第5話 オグナ大地に立つ!! Aパート
アバンタイトル
ナレーション「屋敷に潜入していたリヒトに目の前でヒカリを誘拐されてしまったノゾミ。心配するノゾミにこの戦争の秘密の一端を明かす両親。まやかし戦争の中で妹と敵味方に分かれて英雄を演じることを覚悟するノゾミだったが、実際に捕虜交換の場で敵に回った妹の姿は、予想以上に衝撃的であった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
この番組は、ご覧のスポンサーの…
「クククッ、フフフフフ、ハハハハハハハ、アーッハーッハッハッハ!」
見事な「悪役笑い四段活用」を披露するリヒト。だが、分かるぞ! お前思わず素で笑っちまったんで、慌てて悪役笑いにつなげてごまかしたな!!
「何がおかしいっ!?」
まあ、おかげで僕も冷静さを取り戻すことができた。冷静になったからこそ怒りの演技を続ける。もっとも、演技ではあるのだが、お前の趣味の悪さに腹が立っていることも事実なんだけどね。
「いや、失礼。私は別に大したことはしていないのだよ。ヒカリ君には、ルードヴィッヒ様の目指す理想と、我々の秘密を教えただけでね」
「そう、あたしは知ってしまったの。おにいさまの秘密を。そして『禁断の異界の知識』を」
リヒトの言葉を受けてヒカリが話す。何というか、抑揚があるのに感情が抜けていて、見事な「人形しゃべり」になってる。それでいて棒読みでないあたり、才能あるなあ。前世なら声優になるのを勧めたいところだ。…だが、「禁断の異界の知識」とは?
「『異界の知識』などと言うと大仰だがね。我々のかつての趣味の知識をまとめた本を導入してもらっただけだよ」
「何だと!?」
おいおいおい、そんな本作ってたのかよ!? それにしても、究極超人ネタが入ってるあたり、どんな分量なのか知りたいもんだ。…まあ、内容を考えれば、ヒカリが「禁断の」と枕につけたのも当然だろうな。
「おにいさまには、力がある。世界を統一するための力が。それなのに、現状に安住して安逸をむさぼり、ルードヴィッヒ様の理想に逆らおうとするのは、堕落以外のなにものでもない」
ずれかかった話題をヒカリが元に戻す。
「だから、あたしはおにいさまの目を覚ますために、リヒト様と共に戦う」
「ちょっと、ヒカリ!?」
「本気で言ってるのかよ!?」
「あらら、ヒカリちゃん、お母さんは悲しいわ」
ヒカリの敵対宣言に驚くクーとカイ、それにやっぱり何かずれてる母さん。さて、僕は何と答えるべきかな?
「…ヒカリ、それがお前の自分の意志で言ってることなら、僕は何も言うことはない。黙って相手をしてやろう。でも、今のお前は明らかにおかしい。それがお前の意志とは思えない」
嘘です。ノリノリで自分の意志で言ってることが僕には分かります。そう言うワケにはいかんけどね。
「だから、リヒトっ、ヒカリを返してもらうぞ! 爆風っ! ドラゴン・ブレード!」
爆風をしかけると、赤いAGはとっさにヒカリをかばって体勢を崩す。その間に抜刀して、右腕を狙って斬りつける。
「させん!」
それをかばったのは、左に角のある黒いAG。僕が斬りかかるのを予想していたのか、僕とリヒトの間に飛び込んでくると、AGの身長の8割もありそうな大きな盾でドラゴン・ブレードを受け止める。この盾、魔力付与で防御力を上げているようだが、それだけではなく表面に透明の水晶板のようなものがはめ込んである。これが結構硬そうなのだ。
「噂のオリハルコリウムと言えど、このカーボンクリスタルシールドは破れん!」
「炭素結晶! ダイヤモンドかよ!?」
「衝撃耐性の弱さはハニカム構造ミスリウムの柔軟性と剛性で補っている。耐火防壁をかけてあるから火も通らん。まさに無敵の盾よ!」
自慢気に言ってくるが、確かに凄い。そして、こいつは武器を持っていない。防御特化の壁役なのか?
