報復を求める声
腕を再生する間、アマデウスは動けない。
もちろん、ラジエルも。
アマデウスは黙って治療を見守るジョゼに周囲の警戒を頼む。
「何か近づいてきたら、教えてくれ。飛んできた攻撃は食べていいぞ」
「わかった〜」
ヒト型からドーム状に変化したジョゼは、ふたりを守るように包み込んだ。
「ジョゼも召喚されてたんですね」
「ラジ〜、久しぶり〜」
身体の一部を手の形にして、ジョゼはふりふりと手を振る。
「久しぶりですね」
切り落としたアマデウスの腕を使って、ひらひらと手を振り返した。
「おい、やめろ。俺の腕で遊ぶな」
「違います。ゴミです」
「コイツ……」
平然と楯突くラジエルに、アマデウスは青筋をヒクヒクさせる。
仕返しに、ラジエルと繋がる魂の回廊に魔力を流し、調伏をしてやった。
「うっ、イタタタタッ!マスター、すみません!許してください。頭がアイアンクローされたみたいになってぁぁああ!割れるぅ〜〜〜」
少しは痛い目にあった方がいい。
涙目で助けを求めるラジエルを尻目に、アマデウスはフンと鼻を鳴らす。
「反省しろ。駄天使!」
「いたたたッ……ヒドイ。パワハラで、ででつでッ、ごめんなさい、ごめんなさい。なんでもないです!マスター、最高、最高ー!」
「主〜、さいこ〜、さいこ〜」
ラジエルの真似をし始めるジョゼ。
これは教育に良くない。
「早く治してくれ」
「マスター、最高ぅ、最高ぅ」
アマデウスはため息をついて、調伏を解除した。
腐っても大天使。ふざけていても、ゆっくりとだが新しい腕が形成されている。
「主〜」
「どうした?」
「なんか〜、飛空艇が動き出した〜」
「こっちに向かってきてるか?」
「ううん〜。下に降りてく〜」
するとラジエルが話に入ってくる。
「マスターと戦っていた者の回収ですね」
「おそらくな。生きてると思うか」
ラジエルのもつ記録書が、その問いに対しての樹形図を瞬時に総当たりして確率を導き出す。
「直感ですが、間違いなく」
ラジエルは神々の書記官を務め、神々の叡智を記して蓄えることを許された唯一の存在。ありとあらゆる事象を分析・予測するスキル【観測者】をもち、複数に枝分かれする未来を観ることができる。ラジエルがそう感じたなら、ほぼ間違いない。
「まぁ、生きてるだろうな」
「飛空艇、落とす〜?」
実に悩ましい。
血気盛んなアヴローラ連合のことだ。
【三輝将】が敗北を喫したと分かれば、黙ってはいないだろう。
「そもそもなんで、戦いになったのですか」
「奴らが仕掛けてきた。国境に近づく龍種と不審者の撃退と称してな」
「それは、我らへの宣戦布告では?」
「宣戦布告〜」
ジョゼは理解しているか怪しいがこの際、置いておく。
「俺たちは国境を避けて、ゴンドワナに向かっていた。今いるここも、アヴローラの領海内ではないからな。俺たちに非はない」
「では提案があります───」
ラジエルの提案は飛空艇の撃墜ではなく、拿捕だった。アレクサンドルの身柄共々、押さえて有利に立つ作戦だ。
「───飛空艇と三輝将の身柄を持って、アヴローラの首都ベルグラドヴィアに転移魔術で乗り込む。いい機会です。我々のクラン【到達すべき理想┃《エンテレケイア》】の復活を世に知らしめてやりましょう」と語り、意気込んでいた。
「アヴローラに乗り込むわけか……」
「先に手を出したのは向こうなのでしょう。報復措置を講じるべきかと」
「ジョゼも、そ〜も〜」
アマデウスの肩から肘の辺まで形成が進み、少しずつ感覚が戻ってくる。
完全再生にはまだ時間がかかる。
アレクサンドルと戦ったことで、失った片腕。
(自分の腕なら替えが効く、だがもしセレスであったなら……セレスは不死だが、無敵じゃない……)
そう考え、結論を出す。
そしてアマデウスは、「それなら盛大にやらないとな」と告げ、顎を撫でた。
ラジエルが頷き、つられてジョゼも頷く。
(ゼナ、聞こえるか?)
(主様、終わりましたー?)
ゼナに念話を送ると、間の抜けた答えが返ってくる。
心配なんて微塵もしていなかったのだろう。
信頼されてるのか、興味がないのか。まあゼナらしいが。
(あぁ、今はラジエルの治療を受けてる)
(治療?)
念話の向こうで、ゼナの雰囲気が変わる。
声色も重く、冷たいものとなり、刺すような威圧感が漏れ伝わってくる。
(片腕が使いものにならなくなって、回復してもらっている)
(主様、許可をもらえる?アヴローラを火の海に沈める許可を)
(頭を冷やせ。セレナを連れてこっちにこい。話はそれからだ)
(……了解)
ゼナから伝わってくる感情は了承はするが、納得はできないといった感じだろうか。
「これは少しガス抜きが必要だな」
アマデウスは目をつぶって、軽く息を吐いた。
そして使い魔である神猫に命じた。
(───気が変わった。ゼナ、少し暴れろ。アヴローラ連合の飛空艇を制圧しろ)
(ふふっ、了解。主様を傷つけたことを末代まで後悔させてやりましょ)
その瞬間、空気を震わす衝撃が駆け抜ける。さらに響く耳を劈くような轟音。
装甲に内側から爪を立てたような亀裂が走り、飛空艇から火の手が上がった。
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