!」

「敵機発見、本隊前方約1キロメートル!」


「「魔力防壁(マジック・シールド)物理防壁(フィジカル・シールド)」」


 即座に全車が停止し、僕とカイは防御魔法をかけながらカバーを引きはがすとAG輸送車の上に立ち上がる。と同時に、前方1キロのあたりの道の両脇に突如として一眼巨兵(サイクロプス)が現れる。魔力隠蔽(シール・マジック)幻影(イリュージョン)、それに魔力波散乱(マジック・デフューズ)~魔力波を乱反射させて魔力波探知機を無効化する魔法~を使って隠れていたな。


 もっとも、同じことはリーベのロデムもやっていた。待ち伏せしていた敵機と異なり、リーベは輸送隊の前方1キロのあたりを先行して警戒していたワケだが、それが功を奏したわけだ。既に2機の敵機を屠ったロデムが、残りの敵機を警戒しながら、こちらに駆け戻ってくる。


「敵機数15、距離930メートル、こちらに向けて…」


 通信機から聞こえてきたマーサさんの声が、雑音によって聞こえなくなる。敵が魔力波妨害(ジャミング)をかけてきたのだろう。魔力消費を増やして妨害範囲を広げているな。


魔力波妨害(ジャミング)されたので音声指示に切り替えます。敵機は飛行して接近開始」


 拡声(スピーカー)をかけたマーサさんの声が指揮車から聞こえる。こうした事態は想定されていたので、今回はリンは来ていないのだ。


 敵機の総数は15機だそうだが、その中に赤と白のAGの姿は()()。敵機は一気に距離を詰めようと一斉に飛翔(フライト)の魔法をかけて飛び上がった。だが、そこに…


超音速飛翔スーパーソニック・フライト! 爆炎付与(バーニング)! いっくよぉ~、ファイヤーバード・アタァーック!!」


 クーのかけ声と共に、炎に包まれたロプロスが天空から降ってきた。今回は加速時間が短いせいか、超音速飛翔スーパーソニック・フライトをかけているにもかかわらず超音速までは加速できていない。だが、それでも背後から敵部隊を強行突破すると、4機の敵機が胸のあたりを真っ二つにされて落下する。が、先にロデムに破壊された2機と同様に、すぐ瞬間移動(テレポート)で消える。前回と同じで瞬間移動(テレポート)を使えるメンバーのみで構成されている部隊のようだ。


「ロデムとロプロスは索敵任務を解除、本隊の護衛に回ってください」


「了解」


「了解、飛翔(フライト)変形(トランスフォーム)


 マーサさんからの指示に、リーベとクーが答える。リーベは戻る途中だが、クーはすぐに速度を落とすと魔像(ゴーレム)形態に変形し、僕たちの側に降り立つ。ロプロスは警備計画では残り100キロ地点に近づいたあたりからやはり魔力隠蔽(シール・マジック)幻影(イリュージョン)魔力波散乱(マジック・デフューズ)をかけた上で巡航速度で上空警戒を始めることになっていた。だから、戦闘開始前にはそんなに魔力を消費していないにせよ、一度ファイヤーバード・アタックを仕掛けたのでかなり魔力残量は減っているはず。今回の作戦目的は敵の撃滅ではなく「愚者の石」を守り切ることなのだから、残りの魔力は温存した方がいい。


 待ち伏せしている相手の奇襲をつぶして、こちらの奇襲で6機倒せたのはまずまずだな。敵の残機数は11。3対1でかかってくるにも足りない。AGの性能差を考えると、敵としては安心できる数値じゃあない。だが、ヒカリの姿が見えないのが気になる。あいつは、いつ姿を見せる積もりだ?


