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第0話 「お約束」された転生

 気がつくと、真っ白で何もない空間にいた。あ、死んだな、自分。車にひかれそうになった小さな男の子をかばったことまでは覚えているが。それでこんな不自然な空間にいるなら、まず死んだと思っていいだろう。


「おや、随分と理解が早いですね」


 どこからともなく、声が聞こえる。推測するに、神様か、その下で働く天使とか、逆に死神というような存在だろう。あと、もしかしなくても自分が考えていることが分かるのかな?


「その理解で間違えておりません。私は、あなたの生きていた世界の創造者にして管理者です。昔なら『神』と呼ばれていた存在です。あなたの考えていることも分かります」


 やはり神様でしたか。それにしては、随分丁寧なご挨拶いたみ入ります。


「いえいえ、あなたの世界のように文明が進んだ所では、もう神といっても恐れ入ったりする人は、そう多くはないでしょう。ですので『世界の創造者にして管理者』と名乗っております。それに、創造者であり管理者ではあっても、全知全能にはほど遠い存在ですので」


 おや、そうなんですか。


「はい、世界は作れます。管理もできます。ですが、トラブルを未然に防ごうとしても、どうしても漏れは出ますし、起きたトラブルを完全にフォローできるわけでもありません。ある程度の干渉はできても、人の心を操ることもできません。あなたに理解しやすい例えをあげるとすると、インターネットのゲーム、MMORPGのメーカーとでも言いましょうか。ゲーム世界は作れますし、運営もできますが、防ごうと努力してもどうしてもバグは出ますし、プレイヤーに過度の干渉もできません。パッチを当てたり、中間管理をするGM(ゲームマスター)を配置したりして、何とか世界を運営しているわけです」


 なるほど、それなら神がいるのに世の中に災害だの悪だのがあるのも理解できますね。


「はい。その上で言いますと、あなたがたのような知性を持ち合わせた魂というのは、ゲームのユーザーというかプレイヤーというか、そういう存在になります。そして、私たち世界の管理者は、あなたがたプレイヤーの行いによって報酬を得ているのです」


 報酬?


「はい。人助けのように、あなたがたの世界の一般道徳でいう『良い行い』をするプレイヤーが多ければ、私たちに『徳』というものが貯まっていきます。この『徳』が多ければ、それだけ『奇跡』が起こせますし、新しい世界を創造することもできます。世界を作るのもタダではないのですよ。そして最大級の善行とは『自己犠牲』。つまり他人を救うために自分の命を投げ出すことです」


 なるほど。ということは、もしかして自分のやったことは…


「そうです。あなたは言うなれば優良プレイヤーみたいなものですね。そこで、次の転生に際して、いささか優遇措置を差し上げようかと思いまして」


 おお、転生あるんですか!


「ありますよ。この世界に限らず、ほかの世界へも転生できます。その選択権は魂の自由に任されています。そこに選択の自由があるので、なるべく私の作った世界に転生していただきたいのですよ」


 え、他にも世界の創造者とか管理者がいるんですか?


「たくさんいます。また、一人の創造者がいくつも世界を作りますから、世界自体がそれこそ無慮数百万と存在します。プレイヤーの獲得競争も激しいので、魅力的な世界を作って、なるべく多くのプレイヤーに参加してもらいたいわけです。このあたりもMMORPGのメーカーと同じですね」


 なるほど、競争の厳しい業界であると。


「そうです。そんな中で、あなたのような優良プレイヤーは優遇したいわけですよ」


 いや、そんな大層なことしたつもりはないんですけど。ちょうど姪っ子と同じくらいの年齢の子だったんで、つい体が動いたというか。あ、そういえば、あの子は助かったのかな?


「無事助かりましたよ。あなたの行為は無駄ではなかったということです」


 大した善行もしていない人生だったけど、最後に一つ良いことをできたのかな。あ、先立つ不孝をしてしまったから、親兄弟には悪いことをしたか。


「確かにご家族は悲しみましたが、人助け、それも小さな子を助けたのです。立派なことをしたと誇りに思ってくれましたよ」


 それなら良かった。


「さて、転生先のご相談と、優良プレイヤー特典についてご説明いたしましょう」


 おお、どんな転生先があるんでしょうか。あ、この世界に再転生もできるのかな?


「できますが、同じ世界への再転生の場合は、前世記憶保持特典は使えません。たまにアクシデントで同一世界前世記憶保持者が出てしまいますけどね」


 前世記憶保持特典があるんだ! 特典はぜひそれで!! 今の世界は住みやすいけど、夢もあんまり見れないからな。こう、夢や希望が持てる世界がいい。


「では異世界転生で、まず記憶保持特典つきということで。転生先はいろいろありますが、前世記憶保持だと、言語関係が同じ方が住みやすいでしょうね」


 言語同じ!? 日本語が通じる世界があるの?


「たくさんあります。私が作った世界にも多くありますし、他の創造者にもよくモデルにされますので。ほら、あなたの世界『平成日本』は、ゲームだとかアニメだとか漫画だとか、たくさんの創作物があるでしょう。あれは世界のモデルにしやすいのですよ。私もいくつか参考にしてゲームに似た世界を作っています。そういう世界を作ると、あなたの世界から転生したがる魂が多いので」


 なるほど、合理的ですね。ということは、剣と魔法な世界も…


「もちろん、たくさんありますよ。それこそ古代に近いところから、平成日本に近い文明水準のところまで、よりどりみどりです」


 平成日本に近い文明水準!? 剣と魔法で?


