第5話 オグナ大地に立つ!! Bパート
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「神鋼魔像、ブレバティ!」
「チェンジ、レオパルド!!」
「はいいぃ!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。だって、このキーワードで起きることと言えば…
目の前で戦艦の艦体前方と後方の中央部に亀裂が入り、左右に分かれ出す。慌てて飛行甲板から飛び立つ3機の黒AGを尻目に、戦艦は垂直方向、上に艦首を向けるように旋回しながら、亀裂部分が左右に大きく分かれていく。艦尾方向の亀裂部分では、艦尾の推進部ユニットがさらに下方にスライドして延長されていく。艦首方向の亀裂部分は大きく左右に分かれていく一方で、亀裂の中から巨大な顔が姿を見せる。
そう、戦艦が身長250メートル超の巨大な人型に変形していくのだ!
…そりゃ、こんなの目の前で見せられたら、確かにこっちも追撃できんけど、相手も艦に逃げ込むのは無理だろう。ガーランド伯爵も無茶を言う。
唖然として見守る僕たちの目の前で、戦艦は超巨大魔像への変形を完了させて、ポーズを取って叫ぶ。
「鋼鉄巨像レオパルド、見参!」
「『ン』が抜けてませんか!? 『ン』が!」
僕は思わず全力でツッコんでいた。前世の、アメコミヒーローの版権を買って日本で作った特撮ヒーロー番組の蜘蛛の能力を持つ超人。なぜか「宇宙から来たお姫様に変身アイテムをもらう」という、原作買った意味がどこにあるのか分からないような設定に改変されていたが、その特撮アクションは評価が高く、アメリカの原作者もお気に入りだったと聞く。ただし、原作者が唯一「アレは別にして」と言ったという都市伝説があるのが、そのヒーローが搭乗する巨大ロボットなのだ。もっとも、後にDVD化された際の特撮雑誌のインタビューだと「子供には人気があったんじゃない」みたいな「大人の対応」をしていたが。変身ヒーローが巨大ロボットに乗るというパターンの最初の例として、今日まで続く戦隊ヒーローの先駆となったという偉大な前例ではあるのだが…その巨大ロボの名前が、目の前にいる戦車と同じ名前のヤツの末尾に「ン」を追加したものなのである。変形のかけ声もさっきの「チェンジ+名前」だし。あ、元ネタの巨大ロボもお姫様が乗ってきた「宇宙戦艦」から変形するのだが、戦艦の時とは名前が変わる。ま、戦艦と言っても全長50メートル程度だけど。
「『ン』をつけたら瞬殺されるじゃろうが!」
「『次鋒』かよ!?」
僕のツッコみに答えたガーランド伯爵に、さらにツッコみ返す。本来は、元ネタの巨大ロボットは登場したらすぐに敵を瞬殺してしまうことが多くて、最強伝説があるくらい強いヤツのはずなのだ。もっとも、これは実は当時の特撮技術やストーリー上の都合で長い間戦わせるのが難しかったかららしいのだが。ところが、超有名な超人格闘漫画に同じ名前を持つキャラクターが別にいて、そいつは勝ち抜き戦の次鋒として登場した瞬間に瞬殺されて「かませ犬」として伝説となってしまったのだ。戦車モチーフの超人だから、こういう名前になったんだろうけど、奇しくも最強伝説と最弱伝説が同じ名前なんだよな。
「間に合わせの急造ではあるが、これも世界初の実戦投入じゃ! また先を越してやったぞ!!」
僕のツッコみは無視して嬉しそうに言い放つガーランド伯爵。父さんを挑発してるんだろうか?
