表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第6話・第7話

【Dearest】第6章「消したい過去」

あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか・・・。

やたらと激しい抵抗をしていた彼女も落ち着いてきた。

しかし、彼女の涙が止まることはなかった・・・。

それでも彼女は、話し続ける。


―メールのやりとりから、30分後―

軽いノックの音が聞こえた。

『どうぞ。』

妹が返事を返すと、すぐに扉が開き彼が入ってきた。

『わざわざ、来てくれてありがとう。』

軽く頭を下げる。

私は彼の腕をつかんで、妹のベッドの近くに連れてきた。

『紹介するわ。妹の麻美。』

『よろしくね。』

軽い挨拶の後、麻美が頭をさげた。

『コッチが彼氏の・・・。』

『自分で名乗るよ。』

私の言葉をさえぎって彼が入ってきた。

『宮本一哉です。君の姉さんの彼氏さん。』

思わず笑いがこぼれた。

『自分で“さん”付けするなんて変なヒト。』

ふと思う・・・。

―妹の笑顔って久しぶり―


何時間かしゃべった。しゃべり続けて、笑いもした。

そんな日が何日か続いた・・・。        第6章 終わり


【Dearest】第7章「消したい過去-2」

妹の病院に、二人で訪問するようになってから1ヶ月ほどすぎたころだった・・・。

妹の病気は順調に回復しているようにみえた。

いや、みえていただけであって、むしろだんだんと死が近づいてきていた。

そう、1ヶ月前のあの日、麻美の命はあと2ヶ月もっていいほうだろうと医師から告げられた・・・。

麻美は「ガン」だった・・・。

でも、本人は知らない。

周りが『元気になったね』という言葉をうのみにしていた。

あと1ヶ月・・・。知らされたほうにとっては、苦痛でしかなかった。

けれど、私の苦痛はそれだけではなかった。

一哉が浮気をしている。しかも、麻美と・・・。

あれは初めて和也と麻美が出会って2週間目のこと・・・。

今日も麻美のところへ二人で行く予定だった。

しかし急に仕事が入って遅くなってしまった。

―先に行ってて―

そうメールを送ったのが間違いの始まりだった。―


「一緒に行っていれば、あんなことなかったはずなのに・・・。」

俺の腕の中で彼女は泣き続けている。

どうしようもないやるせなさと、押しつぶされてしまいそうな苦痛と俺は必死で闘った。

彼女の話は、止まりそうに無かった。


―仕事を終えて、足早に病院へ向かった。―

今日は妹の好きな苺のショートケーキを片手に・・・。

『・・・。』

病室はやけに静かで電気もついていなかった。

『麻美、寝てるのかなぁ・・・。』

起こさないように、そうっと扉を横にスライドさせた。

めずらしくベッドの周りにカーテンがひかれていた。

窓からのやわらかい光がカーテンに2つの影をうつしだした。

その影たちは、私の目の前でだんだんと重なっていった。

はっとした私は、扉を閉めてしゃがみこんだ。

病室の中からは買ってきたショートケーキのような、甘い吐息と淡い声が聞こえてくる。

夢であってほしかった。

幻想だと思いたかった。

けれど、何年も前から使われている古いベッドは、二人の重さに耐え切れずに、気が狂ったようにきしむ音を奏でていた。        第7章 終わり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