衝突
眼前の猪は体毛に銀を差した、
老兵の出で立ちである。
数々の傷跡が、それを物語っている。
『rrr…』
先程の盛んな若者とは違う視線。
覚めた瞼で、真っ直ぐこちらを見つめている。
混じりっけ無しの殺意。
ワゴン程の同種を視界から消す程の馬力。
選択肢を一つ潰すのは容易だった。
「逃げましょう」
勝てるわけが無い。
老兵の雰囲気は、
獅子巨人やサラマンダーのそれに似ている。
だが得てして、それぞれが効率よく避けた結果、
老兵を囲む形となってしまっていた。
どの方向に逃げても、誰かがリスクを負う。
『ドズン…』
老兵が突撃の予備動作に入る。
最早猶予は無い。
「各々後ろへ!」
纏まることに支障をきたすのなら、
初めから纏まらなければいい。
総崩れの危険も無くなる。
先立って振り返り、駆け出す。
三人が走り出したのを見届け、振り返る。
「火球!」
杖の先端から放たれる、
緋色の弾は老兵の鼻先に当たり、爆ぜた。
思った通りこちらを向く。
「ソンナ」
そんな声が、桃子猫から聞こえた気がした。
まあ見ていてください。
これをするには、
相手の出方を真っ直ぐ観察する必要がある。
『ドズン』
予備動作で二回地面を蹴るのは、
種族で共通している。
『ドッ』
今だ。
老兵は駆ける。
「火球」
地面に火球を撃ち、即時爆発。
粉塵を散らす。
そんな小細工など気にせず、老兵は直進した。
「ラン!」
『ランさん!』
桃子猫たちの声が聞こえる。
足音で近づいてきているのが分かる。
「ぐはっ」
「ェ?」
踏まれた。
「なんデそんな所に…?」
全てを吹き飛ばす老兵の突進の、
その直線上に突っ伏しているのだから、
当然の反応だろう。
「脚が高く股が開いていたので…いけるかなと」
「エエ…」
線路の真ん中で寝そべり、
電車の衝突を回避する要領。
おちゃらけた様相だが、安心するのはまだ早い。
「隠れましょう」
『は、はい』
近くの茂みに潜む。
あの老兵が、獲物を易々と逃がすはずがない。
ここに戻ってくるはず。
『ドスン』
来た。
興奮も焦りもなく、ただ確認に来たといった様子だ。
『ブルル…!』
「!」
血気の混じった声を放ったのは、
最初に遭遇したホーンボア。
吹き飛ばされてもまだ折れない盛りようだ。
『ズン』
『ドズン』
同時に地面を蹴り始めた。
始まるのか。
『ズン』
『ドズン』
『『ドッ』』
衝突し、破裂する。
トリケラトプスに似た配列の角は、
大きさを異にしても必ずぶつかるようになっていた。
肉が衝撃を和らげるより先に、
角の弾性が発揮されたのだろうか。
若者は衝撃で裏返り、微動だにしなくなった。
老兵の方も尋常ではないようで、
千鳥足で進んでいた。
そしてそのまま森の奥へと消えていった。
衝撃で記憶を失ってくれればいいのだが。
最後までお読みいただきありがとうございますヽ(;▽;)ノ
こんな私にいいね、評価、ブックマークして下さりありがとうございます(;_;)




