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元英雄は今、門番として  作者: 糸音


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邪神討伐の4英雄

「エルノス。念のためのろしを上げてくれ。あとは職員の避難誘導」

「先輩は?!」


 言われる前に狼煙は準備していた。外で打ち上げれば狼煙を見たヴィヴィアナが飛んでくる。

 だが、目の前には並大抵の魔物なら瞬殺する【証持ち】と、国一つ滅ぼす魔物に擬態した擬態悪魔がいる。

 避難誘導も時間稼ぎもあったものじゃない。少しでも隙を見せれば一瞬のうちにここにいる全員皆殺しにされる。


 建物の外へ逃げ出す職員たちから視線をそらすために、フリードは剣を抜き、擬態悪魔たちの注意を引いた。


「やつらは俺が引き受ける」


 剣を抜き、ヴェインに向かって一直線に駆けだした。

 その速度にヴェインも反射的に剣を抜き、剣の側面でガードする。


「ぐっ?!」


 ガードの衝撃で後ろに大きく吹き飛ばされ、ヴェインは壁にたたきつけられた。

 続けざまにフリードは腰から麻袋を取り出し、赤竜の鼻元めがけて投げつけた。


「グオオオオオオオオオオ?!」


 麻袋の中身は激臭がする香辛料を粉にしたものだ。

 鼻を突き抜ける衝撃に、ドラゴンが暴れてのたうち回る。


「エルノス。早く」

「はい‼」


 言いつけ通りに動くものの、エルノスの顔は悲痛なものだった。


「その身のこなし、貴様も【証持ち】だったか!」


 すぐさまヴェインが起き上がり、フリードに向かって連撃を繰り出す。

 最低限の動作で、受ける、というよりは流す形で剣を捌く。

 フリードの動きも見事なものだが、押しているのはヴェインの方だ。

 加え、その後ろには赤竜も控えている。


 フリードが【証持ち】なのには驚いたが、それは向こうも同じ。しかも数の利は向こうにある。ヴィヴィアナが来るまで持つかどうか。

 フリードのやっていることは時間稼ぎだ。それもわが身を犠牲にした。


 落ち着きを取り戻した赤竜が、前足をフリードに向かって振り下ろす。

 大きく床を蹴って躱し、転がりながら目元に向かって短刀を投げたが、目を閉じられて、硬い鱗に弾かれる。

 体勢が崩れたところをヴェインが追い打ちに来るが、横に繰り出された攻撃を紙一重でしゃがんで躱し、わずかな動作で腹を狙って剣を一閃する。


 完全に隙をついた一撃が、ヴェインの腹をとらえたが、


「……残念だったね」


 剣が腹に届きはしたが、その肉体に弾かれた。普通の人間なら腹が貫かれていたものだが、【証持ち】は体の強度が根本的に異なっている。

 無防備になったところを、鉄仮面の上から顔を殴られ、フリードは音を立てながらドラゴンの方へと吹き飛ばされた。


「【証持ち】といえども、肉体の強度に差はあるよ。どうせ大した大きさの証でもないんだろう」


 ドラゴンが前足でフリードを抑え、身動きが取れなくなったところに、勝利宣言をするかの如く、ヴェインは服の胸元のボタンを開け、胸部一帯に広がる剣を模した紋様を見せびらかした。

 【証持ち】は体の一部に特殊な文様を生まれながらに持っており、その紋様の大きさが、そのものが持つ力の大きさだ。

 普通の証持ちは手の甲に広がる程度の紋様を持つのだが、ヴェインの紋様はその何倍も大きい。


「君程度じゃ、僕の体は割けないよ」


 赤竜が大きく息を吸い込むと、身動きの取れないフリードに向けて灼熱のブレスが繰り出された。

 視界を覆いつくす赤い炎。空気を食らって外に噴き出す炎の勢いに、ギルドの建物が崩壊を始めた。


「先輩―――――――――――‼」


 間一髪で全員を逃がし終えたエルノスが、建物に向かって悲鳴を上げた。


「状況は?!」


 その元にヴィヴィアナが駆け付けエルノスに問うも、エルノスは絶望のあまり言葉を発することができなかった。

 そこに、炎の中からヴェインが現れ、ヴィヴィアナを見るや、邪悪な笑みを浮かべる。


「遅かったなあ。お前がのろまなせいで、優秀な部下が一人死んだぞ」

「……お前も擬態悪魔だったか」


 即座に状況を把握したヴィヴィアナが険しい顔で剣を抜く。

 その様子を見て、ヴェインは得意げに続けた。


「俺とお前の実力は互角だが、今の俺には赤竜に擬態した同胞がいる。数の利も無いうえ、都市を俺たちから守りながら、お前はまともに戦えるのか?」

「エルノス……周辺住民の避難を急げ」

「しかし……!」


 このままではフリードの二の舞だ。

 避難を急げ、という命令には、逃げろ、という指示も含まれている。



「さあ暴れろ赤竜! 奴らが守るこの都市を、その炎で焼き尽くしてしまえ‼」


 手を掲げ、高らかに宣言したと同時、炎の中から赤竜の首が表れた。

 が、


「……は?」


 その首は胴体とつながっておらず、首の根元から一刀両断された頭部が、大きな音を立ててヴェインたちの目の前に放り出された。

 何が起こったのかわからず、呆然とギルドの方へと振り返ると、炎の中から伸びた手がヴェインの首を掴み、そのまま炎の中へ引きずり込む。


 燃え盛る建物の中に転がされ、煤まみれの顔をぬぐいながら立ちあがると、


「は……? お前、なんだ生きて……」


 殺したと思っていたフリードが生きており、その背後には首を切断され物言わぬ肉塊となった赤竜が存在している。


 なぜ生きている。なぜ赤竜は死んでいる。

 理解が追い付かず、フリードを見上げたヴェインの視界に、フリードの肉体が映った。


「え……お前、なんだよその体……。なんだよその紋様の大きさは」


 鍛え抜かれた体、その前身に浮かび上がっているのは、呪いのように全身に刻まれた剣の紋様。


「お前‼ ただの衛兵じゃないだろ?! 何者なんだお前はあ?!」


 先ほどまでの余裕から打って変わり、わなわなと体を震わせ、無様に腰を抜かし引き下がるヴェインの問いに答えたのは、後を追って入ってきたヴィヴィアナだった。


「かつて邪神討伐に最も貢献した4人の英雄。その一人といえばお前にも伝わるか?」


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