第6話・第7話
【Dearest】第6章「消したい過去」
あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか・・・。
やたらと激しい抵抗をしていた彼女も落ち着いてきた。
しかし、彼女の涙が止まることはなかった・・・。
それでも彼女は、話し続ける。
―メールのやりとりから、30分後―
軽いノックの音が聞こえた。
『どうぞ。』
妹が返事を返すと、すぐに扉が開き彼が入ってきた。
『わざわざ、来てくれてありがとう。』
軽く頭を下げる。
私は彼の腕をつかんで、妹のベッドの近くに連れてきた。
『紹介するわ。妹の麻美。』
『よろしくね。』
軽い挨拶の後、麻美が頭をさげた。
『コッチが彼氏の・・・。』
『自分で名乗るよ。』
私の言葉をさえぎって彼が入ってきた。
『宮本一哉です。君の姉さんの彼氏さん。』
思わず笑いがこぼれた。
『自分で“さん”付けするなんて変なヒト。』
ふと思う・・・。
―妹の笑顔って久しぶり―
何時間かしゃべった。しゃべり続けて、笑いもした。
そんな日が何日か続いた・・・。 第6章 終わり
【Dearest】第7章「消したい過去-2」
妹の病院に、二人で訪問するようになってから1ヶ月ほどすぎたころだった・・・。
妹の病気は順調に回復しているようにみえた。
いや、みえていただけであって、むしろだんだんと死が近づいてきていた。
そう、1ヶ月前のあの日、麻美の命はあと2ヶ月もっていいほうだろうと医師から告げられた・・・。
麻美は「ガン」だった・・・。
でも、本人は知らない。
周りが『元気になったね』という言葉をうのみにしていた。
あと1ヶ月・・・。知らされたほうにとっては、苦痛でしかなかった。
けれど、私の苦痛はそれだけではなかった。
一哉が浮気をしている。しかも、麻美と・・・。
あれは初めて和也と麻美が出会って2週間目のこと・・・。
今日も麻美のところへ二人で行く予定だった。
しかし急に仕事が入って遅くなってしまった。
―先に行ってて―
そうメールを送ったのが間違いの始まりだった。―
「一緒に行っていれば、あんなことなかったはずなのに・・・。」
俺の腕の中で彼女は泣き続けている。
どうしようもないやるせなさと、押しつぶされてしまいそうな苦痛と俺は必死で闘った。
彼女の話は、止まりそうに無かった。
―仕事を終えて、足早に病院へ向かった。―
今日は妹の好きな苺のショートケーキを片手に・・・。
『・・・。』
病室はやけに静かで電気もついていなかった。
『麻美、寝てるのかなぁ・・・。』
起こさないように、そうっと扉を横にスライドさせた。
めずらしくベッドの周りにカーテンがひかれていた。
窓からのやわらかい光がカーテンに2つの影をうつしだした。
その影たちは、私の目の前でだんだんと重なっていった。
はっとした私は、扉を閉めてしゃがみこんだ。
病室の中からは買ってきたショートケーキのような、甘い吐息と淡い声が聞こえてくる。
夢であってほしかった。
幻想だと思いたかった。
けれど、何年も前から使われている古いベッドは、二人の重さに耐え切れずに、気が狂ったようにきしむ音を奏でていた。 第7章 終わり