第7話 戦艦オグナが危機を呼ぶ Aパート
アバンタイトル
ナレーション「戦功により騎士叙勲を受け正騎士になったノゾミ。英雄として期待される通りに振る舞ってみたものの、違和感はぬぐえない。そこに襲い来る帝国の大部隊。魔道戦艦3隻とAG27機は通常兵力なら一個師団にも匹敵する。だが、幼なじみのリンの呪歌の助けを受け、ノゾミだけでなくカイ、クー、リーベもそれぞれ力を発揮し敵軍団はあっさり崩壊、敵将も捕虜となる。だが完勝を目前とする彼らの前に立ちふさがったのはヒカリだった。簡単にカイとクーを撃破するヒカリ。その言動を見たクーはヒカリの真実に気付くのであった。
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「ノゾミは、気付いていたのよね?」
「ああ、最初っから、ね」
顔をゆがめたクーが口を開く前に、次の言葉を重ねる。
「すまなかった。どう説明していいか、どこまで説明すべきか、僕にも分からなかったんだ」
先手を取って謝った僕に、ムスッとした顔になりながらも文句は言わずに引き下がるクー。それを不思議そうに見ていたリンが口をはさむ。
「何の話?」
「これから説明するよ。全部、ね」
一度言葉を切ってから、部屋の中を見回す。カイ、クーの他にリーベとリンもいる。イモータルの別宅の僕の部屋だ。一応貴族家の嫡男の部屋だから、私室でも12畳あり、5人入っても狭いというわけではない。ちなみに、この世界では「ヤマト風」と呼ばれる和室であり、みんな座布団に座って座卓を囲んでいる。
「まず、ヒカリは洗脳なんかされてない。正気だ。自分の意志でルードヴィッヒに協力している」
「えっ!?」
声を出して驚いたのはリンのみ。リーベは声こそ出さなかったものの目を丸くして驚いているが、カイの方は軽く口の端をゆがめただけだ。
「気付いてたのか?」
「いくら洗脳魔法だって、ヒカリほどの魔力と精神力の持ち主を、そう簡単に洗脳できるはずがないから、変だとは思ってたんだがな」
カイの言う通り、相手の意志を奪って洗脳する魔法は、成功するかどうかは相手の魔力量や精神力に左右される。かなり魔力差があって、精神力の弱っている相手じゃないと成功しないのだ。
「リヒト・ホーフェンはヒカリ相手に麻痺を通せる実力者だから可能性はあるだろ。だけど、成功させるにはそれこそ何日単位で精神力を削る必要があるはずじゃないか。それなのに、たった1日で洗脳する? 有りえないだろ」
なるほど、やっぱりカイはクレバーだ。だが、リヒトのことをちょっと高く評価しすぎだぞ。
「ヒカリに麻痺が通ったのは掛け合いだったからだけどね」
「いや、その認識はおかしい。ヒカリも規格外だって事に、お前が気付いてないだけだ。普通のヤツなら掛け合いだってヒカリに麻痺を通せるもんか」
「え?」
ちょっと驚く。リヒトだけじゃなくてヒカリも過大評価してないかい?
「言っとくが、オレは自分も規格外だって分かった上で、ヒカリはさらに規格外だって言ってるんだからな。お前やリヒトなんて規格外すぎて化け物クラスだぞ」
「おい、僕はお前と模擬戦やって5本中1本取るのが精一杯なんだが?」
「剣と格闘限定での話だろうが! 魔法有りの模擬戦だったら10戦してオレの9敗1分じゃねえか!!」
それはお前の攻撃魔法の制御が下手すぎだからじゃないか、とは思っても口に出したら、この場で不毛の口喧嘩が始まるだけだからやめとこう。しかし、自分自身でも「規格外」と思っているカイにまでこんな風に思われてたとは…やっぱ反則だな、転生者ってのは。ま、こいつはそれでも僕に対する態度を変えたりはしないのがありがたいね。話を元に戻すか。
「コホン。とにかく、ヒカリは自分の意志で帝国に協力してる。それがなぜかは正確には分からないけど、原因についての推測はつく」
「…今のコホンに凄く意味深なものを感じたが、まあいい。それで、その原因ってのは何だ?」
「この戦争は出来レースだ、って事さ」
「「「え!?」」」
「フン」
今度もカイだけは「やっぱりか」ってニュアンスを込めて鼻で笑ったが、ほかの3人は驚いている。
「これも気付いてたか?」
「そうでなきゃ『殺すな』なんて指示が出るもんかよ」
「でも、あれは捕まってる人たちと交換するために捕虜を増やすためって…」
「その『捕虜』にも意味がある」
クーが父さんが不殺の理由にした「建前」について言及したので、ちょうどいいから食い気味に説明を始める。
「帝国の捕虜にされた十カ国連邦の貴族の名前を調べてみたんだ。ヤマト皇国では一応機密扱いで報道管制されているけど、帝国の方では派手に宣伝してるから簡単に分かった。全員が『反統一派』だったよ」
「そういう事ですか」
リーベには理解できたようだ。
「どういう事?」
「全員が、帝国との『平和的統合』にも反対していたって事さ」
「「あっ!」」
クーとリンにも分かったらしい。
「そして、今回捕虜にした連中については、リーベが知ってるよね」
一昨日の戦闘~昨日の記者会見で「第一次イモータル市防衛戦」と名付けられた~での捕虜は、全員が捕虜宣誓して身元を明らかにしている。…ところで、これから先も攻めてくることがほぼ確定であるにせよ、最初から「第一次」って名付けるのってどうよ?
