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第1話 ショウ・シイマ

“パラパラパラッ!!パラララッ!!パラパラパララララッ!!”


 狭くて急な階段の下から顔を出すと、それを待っていたかのように銃撃を受けた。


 床と壁に散る弾痕、だがそれは金属が穿つものではない。ゲルが飛び散り、見る間にコンクリートが、金属が溶け出す。


 階上の敵は3体。顔のほとんどを目が占め、一見小さな躯体だが、2本の腕に関節はなく、足は躯体に似合わず太い筋肉に覆われている。人型クリーチャー、通称チビ。


「ふぃ~、あいつら腐食弾持ってやがった。あれが当たると外装も無事じゃないぞ」

「ああ、攻撃力を犠牲にして耐蝕強化するしかないか。時間制限あるけどな」

「そうだな、だけどさ、アロウ、シブロ、耳貸せ。ごにょごにょごにょ・・」



「いっくぞ!うぉおおおおっ!!」


 アロウが階段に飛び出し、間髪入れず駆け上がる。階上から集中砲火を浴びるアロウ、だが。


「あったたた!でも効っかねぇ!!あと2、1、シブロ!!」

「おうよっ!!」


 瞬間、アロウの後ろからシブロが飛び出し、階段を駆け上がった。同じく集中砲火を浴びるシブロだが。


「びちゃびちゃ気持ちわりいな!!2、1、ショウ!!」

「外装強化、オールボディ!!」


 名前を呼ばれた瞬間、シブロの頭を飛び越えたショウは、階上で待ち構える敵に拳を振るう。防ごうとするチビの腕がひしゃげ、そのまま目玉を抉る。あと2体も同様、必殺の一撃はたちまち3体を圧倒した。


「作戦成功!!奥にまだいるぞ、掃討開始だ!!」


 まず飛び出したのは、腐食強化したショウ・シイマだった。



「よし!チビは掃討完了だな!全部でいくつだ?」

「えと、12だ。で、次はなんだ?でかいの来るか?」

「おあっと、でっかいぞ!今度はウマとタコだ!!」


 3人は雑居ビルエリアで12体のチビを掃討し、大通りエリアに出た。そこで3人を待ち受けていたのは、チビとは比べものにならない中型と大型だ。


「周辺に民間人なし、対象、中型及び大型クリーチャー、M式斬弾使用許可申請!」


 素早く状況を確認したショウが中範囲型殲滅兵器の使用を申請する。顔を覆うモニターの右上にグリーンが点った。


「よし!アロウ、シブロ!M式斬弾使用許可出た!後ろのウマを頼む!」

「ショウ!前のタコはどうすんだ!?」

「僕が外装強化で近接戦闘及び陽動、タコは引き付けとく。ウマをさっさと片付けろ!」

「へいへい、じゃシブロ!さっさとやっちゃうぜ!」


 後方に砲武装した人馬型クリーチャー、通称ウマが6体、前方には2本腕4本足の大型軟体クリーチャー、通称タコが2体だ。


 ウマもタコも全身を覆う外装で表情は読めないが、3人を殺したがっているのはよく分かる。


「アロウ!M式斬弾だ、オレが上から援護するから、お前がタネを蒔け!」

「了解、タネ蒔きの季節到来だな!!」


 アロウは胸元のポケットに手を入れ、幾つかの小さな球を掴んだ。


 ウマはビルの外壁とバスの残骸の間に隠れ、アロウとシブロに砲撃を加える。ウマの腕と一体化した砲は見た目小さいが、ロケットランチャー級の破壊力だ。だが1発撃つと次の砲撃まで10秒ほどのラグが出る。

 6体のウマはタイミングを合わせながらラグを少なくしているが、どうしても数秒ほどのラグが出ている。そこが狙いだ。


「外装強化、レグ!」


 脚の筋力を外装で強化したシブロは、砲撃のラグを突いてビルの壁を駆け上り、ウマが隠れるバスに射線が通る位置を見つけた。そこから直接ウマを狙うことは出来ないが、アロウの援護には十分だ。


 シブロの援護射撃をもらったアロウは、素早く残骸の影を駆け回ってタネを蒔いた。


「うし!タネ蒔き終わりぃ~、シブロ!斬弾展開するぞ!」 

「りょーかい、いったれ!!」

「ざんげきだん、て・ん・か・い・・・ポチッと」


 その瞬間、M式斬弾のタネが半分に割れ、地面に張り付くユニットと上空に飛び立つユニットに分かれた。

 ふたつはレーザーでリンクし、同様に飛び上がった全てのユニットが相互にリンクする。


 砲撃の砂埃が立ちこめる中、地上と上空に幾重にも張り巡らされたレーザーリンクの網が完成した。


 その様はまるで鳥かごか、蜘蛛の巣。


 中範囲型殲滅兵器、M式斬弾。その有効範囲における攻撃対象は敵味方、民間人すら関係ない。だからこそ使用に当たっては指揮センターの許可が必要となる。


「展開完了、あとはもう、見たくないかな・・」


 アロウがそう呟いたとき、上空ユニットが自律的に動き出し、ウマが隠れるバスの残骸と瓦礫の上空を覆い、その高度を下げた。


 相互にリンクしたレーザーの網が攻撃範囲を覆っていく。そしてウマが隠れるバスの車体と瓦礫の鉄筋コンクリートをまるでバターのように切り裂いた。


 次に響いたのは、粉々に刻まれるウマたちの悲鳴だった。



 ショウの目前に2体のタコがいる。その2本の腕のシルキーな輝きは微細な金属が蒸着した外装だ。骨格がない腕は一見柔らかく見えるが、実は鋼鉄の硬度を持たせることも出来る。

