第3章
月光に照らされた小さな森の空き地が、遠くに浮かび上がっていた。満月の光が柔らかく大地を包む中、タケシは休息と焚き火の温もりを求め、その空き地の入り口付近、古い木の幹のそばに腰を下ろした。次の行き先を考える時が来ていた。この島の唯一の中立地帯をあてもなく歩き回ることは、敵対する領域の近くでは賢明な選択とは言えない。
焚き火の心地よい炎に手をかざし、タケシは長い溜め息をついた。寒さが背筋を這い上がり、背中の新たな傷跡に刺すような痛みを残した。その痛みは肉体的なものより、むしろ精神的なものであった。血に対する恥、いや、母に対する恥だ。彼は夜空を仰ぎ見て、静かなる星々の慰めを求めた。孤独な月は、彼自身を象徴しているようにも思えた。そよ風が柔らかに彼の顔を撫でた。それは、母の優しい手のぬくもりを思い出させるような感触だった。その温かい記憶に、焚き火の明かりに包まれながら心がほぐされていった。
その時だった。多くの声が聞こえてきた。
どれほどの時が経ったのだろうか?彼は警戒心を抱きながら意識を覚醒させた。月明かりの中、数人の男たちが足早にこちらへ向かってくるのが見えた。慌てて長い髪を解き、顔を覆って身元を隠すと、タケシは目線を低く保った。町に降りてまだ数か月ほどしか経っていないとはいえ、右目の特有の印が誰かに知られてしまえば、即座に正体が露見してしまう。彼の虹彩には小さな金色の滴のような模様が刻まれていた。控えめながらも、知っている者にとっては一目で分かる特徴だった。
タケシは慌てて愛用の紫色のリボンをポケットにしまい込むと、男たちが空き地に足を踏み入れたのを確認した。
「おい、お前、何者だ?こんなところで何をしている?」
茂みから現れた腹の出た三十代くらいの男が声をかけてきた。
「ただの放浪者です。今夜この場所があなた方の縄張りだとは知りませんでした。お許しを。」
男たちは武の周りをうろつき始め、盗めるものがないかを物色していた。タケシは視線を伏せながらも、彼らを横目で観察した。紫色に染められた彼らの武器がすでに所属する一派を示していたが、その傲慢な態度こそが、最も雄弁に彼らの正体を物語っていた。
「チッ!こいつ、持ち物は何もないみたいだな。」
男は苛立たしげにため息をついた。
「お前、どの一族に属してるんだ?」
別の男が疑い深げに声を荒げた。
彼らの粗野な態度と、身体を覆う無数の傷跡から、タケシはこのハタノ一派が中立地帯である大森林の縁に位置する「大猟師の村」から来たことを察した。
「ハタノ一族の者です。皆さんと同じだと思いますが?」
その答えに満足した狩人たちはうなずき、すぐに攻撃的な態度を和らげた。ほっとした安堵の瞬間だった。
「どこから来た?」
一行の厳格そうな四十代の男が、明らかにリーダーであることを示すように問いかけた。
「森林の村からです。」
その男は眉間にしわを寄せ、タケシにじりじりと近づいてきた。
「妹がその村に住んでいるから、よく知っている。村人は全員茶色の服を着ているはずだ。それなのに、お前はなぜその服を持っていない?」
「それは…」
「顔を見せろ。」
「必要ありません。世捨て人になるために村を出たので、そのために服装を変えました。」
その言い訳に納得しきれないハタノの男は、仲間たちに目配せをした。残念なことに、タケシにとって彼はそう簡単に騙される相手ではなさそうだった。男はさらに一歩近づき、その大きな体でタケシを見下ろした。
「聞けよ、迷惑をかけるつもりはなかったんだ。これで去るから…」
「顔を見せろと言っただろう。」
再び脅威の雰囲気を漂わせながらタケシを取り囲む一団。そのリーダーはタケシの前にしゃがみ込み、じっくりとその姿を観察し始めた。タケシはいつでも刀に手をかけられるように、心の中で構えた。
「こいつは何でもない奴だよ、京。行こうぜ。」
「金も持ってねえしな。」別の男が冷たく付け加えた。
タケシは顎を引き、視線を地面に固定していた。彼らが自分の顔を詳しく知らないことに一縷の望みをかけていたが、右目だけは隠しきれない。やがて、リーダーの視線が彼の腰に向かい、暗い衣の中に隠れていたものに気づいた。男は手の甲で布を払いのけ、露わになった刀を見た瞬間、その表情が一変した。
