第8話 黒い指令 愚者の石略奪作戦 Aパート
アバンタイトル
ナレーション「クーたちにヒカリとこの戦争の真相を伝えたノゾミ。父親からの宿題に頭を悩ませながらも、カイのポセイドンの新技の練習に付き合う。そこに現れたノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト三兄弟とヒカリ。彼らのオグナ建造ドックへの侵入を許し、さらに重力魔法の罠にはまってしまうノゾミたち。別行動していたクーに助けられたものの、ヒカリの魔法によってオグナは推進機を破壊され、その戦線復帰は2週間遅れてしまうのであった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「どこだ!? 暗視!」
闇の中で、暗闇を見通す魔法を使う声が聞こえる。
「まだ遠くには行っていないはずだ! 温度感知! いたぞ、21時の方角だ!! あのビルの陰に入った! いや非常階段か!? 4番目のビルだ!」
「探査光源」
「探査光源」
暗闇を照らす探査光源の魔法。攻撃性があるほど収束されてはいないが、闇を切り裂くには十分な光量がある。いくつかの光源が上下左右に高速移動し、誰かを探している。
「発見!!」
光源の一つが、高速移動の途中で、一瞬、他とは違う色を捉える。4階建ての建物の外側にある非常階段。その最上階に続く一番上の踊り場。即座にその位置へ戻る光源。それに合わせて、複数の光源が同じ位置へ移動する。そこに見えたのは人影。黒い服だが、派手な金色の肩章やボタンが光を反射している。腰には剣を吊し、赤いショートスパッツに脛を覆う黒いソックスと短靴。だが、何より目を引くのは、そのピンク色の長い髪。
右手を目の前にかざし、光を遮りながら見下ろす姿。鮮やかな紅をさした口の端が軽く持ち上げられる。軽い笑み。
「魔力弾!!」
魔力弾が下からピンクの髪の少女を狙う。だが、その光弾が直撃するかと見えた瞬間、抜き手も見せぬ早業でレイピアが光弾を斬り落とす。魔力を帯びた剣なのだろう。
ドガァアアアアン!!
「うわぁああああっ!」
「何だ!?」
爆発音と共に吹き荒れる爆風。視界が一瞬大きく揺れるが、すぐに彼女の姿を捉え直す。爆風に髪を流されながらも、その体は微動だにしない。
建物の陰から姿を現したのは、緑色の巨人。SS所属を表す肩の赤いAG、一眼巨兵。その腕には標準装備の槍斧ではなく、5メートルくらいのコンテナを抱えている。
「分析」
小さな声が聞こえる。魔法をかけてコンテナを見た少女の顔が軽くしかめられ、紅の唇が言葉を紡ぎ出す。遠くなので小さくしか聞こえないが、それでも意味が分かる程度には聞こえる。
「捨ててしまいましょう。偽物です」
「えっ!?」
「長居は無用。引きますよ」
「クッ」
悔しそうな声と共に、AGがコンテナを投げ捨てる。
「念動」
少女の唇から呪文が漏れると、落下中のコンテナの速度が緩やかになる。重力加速度を無視し、減速して軟着陸する。魔力消費の激しい念動を使い、しかも5メートルはある重そうなコンテナの落下速度を制御する、その魔力は尋常ではない。
「偽物とは言え、アレも危険物です。もっと丁寧に扱いなさい」
「失礼しました」
「まあいいでしょう。拡声」
魔法をかけて、おもむろに踊り場から飛び降りる少女。風に髪をたなびかせながら宙を舞い、しなやかにAGの掌の上に着地すると、立ち上がっておもむろに宣言する。
「『愚者の石』は必ずいただきます。それまで、ご機嫌よう」
「飛翔」
AGが魔法を唱え、そのまま飛び去る。
「逃がすな、撃て! 火炎弾!」
「雷撃!」
何人かの警備隊員が攻撃魔法を放つが、AGにはかすり傷一つ与えられず、そのまま空の彼方へ消えていくのを見送るしかない。
と、ここで画面が消え、大型の水晶スクリーンは暗灰色に戻る。ここは魔像研究所のブリーフィングルーム。昨日起きた機密物資輸送隊襲撃事件の記録映像を見ていたのだ。いるのは父さんと母さんのほか、ブレバティパイロット4人とリン、それにマーサさんだ。
