擬態悪魔の討伐
かつて邪神を討伐した際、その討伐の要となった4人の英雄、【4英雄】。
彼らは証持ちの中でも特に秀でた力を秘めており、邪神討伐後、世界の安息を取り戻すため、それぞれが国を作り、人間たちの住処を取り戻していった。
だが、唯一一人だけ国を持たず、その行方をくらました4英雄が存在した。
その男が、
「フリード、先輩……?」
「ばかな……そんな人間が、こんな都市で門番なんかしているわけがない……」
現実を否定しようと弱弱しく首を振るも、目の前の男の紋様は、自分のものよりも遥かに大きい。
4英雄であれ門番であれ、目の前の男は自分を殺せる人間だということに変わりはない。
「——先ほど、俺にお前の体は裂けないなどと言っていたな」
フリードが剣の刃を布で拭いながら、目の前で腰を抜かすヴェインにゆっくりと歩み寄る。
ゆっくりと静かに歩み寄ってくるそれは、死神の足取りそのものだった。
「お前の首は、邪神のそれより硬いのか?」
「やめ——」
命乞いを言い切る前に、フリードが剣を横に振るうと、胴体と切り離された首が、燃える建物の中を、血のアーチを描きながら舞い上がり、ぼとり、と鈍い音を立てて荒れ果てた床の上に転がった。
「ヴィヴィアナ。お前の手柄だ」
「……毎度思うんだけど、手柄を肩代わりする方も大変なんだからな」
他人事のように呟いてから、エルノスに「羽織るものを持ってきてくれないか」とフリードは尋ねる。
状況の理解が追い付いていなかったため、いつもならすぐに返す返事が、大分間を要してしまった。
その後、建物の消火活動が終わると同時刻、都市中に擬態悪魔を討伐した知らせと、擬態した【証持ち】と赤竜を同時に討伐した英雄として、ヴィヴィアナの名が国内外に知れ渡ることとなった。
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「流石隊長! あのいけすかねえ【証持ち】と赤竜を同時にやっつけちまうなんて‼」
「隊長は衛兵隊の誇りです‼ 俺、一生ついていきます‼」
「ウン。アリガト。ミナハゲメヨ」
「隊長?」
衛兵隊の宿舎に戻ると、ヴィヴィアナが衛兵たちから羨望の眼差しを浴びせられ、何とも言えない表情になっていた。
ヴィヴィアナも疑いがかからない程度には、十分な実力者ではあるのだが、どうやらこんな調子でフリードの成果を毎回自分のものとして背負わされていたらしい。
乾いた笑みで皆に取り囲まれるヴィヴィアナを横目に、エルノスは尋ねた。
「いいんですか? 先輩の功績にしなくて」
「門番は目立たないほうが都合がいい。出世には興味がないしな」
フリードの指示でヴィヴィアナが犯罪者の確保に動くさまは見ていたが、まさか赤竜討伐の功績も譲られるとは思ってもいなかったのだろう。
あからさまに困り果てた様子で、エルノスたちに助けを求めるヴィヴィアナの視線から目をそらす。
「だから、俺のことは内密に頼む」
ヴィヴィアナには目もくれず水筒の水を飲むフリードの様子をうかがっていると、「なんだ」とフリードの方から問いかけてきた。
「あの、何で門番なんかやってるんですか」




