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第1話 -7day

『これは復讐だ。』


 静かに語るその人の言葉を俺は黙って聞いていた。

 俺の・・いや、ここにいる約10億人を前にその人は胸に秘めた復讐という炎を燃やしていた。何故こんなことになってしまったのだろう?おそらく、俺以外にもそう思っている人は大勢いるだろう。しかし、誰にもこの事態を予想もできなかったし、回避することもできなかっただろう。俺たちは、これからどうなってしまうのだろうか?



〇〇〇



【事件発生7日前】8月24日(日)



 その日、俺は数人の友達と一緒に街に出ていた。街と言っても自分の家の部屋から行ける街だ。別に頭がおかしくなったわけじゃないと始めに言っておこう。俺が言っている街とはネットワークの中にある。簡単に言えば仮想空間の中だ。



【ミラーワールド】


 世界でNo.1と言っても過言でない大企業『ファンタズム』が開発したネットワーク仮想空間。ここではちょっと前に流行った自分のアバターを作ってネットワーク内を操作して遊ぶと言った小っちゃいものじゃない。ミラーワールドはユーザー自らネットワークの中にダイブし、仮想空間で遊ぶことができる。何故そんなことが可能かと言えば、これもまたファンタズムが開発した『ダイバー』のおかげだ。どのようなものかと言うと形はカチューシャの形状をしていて、それを頭につけ目を瞑るだけでいい。どんな仕組みかと聞かれれば、俺にもよくわからない。ただ、人の精神を電子化しネットワーク内に転送するとテレビや雑誌で聞いたことがある。なのでこれができた当初は危険なのではと言う意見が世界から出た。しかし、ファンタズムはまったく危険なことはないと言い切った。現に今日までミラーワールドで事故が起こったことはない。世界でNo.1の企業が大丈夫と言うのだから、大丈夫なのだろう。


「おい、陽太?なに、ボーっとしてんだ?」


「ふぇ?」


 間の抜けた声が出た。俺が隣を見るとそこには今日一緒にミラーワールドに来ている友達の一人、佐野亮介が心配そうに俺を見ていた。


「あ、悪い悪い。ちょっとトリップしてた。」


「そうか?ならいいけど。」


 そう言って亮介は納得した。

 ふぅー危ない危ない。つい、考え事をしてしまった。今考え事なんて危険なのに。俺が前を見ると亮介を始めとした俺の友達がモンスターと戦っていた。今俺たちはミラーワールド内でVRMMORPG『エンドレス』をプレイしている。名前こそなんかちょっとカッコ悪いがそれでも世界で50万人はプレイしている大ヒットゲームだ。

 内容はと言うとこれが特に決まっていない。普通のRPGで言えば主人公がラスボスを倒すと言うのが定番だと思う。しかし、このエンドレスはちょっと特殊だ。このゲームはある一定の期間でクエストが運営側から追加される。「モンスターを討伐しろ」とか「宝を見つけ出せ」とかいろいろだ。しかもそのクエストの中には半端なく難しいものがある。エンドレス上級者でもクリアさせるのに最短で半月はかかるらしい。なので俺たちは比較的簡単なものをやっている。今は村に悪さをする低級モンスター討伐をクエスト中だ。


「和樹!そっちにいったぞ!」


「OK!任せろ。はぁぁぁぁあああ!」


モンスターを勢いよく一刀両断にする。亮介が呼んだ和樹こと綾瀬和樹はガッツポーズをとる。和樹は大剣使いでこのパーティーの主力と言っていいほどだ。撃退数も一番多い。


「ナイス!和樹。」


「おうよ。」


 えへへと笑う和樹。俺もつられてクスっと笑っていると和樹の背後からモンスターが一匹飛び掛かってきていた。


「和樹!危ない!」


「へ?」


 俺の距離からじゃ絶対に間に合わない。当の和樹も完全に反応ができていない。俺がもうダメだと思っていると助けは意外に来た。


ダァーン!


 突然の銃声。見ればモンスターが射抜かれていた。


「やれやれ。和樹はいつも爪が甘い。」


「裕貴・・助かった・・・」


 そこへスナイパーライフルを持った裕貴こと相沢裕貴がやって来た。どうやら、やられそうになった和樹を裕貴が助けたようだ。


「貸し1だな。」


「ぐっ・・し、仕方ない・・・」


 裕貴に貸しを作られたことで和樹が苦い顔をした。それを見てその場にいた全員が大声で笑った。



〇〇〇



「そろそろ夏休みを終わりだな。」


 とそんなことを和樹が言う。

 クエストが終わりエンドレスを終わらせ俺たちはミラーワールド内の喫茶店で駄弁っていた。このミラーワールドは味覚というものを完全に再現しているらしく、実際のジュースを飲んでいるのと変わらない感覚が得られる。ちなみに金はしっかりと取る。しかし、値段をかなり安くなっている。そりゃ、実際に食べたり飲んだりしているわけじゃないのだから、現実と同じ金を要求されるのは理不尽だ。