「ええ、全員が貴族の中でも右派で知られる家の子供たち、それも嫡男や家督継承権で上位に入っている人たちばかりでした」
「つまり、コンスタンティン大公を筆頭として『統一派』ではあっても『帝国主導の』と頭につけないと気が済まない連中ばかりだってことだよね」
「そうです」
「この戦争の『落としどころ』が見えたかな?」
「帝国の連邦加入…」
リーベが半ばうめくように口に出す。
「僕も、そう推測した」
「でも、それなら何で『戦争』をする必要があるのでしょうか?」
「どういう意味?」
リーベの疑問はリンには理解できないようなので、僕が引き取って説明する。
「連邦加入だけが目的なら、戦争なんてする必要はないからさ。ルードヴィッヒが変な事を言い出さずに融和路線を続けていれば、あと10年の時間をかければ、平和的に実現できたはずなんだ」
緊張緩和による文化交流と貿易による相互利益で、両国の関係はどんどん改善していた。平和的統一の方が両国にとってもメリットは大きい。もともとイデオロギー対立的な要素は何もなく、100年前の帝国にはあった領土的野心も、既に遠い昔の笑い話になっている。一部の国粋主義者か、貿易で不利益を被る国内産業の代表者だけが反対しているだけだ。
「そうです。それなのに、何で武力を使って統一を急ぐのか、わたしには理解できませんでした。反対派にしたって、どちらの国でも少数派なんです。政治的に押し切るのは難しい事じゃないはずなのに」
「そう、この戦争には別の目的がある。ここからは、さらに推測になるけどね」
リーベの疑問を受けて僕は話を続ける。
「この奇妙な戦争は、それこそ『模擬戦争』、あるいは『練習戦争』なんだと思う」
「それって!?」
「この世界から国家間の『戦争』がなくなって既に100年以上もたつ。大規模な『紛争』さえ50年以上ない。細かな『国境紛争』は年間300件以上起きてるが、その実態は漁船の領海侵犯を沿岸警備隊が追い返しているだけのこと。僕や父さんはおろか、死んだ爺さんや曾爺さんですら戦争を知らないんだ。その間、魔法の発達は続いたし、魔獣相手の討伐で実戦経験は失われていない。でも、それによって『武器』は進歩しても『兵器』の開発は停滞した。この世界の文明レベルに比べて『兵器』は信じられないくらい素朴で、原始的な物ばかりだった…10年前くらいまでは」
「それは、お前の『前世』に比べて、という意味か?」
カイの問いにうなずいて肯定する。なお、リンにも既に僕と父さんの「前世」の話はしてある。
「飛行魔法が開発されて長いのに、大型の飛行船や旅客機はあっても戦闘機も爆撃機もない。魔道船はどんどん大型化して300メートルもある巨大な貨物船や客船が行き来しているのに、軍艦は50メートル程度の大きさで魔力砲も帆船時代から変わっていないような旧式武装のフリゲートやコルベットだけ。魔道車はトラックもバスも乗用車も大量生産されているのに、戦闘用に装甲を施したものはなく、軍用には騎馬が引くチャリオットと騎兵が幅をきかせている。僕の知っている前世の常識からすると、明らかに兵器レベルがおかしいんだ」
「それは、つまり?」
「この世界の兵器レベルは、意図的に抑えられてきていたんだと思う。そして、それは普通なら正解のはずなんだ。戦争なんて無駄はしないに越したことはない。兵器なんかを作るよりも、民生品をどんどん改良して、生活を豊かにする方がいい。この世界には魔法があるから、それができた」
「その言い方だと、お前の前世の世界じゃできなかったみたいだが?」
「一部しかできなかったよ。僕の生きていた国は、それを実現していたけどね。でも、世界中じゃなかった。この世界みたいに、世界中でそれができているのは、魔法があるからだ。導入の魔法による知識の底上げ。それに伴う公衆衛生の信じられない位の高さと、それによる乳幼児死亡率の低さ。そのために人口抑制が昔からできていて人口爆発が起きていない。僕たち以降の双子の急増でここ最近は出生率が急上昇しているけど、それを吸収できるだけの食料生産能力もある。この魔法文明を支える魔力源たる魔素は、減るどころかどんどん増えている。無理に戦争なんてする必要性が、世界中のどこにも無いんだ」