「…とまあ、こんな感じだ。高性能集音マイク付きの録画機だったんで声まで拾えたようだな」
父さんが説明する。
「ヒカリめ、思いっきりカッコつけやがって。声からすると、あのAGはフィーア・ガーランド少尉だろうな。被害は?」
愚痴りながら、父さんに被害を確認する。
「輸送車1台大破、軽傷者3名。輸送中だった物資は無事だ。もっとも、あの様子からすると目的の物と違っていたから見逃されたんだろうが」
「ヒカリが囮になっている間に、AGで輸送車を襲うって作戦か?」
「そうらしい。それも瞬間移動で現れたんじゃなくて、魔力隠蔽や幻影で隠れて輸送経路に待ち伏せしていたようだ」
「経路がバレてたのかよ!? にしても、手間かけてるな。普通にAGで強襲しても結果は同じだろうに」
「それだと軽傷者3名が重軽傷者合わせて20名くらいになってたろうさ。それに、経路の方は主要街道使うしかないんだから、イモータルに運ぶ時点でバレバレだ」
「まあ、経路の方はしょうがないとして、負傷者数のことを考慮してることは認めるにせよ、やっぱりカッコつけたいんで、こういう作戦にしたような気がしてならないんだが」
僕の言葉に苦笑する父さん。
「まあ、それは置いておこう。重要なのは『エリア51』からウチに送られる機密物資が狙われたという事だ」
「何だよ、その怪しげな名前は!?」
いきなり出てきた前世的に怪しい名前に思わずツッコんでしまった。それって、確か前世だとアメリカ空軍の試作機開発用の秘密基地で、宇宙人がらみのネタでよく出てくる名前じゃなかったか? あと、核実験場もすぐそばにあったな。
「ん~、国立第5魔法研究所の第1研究室のことだぞ。知っての通り、国立魔法研究所は第1から第9まである。第5は新エネルギー関係の魔法開発が担当だ。番号が担当範囲を示すんで研究所の身内では『エリア○○』と呼び合うことが多い」
「…ぜひとも第8研究所第8研究室の名前が知りたいね」
げんなりしてしまい、つい前世ネタの与太を飛ばしてしまったのだが…
「お前、知らなかったのか?」
「へ?」
「第8研究所は、古代遺産関係の魔法研究が担当だ。第8研究室は主に魔像と魔法材料を研究しているが、魔道戦艦も含めて、その他いろいろ取り扱ってるな」
「って、まさか!?」
「所在地はイモータル市で、責任者の名前はシュン・ヘルム。通称『魔像研究所』。つまり、ここだよ」
…もっとげんなりする結果になってしまった。
「…ここは地獄の一丁目だったのか」
「別に外人部隊はやってないからな!」
「はいはい、他人に分からない会話はおやめなさい」
母さんに止められたし、これ以上続けても不毛なだけなので、話を元に戻そう。
「コホン。それで輸送していた機密物資ってのは何なんだい?」
「これだ。みんな分析してみろ」
「「「「「「分析」」」」」」
父さんが取り出した箱に対して、マーサさんも含めて6人が魔法をかける。
「外箱が鉄と鉛で、中身は…」
カイの声が途中で止まる。僕も言葉が出ないし、他のみんなもそうみたいだ。
「博士、こいつは!?」
「『天王石』から『愚者の石』を精製した後の残りカスだよ。新合金開発の材料に使う積もりで送ってもらったんだが、どうも次に送る予定の『愚者の石』と間違えられたようだ。結果的には囮みたいになってくれたワケだが」
「おいおい、新合金の材料って、こいつは有毒物質じゃねえか!」
カイがツッコむ。そう、これは有毒な重金属で、しかも放射性物質だ。だが、同じ物質の同位体としては、まだ害が少ない方になる。
「残りカスってことは、まさか!?」
僕の問いにうなずいて、もう一つ同じような箱を取り出す父さん。
「本命、『愚者の石』のサンプルだ」
全員が、再びそれに分析をかけ、今度こそ誰も一言も出せずに絶句する。それを見た父さんが決定的な言葉を口にする。
「こいつは、前世風に表現すると『ウラン235』だ。安心しろ、臨界に達する量じゃない」
「核反応魔法…」
僕の喉から絞り出された言葉は、まるでうめき声のようだった。
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輸送の日時や警備予定の打ち合わせを終えて解散になったが、僕は話があると言って父さんとブリーフィングルームに残っている。
