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別世界


「お待たせいたしました〜」


来た。

二つの丼の間に、一回り大きな丼が置かれる。

色合いから見て専用の丼だろう。


「ごゆっくりどうぞー」

「オー」


感嘆の声を上げている。

この料理に一番近い例えは、

大人用のお子様ランチだろう。

次点で子供の玩具箱。

それくらいには、欲望が幼稚に散りばめられていた。


「ではでは」

箸を二人分取り、渡す。


「アリガト」

「揚げ物は二人で分けますか?」

「ウン」


言った通りに分ける。


「ご飯は各自で好きなように取ります?」

「ンー、えっと、最低限?お互いにトロ」

「分かりました」


三分の一ほどよそい、桃子猫も同じように分けた。


「イタダキマス」

「あ、いただきます」


静かな店内で声を発するのは、少し気恥しかった。



「ふぅー」


以外にもご飯を先に消費してしまい、

カキフライで締める形となった。

それ程までに具の味が良く、

米がそれを引き立たせる料理だった。

学生の時には手が出しづらいものだったが、

この方法なら社長と二人で食べられたかもしれない。


「美味しかっタ」


満足してくれたようだ。


「「ご馳走様でした」」


今度は合わせられた。


「へへへ」

「はは」


つられて笑ってしまった。


「行きましょうか」

「ウン」


席を立ち、店から出る。

やはり不憫に思うのは、トランクの存在。

この先別れるまで引かせるのは可哀想だ。


「妹さんと待ち合わせている駅ってあります?」

「あるヨ」

「なら先にそこへ行きましょう」

「ン」


東京駅に着く。


「ちょっと、トイレに行っていいですか?」

「私モ行く」


外で待たせるのも心配だからちょうどいい。


「ふぅ」


個室に入り、息を着く。

桃子猫に気を使って女性専用車両に行ったのが、

逆にまずかったかもしれない。

やはり人は多いわ、

加えて香水の匂いがえげつないわで吐きかけた。

挙句桃子猫を見て、

化粧品を取り出すやつまで現れる始末。

しばらく休憩が必要だ。


『ppppppp』


携帯の着信音。

私じゃない。


「ウェイ?」


誰かが取った。

気持ち低い声の、落ち着いた雰囲気だ。


「ーーーーーーー」


言葉は分からないが、中国語か韓国語辺りだろう。

まさか…桃子猫?。

そりゃそうだろう。

このタイミングで似た声の中国人に

電話がかかるわけない。

それでもまだ、耳が桃子猫なのかと疑っている。

桃子猫だと意識しなかったら、

どこかの悪い組織の女幹部のように聞こえる。

本来持っているであろうセレブリティさが、

今発揮されているのかもしれない。

桃子猫は、猫をかぶっている?。

だとしたら、私の知る桃子猫は…。

いつの間にか、電話は終わっていた。

紙を巻いて水を流し、用を足した演出をする。


「お待たせしました」

「んーん、そんなニ」


いつもの桃子猫の声。

今日初めて見た顔。

今日初めて聞いた声。

心の軍配が、徐々に傾く。

顔をよく見ると、化粧が直されていた。

あの電話の合間に挟んでいたとは。

反射的では無い、

経験に基づいた壁が建設され始めている。

また目を逸らされた。


「行こっカ」

「…はい」



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