オナラをするおばあさんの話④
お日さまがずい分と傾いて、だんだんと寒くなってきました。そして、雪もチラホラ舞い始めたときです。
「おぉい、何やってんだぁ」
遠くから男の人が走ってきます。見張りのおじさんがやって来ました。昔、おばあさんと子どもたちを無理やり車で連れ去った、あのおじさんです。工場が爆発して危ないから逃げろと言っていました。おばあさんが牛やニワトリはどうするのかと聞いたら、大丈夫だ、草がなくなる前に帰ってこれるから、と力ずくで車に押し込んだのでした。
あれから何年過ぎたかもうわからなくなってしまいました。何度も何度も土がほぐれて草木が芽生え、向日葵が咲き誇って、紅葉を透かした木漏れ日を浴びてきたような気がします。おばあさんの牛とニワトリたちは、すっかり数が減ってやせ細ってしまったけれど、ちゃんと生きて待っていました。
おじさんもあの時と同じです。おばあさんに詰め寄って言います。
「ここは危ないから出なさい」
「どうして出なければいけないのか、草がなくなるまでには帰ってこれると言っていたのに、もうとっくの昔になくなっているじゃないか」
おばあさんはずっと我慢して生きてきて、一生懸命歩いて帰ってきたのです。簡単に引き下がるわけにはいきません。
でも、
「事情が変わったんだ」と、おじさんは取り合ってくれません。
「ここは駄目だ、汚染されて人は住めない」おじさんが言います。
「ここは私の土地だ」おばあさんはひるみません。
「仕方ないんだ」
「仕方ないって何だ。私は牛飼いだ。牛を育てて乳を搾らないと生きていけない」
「この牛は駄目だ、汚染されているから」
「じゃあどうすればいいんだ」
「言うとおりにして遠くで大人しく暮らせばいいだろう」
「誰も知らないところで、言われるままにただ大人しくすることを生きるっていうのか? 私はこの土地で生まれて牛やニワトリたちといっしょに生きてきたんだ。他に生きる方法を知らない」
おばあさんが大声でわめきます。その声は、子どもたちの心にしっかりと届きました。
「じゃあ勝手にしろ」
おじさんは、おばあさんを説得することを諦めました。ほどなくおじさんの仲間の人がたくさんやって来て、子どもたちを連れていきました。