 全員が格闘武器を抜いて魔力付与(エンチャント)をかけ、輸送車の周囲を固める。敵も魔法は撃ってこない。目的が「愚者の石」という危険物の奪取である以上、うかつな攻撃魔法は撃てないのだ。だが、こっちからは撃てる。


魔力散弾(マジック・ショット)連続発射(ガトリング)


 編隊飛行で接近中のAG部隊に向けて、魔力防壁(マジック・シールド)を張った状態のミスリウム合金でも破壊できるだけの魔力を込めて魔力弾を20発近く乱射する。さすがにこれなら避けきれず何体かは破壊できるだろうと思ったのだが…


瞬間移動(テレポート)


 何と、全機瞬間移動(テレポート)で我々の周りに瞬時に転移してきたのだ。おかげで僕の魔力弾は全部空を切り、魔力をだいぶ無駄にしてしまった…ように見えるだろう。


「どうだ、ノゾミ・ヘルム!」


 案の定、僕に斬りかかってきたのはフィーア少尉だ。彼女の槍斧(ハルバード)をドラゴン・ブレードで受け止めながら、同時に左側から斬りかかってきたもう1機のAGの槍斧(ハルバード)は、左腕についているドラゴンの爪で受ける。最初は飾りかと思っていたのだが、武器としての機能もついていたのだ。そしてもう1機AGがいて、僕に腕を向けると呪文を唱え…


魔力(マジック)…」


 バガン!!


 そのAGの胸に大きな風穴が空き、呪文が途切れる。左手側のAGの胸にも穴が空いており、周りに転移してきて、カイたちと斬り合っているAGの大半が同じことになっている。


「おのれぇっ!!」


 叫びながら咄嗟に飛びすさったフィーア少尉のほかに3機のAGだけが、()()からの魔力弾の直撃を避けている。


 そう、空撃ちになったはずの僕の魔力弾を、転移してきた連中を背後から狙うように誘導したのだ。これだけの数を誘導するのは少しイメージ操作が大変だったが、できないワケじゃない。斬り合い中にそれを避けるのだから、フィーア少尉やほかの3機はなかなかの腕のようだ。この4発は、もう結構長く飛翔している。仮に命中しても威力がだいぶ落ちるだろうから、そのまま誘導放棄して明後日の方向に飛ばす。ヒカリがどこから出てくるか分からない状態の時に、あまり威力の期待できない攻撃に集中しているワケにもいかないしね。


 他のメンバーの様子を見てみると、カイは問題なく2体をあしらい、クーは双刀で2体と渡り合っていたようだ。リーベは戻る途中だったが、相手の転移を見て即座に瞬間移動(テレポート)し、輸送車を狙ったAGを1機背後から撃破している。


 いずれにせよ、胸の魔道エンジンを破壊されたAGは即座に転移して消えたので、残りは4機。これなら守り切るのに問題は無い、と思っていたのだが…


「地中に音響と熱源を感知!」


「飛べっ!!」


 マーサさんが叫ぶのを聞いて咄嗟に飛び上がったのだが…


闇刃(ダーク・カッター)


 一緒に飛べたのはクーのみ。地面から黒い影が走り、ポセイドンとロデムの足を斬り飛ばす。そして、地中から伸びた深紅と白の腕がしっかりと輸送車をつかむ。


潜地(グラウンド・ハイド)か!?」


 地中に潜み、移動する地属性魔法。マイナーな魔法だが待ち伏せや奇襲には最適だ。もっとも、地中にいる間は体が半分土と同化しているので、瞬間移動(テレポート)などは使えない。また、抵抗はあるので移動速度が遅くなるのと、その抵抗が摩擦を生むらしく少し体表温度が上がるので、温度感知(サーモグラフ)には感知されやすい。こんな魔法を使いこなすとは、さすが魔法マニアのヒカリだ。僕も一応は使えるが、こんな作戦を実際にやりたいと思うほど上手じゃない。


 そして、攻撃に闇刃(ダーク・カッター)を選ぶあたりもマニアックだ。一般に攻撃力が低いとされる闇魔法だがそれは大抵の戦闘は明るい中で戦われるからだ。闇魔法は光の中を飛ぶだけで攻撃力が減衰するので、地中や夜間のような光無き世界での攻撃の場合は威力を落とさずに攻撃できる。今回のように地下からの奇襲なら、光の中に出る時間は極小なので威力は落ちない。普通は攻撃に使ってきたりしないから、耐闇防壁(ダーク・シールド)なんて張ってる事はほとんどないので、意外に効果的なのだ。