「別に一着争いをしてるワケじゃないから先を越されても何とも思わんが、いちいち人の作ろうとしてるモンをパクるなよ。まあ、元ネタがあるからオリジナルを主張する気は無いけどな」
オグナから父さんの声が聞こえてきた。心底からあきれてるっぽいな。
「やっかましい! 吾輩の『強化鎧』構想はお主の『上級魔像』構想に負けてお蔵入りになりおったし、魔道戦艦の実用化では先んじたと思ったら、試作艦も無しにいきなりネタ戦艦を量産しおって!」
…本当に目くそ鼻くそレベルのライバル関係だったらしい。まあ、スフィンクス級がネタ戦艦ってのは僕も激しく同意するが。しかし、さっきからの発言を総合してみると、以前に僕が抱いた危惧は当たっていたようだ。
「よかろう、ネタ戦艦の実力を見せてやろうじゃないか。ノゾミ、カイ、クー、お前たちで3分間だけ時間を稼げ。そいつは魔力量こそ大きいが、装甲は鋼鉄でお前らなら紙も同然。デカいだけの木偶だ。ちょっと遊んでろ」
「ムキーっ! 木偶じゃと!? その言葉撤回させてやるわい!!」
「ちょっとぉ、いくら鋼鉄製でも、このデカさだけで脅威なんだけど!?」
「近接格闘型のポセイドンでどうしろってんだよ!?」
ガーランド伯爵が怒るのは当然だが、クーとカイも無茶振りされて困っている。特にカイは本気で困っているだろう。高速飛行ができるクーのロプロスなら一撃離脱戦法で魔法を撃ってればそこそこダメージを与えつつ無傷で逃げ回ることもできそうだが、重装甲な代わりに鈍重で、しかも遠距離攻撃手段があまりないポセイドンで、こんな巨人を相手にするのは無理ゲーってモンだ。
魔法で何とかするにしても、そもそもカイは格闘戦が得意な代わりに攻撃魔法のコントロールが苦手である。だからこそ「カイ」って名前なのに赤くて砲撃支援型のライガーじゃなくてポセイドンに乗せられたんだろう。そうでなきゃ、あの父さんのことだから絶対にライガーに乗せるに決まってる。
「カイは下がってていい。防御魔法でオグナの艦橋周りで守っててくれ。クーは直してやるから高速一撃離脱戦法。無理はするなよ。修復」
「了解」
「オッケー、あんがと! 変形」
カイには防御専念を指示し、ロプロスの背中に折りたたまれている主翼部分に修復の魔法をかけて修復する。外装の傷が直ればまた飛行形態で飛べるはずだ。修復が完了するとクーも即座に変形して高速で飛び去る。
「おっと、魔力弾!」
直後に、レオパルドの近接防御火器からの魔力弾が飛んできたので、回避しながら撃ち返して砲座を破壊する。このまま、僕も一撃離脱戦法をとるか、それとも囮として攻撃を回避しながら砲座を壊して回るか…とか考えていたら、オグナの方から父さんの声が聞こえてきた。
「トランス・フォーメーション!」
うわ、やっぱりそういうキーワードかよ。レオパルドを警戒しながらチラ見すると、案の定、オグナが変形を始めていた。
後部推進部ブロックが延長されて足になる。前部格納庫ブロックが変形して腕になり、格納されていた手が露出する。艦橋部が前に倒れながら、艦体自体は上向きに旋回していく。
レオパルドからの魔力弾をかわしながら砲座を狙って魔力弾を撃っていたら、すぐに変形も終わったようだ。父さんは3分時間を稼げと言っていたが、無理な変形をしていないので1分とかかっていない。が…
「ま゛っ!!」
「やっぱりか! やっぱりこうなるのか!!」
人型に変形したオグナが大地に降り立ち、咆哮を放った…どこかで聞いたようなヤツを、ね。覚悟してたとはいえ、やはり目の前であまりにも巨人な姿を見せられた上に咆哮までコレだと、さすがに精神的に来るものがある。おまけに…
「行っけぇ~、ジャイアント・オグナぁ!」
オグナから聞こえてきた子供の声に、僕は思わず絶叫していた。
「ツバサぁっ! お前どこに居るんだぁぁぁぁっ!?」
「ツバサちゃんもツバメちゃんも、わたくしと一緒にサブCICよ~。主要防御区画内で一番安全な所ですもの。小さな子を守るには最適の場所でしょう?」
「お母さん、オレはもう小さい子じゃないよっ!」
「あらあら、ごめんなさい。そうよね。もう大きい子ですものね。さあ、お父さまを応援しましょう」
「「はーい」」
確かに母さんの言ってることは、子供を守るという意味では正しい…正しいんだが、この一気にファミリードラマ化した雰囲気をどうにかしてくれ!