「課題は終わったのか?和樹よ。」


「ぐっ・・そ、そういうおまえはどうなんだ!裕貴。」


「俺はあと数学の課題が数ページだけだ。半日もかからん。」


「な、なんだと!」


 和樹が驚愕の表情をする。そんな表情をするということはたぶん終わってないんだな。しかも結構な量を。


「それじゃあ、亮介は?陽太は?」


 和樹が俺と亮介に聞いてくる。俺と亮介は顔を見合わせ困った顔をする。正直に言うべきが言わないべきが迷ったが、ここは正直に言うことにした。


「俺はとっくに終わってる。」


「俺も・・」


 ガーン!そんな効果音が聞こえてくるかのように和樹は落ち込んでしまった。和樹は決して勉強ができないわけではないのだが、どうにも遊びを優先してしまうことがあるから、課題が一向に終わる気配がない。夏休みも残り1週間だというのに危機感がないのか・・・


「くっそー、俺はどうすればいいんだ!」


「今すぐにログアウトして課題をやればいい。」


 裕貴が至極当然のことを言った。

 だが、和樹は「嫌だ!嫌だ!まだ遊ぶんだ!」とまるで小さい子供のように駄々を捏ね始めた。それ見て俺たち3人は溜息を吐いた。

 そして、それから和樹を3人で宥めて今日は解散になった。その時に和樹は性懲りもなく明日もクエストやるからなと言ってきた。まったく、課題はいいのか?



〇〇〇



「ふぅ~。疲れた・・・」


 ミラーワールドから帰ってきて俺は頭からダイバーを外す。それにしても、本当にどんな仕組みになってのかな?ファンタズムはミラーワールドとダイバーの詳細は一切外に公表していない。企業秘密という奴だろうが、それならどうやって世間を納得させたのか・・・いくら世界№1の大企業が開発したものだって言っても、ミラーワールドもダイバーも世界初の技術であるのは変わらない。当然突っ掛ってくる人たちもいただろう。そんな人たちをどうやって納得させたのだろう?まぁ、俺みたいな高校生にわかるはずもないけど・・・


「お兄。帰って来た?」


 ノックもせずに俺の部屋に突然入ってきた人物が1人。ストレートロングの茶髪を揺らしながら、俺のことをお兄と呼ぶ。呼称からその人物が俺のなんなのかはわかると思う。まぁ、勿体つけてないで言うとようは俺の妹だ。名前は長瀬つかさ。俺より1つ下の高校1年生。


「どうした、何か用か?」


「あのね明日一緒に買い物に行ってほしいの。」


 と無邪気な顔で言ってきた。

 なるほど、買い物ですか。なにをしに来たのかと思えば買い物に付き合えということですか。ちなみに言えば俺とつかさはときどき一緒に買い物に出掛ける。ミラーワールドでもリアルでも。


「残念だけど明日は予定がある。悪いな。」


 そう言って俺は部屋から出て行こうとする。しかし、つかさがそれを許すわけがない。つかさは俺の腕を掴んで退室を阻止する。


「いいじゃん。予定って言ってもどうせ綾瀬先輩たちとエンドレスをやるだけでしょ。」


 俺の予定をばっちりと把握しているつかさはにししと笑う。こうなればもう逃げることは不可能。俺はつかさに付き合うほかない。だが、俺はつかさにひとつ確認しておきたいことがあった。


「つかさ。まさか、この間みたいなことはないよな?」


 今年の夏休み俺のとって恐怖の時があった。

 それは8月が始まった頃。夏休みも中頃のことだ。今日と同じく買い物に付き合ってとつかさが言ってきて俺は面倒だったが、予定が無く暇だった俺はそれを了承した。だが、それが間違いの始まりだった。



◇◇◇



「みんな~お待たせ!」


 青空に響く声。俺とつかさは約束通りに買い物に来ていた。しかし、そこには俺が聞いてない事実があった。


「ごめんね、遅れて。うちのお兄が遅くって。」


 掌を合わせてごめんねと謝るつかさ。いやいや、つかささん。まずは俺に状況を説明してほしいんだけど。目の前には何故かつかさの他に2人の女の子がいた。どちらも見たことがある。どっちもつかさの小学校からの友達だ。家にも来たことがあるし、俺とも面識はあるんだが・・何故いる?


