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元英雄は今、門番として  作者: 糸音


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擬態悪魔の隠れ場所

 

「……これはこれは、衛兵隊の方が、ギルド本部に何の用でしょうか」


 都市の中央街の一等地に建てられた巨大な石造りの建物が【迅影狩猟団】のギルド本部となっている。土地代の高い都市の中央に位置しているが、その権力の大きさを象徴するかのように、周囲の立派な建物と比べても一回り二回りも大きな建物だ。

 民間の組織ではあるが、今や都市一番の稼ぎ頭。

 都市の権力者とも強いつながりがあり、今やその影響力は政治にも及んでいるという。今回の大規模なバザーを催せたのも、そのコネを利用してのものだった。


 商売の機会であるバザーを強制中断させられているのだから、やってきたフリードたちに注がれる視線も冷ややかなものだ。

 そんな視線を意に介さず、フリードはヴェインの前にやってきて告げる。


「ギルドで保管している魔物の死骸を調べさせてもらう」


 その発言に、ヴェインの目じりが少し動いた。


「貴様のギルドが意図的に擬態悪魔を内部に侵入させた可能性がある」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 時は少し遡り、エルノスが気になる点について言及したころだ。


「魔物の暴走を止めたとき、あのギルドリーダー(男)、誰にも謝らなかったんですよね」

「……」


 話すエルノスも、疑念の正体を探っている途中。

 少しずつ絞り出すようなエルノスの考察を、フリードは黙って聞き続ける。


「仮にも商品になる予定だった魔物です。あの場を収めた立場とは言え、狩猟ギルドのリーダーが他所の商品を傷つけて断りの一つも入れないとは思えません」

「逆に自分のギルドの商品だとしても、管理不足を謝罪する場面だ。それは確かに妙な話だ」


 フリードがその考察を後押しし、エルノスも頷く。


「あの魔物の暴走は、あの男にとって予定調和だったのではないでしょうか」

「混乱の最中、擬態悪魔を都に入れる手引きをしたと」

「ええ。そんなことをする意図は分かりませんが……」


 あくまで状況証拠からの推察であって、証拠があっての推察ではない。

 エルノスが言葉尻を濁すも、「問題ない」とフリードは返した。


「疑わしきはとことん疑え。黒が完全な白になるまで調べるのが俺たちの仕事だ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「わたしたち魔物を手引きしたと? これはまたとんでもない疑いをかけられたものですねえ」


 怒りは一週回ると笑いとなって表れるのか。

 フリードにそう突き付けられたヴェインはクククと喉を鳴らし、あざけるような笑みを見せた。


「私たちの稼ぎ場を、私たち自らで潰したと? 馬鹿馬鹿しい。そんなことをして私たちに何のメリットが?」

「貴様らの損得は知らん。疑わしいなら調べるまで」

「いきなり来て調べさせろだなんてあまりに横暴だ!」

「こっちは都市最大の狩猟ギルドだ! 1衛兵ごときが何上から物を言ってるんだ?!」


 ある程度知ってはいたことだが、自分たちが都市の経済を動かしているという驕りからか、狩猟ギルドの面々は衛兵たちを下に見るきらいがある。ギルドリーダーがそうなので当然ではあるのだが。


 四方から飛ぶやじに、フリードは小さく息を吐いてから、剣を鞘から抜かずに、そのまま地面にたたきつける。


 その場にいた全員の視界が一瞬浮いた。


 遅れてやってきた轟音、剣をぶつけた床が無残に砕かれた跡。

 フリードの一撃で全員が少しだけ宙に浮いたのだと理解するのには、暫くの時間を要した。


 瞬く間に静寂が訪れたギルドのエントランスに、フリードの声だけが響く。


「俺が横暴かどうか、証明するのは貴様らだ」


 鉄仮面の奥から静かに漏れる殺気に、その場にいた全員が息をのんだ。一介の衛兵になぜこのような覇気が出せるのかは分からない。だが、今この男に逆らってはならないことを、理屈ではなく本能で理解させられる。


「通るぞ」


 エントランス奥に立てかけられていた建物の見取り図を一瞥し、フリードは許可を得ることなく、魔物の素材の保管庫の方へと歩き出す。エルノスもはっと我に返り、その後に続いた。


 全員がその姿を見送ることしかできないでいる中、ただ一人、グリードの前に立ちはだかる男がいた。


「何の真似だ」

「いや、素晴らしいよ君。門番で働いていた時も思ってはいたのだが、よもやここまで優秀な衛兵がいるとはね」


 先ほどまでの取り繕った笑みはそこにない。悪魔の使いと言わんばかりの邪悪な笑みをを浮かべたヴェインが行く手を遮るように前に立つ。


「貴様も擬態悪魔か」

「ご明察」

「擬態悪魔?! この男も……て、どういうことですか?!」


 ヴェインの首から背中にかけては皮をかぶった痕の切れ込みはない。


「擬態し日数がたてば擬態の痕は消える。本人は既に死亡して時間が経過しているのだろう」

「既にこのギルドは擬態悪魔に乗っ取られていたということですか?!」

「折角いい肉体を手に入れたから、この人間に化けて都市を内から滅ぼそうと思っていたんだけど、あの女が目障りでね。外から新しい仲間を呼び寄せ、少しずつ戦力を集める算段だったんだけど……まさかこんなに早くバレるなんて」


 突然の独白に、ギルドの職員たちがざわめき立つ。

 自分の勤め先の長が豹変したかと思えば、その正体が魔物だと聞かされても、すぐに事態を飲みこめる者はいないだろう。


 周囲が混乱に包まれる中、保管庫から建物全体を震わすような、低い唸り声が響いてきた。


「今の声は……?!」


 その声を聴いたヴェインが目を見開き、「あはははは!」と高らかに笑い声をあげる。


「でも君たちは少し遅かった。連れの擬態は先ほど完了したよ」

「いったい何の魔物に——」


 といいかけて、最悪の予感に言葉を詰まらせる。

 この都市に先週運ばれてきた、今回のバザーの目玉商品。

 その名を口にする前に、巨大な咆哮を上げながら、ギルドの壁が突き破られる。


「赤竜……!」


 ワイルドボアとは比較にならない巨体。1個体で国を滅ぼしたいう報告もある、邪神がもたらした災厄の一つ。

 人間を食い破らんとする巨大な顔が、人間をゴミのように見下ろしていた。


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