「フィーア、すみません。タイミングが遅れました」


「回避のため瞬間移動(テレポート)したのは我々です。ヒカリ様のせいではありません」


 なるほど、本来は地上部隊との同時攻撃を狙っていたのが、僕の魔力弾を回避するために瞬間移動(テレポート)した上の部隊の方が先に攻撃をしかけてしまったということか。同時に攻撃されてたら、かなりヤバかったから助かったと言うべきだろう。


 だが、今もピンチである事に変わりない。今はまだヒカリのAGは上半身だけしか地面から出ていないが、全身が地面から抜けたらすぐ瞬間移動(テレポート)して逃げられるだろう。残り4機が魔力波妨害(ジャミング)をかけているので追跡(トレース)もできない。攻撃魔法は輸送車を巻き込む危険性がある。地面を抜け出す前に斬るしかないが…


「邪魔はさせんぞ!」


 それを阻止しようとフィーア少尉が斬りかかってくる。かわすことはできたが、そのために少しヒカリとの距離が開いてしまう。


「ヒカリお嬢様、おやめください!」


「あら、マークではありませんか。大人しくしていてくださいね。我が家の忠勇なる従騎士ですもの、捕虜にしても粗略にはあつかいませんわ」


 輸送車の中からマークがヒカリに呼びかけるが、ヒカリも聞きはしない。やむを得ない、少し危険だが…


「ドラゴンクローロケット!」


 僕が魔道具使用のキーワードを口にすると、ドラゴンの左腕が半ばから切り離され、炎を吹きながら飛び出す。同時に、腕についていた爪が拳の甲を覆うようにせり出す。そう、いわゆるロケットパンチなのである。それも、ただ殴るだけでなく、ドラゴンの爪が拳の甲を覆って拳の前に出る形になるので貫通攻撃力が上がっている…のだが、はっきり言って使い物にならない武器なのだ。


 実のところ、使い物にならない理由は、父さんが「ロケット」パンチにこだわってしまったからなのである。ロケット推進というのは、()()()()()のだ。前世で某公園前の交番のお巡りさんが主人公の漫画を読んだことがあるのだが、その初期の頃の作品に「ジャイロジェット」という拳銃が出てきたことがある。これは、拳銃のくせに弾丸がロケット弾なのだ。そのため、反動が少なく、軽い銃になっている。その反面欠点も多く、最大のものが初速が遅いことなのである。何しろ、主人公のお巡りさんがロッカーに至近距離から撃ち込んだ弾が、あっさりとはじかれてしまったのだ。もっとも、これは漫画的誇張というヤツかもしれないが。


 ロケットであるから、噴射して飛ぶ。徐々に加速するので、速度は推進剤を使い切った瞬間が一番速くなる。つまり、発射した瞬間は速度が遅いのだ。それこそ、ロッカーにはじかれてしまうくらいに。そして、このドラゴンクローロケットも、まったく同じ欠点を抱えているのだ。


 初速が遅いので奇襲武器としては使いにくい。至近距離では威力が出るほど速度が上がらない。距離を取って撃てば加速して威力が上がるのだが、そうすると今度は大嵐防壁(テンペスト・シールド)で完全に避けられてしまう。誘導は可能なのだが、命中直前で移動ベクトルを変える大嵐防壁(テンペスト・シールド)相手では意味がない。せめて、前にリヒトが使ったように、爆発の反動などを利用する方式なら初速も上げられるので奇襲武器としての意味もあるのだが、ロケットではそうもいかない。しかも、腕の部分に蓄えられている魔力は、推進用の憤進(ロケット)の魔法に使われてしまうので、飛ばした腕を起点に魔力消費の大きい強力な魔法を使うことはできず、当たった瞬間に魔力撃を仕掛けても流し込める量は大したことがないので、本当に運動エネルギー分の打撃力しか期待できないのである。