「お兄ちゃん、こんにちは。」


「こんにちはです。」


「ああ、こんにちは。」


 彼女たちの名前は浅倉舞ちゃんと佐倉綾ちゃん。つかさのクラスメイトで3人でよく遊びに行っている。ちなみに俺も長い付き合いだから、2人からお兄ちゃんと呼ばれている。


「それでつかさよ。これはどういうことだ。」


「うん。お兄には言ってなかったけど、舞と綾も一緒だから。」


「そういうことは先に言っておけよ。」


「だって、言うとお兄来てくれないじゃん。」


 確かに舞ちゃんと綾ちゃんが一緒だと聞いていれば来なかったと思う。別に2人のことが嫌いというわけでは決してないが、女の子3人と一緒に買い物って正直キツイだろ。だから、事前にわかってれば来なかっただろう。


「まぁ、いいじゃん。こんな可愛い女の子3人とデートできるんだから、普通は喜ぶところでしょ。」


 そりゃあ、普通はそうだろうけどな。でも、相手が実の妹にその友達。それに舞ちゃんも綾ちゃんもつかさ同様妹みたいなものだし、デート気分なんて微塵も出ない。しかし、それを正直に言うと3人とも落ち込みそうなので心の中に留めておく。


「ほら、お兄行くよ。」


 つかさが俺の右手を引き、舞ちゃんが左手、綾ちゃんが背中を押す。こうして俺のデート?が始まったのだが、この後に世にも恐ろしい出来事が待っていようとはこの時の俺は知る由もなかった。

 

「・・・つかさよ。ここはなんだ・・・」


「何って見てわからないの?ランジェリーショップだけど。」


 今この娘はなんと言った?ランジェリーショップだと?ランジェリーショップと言えば女性下着専門の店だったよな。なんでそんなところに来てるんだ?


「舞と綾と話しててちょうど新しいのがほしいって思ってたんだ。」


 なんてことを言いだすつかさ。別に新しいのがほしいのはいい。でも、なんで俺が一緒にここに来る必要があるんだ?


「じゃあ、俺は外で待ってるから終わったら呼んでくれ。」


「何言ってんの。お兄も一緒に入るんだよ。」


「えええええええええええ!!」


 驚愕の声を上げている俺をよそにつかさは俺の腕を引っ張り店の中に入る。ちょっと待ってダメだって!



〇〇〇



「お兄。こんなのどうかな?」


 つかさは俺の前で下着を体に当てる。おいおいおいおい!ちょっと待て妹よ。いくら身内とはいえ恥ずかしくないのか!?それにつかさだけじゃなく舞ちゃんと綾ちゃんも普通に選んでるし・・・


「お兄!ちゃんと見てよ。」


 俺の顔を両手で挟んで逸らしていた顔を正面に無理矢理向ける。ううぅ・・見れるわけないだろ。妹とはいえ女子高生の下着なんて・・・それに店にいる男は俺1人だけ。店員や他の女性客の視線が痛い。しかも、一番ダメージが大きいのがこれ――


「お兄ちゃん。どうですか?」


「可愛いですか?」


 舞ちゃんと綾ちゃんもつかさ同様に下着を当てて見せる。そう『お兄ちゃん』だ。つかさは『お兄』舞ちゃんと綾ちゃんは『お兄ちゃん』と俺を呼ぶ。きっと店員も女性客も俺たちを兄妹だと思っている。たぶん妹の下着選びについて着てる変態な兄と思われているに違いない。

 なんて俺が思っているなか現実は――


 

 ふふふ。兄妹仲がいいわね。


 ほら見て。お兄さんの方照れて赤くなってるわ。


 かわいい。



 とこのように意外に悪いことにはなっていなかった。

 だが、周りがどうであろうと恥ずかしいものは恥ずかしい。そんな気も知らずつかさたちは下着を選び続ける。いつになったら、終わるんだ・・・



◇◇◇



「ないよな。つかさ。」


「あーうん。大丈夫だよ。でも、舞と綾はまた一緒だよ。」


「いや。だからなんで俺が一緒なんだよ。」


「だって、舞と綾がお兄も一緒にって言うから。」


 えー舞ちゃんも綾ちゃんも何考えてるんだよ。普通あの年頃になればいくら昔から付き合いがある友達の兄でも一緒に出掛けるなんてないだろ。


「と言うことでお兄明日よろしくね。」


「あっ、ちょっと待て!」


 つかさは勝手に話を終わらせて部屋を出て行った。

 はぁ~しょうがない。面倒だが可愛い妹たちの頼みだ。兄貴として付き合ってやるか・・・

 こうして俺は3人の妹たちとデートをすることになった。


次回、第2話『-6day』

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