「魔法文明が進んでいて、水洗トイレや冷暖房完備、遠距離通信や映像配信、高速大量輸送などが行えるようになっています。食文化も進んでいて、平成日本と同程度の豊かな食生活も送れます。あなたの世界からの転生者には人気のある世界ですよ」


 それは確かに魅力的だなあ。


「ただし、文明の進み具合と奴隷制度はトレードオフの関係になりますので、そこまで進んでいる世界では奴隷制度はなくなっています」


 なるほど、それは納得できます。しかし、何で奴隷制度?


「ご希望の方が多いので。同じような希望としてよくある『内政チート』…先進文明知識を生かしての急激な発展というのも、既に文明が進んでいるので困難ですね」


 ああ、なるほど、奴隷ハーレムだの内政チートみたいな希望って多いのね。まあ、奴隷も内政チートも別にいいや。でもハーレムは夢だなあ。何しろ彼女いない歴=年齢の純粋非モテ系だからなあ。記憶保持特典で何とか次こそ彼女を作りたい。「俺Tueee!」で「無双」してハーレムとか、異世界転生の「お約束」満載なのも夢だけど、さすがにそんな都合よくはできないだろうし。


「お望みでしたら、できますよ」


 へ!? できるの!?


「努力なしというのは困難ですが、環境を整えることは可能です」


 そ、それは是非お願いしたいです!


「では、ご希望を確認いたします。転生先世界は剣と魔法のファンタジー世界、使用言語は平成日本語がメイン、文明度は惑星文明高度レベルということでよろしいでしょうか」


 だいたい了解ですが、「平成」日本語とは?


「今お使いの言葉ですよ。日本語ベースに、英語などのカタカナ外来語混じりの言語です。フランス語、ドイツ語、スペイン語などまで入っておりますので」


 ああ、コンシェルジュとかマイスターって言っても通じるってことですね。


「そういうことです。あと、度量衡(どりょうこう)はメートル法、(こよみ)はグレゴリウス暦と同じものになります。このあたりは、実は世界を作る際に惑星と衛星のサイズや質量、公転周期や自転周期といったパラメータをまるまる流用したからなんですけどね。それから惑星文明高度レベルというのは、だいたいあなたの住んでいた地球と同じレベルとお考えください。宇宙開発が進んでいない、インターネット相当の通信ネットワークが存在しないなど、多少の差はありますが」


 使用単位やカレンダーも同じなのは楽でいいですね。文明度も了解です。


「それで、転生の特典ですが、まず前世記憶保持。あと、身体能力と魔法能力の素質において優遇措置です。上限が高く、成長もしやすくなりますので、努力次第でその世界でも最強クラスの存在になれます」


 おおお、それは嬉しい! 強くなれることが保証済みなら、がんばる気も起きるというものです。


「そして、環境ですが、大国の貴族、男爵家の長男になります。ただし、この男爵家は冒険者だったあなたの父親が一代で起こした新興貴族です」


 貴族制度や冒険者もあるんだ。まあ、ゲームとかがモデルのファンタジー世界なら当然か。男爵だと下の方だろうけど、平民より優遇されてるだろうから問題ないでしょう。それに父親が元冒険者、それも強そうだと、鍛えてもらえそうだし。


「そうです。あなたのご両親はとても強い冒険者でしたので、幼少の頃から訓練してもらえるでしょう」


 両親、ってことは母親も強い人なのね。オーケー! あ、美人だと嬉しいけど、まあそこまで贅沢は言えないか。


「ご両親は美男美女ですよ。従ってあなたも美形になります」


 おおおおお! それは嬉しい特典ですよ。「ただしイケメンに限る」の適用範囲内になれるとは。本当にハーレムの夢もかなうかも。


「特典としてつけられるのは、素質までです。それで本当に強くなるには訓練と経験が必要ですし、美形であっても人に好かれるには努力が必要ですので、がんばってくださいね」


 もちろんです! 素質があるだけでも夢が広がりますよ。がんばります。あと、それだけの素質をもらったんですから、今回も「優良プレイヤー」できるように、なるべく多くの人助けをしたいですね。


「それは、ぜひよろしくお願いいたしますね。期待しております」


 このくらいでしょうか?


「そうですね…あと一つ補足説明事項がございます。最初にお話ししましたように、私は全知全能ではないのですが、世界の発展や人の運命については、ある程度の方向性みたいなものは予測したり影響を与えたりできるのですよ。それで言いますと、あなたの来世には、いわゆる『お約束イベント』が多く待っておりますので、ご注意ください」


 おお! いわゆる転生ファンタジーの「お約束イベント」ですか。私も転生ファンタジー系ラノベは大好物でしたから、望むところです。


「あ、いえ、その…『お約束イベント』と言っても、転生ファンタジー系とは少し違うのですが…」


 え、違うんですか? どんなイベントでしょうね。まあ、お約束というなら予想外のことは少ないでしょう。楽しみにしておきますか。


「それでは、新たなる人生をお楽しみください」


 がんばります! いろいろとありがとうございました。お、体というか、意識というか、急に動き出した感じがする。おお、あれが次に生きる世界か。大陸とかの形は違うけど、地球と変わらない感じの世界。そして、あれが母親かな? あ、体内…胎内に入っていく、これが新しい自分の体…

新番組予告


冒険者になることを夢見て魔獣退治の修行に励む少年の村を襲った巨大なゴーレムは、帝国の新兵器だった。その力の前に手も足も出ない少年に、父親は己が作った巨大ゴーレムを与えて、戦うように促した。強大な力を手に入れた少年は、果たして戦場に何を見いだすのか?


新番組「神鋼魔像ブレバティ」、次週より放送開始。

乞うご期待!

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