「そもそも何で『愚者の石』なんぞを使うつもりなんだ? お互いに『この戦争』では使い道なんて無いだろう」
ウラン235を使うと聞いてから、どうしても聞きたかったことだ。先の「囮」である残りカス~ウラン238~についても疑問はあるが、前世でも「劣化ウラン弾」のような使い方をしていたのだから、新合金の素材とかでの使い道というのはまだ分からなくもない。だが、魔法というエネルギー源があるこの世界において、ウラン235は平和的なエネルギー源として利用するには問題が多すぎる。つまり用途はただ一つ…「核攻撃」だ。予定調和のまやかし戦争で使えるような代物じゃあない。
「…そうだな。『この戦争』では使えない、使う意味がない。俺だって、使わないで済むなら、こんな代物使いたくはない。おそらくは転生者が名付けたんだろうが『愚者の石』とは言い得て妙だ。強大な力と引き替えに、破滅をもたらす石。だが、こいつのもたらす破滅の力が『次』には絶対に必要なんだ」
父さんの声に苦みがこもる。
「『次』の相手ってのは核反応魔法を使わなきゃいけないような相手なのか?」
「そうだ。15年前、大爆発の時は、まだこの世界に核反応魔法はなかった。だが、『奴ら』は使ってきた」
ちょっと待て!
「『奴ら』!?」
「真の敵だ。今はまだこれだけしか言えん。だが、俺は目の前でガルフドアの街が、10万人が消し飛ぶのを見たんだ」
ガルフドアってのは、失われた国境の街の名前だ。大陸の東西をつなぐ国境の街として栄えていて、この世界でも数少ない10万都市だった。そいつが核反応魔法で吹き飛ばされたってのか!?
「大爆発って、核反応魔法の事だったのか!? だけど、この前探査したときには放射能は検出されなかったんだが」
「違う。ガルフドアが吹き飛んだ後に、さらにその周囲をクレーターにしたのは、もっと別の現象だ」
「なん、だって?」
冷や汗が僕の背を伝うが、父さんは冷静に言葉を継ぐ。
「その現象については、まだ仮説しか立っていない。15年たっても、まだ確証はない。こいつはエリア71が今も必死で研究を続けている。だから、俺にもこれ以上のことは言えない」
第7研究所の担当は、空間魔法だったな。…ということは、あのクレーターは空間魔法でできた跡と想定されているのか。だが、直径50キロの円形の空間をまるまるクレーターにするって、どんな魔法なんだ!? そして、そんな事をできる敵の力とは…
「あと、何でこんなまやかし戦争をしなきゃいけないかも分かったろう」
分かった。分かってしまった。
「そんな敵の存在を、公にできるワケがないよな」
「そうだ。間違いなくパニックになる」
真の敵の存在を隠しながら軍備を整えるには、表向きは別の敵を相手に戦争して見せなきゃいけないわけだ。
「そして、そんな相手に対抗するには…」
「今のところ、人類が手にした最大級の瞬間破壊力は『核』だ。反物質の対消滅は未だに理論実験段階で、この前エリア53が、ようやく微量の反物質生成に成功したに過ぎない。実用レベルに達しているのは、エリア51の『核分裂』、エリア52の『核融合』までだ」
「だから、か」
「AGでの運用実績を作る必要がある。今回の戦争とは関係なく、準備しておく必要があるんだ。『次』のためにな」
なるほど、「愚者の石」が必要な理由は分かった。だが、それだとかえって分からないことがある。
「だけど、何でヒカリは『愚者の石』を狙ってくるんだ? 帝国には『天王石』…天然ウランの鉱床がないのは分かってる。あっちでも『核』の研究をしたいのか?」
そう質問してみたところ、父さんが非常に渋い表情になって答えた。
「それが俺にも分からんのだ。『核』のデータは裏ルートで帝国にも、他の主要国にも渡している。研究の必要はないんだ。天然ウラン鉱床は十カ国連邦にしかないが、いざという時には現物供給をするという秘密条約も結んでいる。こいつは人類同士の争いに使える代物じゃないからな」
それを聞いていっそう疑問が膨らんできたので、改めて父さんに尋ねる。