 全身筋肉で剛力のタコ。蒸着外装された2本の腕だけでも脅威なのだが、本当に恐ろしいのは2本の前足だ。

 通常4足歩行のタコは後ろ足2本で立つこともできる。そして自由になった前足の先端は、全体が吸盤に覆われた鉤爪になっている。


 腕と同じく蒸着外装され、伸縮する剛力の鉤爪、それが獲物に触れれば吸盤が吸い付いて離さない。そうなれば鉤爪が獲物の体内を抉り、吸盤が体内で機能する。臓器に吸い付くのだ。囚われたら最後、体はズタズタに裂かれ、最後は両腕ですり潰される。


 更にタコの動きは恐ろしく速い。ウマの何倍も危険な敵、それがタコだ。


-こいつの腕と前足は危険だ。だけど、狙い所はある。


 ショウたちが身に纏う外装は鎧のような防御性能で肉体を守るが、体の筋肉に沿って配置された特殊繊維は着るだけで身体能力の大幅な向上をもたらしていた。更に外装強化コマンドは、外装効果を体の一部に集中して攻撃力を上げる。


「外装強化ハンドアンドレグ、光学迷彩オン」


 一体目のタコ目掛け、強化した脚力で真正面から突っ込むショウに、タコの反応は微妙に遅れる。身に纏った光学迷彩が一瞬の余裕をショウに与えてくれる。


 タコは真正面のショウを捉えようと両腕を広げたが、ショウは左に身をかわすと見せて、閃光の速度で地面に伏せる。


 景色に同化して動き回る敵が一瞬の間に消えた。敵を見失って慌てたタコは、思わず後ろ足だけで立ち上がり、両腕と両前足を振り回す。だがそれはむなしく空を切るだけだ。


「外装ダブルアーム、モードヤイバ!」


 ショウは両腕の外装形状を刃モードに切り替えた。地面に伏せたそのままの姿勢で、ショウはタコの後ろ足に接近する。


-ここだ!


 タコの弱点、それは後ろ足で立ったときの爪先だ。


 大型軟体のタコは重い。それ故の4足歩行なのだが、2本足で立ち上がれば全体重が爪先に掛かる。骨格がない軟体だが、その時だけは爪先が鋭角に曲がって刃が入る。そこをピンポイントに狙って爪先の切断に成功すれば、タコの動きを封じることが出来る。しかも、脅威の前足も無力化できるのだ。


 強化した脚力で地面を蹴り、空中に飛び上がったショウは、両腕の刃をプロペラのように回転させてタコの爪先に振るった。


 ショウの刃は正確にポイントを捉え、ショートケーキでも切ったかのように振り抜かれる。


「ギィィエエエエーーーー!!」


 両爪先を切断されたタコは、爪先の先端から青い血液を飛び散らしてのたうち回る。


 もう立つこともできず、武器である前足で這いずるしかない仲間にもう一体のタコが走り寄る。その間、光学迷彩で景色に紛れたショウはその場から離れ、M式斬弾のタネを取り出した。


-陽動は上手くいったが、気付かれずにコイツをいくつ蒔けるか。粉々にしないとタコは死なない。下手すれば腕一本でも襲ってくるからな。


 タコは体中に10個の脳髄を持っている。優位の脳がやられても、下位の脳が機能を引き継ぐのだ。


 その時、背後でウマたちの悲鳴が響いた。

 アロウとシブロの足音が聞こえる。


-アロウ、シブロ、やったな。3人ならもう負けることはない。


 ショウは口角を上げた。



「ショウ、アロウ、シブロ、市街戦訓練終了です。掃討対象個体、MⅠ型12体、HS881型6体、OCTⅡ型2体、全体掃討完了、所要時間9分49秒、10分を切りました。よく出来ましたね」


 見上げる3人の頭上に小型ドローンがホバリングしている。声はドローンからのものだ。


「この市街戦訓練を持って、あなたたちは西ブロックセクト7でのカリキュラムを終えました。すばらしい成績でしたね。そして10年間、お疲れ様。もう会えないのは寂しいけれど、すぐに市民になれますから、楽しみですね」

「サンキューママ・・・ママも10年間、ありがとう。僕たちは市民になるよ。きっと」


 3人は顔を見合わせ、満足げに笑った。




つづく

この小説は以前、短編として公開した「全ては僕が生まれたこの星のために」に加筆して3話構成にしたものです。

大幅に変わっていますので、初稿を読んでいただいた方にもお楽しみいただけると思います。

どうぞよろしく。

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