 だが、今のような場合は、その欠点が役に立つ。飛ばされた左腕は、ヒカリのAGがつかんでいる輸送車を狙って飛び、ドラゴンの爪を突き立てるのではなく、その側面をつかむ。初速が遅いので輸送車にダメージを与えずにつかめる。


 推進力が強ければ、そのまま輸送車をもぎ取って飛ばすことも可能なのだろうが、そこまでの力はない。残った魔力量では、ミスリウム合金を破壊できるだけの()()魔法は放てない。しかし…


閃光(フラッシュ)! 瞬間移動(テレポート)


「あっ!?」


 ドラゴンクローロケットを起点にして瞬間的に強烈な光を放つ目つぶしの魔法を放つ。これは消費魔力量が少ないから使えるのだ。珍しくうろたえた声をあげるヒカリ。そして同時に転移して…


 ザン!!


 ほぼ全身が地上に出た状態のヒカリのAGの前に現れると、ドラゴン・ブレードで横殴りに斬りつける。右腕一本なので両手で斬るほどの威力はないが、それでも魔力付与(エンチャント)しているのでミスリウムなら斬れる。輸送車を持つ腕を斬り、そのまま胸の上の方を横一文字に叩き斬ろうとしたが…


 ガッ!!


 背嚢に刃が引っかかる。この感触は以前にドライの盾についていた炭素結晶! そうか、ヒカリのAGは専用機で魔力量が通常の一眼巨兵(サイクロプス)の2倍とか言っていたが、背嚢部に畜魔力の高い炭素結晶を大量に搭載していたのか。だが!!


「どぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 気合いと共に、ドラゴン・ブレードに機体の残留魔力の3割近い量の魔力を流し込み、魔力撃にする。カイが得意にしているのに対して、僕はむしろ苦手にしていた技だったのだが、この前の戦闘で意外に実戦での威力があるのを見て、ここ数日練習していたのだ。


 よく考えてみれば、こうして相手に傷を与えた後に使えば、防壁(シールド)系の魔法の防御力は既に突破しているのだから、投入した魔力がそのまま攻撃力として上乗せさせるので、かなり有効な技になるのだ。本気では魔力を流さない模擬戦だと気付かないポイントだった。カイが魔獣相手に使ってるのは見てたけど、魔獣は防壁(シールド)なんて使わないしね。


 大量の魔力を吸ったドラゴン・ブレードは強烈な光を放ちながら、炭素結晶を砕いて紅白のAGの胸を水平に両断していく。そこで、ふと閃いた。


「ドラゴン・ブレード、牙竜一文字斬(がりゅういちもんじぎ)りっ!!」


 完全に切断して、残心の構えをとりつつ叫ぶ。それに対して…


「ぬかったッ!」


 悔しそうに叫ぶヒカリ。オイ、それは年頃の女の子のセリフじゃないぞ!


 ヒカリのAGの腕が切り離されたので、ドラゴンクローロケットの残った魔力を憤進(ロケット)の推進力に変えて、その腕ごと輸送車を持ち運ぶ。そのままだとすぐ魔力が切れるところだが、その前にロプロスが腕ごと輸送車をキャッチする。


「ヒカリ様っ!」


「トライデント・ミサイル!」


 助けに入ろうとしたフィーア少尉を、カイが得意技で妨害する。見ると、足を切断されたものの、飛翔(フライト)…いや、より消費魔力の少ない浮遊(レビテート)で体を浮かせて攻撃したらしい。


「こんなヘナチョコ攻撃が効くか!」


 とはいえ、足で踏ん張れないから普段の鋭さはなく、フィーア少尉に槍斧(ハルバード)で叩き落とされる。


「フィーア、退(しりぞ)くも兵法(ひょうほう)、ここはひとまず引きましょう」


「くっ、了解しました」


 フィーア少尉を止めるヒカリ。しかし、何か言い回しがえらく大時代的になってきやがったな。と、今度は僕に向かって言葉を続ける。


「おにいさま、さすがですわ。この借りはいずれ倍返し、いえ十倍返しにいたします。楽しみにお待ちくださいませ。では、瞬間移動(テレポート)


