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水臭い打算

まぶたが勝手に開き出す。

意識もどん底の気分もシームレスのまま、

リスポーン地点に戻ってきた。

陽光が上から突き刺し、後悔が突き上げてくる。

半日抱えていた木も、なくなっている。

無意識に、胸のボタンを押しそうになった。

だがまだ終われない。

太陽を見る。

まだ登りきっていない。

あの場所へ行こう。

萎えてやめているかもしれない。

私のことが嫌いになって、

進む方向を変えているかもしれない。

だけど何となく、また会える気がしてくる。

この洞窟にいると。

奥を覗く。

桃子猫はこの暗闇を、明かりもつけずに歩いていた。

おそらくは種族特有の能力だろう。


『ピチョン』

「!」


雫が垂れる音。

手探りだが地面を調べると、水たまりがあった。

昨日の雨の残りだ。

少しすくって飲み、待つ。

別に約束したわけでも、示し合わせた訳でもない。

ただ少し考えて、ここに来ることを予想した。

前は雨宿りでここに来た。

天候によって行動が制限されるのなら、

今回もまたそうだろう。

日が落ちまた登るように。

洞窟の入口に差す陽光に、陰が落ちる。

二足歩行の猫、桃子猫だ。


「う…」


足元がふらついている彼女を、すぐに抱える。


「もう大丈夫です、水飲みます?」

「うん…」


種族の特性で、暑さに弱いのだろう。

影があり外よりは涼しいここに来るのも、必然だ。

ロマンにはかけるかも。


「あう…あう…」


猫の手では、雫ほどしかすくうことしか出来ないようだ。


「どうぞ」


手ですくい桃子猫に差し出す。


「あ…」


桃子猫は少し躊躇った後、舌で飲み始める。

それこそ猫のように。

少しザラザラしている。

すくっては飲ませ、すくっては飲ませる。

最後は、桃子猫が自発的に地面に残った水を舐めとった。

喉を鳴らすのを見計らって、言う。


「桃子猫さんは、ここの奥まで行きましたか?」

「行ってなィ」

「じゃあ…」


奥を指さす。


「行ってみませんか?」


思惑はこう。

昼の間行動しても、先程の桃子猫のように死にかけ、

街にたどり着くことはできない。

であれば、涼しく水が滴るこの洞窟が、

どこかに繋がっていることを期待し、

進むのがいいだろう。

ナビゲートを桃子猫に任せて。

というか。


「腕輪、無くならなかったんですね」

「うん」


桃子猫の右手に引かれながら、腕輪の感触に気づいた。

身につけていた物は死んでも無くならない?。

確かに吹っ飛ばされた時、

脇に抱えていた木を手放してしまった。

そしてその後の緊張状態のせいで、

触れることすら出来なかった。

思えば、初期装備は無くなっていない。

投げたナイフも、手元にある。

薬草はなくなっているが。

このゲームの、唯一の温情か。


「ここ」


桃子猫が突然立ち止まった。


「はい?」

「ここテ腕輪、見つけタ」


自分には何も見えない。

指を指しているだろうと考え、

左手に回り込んで地面を調べる。

確かに、空洞がある立方体が置かれている。

宝箱?。


「どうやって開けたんです?」

「あいてタ」


なんとも適当な作りだ。


「まだ進めます?」

「うん」


今気づいたが、桃子猫が少し上下に揺れている気がする。

種族特有の歩き方がそれとも。


「寒いですか?」

「え?ううん」


揺れがおさまる。


「その…会えて嬉しかったかラ…」

「あら…」


なんというか、若干尊みが溢れて、

少し俯瞰した声を漏らしてしまった。

アニメの百合を見ているような、そんな声。

まあ確かに、嬉しいのはわかる。

打算的に行動していた自分も、嬉しいから。

洞窟はなおも続く。

滴る音があれば立ち止まり水を飲む。

心配なのは空腹だが、

水を飲んでいるので差し迫ったものではないだろう。

今更ながら後悔がおしよせてきた。

真っ暗で一本道のこの洞窟よりも、

殺人的な暑ささえしのげば、

砂漠の方が視界と選択肢が広がっている。

桃子猫にも付き合わせてしまっている。

何か目に見える成果はないものか。


「「!」」


気のせいだろうか。

洞窟に、光が篭もり始めている気がする。

歩くにつれ、光は徐々に強くなる。

だがしかし、

今まで踏んでいた足場が影だと思わせてくれるような、

強い光には巡り会えなかった。

冷光。

動植物が発する、熱のない光。

細い通路を抜けた先で、広がる空間。

そこに冷光は埋め尽くされていた。

壁一面に生える苔。

ヒビの隙間から見える結晶。

そして何より目立つのは。

鱗を所々光らせながら、

体を緩やかに収縮させる竜の尻と尾。


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