The和食
『ところで今日暇?』
ふむ。
暇ではない。
『暇じゃない』
『ゲームで忙しい?』
『そうじゃない』
『仕事送ってないのに?』
『私にもちゃんと予定があるの』
『どんな?』
『もう教えない』
銃で脅されるスタンプが貼られる。
『ゲームで知り合った人と会う予定です』
『男?女?』
『女です』
『ふーん』
どこか不満げだ。
『まあよかろう』
『へへー』
小芝居のスタンプの応酬で、幕を閉じる。
暇だったらなにがあったのだろうか。
まあどうせ会社の雑務とかだろう。
絶対行かないけど。
社長とのやり取りの間に、桃子猫からの連絡が来た。
『成田空港への便が予約できました』
『何時に到着しますか?』
『二つの便を経由するので、
余裕を持って13時の到着です』
『分かりました』
これでこちらの予定が立てられる。
ただ、13時はいろいろと微妙な時間だ。
『昼食はどうされますか?』
『機内食よりも、日本の料理を胃袋に入れたいです』
『なら美味しい日本料理を紹介します』
『今から楽しみです』
さて。
出不精の私から突飛に出た言葉。
どう収拾をつけよう。
桃子猫は料理を待ち望んでいるだろうし、
空港の店を探すか。
とはいっても中国にもありそうな
チェーン店が多いし、穴場的スポットも知らない。
「あ」
懐かしいロゴを見つけた。
学生時代、
社長とよく食べていたカツ丼チェーン店だ。
この店には、
懐事情の進退を握られていたようなものだ。
太って金欠になっただけの話だが。
チェーン店の名前で、
中国に店舗があるか調べてみよう。
不穏なサジェストもなく、情報に行き当たる。
省ごとに一二店舗あるようだが、
そこまでメジャーでは無いらしい。
これなら桃子猫に気兼ねなく差し出せるだろう。
ただ、外国人が思うザ、
和食とは少し離れている気もするし、
桃子猫がカロリーとかを気にするタイプだったら、
遠慮されてしまうかもしれない。
いくつか候補を募ろう。
仔細は知らないが良さそうな寿司屋。
ファミレスや定食屋の、
日本料理っぽいメニューも探る。
これで、当日の気分に合わせた提案ができる、
気がする。
時間は1時。
あれから誰の連絡もない。
寝たのだろうか。
…。
寝るか。