「…父さん、サブCICからの音声をカットできないのか?」
「…文句は母さんに言え」
「あらあら、お邪魔だったかしら~? ごめんなさいね~。でも、シュバルツにご挨拶したかったのよ~。お久しぶりね~。お嬢さんも随分と美人に育ったじゃないの~」
すっかり世間話モードになってる母さん。ダメだ、この状態の母さんを止めることは誰にもできない。
「…相変わらずじゃのう、クリス。そちらの娘さんも、お前さんそっくりに育ったようじゃな。外見もそうじゃが、それ以上に中身がそっくりじゃ」
ガーランド伯も、この状態の母さんが止められないことは分かってるようで、世間話に応じている。うん、言ってることも正しい。言葉遣いとかはともかく、根っこのところであいつは母さんそっくりだ。
「あとな、『シュバルツ・ゲシュペンスト』の名跡は息子どもに譲ったわい。今は彼奴らが『ノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト』じゃ」
そういや、さっきもそんな風に名乗ってたな。ノイエは「新」だよな。で、シュバルツは「黒」、あとゲシュペンストが「幽霊」だったか…な!?
…元ネタはサイボーグ戦士の敵組織でしたか。なるほど、三兄弟で角が真ん中、右、左にあるはずだ。もう何もツッコむ気にすらならない。ただ、父さんに確認だけはしよう。一応拡声は切っておいて、通信をつなぐ。
「ガーランド伯って、転生者?」
「そうだ。初めて会った時から、黒ずくめの格好に赤いマフラーがトレードマークだったな。前に聞いた話だと、息子たちは転生者じゃないという事だったぞ。もっとも腹違いの娘もいるなんて話は聞いてなかったんだがな」
やっぱりかい。それにしても「赤いマフラー」か。コテコテのネタに胸焼けしそうだ。
「もうお腹いっぱいなんですけど」
「そうだな。そろそろ再開といくか」
そう言うと、父さんが相変わらず世間話を続けていた母さんたちに割り込む。
「積もる話もあるだろうが、そろそろそいつの性能を見せて欲しいもんだな。変形だけが能なら、こいつには勝てんぞ」
「望むところじゃ! 話すのはまたの機会にな、クリス」
「あらあら、すっかり話し込んじゃったわ。お邪魔してごめんなさいね。これからはダメコンに専念しますわ。それじゃあシュバルツ…じゃなくてゲオルグもお元気で」
「それじゃあ…」
「やるか!」
母さんが引くと同時に、レオパルドとオグナががっちりと組み合う。ロックアップってヤツだ。プロレスラーならこれで相手の実力が分かるって話だが、超巨大魔像でそんなワケもないだろう。
こんな巨体同士の格闘戦になったら、もう僕らはお呼びじゃない。カイ、クーと一緒に少し離れたところで見守るだけだ。下手に魔法を撃ち込んだら友軍誤射してしまう。魔力弾なら一応誘導はできるけど、急な動きには対応し切れないだろうし。あちら側もそう思っているのか、黒いAG3機も遠くから巨人同士の格闘を見守っており、こちらに攻撃してくる様子はない。
身長250メートル超の巨人同士の対決は、動きはスローモーだが非常に迫力はある。意外にも力比べはレオパルドの方がオグナを押している。
「どうじゃ、カーボンクリスタル4層構造の蓄魔力は噂のオリハルコリウムにも負けんぞ! パワーならこちらが上じゃ!!」
「ふん、外装が鋼鉄だからなめていたが、旧型艦の改装にしてはやるじゃないか。相当に魔改造したな」
「外装とて最外部が鋼鉄なだけよ。砲塔あたりまでは無理だが、艦体はカーボンクリスタルとミスリウムで内張補強してあるわい」
