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足音


目覚ましのアラームで起きる。

着信以外で起こされるのは何時ぶりだろうか。

時刻は7時。

桃子猫に会う準備をしよう。

とはいっても、人に見せられるような服や、

ファッションセンスを持ち合わせていない。

桃子猫の中の私は、

ゲーム基準なのでおそらく相当美化されているはず。

まあこちらも猫の桃子猫に引っ張られている訳だが。

クローゼットを開く。

閉じる。

リクルートスーツしか無かった。

普段使いの服は、

締め切ったカーテンのレールに引っ掛けている。

それらに何か人に見せられるものがあれば…。

一着のパーカーが目に留まる。

ベージュの地味な色が、

桃子猫に選んで貰ったローブにそっくりだ。

これにしよう。

ゲーム友達と会うなら、こういうのが一番だ。

そう、これからゲーム友達と会うんだ。

社長と大して変わらない存在だ。

緊張する必要などない。

ここにきて猫の桃子猫を思い出したことにより、

緊張が裏返る。

そうだ。

例え何かの詐欺に絡まれそうになっても、

躱して関係を継続させよう。

緩い覚悟は決まった。

パーカーを掴んで、

適当なシャツを着てその上に羽織る。

もうすぐ冷房が使われる頃だろうから、

調節できるようにしよう。

持ち物は…スマホと一応財布を持とう。

後は…。

そうだ化粧。

いいか。

桃子猫だし。

別にそこまで上手くないし。

一昔前の、

男子高校生みたいなショルダーバッグを背負い、

玄関に立つ。

遠出は久しぶりだ。

むしろそっちの方が緊張してきた。

鍵を開け、扉を開ける。

日が部屋に差し込んでくる。

眩しいが、行かなければ。


「フー、フー」


街、バス、電車。

都会のあらゆる人混みを乗り越え、

ようやく空港までたどり着いた。

今はそのトイレで呼吸を整えている。

こんなに他人の呼気を吸ったのは学生時代ぶりだ。

正直トイレの方が空気が綺麗だ。

呼吸を整える。

そしてスマホを起動。

時刻は11時。

気合いを入れすぎて、2時間も早く着いてしまった。

その間トイレで籠っていては、

お節介焼きが心配するかもしれない。

一旦出て、安置を探そう。

とはいってもここは成田。

人の居ない場所などない。

一旦トイレに戻ろう。


「フー…」


こんな調子で桃子猫を案内できるだろうか。

というか、これから桃子猫と会うという

一大イベントをこなせる気がしない。

出発した時はあんなに達観していたのに、

たかが数時間でこのザマだ。

自分が情けなくなってくる。

桃子猫に会わせる顔がない。

顔が整っていないのは百も承知だが。

さてどうしよう。

振り出しだが、賽を投げる気も起きない。

帰りたい。

帰ってゲームしたい。

そうだ、ゲームのことを考えよう。

ドッペルフリーのことを。

そういえば、

八八が言っていた初回限定の薬草採取クエスト、

やってなかったな。

次桃子猫とする時、誘ってみよう。

採集場所とかが指定されていたら、

そこは混雑しているだろうか。

…。

そういえば、なんでドッペルフリーの人混みは

緊張せずに歩けるのだろう。

なんなら、桃子猫を追いかけるため、

相当数と擦れたはず。

大抵が人間種じゃないから?。

プレイヤーが現実とは別の体験をしたいからか、

人間種はかなり少なかった。

一考の余地はある。

人の頭をじゃがいもに幻視するのと同じ要領。

ここにいるのはプレイヤー。

望んで、或いは必要でここにいる。

今を精一杯生きている。

私のことなど、眼中に無い。

目の前を横切っても、隣に座っても、

なんの感慨も湧かない。

呼気がどうのというのも、

所詮人酔いの言い訳に過ぎない。

ただただ引きこもりすぎたのが原因だ。

荒療治だが、今日でそれを治そう。

取り敢えず落ち着いてきたので、

スマホで漫画を読む。

最近昔の漫画が無料開放されたので、それを読む。


「ふぅ」


いい所まで読んだ。

時刻は12時半。

まだいける。


『コツ』


ふと、固いもの同士がぶつかる音が聞こえた。

そこまで大きな音ではないのに、確かに聞こえた。

空港が、一瞬静まり返っていたからだ。

それが何故なのかは分からない。

すぐに人々は営みを再開した。

ただ、先程よりは話し声が減っていた。


『コツ、コツ』


断続的な音は、その証左のように響いていた。

機械音では無いので、誰かがイライラして足をタップしているのだろうか。


『コツ、コツ、コツ』


いや、それは無いな。

音がだんだん大きくなってきている。

そう、思い出したがこれはハイヒールの足音だ。


『コツ』


その音は、すぐ側で止んだ。

視界の端に、ハイヒールが見える。



「ランさん?」




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