契約結婚の行方
短いです。気楽に読めます。よろしくお願いします。
「いよいよ後一ヶ月!」と指折り数えていた私は鈍い女でした。
それを見ていた夫が正気を失いそうになっているなんて気づいてさえもいなかったのですから。
私は困窮している実家の為に冷徹侯爵セドリック様に「三年後の離縁」を条件に嫁ぎました。セドリック様は眉目秀麗で社交界でとても人気のあるお方でした。ですが女性嫌いで有名でした。
セドリック様から縁談の申し込みがあった時我が家は理由を察し納得しました。
父は情けなさそうに言いました。
「すまないエルサ父様がもっと経営が上手であればこんな縁談断われたものを…」
二年前の自然災害でわが領地は大きな痛手を負っていて復興が思うように進んでいませんでした。
「格下の我が家が断るなど出来るわけもございません。私、覚悟を決めましたので、お父様は経営の立て直しを」
「エルサ…」
私には五歳下のしっかり者の弟がおります。後は二人に任せましょう。
「奥様、大変です。旦那様が先ほど「この屋敷のすべての出口を魔法で封印した」と宣言されました」
真っ青な顔で家令のハンスがやって来ました。
「えっ!?火事があったらどうするのよ!」
慌ててセドリック様の執務室に乗り込むと、彼は書類の山に埋もれながらこちらを睨みつけてきました。
「エルサ、隣町の屋敷は私が没収した。君が手配していた馬車ギルドも私が全て買い取った。これで君を運ぶ馬車は一台もない」
「お待ちください。契約違反です。三年たったら円満離縁と言われたではありませんか。それに噂は私の耳にも入っております。貴方に想い人が出来たと…ですから邪魔者は退散しようと…」
「想い人?ああ、あのアホの小娘のことか」
セドリック様は立ち上がり、ゆっくりとデスクを回って私の前まで来ました。
逃げようとした私を大きな手が強引に引き寄せます。
「良いかよく聞け。私は三年前この契約を君を手に入れる為の唯一の手段として選んだ。手放すわけがないだろう」
「…えっ!」
耳元で囁かれた声は甘く 逃げ場を塞ぐような重みを持っていました。
「君はこの三年間一度も私を頼らなかった。いつも期限ばかり考えてその先の場所を見ていた。それがどれだけ私を苦しめたか分かっているのか?」
「えっ、だって閣下は私のことを嫌っていて…」
「嫌いな女に毎朝 バラの花を送る男がいるか ?嫌いな女が眠るまで 寝室の扉の前で立っている男がいるか?」
(えっ…あのバラ嫌がらせじゃなくてプレゼントだったの?毎日増えて飾るのが大変だったのに。扉の前の時々聞こえる不気味な音は不審者じゃなくて閣下だったの?)
あんなに冷徹で鉄の意志を持っていると言われる彼が、私の肩に顔を埋めて消え入りそうな声で囁きました。
「行かないでくれ。君がいない世界で私はどうやって息をすればいい…?もしそれでも出て行くなら私を殺してからにしてくれ」
(重い!クールな公爵様はどこへ行ったの?)
夫は他にも「具合が悪い 作戦」を繰り出すようになりました。私が外に出かけようとすると、急に
「胸が苦しい…君がそばにいないと死ぬ病かもしれない(仮病)」とベッドに倒れ込むのです。
ここまで来ると夫の重い愛を受けいれざるを得ません。 何だか可愛く思えてきました。
この不器用で可愛い夫とこれからはもっと話し合いながらすれ違わないように生きていきたいと思うのです。
言葉の足りない夫婦でした。これからはお互いに歩み寄っていくと思います。
幸せにね〜