…あんた、そんな風に自慢気に装甲材ばらしていいのかよ? 普通は軍事機密でないかい? とか思ってたら、あっちで中央角の黒いAGが額に手をやって首振ってるよ。アインも父親のせいで苦労してるんだろうな。
「なら、これはどうだ!」
「ぬわっ!?」
あ、相手の押してくるパワーを利用して、巴投げした。…250メートルの巴投げって凄い迫力だな。もの凄い地響きがした。
立ち上がったレオパルドへ、オグナが殴りかかる。パワー負けしてる分、装甲の強さで対抗できる打撃戦をする気だな。
だけど、ガーランド伯が言っていたように、外装は少しへこむものの、それ以上のダメージは与えていないようだ。もっとも、相手の打撃もオグナにダメージを与えてはいないように見えるが…
「副長、艦内の重力制御に異常が発生しています! シートベルト不着用者に負傷発生」
突然、魔道通信機からマーサさんの声が漏れる。
「マーサさん、外部通信になってるよ!」
「あらやだ。ごめんなさい」
慌ててマーサさんが通信を切る。緊急事態で魔道通信機の思考制御を誤ったようだ。常に冷静なマーサさんにしては珍しい。もっとも、焦る理由もわかる。重力制御に異常発生ってのは結構致命的だろう。オグナもレオパルドも、基本的には水平状態で飛行するのが常態の飛行戦艦だが、二次元平面である水上しか動けない洋上艦と違って飛行戦艦である以上は三次元機動への対応は当然してある。その一番の対策が艦内の重力を重力制御の魔法で制御することだ。どんな飛行体勢になっても、艦内の「下」方向に1Gの重力がかかるように制御されている。だからこそ、通常の軍艦形態の場合だと「垂直」に立っている状態の魔像形態になっても艦内は通常の状態で維持できることになっている。その重力制御に異常が発生したとすると、艦内はメチャクチャになっているはずだ。ったく、まだ艤装中で未完成の艦を持ってくるからだよ。
それにしても、重力制御もそうだが、浮遊や瞬間移動あたりも、僕が小さかった頃にはまだ無かった魔法ばかりだ。ここ10年くらいの魔法の進歩は本当にすさまじい。何か、タガが外れたみたいに急激に進歩が加速してるようだ…って今はそんな事考えてる場合じゃないか。
改めて、オグナに通信をつないで父さんを呼び出す。
「父さん、ちょっとヤバいんじゃない。無粋だけど手を出すよ」
「う、すまん。頼めるか?」
「任せてもらおうか」
突然、身を引いてかなり後ろの方に飛びすさるオグナ。
「どうやら、どこか壊れたようじゃな。こちらは旧式ではあるが、その分信頼性は高いぞ。変形は新機構だが、ほかの部分は何年も使用しておるし、軍艦同士の衝突にも耐えてきたんじゃからな」
ガーランド伯が勝ち誇ったように言う。そういや、演習中に他の艦と衝突して大破したとか父さんが言ってたな。衝撃耐性も試験済みってワケだ。
「どうじゃ、今引くなら見逃してやるぞ」
確かに、オグナが瞬間移動で逃げれば、あちらの作戦目的は達成済みだし、それ以上追っては来ないだろう。だけど、それだと今度はこっちの収支が悪すぎる。勝手な捕虜交換の上に肝心の捕虜を取り戻せず、しかも戦艦同士の一騎打ち…戦艦同士の一騎打ちって、普通は砲撃戦であって、殴り合いじゃないよな? …コホン、一騎打ちで打ち負けたとあってはさすがに父さんの責任問題になりかねない。実質的な意味は無くても、宣伝的にはちょっとは派手なことをしておかないとね。改めて拡声をかけてからレオパルドとオグナの間に割って入る。
「そういうワケにもいかなくてね。ここからは僕がお相手するよ」
「おい!?」
「ちょっと、ノゾミ!?」
「大丈夫、カイとクーは下がって見ててくれ。ドラゴン・ブレード」
カイとクーが驚いて止めようとするのを制して抜刀する。そして…
