最古参さん
「あ…」
長身痩躯の白猫の店長が、
やはりカウンターに佇んでいた。
「お、お久しぶりです」
「ブリです」
店にはエルフと…人間のプレイヤー二人。
四人になってしまった。
「私は外で待ってますね」
『いえ、その必要はございません、彼女は店員です』
商品を弄っていたエルフが振り返って辞儀をした。
「あ、どうも」
『ちなみに私の彼女です』
「「え」」
突然のカミングアウトに驚く。
『んふふ』
『ふふふ』
ご両人がこちらを見て微笑んでいる。
何かこう、懐かしむような目で。
今新たに分かったことがある。
「店主さんは、プレイヤーなんですか?」
『ええそうです』
淀みなく返される。
「この短期間でどうやってここまで…?」
最初この店に入った時、
NPCが開業しているものと考えていた。
それほどまでに、
内装も外装も商品も出来すぎていた。
『ベータテストからこのゲームをやっているので、
序盤の進め方は心得ていました』
「そうだったんですか」
最近までインディーズだった制作会社のゲームを、
ベータテストからずっとやりこんでいるとなると。
「好きなんですか?このゲームの制作会社」
『ええ、それはもう』
「おお…!」
ここに来て同士に出会えた。
「あの、見当違いだったらアレなんですけど、
この会社の物理演算って…」
『分かります分かります…』
会話が三段目の跳躍を迎えようとした時、
横からプレッシャー。
『『…』』
エルフと獣人による、無言の圧力。
「あはは…」
『ふふ…』
近づいていた分、身を引く。
そしてその間に、桃子猫とエルフが割り込む。
手を肉球で挟み込まれるついでに、爪を立てられる。
「んー」
「ンー」
『それで』
店主が先程のことが嘘のように凛と立った。
『何をお求めに?』
「ソーだったそーだッタ」
商品を吟味し始める。
長くなることは明白なので、
思いついたことを店主に伝えておく。
「この店の商品って外注なんですか?」
『私が作っていない、という意味ではそうなりますね』
「というと?」
『ベータテスト時代からの友人で、
制作を買って出てくれたドワーフの女性がいるんです』
「ほほう」
ベータテスト時代という響きに胸を打たれつつ、
その事実に納得する。
エルフの店員が来る前から、
質のいい商品が並んでいた。
獣人の手でこれらを作るのは、
熟練のプレイヤーといえど難しいだろう。
「そのドワーフの女性って、武器とかも作れますか?」
『ええ、作れると思いますよ。
彼女個人も制作の依頼を受けているので、
大抵の物は。ただ、
金属加工がスムーズにできる環境ではまだないので、
木工や織物が中心のはずです』
「なるほど」
金属加工がスムーズでないと感じているのなら、
彼女らはベータテストに
それらもこなしていたのだろう。
「厚かましいとは思いますが、その…」
『お得意様なのですから、紹介しましょう』
「ありがとうございます!」
このゲームの古参なら杖の仕様について
知っているはず。
得意先として財布の紐を緩めなければ。