と、横合いから右に角のある黒いAGが槍斧で斬りかかってきたので、とっさにかわす。こいつの槍斧も同じような結晶でコーティングされている。こいつも炭素結晶だとすると、下手に打ち合うとドラゴン・ブレードでも刃こぼれしそうだ。もっとも、衝撃には弱いはずなのであちらも無事では済まないだろうが。
「連射光線」
ガガガッ! よけた先を光線魔法で狙い撃たれた。左腕に衝撃が走り、装甲の表面が剥離する。大したダメージではないが、そもそもダメージが通ったこと自体に軽いショックを受ける。何しろ、魔法の奇襲で怖いのは避けようがない光系と雷系なので、両属性と無属性の防壁はあらかじめ張っておいたのだ。ところが、その威力の95%を防ぐ耐光防壁を通しても、なおブレバティのオリハルコリウム装甲にダメージを与える威力がある!
この魔法を撃ってきたのがリヒトなら、まだ分かる。AGの巨大な魔力を使ってきちんと攻撃魔法を制御する能力がある。だが、今撃ってきたのは中央に角がある黒いAGだ。つまり、こいつはリヒトに匹敵する魔法能力の持ち主ということだ。この前バルバロッサの上で軽くひねったような温いヤツとは違うようだ。伊達に専用機には乗ってなさそうだな。それにしても連携がいい。こっちの動きを予想して的確に攻撃をかけてくる。だが、ダメージのお返しはしないとね!
「魔力弾…」
無属性の攻撃魔法を、ただ放つのではなく、6つ同時に発動させる。魔法はイメージの勝負。しっかりとイメージを練れば、キーワード1つで複数同時発動も可能なのだ。それも、発射はせずに空中に待機させてから…
「連続発射!」
実は、無属性魔法には連射を行う「魔弾速射」もある。ただし、その場合は連射はできても狙いは1つに絞るしかない。だが、複数の魔力弾を連続発射すると…
「させんぞ! 何っ!?」
「「しまった!」」
「やるね、ノゾミ君」
中央角の黒AGを狙った魔力弾はあっさりと左角の黒AGの盾に防がれる。それでも、あの炭素結晶に少しはヒビを入れるのには成功した。だが、そう来るのは予想済み。これは6発のうちの1発にすぎない。
残りの魔力弾のうち、1つは右角の黒AGを狙って飛び、受けようとした槍斧の刃を直撃して、炭素結晶のコーティングを半壊させる。やはり盾よりは弱いな。
あと1つは飛び去ろうとするリヒトの赤いAGを狙うが、これは直撃の直前にかわされる。魔力弾は誘導が可能だが、進行方向の上下左右への方向転換の指示ができるだけなので、それこそ1秒以下、コンマのタイミングで避けられたら、さすがに真横に動かして当てることはできない。ただし、この弾も無駄にはしない。そのまま、その背後にあった戦艦の主砲塔に誘導して直撃させる。こちら側に向いていた砲塔の前面防盾、つまり一番硬い所を直撃したのだが、それを物ともせずに突き破り、砲塔内部で破裂する。内部の爆発で砲身が根元から折れ曲がる。意外に脆い。こいつの装甲は、ミスリウム合金ではなく高張力綱か何かだろう。
残りの3弾も、それぞれ別の主砲塔を狙って飛び、同様に主砲を破壊する。これで、レオパルドの4基の連装主砲塔は壊滅した。なお、主砲塔の内部に人はいない。なるべく殺すなという父さんの指示に従って、あらかじめ生命感知の魔法をかけておいたので、生命反応の有無は分かるようになっている。オグナの近接防御火器もそうだが、砲塔などは艦内の主要防御区画内の砲撃指揮所やCICから遠隔操作する仕組みなんだろう。
そう、僕の狙いは中央角の黒いAG1機ではなく、むしろレオパルドの戦闘力を奪うことにあった。何しろ、オグナは対艦攻撃用の主砲が無いのだから、砲撃戦になると一方的に叩かれることになる。いくら装甲が硬くても狙われる一方では戦闘にならないからね。同時発動した魔力弾を連射すると見せかけて、別の目標を狙ったわけだ。こいつらにダメージを与えるには、かなり魔力を込めないといけないから、これだけで保有魔力量の3割くらい使ってしまったが、それなりの効果はあったな。
「カイ、盾持ちを頼む。クーはリヒトを足止めできるか?」
まだ状況が飲み込めず動けないでいるカイとクーに指示を出す。ちなみに、母さんは僕が斬りかかると同時にさっさと艦内に待避済みだ。
「分かった!」
「オッケー! 変形」
ポセイドンが左角の黒AGに向かって突進する。ポセイドンは水陸両用兼近接格闘戦用と父さんが言っていた。強固な盾を持つ相手に普通の打撃や魔法は効きにくいだろうが、近接格闘戦で組み技に持ち込めば盾は役に立たない。カイの技量も考えれば確実に抑えられるはずだから、ベストの相手だろう。
それと同時に、クーのロプロスが飛行形態に変形して、赤いAGを追う。変形のキーワードは、まあ、しょうがないのかな…作ったの父さんだし。