 定番の負け惜しみだが、さりげなく某有名ドラマの決めゼリフも織り込んでやがるな。だが、今回の目的は「愚者の石」の護衛。いちいち退却を阻止したり、追撃する必要はない。転移したヒカリを追って、残りの4機も消える。これで任務は完了かな? …いや、ヒカリが囮で、二の手、三の手がある可能性も否定はできないので、最後まで油断は禁物だ。


「足を修理するぞ。修復(リペア)


「すまねえな」


「ありがとう」


 ポセイドンとロデムの足を修復する。幸い、関節部ではなく脛の部分を斬られたので、修復(リペア)で接合するだけで修理ができた。残り魔力量がかなり心許なくなってしまったが、これは仕方がない。


「ロデムは先行索敵、ロプロスは上空からの索敵に戻ってください。ドラゴンとポセイドンは再びAG輸送車上で待機を」


 魔力波妨害(ジャミング)が消えたので通信機でマーサさんからの指示が来る。


「輸送車の警備隊に負傷者は?」


「幸い、軽傷者が数名出た程度で済んだようです」


 マークたちも無事だったようだ。良かった。


 再び輸送隊は発車する。その後は特に襲撃もなく、無事にイモータル市についた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「にしても、茶番が過ぎるだろ」


 ドラゴンを魔像(ゴーレム)研究所の格納庫にある急速充魔機の魔法陣に駐めて降りると、父さんがいたのでつい愚痴ってしまった。


「そう言うなよ。派手な戦闘をやらかす必要は常にあるんだ」


 今回の「機密物資護衛作戦」の()()()()な無意味さは、ちょっと考えれば分かるのだ。本当に重要な軍事機密を護送するなら、いくら装甲車といっても輸送車なんぞ使わず、魔道戦艦を使って送ればいい。この前なんぞは、公用とはいえブルさん一人を送るためにスフィンクスをこっちに持ってきたのだ。オグナが動かせずとも、訓練がてらに動かせる魔道戦艦の2~3隻は既にある。飛行すれば、巡航速度でも地上を走るよりはよっぽど早く着くし、防御力も桁違いだ。


 さらに言えば、魔道戦艦が1回で瞬間移動(テレポート)できないほどの距離でも、AGがリレー式につないでいけば、魔力を空にする覚悟があれば数分で輸送できてしまうのである。さすがに僕もドラゴン1機で全距離を転移するのは困難だが、AG輸送車でエリア51まで行って、中間点までの転移くらいなら問題ないのだから、ブレバティ4機を使えば問題なく輸送自体はできるのだ。魔力蓄積量が相当減るから、そこに敵襲があると困るけど。


 それなのに、いちいち輸送車で長々と護送したのは、つまるところ敵襲を誘うためだ。本命物資を餌にしての釣り出し作戦。相手だって、そんな事は百も承知で襲ってきているはずだから、茶番としか言いようがない。出来レースの戦争は覚悟の上だが、それにしてもひどすぎる。


 ちなみに、最初の「残りカス」=ウラン238の輸送が車両だったのは、単に輸送コストの問題だ。猛毒物質だから一応警備兵をつけて夜間輸送になったが、別に狙われると思ってたワケじゃない。だからこそ、それが狙われたのを見てあえて今回の作戦が立てられたワケだが。


「派手な戦闘、ねえ」


 ついついこぼしてしまう僕に、父さんがニヤリといたずらっぽく笑いながら言う。


「理由はいろいろあるが、一つ機密情報を教えてやろうか。十カ国連邦の今年度の第一四半期(だいいちしはんき)の経済統計が発表された。速報値だから暫定だがな」


「経済統計のどこが機密情報なんだよ?」


「機密なのは次の部分さ。概算だが、輸出総額20兆2千億クレジットのうち対アーストリア帝国が8兆7千億クレジット、輸入総額20兆3千億クレジット中、対アーストリア帝国が9兆とんで8百億クレジット。貿易赤字総額が1千億クレジットに対して、対アーストリア帝国の貿易赤字額が3千8百億クレジットだ。どうだ、笑うべき数字だろうが」