「放浪者だと?こいつは戦士じゃねえか!」
リーダーが刀に手をかけ、素早く立ち上がる。
タケシも慎重に立ち上がり、いつでも応戦できるように身構えた。緊張が一気に高まり、危険な状況になった。
「俺は戦士でもなければ、脅威でもない…」
「なら、何者なんだ?嘘をつくな!」京が怒鳴った。
タケシが沈黙を守り続けると、リーダーは彼の顎を無理やり掴み、顔を上げさせた。
「お前は…ハタノの王子だ!」狩人は驚愕の声を上げた。
興味津々の仲間たちが信じられないという表情で集まり、彼の顔を確認しに来た。タケシは腹の底が締めつけられるような感覚を覚えながらも、冷静を保とうとしていた。
「本当にそうなのか?」
「ああ、間違いねえよ。都にいる友人から聞いたんだ。ハタノ家の次男は緑の目に金の光を持っているってな。それに刀もある。疑う余地はねえ、こいつは王子だ。」
「それで…どうする?」
京は欲望に満ちた目でタケシをじっと見つめた。それに気づいたタケシは一歩後ずさり、すでに不利な戦いを予期していた。事態は最悪の結末を迎えそうだった。
「こいつを引き渡せば、金を払う奴は山ほどいるだろう。まずはケン・ムサシだな…」
その名前が出た瞬間、タケシの顔は一気に青ざめた。何があっても、あの男の手に落ちることだけは避けなければならない。死ぬほうがまだましだ。
太った男がいやらしい笑みを浮かべながら近づいてきたその瞬間、タケシの血は逆流したように感じた。反射的に後方へ飛びのき、森の中へ駆け出した。
「捕まえろ!」
動物のように俊敏に、タケシは息が切れるほど全力で駆け抜けた。時折、根を飛び越え、足を絡ませないよう注意を払い、頭を素早く動かして枝を避けた。夜の闇に溶け込む影のように、十人以上の追っ手に追われながら、樹木の間をすり抜ける。転んではならない。何があっても転んではいけない。捕まるわけには絶対にいかなかった。戦う術は身についていなかったが、健全な体と、鹿のように強靭な心臓を持っていたことを、今はただ感謝するばかりだった。神よ、なんという長い逃走劇か。王子が犬のように追い立てられるとは、なんとも皮肉な話だ。
森の中で長い間続いていた静寂に気づいたタケシは、徐々に速度を落とした。どうやら追っ手を引き離すことに成功したようだ。大きな木の幹にもたれ、膝に手をついて荒い息を整えた。だが、新たな不安が胸をよぎった。ここは見覚えのない場所だった。
不安げな目で周囲を見渡した。ここはどこだ?まだ中立地帯にいるのか?それとも、敵陣の境界を越えてしまったのか?自分の一族でさえ命を狙っているこの状況では、敵地に足を踏み入れた瞬間、命を狙われるのは時間の問題だった。全身に悪寒が走る。今や、どこからでも危険が迫る可能性があった。
「こっちだ! こっちに逃げたぞ!」
「なんてことだ……犬よりもしつこいな…!」
恐怖に駆られ、タケシは再び木々の間を全速力で駆け抜けた。ふと、左手のまばらな枝葉の隙間から、奇妙に輝く光が目に飛び込んできた。それは致命的な気の緩みを生んだ。足元の地面が崩れ、彼は深い裂け目の底へと転落した。頭を地面に強打し、その衝撃は容赦なく襲いかかった。
頭の中がブンブンと唸りを上げ、鈍い痛みがこめかみの間を響き渡る。意識が半ば朦朧としたまま、彼はゆっくりとまぶたを動かし、ぼやけた視界に焦点を合わせようとした。周囲を見回すと、四方に暗い壁がそびえているのが見えた。彼の胃がひっくり返るような感覚に襲われた。隠された落とし穴だ。彼は大物の捕獲用に仕掛けられた罠に落ちてしまったのだ。これらの罠は、過去に多くの人間を傷つけたため、父によって使用を禁止されていたものだった。
運命は決した。転落の際に即死していた方が、まだ楽に死ねたかもしれない。だが、それすらもどうでもよかった。彼の人生は、生まれた瞬間からすでに失敗の連続だった。どれほどの意志や希望を抱こうと、結果が変わることはなかった。人生が自分を排除しようとしている時に、何をしても無駄ではないか。
傷ついた頭が霞んだ意識の中、彼は遠くにいる狩人たちの近くで、奇妙に輝く何かのシルエットをかすかに見た。やがて、彼の意識は少しずつ闇の中へと沈んでいった。