第1話
うだるような暑さ・・・。
家の前の木からは、安眠妨害なセミの声が聞こえる・・・。
「はぁ・・・。」
もうとっくに鳴り終わってしまった目覚まし時計に目を向ける。
『?!』
俺は慌てて飛び起きた。
今日は特別な日。
「急がないと!!」
と言いつつも、目の前のアルバムを見ながら記憶をさかのぼらせた・・・。
【Dearest】
Dearest・・・Dearの最上級・大切な人
「・・・」
俺の大切な人は3年前の冬、俺の前から消えた。
その日は、とても寒い日で、その年初めて雪が降った日でもあった・・・。
【Dearest】第1章「ごく普通の始まり」
俺と彼女が出会ったのは、とてもムシ暑い夏のこと。
その日はいつもの先輩達からの電話もメールもなく、本当にヒマな一日だった。
午前中を寝て過ごした俺は、クーラーの無い部屋から抜け出すため、遊び相手の「要」に電話をかけた。
プルルルル・・・プルルルル・・・
数回のコールがなった後に要が出た。
「ふぁい。玉城ですけど・・・。」
寝ぼけた声・・・。
「あ、俺やけど、今ヒマ?」
暑さから抜け出したいキモチが、俺を早口にさせる。
「なんや、お前かいな・・・。」
なにやら騒がしい音が、後ろから聞こえてくる。
「親戚のガキが遊びにきとって、大忙しやねん。悪いな・・・。」
あ〜あ、要もダメかよ・・・。いや、説得してみるか・・・?
くだらない悩みを思い巡らせているうちに、一方的に電話を切られてしまった。
「ちきしょう!今日は、この暑い中かよ・・・。」
気持ちを静めるために、俺は机の引き出しからタバコを取り出した。
火をつける・・・。
そのタバコどくとくの香りが部屋の中を満たしてゆく。
「走りに行くか・・・。」
つけたばかりのタバコを灰皿に押し付けて、バイクのキーを手に取り家を出た俺は、近くの海までながしに行くことにした。
海辺に着くと、やたらとカップルが目に付いた。
軽く舌打ちをして近くの空き缶を蹴飛ばした。
「・・・イッターイ!!」
運悪く、近くに座っていた女の人にあたってしまった。
慌ててその場を立ち去ろうとした。
遅かった・・・。
「何?君ヤツアタリ君?」
やわらかい声につかまった。
「い、いや・・・。その、・・・、すんません。」
軽く頭を下げて帰ろうしたが、俺の腕を彼女は放してくれなかった。
「なんだよ・・・。マジかんべん。放してくれよ・・・。」
彼女は俺の手を放すどころか、ひっぱて強引に俺を座らせた。
その隣に彼女も座る。
いきなりのことで戸惑う俺・・・。
「なっなんなんだよ!!」
おとなしく座った俺に、自分でしときながら驚いている彼女の顔をにらみつけた。
「君、今日ひとりでしょ?」
彼女は挑発的な笑顔で返してきた。
以外に綺麗な顔に、思わず視線をそらした。
クスクスと笑いながら彼女は話を続ける。
「私も、1人なの・・・。彼氏にフラれちゃって・・・。」
彼女の顔から笑顔が消えていく。
そして、次に現れたのは一筋の綺麗なナミダだった。
やっかいな事に巻き込まれたのは、解かってた・・・。
ただ、彼女を置き去りにしたまま帰るなんて俺には出来なかった。 第1章 終わり