僕自身は、残りの黒AGのうち中央角のヤツを狙って飛び、斬りかかろうとしたのだが…
「魔力散弾連続発射!!」
中央角の黒AGは、僕ではなくロプロス目がけて魔力弾を思いっきり大量にバラ撒いてきた。この前ヒカリがバラ撒いたほどじゃないが、今の状況でロプロスを弾幕に包むには十分すぎる。
僕はとっさに飛行方向を変更して、ロプロスと弾幕の間に強引に割り込むと、ドラゴン・ブレードで3つほどの魔力弾を切り落とすが、残りのうち7発を手足に受け、さらに10発は通してしまい、その内のいくつかがロプロスを直撃する。
「ぐっ!」
「きゃあぁぁっ!」
僕は手足に傷ができた程度で、それほど大ダメージは受けていないが、ロプロスに当たった魔力弾の1つは主翼を直撃して傷を与えていた。たちまちバランスを崩すロプロス。
そもそも、なぜ飛翔の魔法があるのにロプロスは飛行形態に変形するのかというと、その方が魔力を節約できるからなのだ。飛翔の魔法は物理法則に反して人やAGを飛ばすことができるが、物理法則に反している分、消費魔力が大きい。ところが、ここで揚力を発生させる翼を持った飛行機を飛ばそうとするならどうなるか。一定以上の風力が翼にかかれば揚力が発生するのだから、強引に空を飛ばす場合に比べて魔力の消費量は格段に下がるのである。消費量が少なくなるということは、それだけ長時間の飛行が可能になり、継戦能力も上がるということだ。ロプロスは変形後はきちんと揚力を発生させる大きな翼を持ち、胴体部も揚力を発生させるリフティングボディになるようになっている。その分、通常の飛行機と同じで、その状態の時に翼にダメージを受けて損傷すると、たちまち揚力に影響が出るだけでなく、風の流れも変わってしまい、飛行体勢が崩れてしまうのだ。
「隙有り!」
その状態を見たのか、さらに右角の黒AGがロプロスに斬りかかる!
「爆風っ!」
「変形! これ以上好きにさせるもんかっ!」
それを風魔法で邪魔してロプロスへの直撃は何とか阻止し、ロプロスも再度人型に変形する。改めて斬りかかる右角の黒AGに対して、ロプロスも左右の腰に装備されている短剣を抜いて2本の剣で受ける。クーは双刀使いなのだ。
「魔弾速射」
中央角の黒AGが僕を狙って魔力弾を連射してくる。結構な威力があることはさっき体感しているから、ドラゴン・ブレードでいくつか叩き落とすが、さすがに全弾は無理で何発かボディに食らってしまい、装甲に傷がつく。あと、ドラゴン・ブレードの刃にも少し傷がついているようだ。無理はできないな。
中央角のAGは最初からの位置を動かず、レオパルドの飛行甲板上にいる。改めて斬りかかろうとしたときに、赤いAGの動きが目に入った。艦体の反対側にあるもう一方の飛行甲板上に降り立ち、艦内に入ろうとしている。
「させるか! 牽引光線!!」
とっさに振り返って左手から牽引光線の魔法を放ち、赤いAGを引き寄せようとする。これが無理なのは百も承知だが、ここはヒカリを諦めないというポーズを取っておかないとね。
「切断光線」
案の定、中央角の黒AGの魔法で牽引光線は切断され、リヒトは艦内に逃げ込む。
「助かったよ、アイン。もう君も引きたまえ」
「簡単に引かせてくれる相手ではなかろう。君の言うとおり、なかなかいい腕だ。ツヴァイたちも苦戦している。不肖の妹ではあるが、相手が悪かったのも事実のようだな」
中央角の黒AGがリヒトの声に答える。どうやらアインというヤツが乗っているらしい。若い声だから、やはり危険な子供たちだろう。しかも、会話内容からするに…
「あんたがフィーア少尉のお兄さんなのかな?」
「お初お目にかかる。ガーランド伯爵家が長子、アイン・ガーランド少佐だ。貴公が『魔像使い』殿のご長子、ノゾミ殿だな」
「丁寧な挨拶痛み入る。お察しの通り、ヘルム男爵家嫡男のノゾミだ。妹君にはいささか失礼したが、戦場の習い故ご容赦あれ」
なかなか大時代的に名乗られてしまったので、こちらも同じように返す。
「腹違いとはいえ一応血のつながった妹ではあるが、力の無い者が戦場で不覚を取るのはやむを得ぬこと。命があるだけで儲けものよ」
ああ、腹違いなのか。あまり仲は良くなさそうだ。
「だが、我ら『ノイエ・シュバルツ・ゲシュペンスト』3兄弟をあの様な不覚者と一緒にされては困るぞ! 雷撃っ!」
「雷撃っ!!」
相手が電撃を放つ呪文を唱えようとしたので、咄嗟に同じ魔法を、後手を取るのは覚悟の上で気合いを込めて放つ。
交錯する電撃。先に到達するのは相手の魔法で、雷撃を放つために突き出したブレバティ・ドラゴンの左手を直撃すると、その掌を砕く!
