第3話 -5day
【事件発生5日前】8月26日(火)
「さてと、そろそろ行きますか。」
現時刻PM1:00
昼食も済ませ俺のプライベートタイムが始まる。今日はつかさとも約束もしていないからゆっくりとできる。なので俺はこれからミラーワールドに行こうとしている。昨日和樹との約束を破ってしまったので今日は気のすむまでエンドレスを付き合おうと思ったのだが・・・できなくなってしまった。理由は俺ではなく和樹だ。なんでも課題があまりにも進んでないのが原因でダイバーを没収されてしまったらしい。午前中に和樹直々にメールが来ていた。だから、今日は和樹抜きの3人でプレイと言うことになった。
そして、さっそくベットに腰掛けダイバーを手に持つ。スイッチを入れ頭に装着する。ダイバーの良いところはPCを介することなくネット接続できることだな。無線だからどこでもできるし。まぁ、屋外でやる人はまずいないと思うけど。ベットに横になりゆっくり目を瞑る。すると、真っ暗な世界に光が広がり始め、目の前にメッセージが出てきた。
『ID及びパスワードの入力してください。』
ミラーワールドに入るためのIDとパスワードの確認メッセージだ。俺はいつものようにIDとパスワードを入力していく。
『ID及びパスワードの入力を確認。・・・・・認証しました。ミラーワールドへようこそ。楽しい時をお過ごしください。』
IDとパスワードが認証され再び目の前に光が広がった。この時、うまくは言えないが自分の体からなにかが出ていくような感覚がする。これが精神を電子の世界へ転送しているということだと思う。今は慣れてしまったが、最初のころは何か気持ち悪かった。
と言っている間に着いたようだ。目を開ければそこは現実の世界を模した電子の世界『ミラーワールド』。鏡の世界と言うのだから現実の世界をそのまま映したのか?と思うだろうが、あくまで現実の世界を参考にしただけで現実の世界のものはあまり無い。あるのは、観光名所として有名な建造物。例えば最近完成したスカイタワーとかだな。
「おい!陽太。遅いぞ!」
ん?おお!なんだあいつらもう来てたのか。
集合場所にはすでに亮介と裕貴が来ていたようだ。時間までまだ15分もあるというのに相変わらず行動が早い。
「遅いって・・おまえらが早すぎるんだよ。時間を見ろ。まだ15分もあるぞ。」
「早く来た方が長く遊べるだろ。それに和樹がいないうちに俺たちだけでレベルを上げまくるんだよ。」
な、なんて鬼畜な奴だ。自分がいない間に他のメンバーのレベルが上がりまくってたら相当ショックを受けるぞ。確かにメンバーの中で和樹が一番レベルが高いが・・・
「いいのか?あとで面倒なことになるぞ。」
「いいんだよ。課題をやってないあいつが悪いんだから。それより、さっさと行くぞ。」
本当にいいのかな・・・俺は一抹の不安を残しながら、亮介たちを追ってエンドレスにリンクした。
〇〇〇
【ファンタズム社本社・社長室・】
「まだ、見つからんのか!」
ファントム社本社の最上階にある社長室で背の高いダンディと言う言葉が似合う50代半ばの男が叫んでいた。
「も、申し訳ありません社長・・・」
「我々も全力を尽くして探しているのですが・・・」
こちらは40代後半の男2人が最初の男を前に縮こまって話していた。最初の男はファントム社代表取締役社長の片桐幻蔵である。一代でファントム社を世界一の大企業にし強者。業界の中では『仮想世界の神』と呼ばれている。そして、今片桐は激しくイライラしていた。
「もう2年だ!2年も探して手掛かり1つ見つけられないというのはどういうことだ!」
「し、しかし社長・・何分ネットワークの中は広く、そう簡単には・・・」
「それをどうにかするのが、お前たちの仕事だろ!!」
片桐はまた一段と大きな声を上げてから自分の椅子にドカッと座った。片桐は2年前からあるものを探していた。それはこれからの仮想世界を大きく発展させるのに必要不可欠なものだ。だが、2年前のあの日、行方が分からなくなってしまった。そこで片桐はファントム社の技術者を総動員して探させていたが、未だ発見には至ってない。
「探せ!一刻も早くだ!」
〇〇〇
「なぁなぁ、次これやらないか?」
クエストは2つほどクリアして一息入れていたところで亮介が次のクエストを提案してきた。俺と裕貴はどれどれと亮介が見ているウインドウを横から覗き見る。
「おいおいマジか。」
「これをやるのか?」
俺と裕貴はクエストの内容を見て唖然とした。クエストの内容はこうだ。
【リザードマン1000体殲滅】
Lv1のリザードマンを1000体殲滅せよ。
説明は至って簡単なのだが、これは・・・どうだろう?
「亮介・・これはちょっと無理じゃないか?」
「ああ。俺も無理だと思う。」
裕貴も俺と同じ意見みたいだ。しかし、亮介はそんな俺たちの意見を聞いて“いやいや”と首を横に振っていた。
「Lv1だぞ。俺たちなら楽勝だろ?1人たった333体倒せばいいだけだ。」
言ってることが無茶苦茶だ。
たった333体?どう考えても無理だろ!!
「亮介。おまえって常識人だけど、たまに和樹みたいに熱くなることがあるな。」
「鬱陶しい・・・」
「なんでだよ!」
〇〇〇
コツコツコツ・・・
同時刻。ミラーワールド日本サーバー内のとある場所を1人の少女が歩いていた。別に女の子が1人で歩いてるなんて特に珍しくもないことだが、彼女は違った。全身ボロボロでかなり疲労していた。
「はぁはぁはぁ・・・」
年頃は14歳ぐらい。銀色のロングストレートの髪を一本に束ねている。服装は黒のワンピースなのだが、所々破れている。
「くっあとちょっとなのに・・・早くしないと時間がない。」
女の子はよろめきながら人気のないところへ消えて行った。
〇〇〇
2時間前。ファントム社本社ミラーワールド管理室。そこである事件が起きていた。
「主任。メインシステムに侵入者です。」
「侵入者?ハッキングか?」
ファントム社には未だにライバル社が多い。そのため、度々ミラーワールドの構成プログラムを盗もうとハッキングをされる。しかし、ファントム社の技術者たちは各国から選りすぐりの精鋭を取り入れているので並みのハッカーでは太刀打ちできない。
「は、はい・・ハッキングと言えばハッキングなのですが・・・」
「なんだはっきりしないな。」
「それが・・ウイルスを送り込まれたのか、すでにシステムの半分が乗っ取られています。」
「は?・・・・・・」
ミラーワールド開発責任者である三島裕二は我が耳を疑った。あまりにもあり得ないことを聞いたような気がして手に持っていた缶コーヒーを落としてしまった。
「・・お、おいおい。なにを言ってんだ。そんなわけ――」
「主任!中央サーバー中枢に侵入されますぅぅ!」
「い、急いで奪い返せ!!」
やっと事態を理解した三島は部下たちに命令する。しかし、すでに半分も奪われているものを取り返せるか微妙なところであった。だが、そう簡単に奪われるわけにはいかない。精鋭の技術者たちは全総力をあげて取り掛かった。
2時間後。無事に全システムを取り返すことに成功した。
次回『-4day』