 クレジットってのは、十カ国連邦の統一通貨だ。十カ国共同体時代に制定されて、今じゃあ全連邦共通の通貨として通用している。ちなみに、「信用」を意味する名前がつけられているように、金本位制からは脱却している不換紙幣だったりする。小銭は硬貨だけどね。それにしても、呆れるべき数字ではある。


「本当に機密情報だな、それ。貿易総額の1/3以上を占める相手、それも最大の貿易赤字相手に戦争してるってのは。おまけに四半期の数字ってことは、ほとんどが開戦後の値ってことだろ」


「そうだ。戦争相手が最大の貿易相手。それも戦争中にもかかわらず継続している。こんな情報、公開できるワケがない。おかげで、戦時統制の名目で今年度の貿易数値は総額と対アーストリア帝国の数字は非公開だ」


「非公開って事実自体が実態を表してしまってると思うんだが。第一、それだけの貿易額があったら、それをやってる企業自体には分かってるんだから、戦争になっても貿易をやめてないなんてことは、みんな知ってるんじゃないのか?」


「知ってるだろうさ。誰も表だっては言わないけどな。下手な事を言って貿易中止なんて事になったら損するだけなんだから。マスコミの方については完全に戦時統制下にある。ヤマト皇国(ウチ)みたいな立憲君主制の国だとどうかとも思うが、連邦構成国の中には独裁国家もあるからな。あと、物価上昇率も非公開にするそうだ。ちなみに数値は総合で1.02とほぼ安定だ」


「物価の方には戦時統制もかけてないのに、か?」


「少しはかけてるさ。だが、なるべく経済活動は阻害したくない。国家の生産力を落とすことは『次』に備えるという意味からは得策じゃない」


「ハア。かくして、そうした諸々(もろもろ)の実態と大人の事情を隠すために、僕たちは派手に戦闘して見せなきゃならないワケかい」


 ため息まじりに総括する。


「そういう事さ。統制下にあるマスコミには食い扶持を稼がせてやらなきゃならん。争いの種は何でもいい、視聴率が取れたり、新聞や雑誌が売れるように、派手に戦って見せる(パフォーマンスする)ことが必要なんだ」


「派手に、ねえ。ヒカリやリヒトは得意そうだ」


 あいつらは、芝居っ気が多いからな。


「お前だって下手じゃないだろう。今回のアレは、なかなか『必殺技』してたぞ」


 父さんがからかってきたので、思わず顔をしかめて言い返す。


「アレでいいのかよ? とりあえず斬った後に閃いて適当に言ってみただけなんだが」


 牙竜ってのは、つまり我流のシャレで、あとは横一文字に斬ったからそう言っただけなのだ。アレでいいんだったら、真面目に必殺技考えてたのがバカみたいなんだけど。


「いや、宿題に出しといた派手な必殺技はきちんと考えとけ。だが、ただ叩き切るだけでも、それっぽい技名を言っとくのは正しい。後付けでもこじつけでも構わんから、とりあえず言っとけ」


 …ひどい話だ。だが、まあ、そういうのも嫌いじゃないけどね。これもお仕事の内なんだし厨二心を全開にして頑張りましょうか。あ、そうだ必殺技と言えば…


「ハイハイ、了解しましたよ。それで、一つ頼みがあるんだけど、ドラゴンクローロケットに、ポセイドンのトライデントにつけたみたいなケーブルつけてくれよ」


「何でだ?」


「今のままじゃ使いモンにならないことは分かってるだろ。せめて有線なら魔力撃も有効打にできるだろうし。もっとも初速が遅いって根本的な部分を何とかする必要があるけどな」


「…やっぱりロケットはダメか…ロマンなんだがなあ。しかしアレだな、飛ばした腕が有線だと、ロケットパンチというよりは『足なんか飾りですよ』みたいだな」


 残念そうに言う父さん。ロマンは分かる。分かるんだが、使いモンにならないのも事実なんだよ。それにしても、確かに有線腕だと大人気ロボットアニメの最後の敵ロボ、足が無いことで有名なヤツだよなあ。