「それなのに、何で戦争をしなきゃならないの?」
リンの疑問は当然だろう。それに対する直接の答えではないが、父さんが言っていた事をこいつらに伝えてもいいものか…いや、言わなきゃ納得できないよな。
「『次の戦争』があるから、みたいだ。父さんが言ってた事だけどね。僕にもそこまでしか教えてくれていないんだ。そして、次の戦争は今回のみたいな『まがい物』じゃない、本当に血で血を洗う戦争になる、らしい」
「!!」
全員の顔色が変わる。当然だろうね。それを見て、僕は話を続ける。
「だから、そのための準備として、今回の戦争が企画されたんだと思う。軍事演習では得られない『実戦経験』と、魔道戦艦やAGの『兵器』としての戦術運用を確立するために。そして、AGや魔道戦艦を量産して『次』に備える軍事力を整えるために、ね」
「だが、実際に使ってみるとよく分かるんだが、AGの魔力量とか桁違いだぞ。こんな『力』を必要とする『戦争相手』って一体何なんだ? まさか他の国ってワケじゃないだろうし」
「そうよ、一体どんな相手と『戦争』しなきゃいけないわけ?」
カイとクーの疑問は当然だろう。だが、僕にもその答えはまだ分からない。
「僕にも、そこまでは分からないんだ。父さんも教えてくれない。ヒントはあるけど、パズルのピースがかみ合わなくて正解が見えない」
「ヒントって?」
「最初のカギは『大爆発』だね。最近の魔法と兵器の異常発達は、そこからスタートしている。それと魔素量の増加に伴う僕たち『危険な子供たち』の出現。父さんが考案したAGという兵器その物。そして魔道戦艦」
一度、言葉を切ってから結論を言う。
「相手は、かなり強力な魔力を持っているはずだ。そして、僕たちより高度な魔法文明を築いている可能性が高い。ただ、問題なのは彼らがどこから来るのかが分からないってことだ」
「どこ?」
「そう。僕は最初、宇宙から来るのかと思ってたんだ。『大爆発』の隕石説からするとね。アレは、隕石じゃなくて、高度な魔法文明を持つ異星の宇宙船だったんじゃないかと推測してたんだよ」
今までのお約束な展開からすると「目覚めの雷がマクロの空を貫いた」のかと思ってたんだけどね。
「ところが、それだと『爆心地』の状況に合わない上、作られた兵器と矛盾する」
「状況? 兵器?」
「この前爆心地に行ってみて分かったけど、あれは隕石や宇宙船の墜落でできた穴じゃない。何か別のものだ。そして、宇宙からの侵略者が相手なら、オグナみたいな魔道戦艦は『飛行戦艦』じゃなくて『宇宙戦艦』になっているはずなんだ。AGも宇宙戦闘を前提にした気密性や宇宙線防護機能、空間移動能力、そして宇宙の温度差への対策がないとおかしい。水中戦闘を前提にした気密性と核反応魔法使用状況下での放射線防御機能についてはあるから、これらは宇宙用装備への応用は効くだろうけど、一番肝心な宇宙での温度差に対する対策が全然されていない」
「水際迎撃だけを前提にしているという事は?」
カイが聞いてくるが、まずあり得ないだろう。
「可能性もまったく無いとは言い切れないけど、地上での迎撃は必然的に市民に被害が及ぶ。それは国家の継戦能力にダメージを与える。長期戦に耐えられなくなる。多少無理をしても宇宙での迎撃を考える方が最終的な被害は少なくて済むはずなんだ。重力魔法や空間魔法の発達度から考えると、無理をすれば宇宙戦艦だって作れる可能性は高い。それをせずに、あえて飛行戦艦にとどめているんだから、敵は宇宙から来るワケじゃないって事だ」
「じゃあ、どこから来るの?」
リンが聞いてくるのだが…
「それこそ、僕も知りたくてしょうがない事さ。地底なのか、海底なのか、それとも異次元なのか。未来や過去って可能性すらある。可能性が多すぎて絞りきれない。父さんに聞いても、どうせ『今はまだ話すべき時ではない』とか言ってはぐらかされるだけだし。ただ…」
