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「これは…」


目を閉じろと言われたので目を閉じた。

目を開けろと言われたので目を開けた。

その間で、顔が変わっていた。

ほとんど完璧に高い形で、

私のドッペルフリーのアバターに似ていた。


「お綺麗ですよー」

「ウンウン」


聞き慣れない世辞が放たれる。

それはもちろん、鏡の中の人物ではなく、

私に向かって言ったのだろう。

ただ、しっくりこない。


「あの…お気に召しませんでしたか?」

「あ、いえいえ、そんなことないです、

ただ…びっくりしたというか…」


なぜ私は素直に喜べないのだろう。

喜べないのはそれとして、この場は丸く収めよう。


「記念に、これ買っていきますね」


化粧に使われたものと同じ化粧水を手に取る。


「あ、お買い上げありがとうございます!」


早々に購入を済ませ、店を出る。

その間黙っていた桃子猫が、口を開く。


「ソノ…嬉しくなかっタ?」

「いえいえ、全然そんなこと…」


そう、普通の人間は嬉しいはずだ。

プロに化粧を施されたなら。

けど私の胸の感触を言葉にするなら、嬉しくない、

ということになる。

私がこうなってはならないような、そんな気がする。

ただ、桃子猫の居心地は悪くしたくない。


「今日はこのまま過ごしましょうか」

「ウ、ウン!」


隣の婦人服店に移る。

一階の店とは違い、

やはり女性もの特有の色合いが視界を支配する。

そして何より、下着が置かれてある。


「スゴ…日本の下着スゴイ…」


ここに来て、桃子猫はまた違った反応を見せた。


「こういうのには疎いんですが…

そんなに凄いんですか?」

「うん、スゴイ、超スゴイ」


ということは、超すごいのだろう。

手に取る。


「アー」


素なのか、中国語っぽい感嘆が漏れている。

開いたり撫でたりと、綿密に調べている。


「ヤー…」


服などはそっちのけで、

色んな種類の下着を漁り始める。

そしてその幾つかを持って、こちらに来る。


「あの、コレ、着てみてもイイ?」

「ああ、はい」


店員に顔を見せ、試着室に行く。


「じゃあ…」


桃子猫はカーテンの向こうへ消えた。

後は衣擦れの音のみ。

何故だか、妙に緊張する。

あの桃子猫なのに。

いやむしろ、あの桃子猫だからか?。

今の桃子猫だからか?。

確かに美人で、どこか妖艶で、

それでいて距離が近い…。


『ジャッ!』

「!」


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