「魔力刃っ!」
思いっきり気合いを込めて魔力刃の魔法を発動すると、ドラゴン・ブレードの刃に重なるように魔力光の刃が生まれ、伸びていく。伸びて、伸びて、伸びて、伸びて…ドラゴンの身長の4倍以上、80メートルの長さにまで伸びる。これは、刀剣類に魔力製の刃を追加する魔法だ。実体のある武器に魔力を付加する魔力付与とは違い、完全に魔力製の刃になるので、魔力さえ十分あれば長さや幅を自在に調整できる。その分、魔力防壁の防御効果も受けてしまうんだけどね。それでも、さっきから炭素結晶の内張をしていない砲座は魔力弾で破壊できているから威力的には問題はないだろう。とはいえ、ここまで大きい刃を作ると、さすがのドラゴンの魔力量でも長時間の維持は難しいから、さっさとケリをつけないとね。
「何じゃあ!? …フン、それではカーボンクリスタルは斬れんぞ」
一瞬驚いたガーランド伯だが、すぐに余裕を取り戻す。そうだね、この刃では一撃で炭素結晶やミスリウムまでは斬れないだろう。だけど…
「斬れるところを斬ればいいのさ!」
急速上昇すると、真っ向上段からレオパルドの肩を狙って急降下しながら斬りかかる。僕の狙いが分かったレオパルドが腕を振り上げて防御しようとするが、僕はドラゴン・ブレードを横に振ってその腕をかわす。魔力刃は魔力が刃の形になったものだから、質量は無い。固体化してはいるから腕で受けられるとそのまま止められてしまうが、重くないので動かすことは難しくないから、受けられる前にかわしたのだ。そのまま、レオパルドの膝元まで急降下して、そこから切り上げる形で急上昇する!
ズガガガッ!!
勢いよく振り上げた腕を下ろすこともかなわず、レオパルドの腕は肩の部分で下から切断される。生命感知で腕部分には生命反応が無いことは確認済みだから、斬り落としても問題は無い。
「やっぱり、関節部までは内張していなかったみたいだね」
「おのれぇ!!」
僕の指摘に激怒するガーランド伯。だけど、これは…
「父上が装甲材の補強方法を言ってしまうからかと」
僕が言い返そうとしたことを、アインがツッコんでくれた。それと同時にレオパルドを守るように3機の黒いAGがドラゴンの前に割り込んでくる。
「我々が護衛するので、ここは撤退を。既に作戦目的は達成しており、旧型艦で新鋭戦艦を圧倒したという実績も作ったのだから、これ以上の戦闘は蛇足かと」
「やむを得んな。シュン、お主の小倅もなかなかやるようじゃ。ここは若い者に免じて引いてやるわい」
アインの指摘に、ガーランド伯も冷静さを取り戻したようだ。オグナの状況を考えると、引いてもらえるのはありがたい。
「ちょっと、逃がさないわよ! ヒカリを…」
「待て、オグナがまずい、これ以上の戦闘はこっちも無理だ」
「…ここはカイの言うことが正しい」
ヒカリを取り返そうとして戦闘を続けようとするクーを、カイが冷静に制する。…やっぱりカイって熱血系に見えて実はクールだよな。僕も、無念さをよそおいつつカイに同意する。
「おう、次も同じと思うなよ。今回の問題点はきちんと直してやるからな」
「それはこちらも同じじゃ。次は新型艦で相手してやるわい」
父さんと言い合いながら、レオパルドが落ちた右腕を左手で拾い、肩の上に3機の黒いAGを乗せる。
「さらばじゃ、瞬間移動」
「行ったか…」
レオパルドが転移したのを見て、父さんがつぶやく。
「オグナの方はどう?」
「艦内の重力制御は、今回復したところだ。もう1分早ければ、オグナの力ももう少し見せてやれたんだがな」
「そしたら今度は別のところが壊れるんじゃないの? きちんと完成してから使いなよ」
