第2話
【Dearest】第2章「出会いのその次」
彼女の話によると、彼女の彼氏は他に女をつくって、今はそっちと暮らしているらしい。
泣きながら話す彼女を、俺はどうすることもできなかった。
「こんな話聞かせちゃってごめん・・・。君のほかに1人っぽい人がいなかったから、つい・・・。」
なんとも自分勝手な理由。
でも、意外と怒る気にはなれなかった。
「別に・・・。俺、アンタの言うとおりヒマしてたし。そうや!!ヒマやったら俺と走りに行くか?」
思いつきにしては、結構良いほうだと思った。
すぐさま、ポケットからバイクのキーを取り出す。
せかすように、彼女の腕をつかみながらバイクの側まで連れて行った。
エンジンをかけようとする俺に、彼女は疑わしそうに聞いた。
「バイクに乗るのは、べつにいいんだけど・・・。君、免許持ってるの?」
その質問に俺は普通に答えたつもりだった。
「俺、まだ15だけど・・・。一応走れるよ。ここまで来たし、事故ったこともねぇし・・・、なんたって一番走りのうまい先輩にならったからな!!」
彼女が深いため息をついたのは、言うまでも無い・・・。
その後、さんざん説教された上に、わずかな小遣いで買っていたお気に入りのタバコまで没収されてしまった。
「さぁてと・・・ヒマだし、泳がない?」
いきなり話を切り替えられたので、俺はうなずくのがやっとだった。
うなずいてから、やっと自分の置かれてる状況に気づくいた。
「いきなり言われても、俺、海パンねぇよ!」
「あ、そんなこと?気にしない、気にしない。」
気にしないっていったって、どうする気だ?
悩む俺をよそに、強引に腕を引っ張られていく。
バシャン!!
それはそれは、大きな波の音だった。
それと同時に、俺はずぶ濡れにされた・・・。
大笑いする彼女を前に、なぜだか俺も笑ってしまう。
すると、急に彼女の目から涙が溢れた。
とめどなく・・・。とめどなく・・・。
彼女は必死に涙をぬぐいながら言った。
「ごめん・・・。急に泣いたりして。君の顔、あまりにもそっくりすぎて・・・。彼の最後の笑顔に・・・。」
話しながらも、彼女の涙は止まることが無かった。
「そんなに泣いても、俺の前じゃ意味ないと思うぜ。」
なぐさめようのない彼女に、失礼とは思いつつ、この前読んだマンガの主人公の台詞を口走った。
「男ってやつは、女の涙に弱いもんだから・・・。」
そんな言葉でも、彼女の涙を止めれればいいと思った。
「これでも、わかってるつもりなの・・・。でもね、会いたくても、もう彼には会えないの・・・。」
簡単な言葉じゃ癒せない・・・。
かといって、いまさら引き返せない・・・。
俺は、とことん話しに付き合う覚悟を決めた。
「全部、話してみろよ。俺には他人のことを話す必要があるようなヤツなんていねぇし、時間だって余ってるからこそ、ここにいるんだし・・・。」
彼女は首を横に振りながら答えた。
「でも・・・、ごめん。いえないの・・・。」
もどかしいキモチが頭の中を埋め尽くしていく。
それでも俺には、話すことを強制する度胸も、この場から立ち去る勇気もなかった。
無力さに苛立ちをおぼえる・・・。
空白の時間だけが、2人を包む。
夕焼けが静かに海を染めていった。
「昔のことって、気にするタイプ?」
ようやく口を開いた彼女が尋ねてきた。
「多少気にすることもあるけど・・・。」
いつの間にか、本音が口から出てくるようになっていた。
「そっかー、まぁ、いっか。君、口堅そうだし。」
吹っ切れたように涙をぬぐった彼女は、静かに話を始めた・・・。 第2章 終わり