不審な理由
「まず服。着ているものは質の良いものだったが、袖が少し足りなかったり、ベルトの尺が余っていたりと、不審な点は多かった。後方に控えていた背の高い男は靴だけ貧相なものだった。足の大きさにはまる靴がなかったのだろう」
「全部盗品だと?」
「ああ。おそらく『天馬の荷馬車』の荷馬車を襲い、身ぐるみをはがし、荷馬車を奪ったのだ。ギルドの腕章もその時に得たものだ」
フリードの説明に「なるほどな」とヴィヴィアナが頷いた。
「だが、あの段階で『天馬の荷馬車』から被害届は出ていなかった。その時は憶測でしかなかったはずだ。お前は憶測でものを決める奴じゃない。他に判断材料があったんだろう?」
「果物の梱包だ」
「箱の中にぎっしり入っていたあれか」
ヴィヴィアナが指を鳴らすと、フリードが「ああ」と頷いてから続ける。
「あんな梱包では身の柔らかい果実は傷がつく。緩衝材を挟んだり、小箱に個別に包装したりする。一流のギルドなら輸送にも気を使う。箱に詰められるだけ詰めるなど論外だ」
「見立て通り、野菜も果物も盗品だったよ」
「近隣であれほどの品質で果物を栽培しているのは南西の農村しかない。梱包が雑なのも短い時間で窃盗行為をおこなったからだ」
「とりあえず短時間で沢山盗ること優先だもんなー」
「加え、滞在期間が短いからと、高値で売れる果物を担保に値引き交渉を持ち掛けてきた。おそらく手持ちの路銀が少なかったのだろう。業界最大手の商人ギルドの真似とは思えない。以上のことから『天馬の荷馬車』が強盗被害にあい、それに扮して盗品を売りさばき生計を立てる強盗団だと思っただけだ」
フリードの推理をすべて聞き終えたヴィヴィアナが、「なるほどな」と感心したように唸ってから、
「さすが我が衛兵隊が誇る【鉄の番狼】‼ 相変わらず事件への嗅覚が鋭いことだ! 今月の給与に、ボーナスしておいてやるからな!」
「いらん。それよりも衛兵の質が下がっている。なんとかしろ」
「お前ら言われてんぞー」
「貴様の監督責任を追及しているんだ」
食事をする衛兵たちに呼びかけて追及先を変えようとするも、すぐに舵を戻され、ヴィヴィアナが苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「腕っぷしだけの馬鹿どもを少しは取り締まれ」
「んなこと言ったってなあ、税関以外に迷惑かけてるわけじゃないし。あんま酷いのは処罰するが、小遣い稼ぎは大目に見ないと人材確保がだな……」
「賃金を上げてやればいい」
「上げたところでだよ。わかってんだろう? 欲しい人材は、今は狩猟ギルドの方に流れていってること」
思い息を吐きながら肩をすくめて見せると、フリードは「会計」と立ち上がり、ピッタリの金額を置いてその場を離れていった。
「おい! ここは私が奢るって!」
「いらん。貸しを作るのは御免だ」
建付けが歪んだ扉を開け、扉に着いた鈴がチリンチリンとむなしい音を立てた。
「私が貸しを作りたくないんだっての」
フリードが消えていった扉をいじけたように眺めながら、ヴィヴィアナはぬるくなった麦酒をグイッと一息で飲み干したのだった。