「…そうしよう。変形するから離れてろ」
強がりを言ってた父さんにツッコみを入れ、少し離れてオグナの変形を待つ。再び戦艦形態に変形したオグナの飛行甲板が開いたのを見て、マーサさんに着艦許可を求めてからカイ、クーと一緒に着艦する。
ああ、何だか戦闘それ自体よりも、それ以外の部分で疲れたような気がする。今日はゆっくり休ませてもらおう。
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結局、オグナは戦闘に魔力を使いすぎて、イモータル市まで瞬間移動するには魔力残量が足りなかった。通常飛行でイモータルまで飛ぶことにしたが、速力を出すとやはり途中で魔力欠乏になりそうなので、巡航速度でゆっくりと飛ぶしかない。僕たちは士官用の個室を割り当てられて一晩休んだ。
翌朝、身支度を調えてから大食堂に行くと、もう父さんや母さん、ツバサ、ツバメにカイとクーも来て食事をしていた。大食堂にはテレビも置いてあって、みんなで何かの番組を見ているようだ。
「遅いよ、にーちゃん」
「寝坊ってほど遅くもないだろ。何見てんだ?」
ツバサに言い返しながら、配食コーナーから朝食の載ったプレートを取って、ツバメの横の空いてる席に座る。
「ニュースだよ。見てよ、昨日の戦闘のことやってる」
「え?」
かるく曲面のついた水晶画面を見ると、まさにブレバティ・ドラゴンがレオパルドの腕を斬り落とすシーンが写っていた。父さんめ、昨日の記録映像をさっさとテレビ局に売り込みやがったな!
「…この恐るべき強敵を撃破したノゾミ・ヘルムは、先日お伝えしたように、あの『紅の男爵』リヒト・ホーフェンのAGと互角に戦って左腕をもぎ取り、わずか数分の戦闘で一眼巨兵4機を完全撃破、戦艦バルバロッサを中破に追い込んでいます。今、我が国は帝国への反撃の手段と、新たなる英雄を得たと言えるでしょう」
そのシーンに続けて現れたのは、見まごうことなき僕の顔写真と、僕を英雄とたたえるアナウンサーの声だった。
覚悟してはいた。その積もりだった。だけど、実際に自分がテレビでこんな扱いを受けているのを見ると、改めて羞恥心というヤツが心の中で頭をもたげてくる。
ニヤニヤと笑いながら僕を見る父さん、カイ、クーと、ニコニコと笑っている母さん、そして尊敬の目を向けてくるツバサとツバメ。一瞬、机に突っ伏しそうになったものの、そこに朝食のプレートがあるのを思い出して、下を向いただけにとどめる。プレート上のベーコンエッグとポテトサラダを見つめながら、僕は誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。
「やっぱり、これって何か違うんじゃね?」
次回予告
戦功によって騎士叙勲を受けたノゾミたち。だが、オグナの艤装完了にはまだ時間がかかり、ヒカリを取り戻す算段が立たないため苛立つクー。そこにオリハルコン鉱山を狙って帝国が大攻勢をしかけてきた。戦艦3隻と27機の一眼巨兵という、通常兵力なら1個師団にも匹敵する戦力を阻止するための戦力は、わずか4機のブレバティのみ。
「戦いは数だよ、ヘルム男爵」
降伏勧告をする敵将に対して、シュンは不敵に笑って豪語する。
「対帝国迎撃用要塞都市イモータルの実力を見せてやろう!」
「やっぱり変な機能がついてるんだな!?」
次回、神鋼魔像ブレバティ第6話「決戦、イモータル市」
「これって何か違うんじゃね!?」
エンディングテーマソング「転生者たち」
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来週も、また見てくださいね!