「ただ?」
「そこは魔素が多いはずだ。ほんの少しの接触、つまり『大爆発』だけでも、世界の魔素量がこんなに増えてしまって、僕たち『危険な子供たち』が出現してしまったんだから」
「それは、つまり、オレたち以上に魔力量が多いのが普通の連中が住んでいる可能性が高い、って事だな」
「正解だよ、カイ。だからこそ、僕たちは今の内に自分たちより遙かに魔力量が多い兵器、AGの使い方に習熟しないといけないんだ。そのために、いちいち戦争をやらなきゃいけないにしても、ね」
みんな納得したようにうなずくが、そこに僕は次の爆弾を落とす。
「そして『次』は予想以上に近いらしい。僕は、この戦争が終わったときに1年休みをくれと父さんに言ったんだ。そしたら『やれるかどうかすら分からん』と言われたよ」
「何っ!?」
「「「えっ!?」」」
「それがリーベの疑問に対する答えさ。統一を急ぐ理由はただ一つ、『敵』の侵攻も間近だと予想されているからだ。そして、恐らくその事が分かったのが5年くらい前なんだと思う。最初は、もっとロングスパンでの迎撃計画を立てていたのが、急に短縮しなきゃいけなくなって、慌ててシナリオを書き換えたんだ」
「…そういう事だったのね」
納得するリーベ。だが、クーだけはさらに疑問を持ったようだ。
「そこまでは分かったけど、それで何でヒカリが帝国側につく必要があるのよ?」
クーの疑問はもっともだ。それに対する答えは、僕も最近ようやく分かったんだけどね。
「この戦争の『落としどころ』に持って行きやすくするため、かな。それが、僕がこっち側で派手に目立って見せなきゃいけない理由でもある」
「?」
「僕もヒカリも、生粋の連邦人でありながら、帝国の皇族の血を引いているってことさ。どちらの側から見ても、半分味方で半分敵。二股膏薬をやったら敵にも味方にも疎まれるけど、終始一貫して味方として活躍する分には、まあ問題ない。そして、いざ和平となったときには敵側からの恨みをぶつけられにくい。もっとも、態度によっては裏切り者として逆に2倍の恨みを受ける可能性もあるけどね」
「あ…」
「そして、僕たちはリーベともルードヴィッヒとも親戚だってこともある。『落とし方』の一つとして、帝国の皇位継承権争いの問題にすり替えるってシナリオもあり得るんだ。あっちのエースはリヒト、やっぱり親戚だ。結局は一族内部での争いだったというオチで終わらせる可能性もあるってことさ。そのためのバランス配置として、あっち側にもヘルム家の人間を一人置いておく」
「そういう事なの」
クーも納得したようだ。だけど、もう一つ、個人的な理由ってヤツも厳然と存在する。
「あと、これはクーにもリンにも分かると思うんだけど、ヒカリのヤツ、こういう芝居じみた事は大好きだからな」
「「うっ!」」
絶句する二人と、苦笑するカイ。それこそ生まれた時からの付き合いであるこいつらには、ヒカリの性格はよく分かっているのだ。一見すると明朗快活で単純そうに見えるのだが、それは日常生活用のキャラ立てにすぎない。その陰に隠してある権謀術数の才能は父さん譲り、目的のためには手段を選ばず、手段のためにも目的を選ばない性格は母さん譲りなのだ。
「兄様そっくり…」
うつむいて額を押さえたリーベがつぶやく。やっぱり、そうなのか。
「まあ、これで分かったと思うけど、ヒカリについて心配しなきゃいけないのは、あいつがひどい目に合わされるかどうかじゃなくて、あいつにひどい目に合わされないようにすることだ。あいつは芝居でも手加減しないタイプだから、今回のカイみたいに頭吹っ飛ばされたり、クーみたいに叩き落とされそうになったりなんて序の口だろう。『死ななきゃ平気よね』とか言って平然と大技をぶちかましてくるぞ」
「うげ…」
心底嫌そうな顔になってうめくカイ。他の三人も憮然とした顔で黙り込んでしまった。
「あと、分かってると思うけど、この事は他言無用だよ。まあ、全部確証はない推測にすぎないんだけどね」