「前回の戦いも変だった。目的がヒカリに泊をつけさせることで、恨みを残さないためにウチの財産を狙ったというのは分からなくもないが、オグナの実戦投入を少し先延ばしにすることに何か意味があるのか?」
「それも、分からん」
父さんの答えは同じだった。
「僕に教えることはできないのかもしれないけど、『シナリオ』はどうなってるんだよ?」
「前回と今回の事は『シナリオ』には無い。アドリブだ」
答えが返ってこない前提で聞いてみたのだが、意外な答えが返ってきた。
「ヒカリの暴走なのか?」
「それならリヒトやルードヴィッヒが止めるだろう。現場の対応はヒカリ一任かもしれんが、作戦自体はルードヴィッヒの命令のはずだ」
「だとすると、渡す必要があるのか?」
あちらに必要性が出てきたというなら、あえて「奪われる」ことをしないといけないのかもしれないと思って聞いてみたのだが…
「その必要はない。表向きの襲撃で取られたらウチの失点が大きすぎる。本当に必要なら裏ルートで渡す。だから、今回は本気で守っていい」
「了解」
それだけ聞ければ十分だ。
「頼むぞ」
僕は、うなずいてブリーフィングルームを出ると、今聞いたことをカイたちにどうやって伝えようかと考えながら格納庫に向かった。
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僕はドラゴンのコクピットで上を向いている。体ごと仰向けになって。AG輸送車に機体ごと仰向けに寝ているのだ。機体には全身にカバーがかけられているので、視界もカバーで覆われてしまって何も見えない。
既に「エリア51」を出て7時間が経過している。僕の乗っているAG輸送車の後ろに本命の輸送車と指揮車があり、その後ろにはポセイドンが載せられたAG輸送車が並んで、イモータル市を目指している。
魔道車はその名の通り魔法で動く自動車だ。エンジン音はしないので、電動自動車のように静かである。もっとも、今回使っているのは3年ほど前に開発された装甲車だ。2センチ厚のミスリウム合金の装甲板で覆われており、口径2センチの小型魔道砲を装備している。輸送車も指揮車もヘルム私領軍の装甲車を使っており、人員も我が家の従騎士だ。輸送車内で警備している部隊の指揮官はマークといって、ウチの従騎士では腕が立つ方で、指揮官としての能力も確かだ。
父さんは指揮車に乗っている。今回は、僕たちのほかに輸送車にも指示を出す必要があるので、マーサさんも同乗して管制を担当することになっている。AG輸送車の方は、何しろ18メートル級のAGを載せるためのものだから、他に使い道もないので魔像研究所の備品である
イモータルまでの道は主要街道なので舗装はされているが、前世の高速道路ほどではないので、時速50キロ程度の速度になる。これまで300キロを走り、途中休憩を1時間とってきた。残り約100キロ。2時間ほどの行程になる。これから先は警戒が必要なので、戦闘配置に切り替えたのだ。これまでは警戒配置で、僕もコクピットには乗らずに、輸送車の助手席で体を休めていた。
今まで警戒配置でいたのは、敵も攻撃できる距離じゃなかったからだ。いくら魔道戦艦と言っても、瞬間移動で一度に250キロも転移したら、ほぼ魔力は空っぽだ。退却のことを考えたら、国境まで200キロ程度のイモータル近郊で襲うしかない。前回だって襲われたのはイモータルから50キロの距離だった。無理をすれば100キロ前後でも襲撃は可能だろうから、戦闘配置に切り替えたのだ。
もっとも、「愚者の石」の奪取を最優先するなら、魔道戦艦を使い捨てにすれば方法はある。中継点にもう1隻用意しておけば、もっと遠距離で襲うことも可能ではある。だが、帝国全軍だって、まだ6隻しかない上に、うち2隻はまだ修理中のはずの魔道戦艦をそう簡単には使い捨てにできないだろう。
突然、通信機からリーベの声がした。
「敵機発見、本隊前方約1キロメートル!」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