「そしたら指先からビームでも撃つってか…」


 ジョークで答えようとしたのだが、そこで気付いてしまい、思わず父さんと顔を見合わせる。


「「マジで使えるんじゃね!?」」


 きれいにハモってしまった。だが、有線で本体から魔力を供給できるんなら、手先を起点にして魔法が撃てる。全周囲(オールレンジ)からの飽和攻撃とまでは行かずとも、死角からの不意打ち攻撃あたりなら可能なんじゃなかろうか。


「いい事に気付かせてくれた。さっそく改造する。あと、それをヒントに面白い追加兵装(オプション)も思いついたぞ!」


 急に生き生きとしだす父さん。さすがマッドな博士だ。このチャンスに、もう一つのネタもお願いしちゃえ。


「楽しそうだな、父さん。ついでに、こういう改造もお願いしたいんだけど…」


 ちょっと説明すると、すぐに意図を理解してくれた。


「ははん、確かに初速を上げるにはいい手だな。だが、展開に時間がかかるから奇襲技にはできんぞ」


「奇襲技じゃないさ。『堂々とした』とは言えないけど、防げない必殺技にする積もりなんだけどね。もっとも、あまり派手さはないかもしれないけど」


「ほぉ、何か考えがあるようだな。よし、そっちもすぐ改造しておく。大した手間じゃないしな」


「よろしく頼むよ」


 すぐ設計をしようと自分のオフィスに向かおうとする父さんと分かれて僕も自室に戻ろうとしたとき、館内放送から母さんの声が聞こえてきた。


「あなた~、お疲れのところを申し訳ないんですけど、ちょっと中央管理室まで来ていただけます~? あと、ノゾミちゃんも来てちょうだ~い」


「何だろう?」


「さてな、まあ行けば分かるだろう」


 出鼻をくじかれて少し不機嫌になった父さんと一緒に中央管理室に向かう。入ると、母さんが紙片を持って小走りに近づいてきた。何を急いでいるんだろう。


「あなた、ノゾミちゃん、ごめんなさいね~。統合参謀本部から暗号通信で緊急連絡が来たのよ。これが解読した通信文なんだけど…」


「緊急連絡?」


 それなら急いで呼ぶのも当然だな。不機嫌そうだった父さんも顔を引き締めて通信文を手に取り一読する。


「何だと、捕虜交換!?」


「そうなの。おかしいでしょ」


 顔色を変えた父さんに、珍しく固い表情で尋ねる母さん。


「どうしたんだよ。帝国から捕虜交換でもやろうとか言ってきたのか?」


「そうだ」


 話の流れから推測して聞いてみたのだが何と肯定されてしまった。なるほど、おかしい話だ。どちらの国の捕虜も、統一の妨げになる思想の持ち主ばかりなのだから、終戦まで敵国の捕虜になっててもらった方が、落としどころに持って行くのに都合がいいはず。なのに、ここで捕虜交換なんかしたら、まとまる話もまとまらなくなる。僕は思わず父さんに聞き返していた。


「それって、何か『シナリオ』と違うんじゃないか?」


次回予告


予定外の捕虜交換の提案に、急いで統合参謀本部に飛ぶ父親の代わりに、配属予定の新人パイロットの世話を任されたノゾミ。彼らとの面会前に格納庫で先行量産型の最終確認をしているところに、黒髪の少女がやってくる。


「お父さまの嘘つきぃっ!!」


「ゲッ!?」


前世で聞いたことのあるセリフに冷や汗を流しながら改めて見直すと、何と彼女はヤマト皇国の第一皇女ホムラであった。パイロット候補ではないのに自分もAGに乗ると主張するホムラを扱いかねるノゾミ。訓練だけの参加を認めて何とかなだめたのだが、その訓練中に敵が襲ってきてしまう。


次回、神鋼魔像ブレバティ第9話「ホムラ出撃」


「これって何か違うんじゃね!?」


エンディングテーマソング「転生者たち」


この番組はご覧のスポンサーの…


次回も、また見てくださいね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