最後に釘を刺しておいて話を切り上げる。これで身内の情報共有は済んだな。あとは、父さんの「宿題」も考えないといけないんだが…頭が痛いよ。
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日々の身体や魔法の訓練を怠るわけにはいかないし、AG戦での連携の訓練も必要だ。新聞、雑誌、テレビといったマスコミの取材も受けなきゃいけない。総力戦では市民の協力を得るための広報活動は大切だ。帝国に対してではなく、「次」に備えての意識改革を進めておかないといけないからね。毎日やることは山積みだ。
おまけに顔が売れてしまったものだから、おちおち暇つぶしにイモータルの街を歩くこともできやしない。久しぶりに行きつけの書店に行ったら、いきなりサインをねだられたのには参った。今になって、ようやくリヒトが仮面キャラやってた理由が分かったよ。あいつが元皇子というのは周知の事実だから「赤い人」のように正体を隠す必要なんてない。それなのに仮面をつけてるのは単なるカッコつけかと思ってたんだが、こういう煩わしさを避けるためって理由もあったんだな。やっぱあいつは頭がいいや。
忙しい日々ではあるが、ここ数日は敵襲もないし、まあ一応は平穏と言ってもいいのかな。唯一引っかかっているのが、父さんから出されている「宿題」のことだ。ロクでもないこと思いつきやがって。無視してもいいとは思うんだが、そこはそれ、僕もヲタクの血が騒いでしまい、一応アイデアだけは考えている。
一番簡単なのは剣技だ。超電磁マシーンがVの字に斬って以降、さまざまな剣技が必殺技になってるが、一応X字のは無かった気がする。十カ国連邦にちなんだX字の柄がついてることだし、ドラゴン・ブレードでX字型に斬って必殺技にしちゃおうとかいう安直なアイデアはすぐに思いついた。でも、これだと父さんが「面白くない」とか言って却下しそうだな。見た目派手な技を欲しがってたみたいだし。第一、剣のデザインや収納法自体が超電磁マシーンのパクりなんだから、必殺技までパクりたくはない。
超電磁と言えば、もう一つの方が必殺技的には有名だよな。タツマキからスピンに行く黄金パターン。しかし、残念ながらこの世界の魔法でも完全に相手を拘束し続けられる物は存在しない。空間魔法ってのはここ15年の間に開発されたばかりなんだが、その一種である「拘束」すら既に対抗魔法ができてるんだから。それに、スピンの方も体当たり系の技なんだよな。クーの「ファイヤーバードアタック」と被るんでやめとこう。
…ん、超電磁で他にも何か記憶の底に引っかかる物があったぞ。そういう名前のアニメがあったな。元はラノベだったか。生身でレールガン撃つやつ。なるほど、レールガンか。あれは、電気を通すレールと弾体が接触していないといけないんで、摩擦が問題になって実用化が難しかったんだっけか。あと消費電力量の多さも問題だったか。もっとも、僕が前世で死んだ時には、既に米海軍が数年後に実用試験を行うような話もあったが。この世界なら、電気を通すレールも、弾体自体も、魔力で作るか、魔力で囲んでしまえば摩擦の問題は解消できるな。雷系の魔法を使えば電力消費量だって問題にはならないから再現できるか。
でもなあ、大嵐防壁がある限り、実体弾系って役に立たないんだよな。この魔法、実は名前詐欺魔法だったりする。名前からすると風系で、風の力で弓矢や弾丸を逸らしてるように見えるんだけど、実は違うんだな。この魔法を発明したのはヤマト皇国の初代皇王タケル1世陛下だったりする。当時はまだ科学知識もそんなに普及していなかったんで、本当の原理を隠すために風魔法に偽装したんだろう。実は、この魔法は弾体の運動エネルギーの方向ベクトルを変える魔法なんだ。従って、どんなに初速が高かろうと、実体弾である以上、必ず方向を変えられて逸らされてしまう。タケル1世陛下は魔力まで偽装して無意味な風の魔力までまとわせていたと伝えられているが、みんな原理を理解した現在では、ただの無属性魔法だ。…やっぱりタケル1世陛下って絶対転生者だったんだろうな。
