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元英雄は今、門番として  作者: 糸音


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鉄仮面の門番

本日19時から20時で最終話まで投稿予定です。

読んでいただけると嬉しいです。

「——用件は?」


 日々多くの人々が行き交う、交易の街『ハルトヴァルグ』。

 街と外とを隔てる城門の側に建てられた関所で、狼を象った鉄仮面で顔を隠した衛兵の男が尋ねた。


「商売です。この腕章、あなたもご存じでしょう?」


 色目を使いながら、荷馬車の主と思われる男が腕の腕章を示してきた。

 天馬の刺繍が施された、見るからに高級感のある黒腕章。この地域一帯の物流のほとんどを取り仕切る、最大手の商人ギルド『天馬の荷馬車』の団員証だ。


 その後ろで入都の手続きの為に列を作っていた者たちが「おお」と小さく感嘆の声を漏らしたり、珍しいものを見たと少し高揚した様子でヒソヒソ話を始めたりしていた。

 男たちが身に着けている服も明らかに質が良いもので、後ろに並ぶ商人たちが着古したローブなどを身にまとう中、つややかな白シャツにロングコート、厚手のブーツを身にする集団は良い意味で浮いている。同業の者たちから羨望の眼差しが集まるのは当然だった。


 だが、そんな周囲の反応に反し、対面していた鉄仮面の男の反応は鈍かった。


「滞在期間は? 10日以内で銀貨2枚、以降は10日刻みで銀貨3枚追加だ」

「10日以内です」

「5人で銀貨10枚だ」


 腕章を手に触り裏地まで確認したのち、「入るぞ」とその衛兵は部下を率いて荷馬車に乗り込むと、中の荷物を調べだした。

 積み上げられた木箱の中を一つ一つ調べて回る。


 各木箱の中には、採れたての果実や野菜がぎっしりと積み込まれていた。

 芋類や根菜類といった日常的に食されるものだけでなく、桃やリンゴといった高級品までぎっしりと詰め込まれている。しかもどれも色艶が良く、身もぎっしりと詰まった良品だ。


「見事なもんでしょう」

「これで全部か」

「ええ。……ところで旦那。こんな立派な品、明日明後日には確実に売り切れるだろうから、滞在は長くて2,3日になる見込みでしてね。つきましては入都税を相応の金額にしていただけると——」


 天幕と自分の背中で、後ろで待機している者たちに見えないように、桃の詰め込まれた小箱を指さした。

 周辺の地域で高品質の果物を安定して栽培できる場所は少なく、果物の相場は基本的には高い。小箱の中の果物は、どう安く売っても銀貨8枚はくだらないだろう。

 しかし、


「10枚だ」


 男の態度は一切変わらず。

 次はない、と突き付けるように、淡々と、低く冷たい声で言い放った。

 仮面の奥から覗き込む、鉄のような冷たい視線に一瞬身震いするも、商人の男は小さく舌打ちしてから、「あんた、世渡りが下手だね」と吐き捨て、仮面に向かって銀貨を放った。


 鈍い音を立てて地面に転がった銀貨を、何事もなかったよう拾うと、


「通れ」


 と。慣れた手つきで滞在許可証に発効日を記入し、商人たちに渡した。


 商人たちは乱暴に許可証を受け取ると、苛立ったような、侮蔑するような視線を鉄仮面に浴びせてから、街の人ごみの中に消えていった。


 その商人たちの背中が消えきる前に、離れたところでそのやり取りを見ていた女性が、鉄仮面の男の元へ歩み寄り、尋ねる。


「——何か思うところが?」

「捕まえろ。『天馬の荷馬車』ギルドに腕章の所在を確認。南西の農村の被害も調べておけ」

「あいあい」


 女はその報告に満足そうに頷いてから、獲物を狩るような目つきで商人たちの後を追って消えていった。


「次。用件は?」


 鉄仮面の男は業務を再開し、再び検閲に戻り、来訪者たちから税を徴収して回っていた。


 その翌日、『天馬の荷馬車』を騙る窃盗団逮捕の知らせが、都中に広まるのだった。


 これは、【鉄の番狼】と呼ばれる鉄仮面の衛兵。フリードの門番としての活動記録を記した物語である。


まずは最初のエピソードに目を通していただきありがとうございます。


もし面白かったら評価やブクマ、感想などを頂けると、執筆のモチベになります。

ほどほどの長さの中編ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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