道具屋
商業区。
イベントのせいか、
以前とはまた違った賑わいを見せている。
ここに来るプレイヤーのほとんどは、
イベントに適性があるのだろう。
敵情視察も兼ねられる。
やはりと言うべきか、近接装備を持つ前衛が多い。
閉所での戦闘はお互い想定済み。
逆に向こうからも、
特注の弓をしげしげと見つめられる。
弓を担ぐ愚かさか、
或いは色に対する嘲笑も混じっている。
あまりいいものではない。
「イコ」
「ええ」
道具屋。
矢の補充の後、
消費物で何か有用なものがあるか探しに来た。
店主は駄菓子屋のおばちゃんみたいな人。
「いらっしゃい」
入る大勢の客にまばらに声をかけている。
それを一瞥し商品棚を見る。
罠と聞いて思い浮かべるのは、やはり毒。
薬棚を探すが、一見見つからない。
代わりにあるのは空の棚。
先を越されて、買い漁られたか。
肉騒動の時のように転売されてないといいが。
「お嬢ちゃん、何を探しているんだい?」
NPCを起動させてしまった。
丁度いい。
「毒とかに効くものってありますか?」
「あらぁーごめんなさいねぇ
丁度切らしちゃってるのよ」
案の定。
「毒以外に効くものならあるんだけど」
「それはどういう?」
「あなたの後ろの棚の下にあるんだけどね」
振り返り、屈む。
「そこのね、瓶に入ってるやつ」
言われたものを持ち上げる。
片手で持てる大きさの瓶で、
中に飴のような半透明の粒が詰まっている。
「舐めると暖かくなったり涼しくなったりするの」
「へー…」
求めているものではないが、有用ではありそうだ。
「実際に体温が調節できるんですか?」
「いや、感じるだけ」
「あー…」
そっと元の場所に戻す。
他にめぼしいものはないか。
「アレ」
桃子猫が指さす。
その先には、壁にかけられた雑嚢。
「あれって売り物ですか?」
「ああそうだよ、銀貨八十枚」
「八十…」
「さっき触った飴ちゃんもつけとくよ」
「六十…で…?」
「七十かな」
「ではそれで」
つーかそれが限界。
交渉が成立し、会計を済ます。
ダンジョンでの収穫物は、
モンスター素材以上に多岐にわたるだろう。
抱えるだけでは持ちきれないはず。
いい買い物をした。