だから、初速を通常の火薬砲より遙かに速くできるレールガンであろうと、必ず逸らされてしまう。ただし、方向を逸らすために防壁部分にある程度以上の厚みが必要なため、他の防壁系魔法のように体にぴったりまとわりつかせる形で発現はしない。必ず防御する本体の前に配置される。だから、至近距離からの攻撃には弱いんだ。ただ、至近距離から攻撃するなら、実体弾である必要もないんだよね。
あと、もう一つくらい超電磁で何か引っかかってるなあ。何か思い出せない。某宇宙戦艦がらみで、どっかで読んだことがあるような気がするけど…いいや、思い出せないならそこまでだ。部屋で一人で考え込んでいても、いいアイデアも出てこないだろうし、格納庫に行ってドラゴンでも見ながら考えてみるか。
…と、格納庫に行ってみたら、父さんとカイがポセイドンの所で何かやってる。
「お、ちょうどいい所に来た。ポセイドンの新装備を試してみたいんで模擬戦の相手をしてくれんか」
僕を見つけた父さんが頼んできたのだが、新装備って何だ?
「新装備?」
「カイがな、ポセイドンの新必殺技を考えたんだ。お前も何か思いつけ」
「そのネタが何かないかと思って探しに来たんだよ! で、新必殺技って?」
「必殺技って何だよ!? 中距離の強力な打撃武器が欲しかったんでトライデントを改造してもらっただけだぞ!」
カイが抗議してきた。まあ普通の感性なら「必殺技」なんて厨二くさい呼び方は嫌だよな。で、ポセイドンのメイン武器であるトライデントを見てみると…
「線?」
「そうだ、オリハルコリウムのケーブルで本体と接続できるようにした。これで、投げた時にも魔力を通せるようになるし、線で引き戻せる」
「ああ、なるほど。カイは魔力撃が得意だもんね」
魔力撃ってのは、打撃武器を相手に当てる瞬間に魔力を通す攻撃方法だ。僕がよく使う魔力付与が、武器に魔力を常時まとわせて攻撃力を上げる方法であるのに対して、当てる瞬間だけ攻撃力を上げる点が違う。コントロールが難しい代わりに、通す魔力量で威力を変えられるのが特徴だ。カイは通常の攻撃魔法のコントロールは下手なのだが、この魔力撃のコントロールは上手い。
ただし、当然ながら魔力を通すには、自分の体の一部と接触している必要がある。投げてしまうと普通は魔力は通せないが、このケーブルでつなぐことで、投射時にも魔力撃を使えるようにしようってワケか。
「そういうワケなんで、模擬戦の相手をしてくれ」
「いいよ。ドラゴン使うかな?」
「いや、模擬戦でも損傷の危険性はある。敵がいつ来るか分からんから、お前は試験機を使え」
「了解」
僕はさっさと格納庫の隅に駐めてある試験機に向かう。全高は10メートルほどしかない試作型のAGだ。だいぶ昔に乗せられたことがある。角柱を主体にした装飾も何もないデザインだが、今見直してみるとドラゴンやライガーの原型になったことが分かる。色は薄い灰色一色…あれ?
「これ、プロト・ブレバティって名前じゃないよな?」
「それいいな! 今からこいつはプロト・ブレバティだ」
いかん、墓穴を掘っちまった。元祖合体ロボのネタだが、僕はあのロボット多数出演のゲームの方で知った口だけどね。…まあいいや。こいつは試験機だから特に操縦者認証もかかってないので、セットアップのキーワードだけで起動するし、10メートル級だから魔力もそんなには取られない。
ポセイドンと一緒に格納庫を出ると、ちょっと飛行して街の外、北側に少し離れた場所にある演習場に向かう。父さんも一緒に生身で飛んできている。
「それじゃ、始めようか。『物理防壁』『魔力防壁』」
今回は、カイの新技を受けるのが目的だから、通常の魔力防壁の他に、物理打撃攻撃への防御魔法も併用する。
「よし、腕を狙うぞ。くらえ『トライデント・ミサイル』!!」
「うぉっ!?」
予想以上に高速で投げ込まれたトライデントに驚いて、反射的に避けてしまったのだが…
バガン!