だが、その直後に今度は僕の魔法が中央角の黒AGの右腕を粉々に吹き飛ばしていた。
「くっ、左手が…」
「相打ちでは装甲性能分こちらが不利か…」
冷静につぶやくアイン。その通りではあるが、こちらも左手が使い物にならなくされたのは痛い。
「兄貴、こいつ手強いぜ!」
「兄者、すまぬ、不覚を取った!」
右角の黒AGと左角の黒AGが、中央角の黒AGの左右に飛び戻ってくる。さっき「三兄弟」と名乗ってたが、こいつらはアインの弟らしい。三つ子かな? 見ると、右角の黒AGの槍斧は刃の部分が完全に折れ飛んでしまっているし、左角の黒AGは左腕を失って右腕一本で盾を支えている。
「ごめん、こっちが足止めされちゃったよ」
「悪ぃ、逃がした」
僕の左右にもロプロスとポセイドンが飛んでくる。
「僕も足止めされたよ。こいつら手強いな。連携もいい」
相手が3機並んでこちらに備えているので、こちらも様子見だ。こいつらの連携の良さを考えると、3対3になる方が戦いにくい可能性が高い。何しろ、こちらの3人は生身の時には連携の訓練はしていても、AG戦での連携なんか一度もしたことはないのだ。カイとクーもそれを分かっているのか、僕の隣で様子見をしている。
「父上、AGの性能差が有りすぎますな。無念ながら、我らの技量では『AGの性能の差が戦力の決定的な差』となります」
冷静に戦艦に向かって呼びかけるアイン。…何か「赤い人」の定番セリフを逆用してるけど、こいつも転生者か? もっとも、リヒトの「禁断の異界の知識の本」で知ってる可能性もあるが。
「ふん、吾輩も研究を怠った積もりはないが、ヤツの方が一日の長があることは認めざるをえんようじゃな」
戦艦レオパルドから声が聞こえる。これがゲオルグ・ガーランド伯爵だろう。内容だけ聞くと爺くさいが、声自体はそんなに年を取っているようには聞こえない。父さんのライバルだったそうだし、年も同じくらいなんじゃなかろうか。
「既に作戦目的は達成しておる。このまま引いても問題は無い所じゃが…それでは吾輩の腹の虫が治まらん。また先を越してやることにするかの」
ぐ、確かに既に敵の作戦目的は達成されている。フィーア少尉と残骸を取り返して、渡すはずだったヒカリもあっちの手の内だ。多少AGや戦艦をボコってたとしても、作戦上は完全にあっちの勝利といった所だろう。だが、それで引かずに「また先を越す」とは? 前回先を越したのはAGの実戦投入のことなんだろうけど。…何か、非常に嫌な予感がする。
「アレをやるでな。お前たちはその隙に逃げ込んでこい」
「アレの最中にどうやって逃げ込めと?」
「そのくらい自分たちで判断せい!」
「了解いたしました。父上の無茶振りには慣れておりますれば」
やはり、何かを仕掛けてくる積もりらしいが…それ以上に会話内容が身につまされる。
「…変な父親を持つと苦労するよな」
「…貴公とは、敵でなければ良き友人になれたかもしれんな」
思わず声をかけてしまったが、アインの方も僕を同族だと感じたらしい。だが、次の瞬間にそんな雰囲気をぶちこわすセリフが戦艦から放たれた。
「チェンジ、レオパルド!!」
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