「曲がった!?」
咄嗟に避けた僕を追尾して、トライデントが曲がってきたのだ。左腕に当たる瞬間に魔力が流されて破壊力を増しており、通常の鋼鉄製でしかないプロト・ブレバティの左腕は物理と魔力の二重の防壁をかけていたにもかかわらず、あっさりと吹き飛んでしまった。
「こいつは、もともと魔道具だからさっきのキーワードを使えば誘導はできるんだぜ。有線化することで、さらにコントロールしやすくはなったけどな」
なるほど、前から誘導はできてたんだな。それにしても、こういう場合のイメージ化やコントロールは上手いくせに、なんで攻撃魔法のコントロールは下手なんだろうか?
「使えることは分かった。ありがとうな」
「大した協力じゃないから別にいいさ。あ、僕も実験したいことがあるんで、もう一度投げてくれないか?」
せっかくだから、僕もこの前学んだ新魔法を試してみよう。
「いいぜ。トライデント・ミサイル!」
「玻璃障壁!」
「何っ!?」
カイのキーワードとほぼ同時に僕の呪文も完成する。が、父さんが驚いてるのは何でだ?
パリィン! ゴスっ!!
突き出したプロト・ブレバティの右手の前に円形に盾状の玻璃障壁が展開されたが、トライデントはそれをあっさりと突き破って、右手の掌に突き刺さる。が、先ほどのように右手自体が吹き飛ばされることはなく、貫通はされながらも原型は保っている。
「うん、物理打撃に対する防御力はそんなに高くはないけど、それなりに使えそうだね」
「魔力撃の威力をバリアに食われたな。結構使えそうだ。オレにも教えてくれよ」
「いいよ。それじゃ手を修理して戻ったら…」
「ちょっと待てぃ!!」
僕とカイの会話に父さんが勢いよく割り込んで来たが、一体何だろう? さっきも驚いてたようだったが。
「何だよ、父さん?」
「お前、どうやって玻璃障壁を張った!?」
「…普通に、イメージして魔力を溜めて呪文を唱えただけだけど?」
「こいつは、去年開発に成功したばかりの新魔法で、この前の戦闘にようやく魔道具化が間に合ったばかりなんだぞ! イメージ化が難しくて呪文での実戦使用が困難だから苦労して魔道具化したのに、何でお前は簡単に呪文で実現できるんだ!?」
え、そんなに難しいかな?
「…何でと言われても、実現できるんだからしょうがないじゃないか。呪文はそのまんまだって教わったし、この前分析してガラスの組成は分かってるから、それをそのまま単純な円形にイメージ再現しただけなんだけど」
「分析…なるほど、その手があったか」
妙に感心されてしまったけど、そんなに珍しい方法じゃないだろ。一応釘を刺しとくか。
「逆に、これ、敵にも簡単にコピーされるよ」
「それはしょうがない。今までの歴史でも、大抵の魔法はすぐコピーされて敵にも使われるようになっているだろ」
そりゃそうか。何しろキーになる呪文は必ず唱えないといけないから隠せない。呪文さえ分かれば、あとはイメージ化の問題だから、いつかは再現されてしまう。だからこそ、タケル1世陛下は大嵐防壁を簡単にコピーされないように風魔法に偽装したんだろうな。実際、しばらくの間は大嵐防壁はヤマト皇国だけにしか使えない魔法だったみたいだし。
「それもそうか。それじゃ、僕は腕を修復してから戻るよ」
さっき吹っ飛ばされた左腕を探して修理しなきゃね。
「それじゃあ、俺たちは先に戻ってるぞ」
そう言い置いて父さんたちが飛ぼうとした、正にその瞬間…
「そういうワケにもいかないかな?」
「いや、このままじゃ迎撃もできん。一度は戻るぞ」
演習場からさらに北方に大規模な瞬間移動の魔法を感知したのだ。恐らくは帝国の魔道戦艦と思われる巨大な飛行物体のものを。
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」
 




