握られる側が差し伸べる
「あいつは…」
藍色のリザードマン。
その姿を一瞬目撃したが、すぐに煙に消えていった。
怪しまれないよう緩やかに弧を描きながら、
風上へ移動する。
諸々の答えに、すぐに見えた。
「なるほどな…」
「ッス…」
率直に言えば、それは解体現場だった。
原初の森林、
その付近に存在するモンスター達の解体。
その傍らで藍色のリザードマンは、
モンスター素材が固められた山を漁る。
そして見知らぬリザードマン複数人が、
モンスターの肉を削ぎ売買している。
活け造りというか実演販売というか、
かなり大胆な商売だ。
しかしその透明性が、
顧客の安心感へと繋がるのは間違いない。
我々の商売を見た後では尚更だ。
「行こう」
「行くって…クエストへ?街へ戻るのではなく?」
「ああ」
「どうしてなんスか?」
「店を畳む予定なら時間ギリギリまで粘ったっていい、
在庫の数は減るだけいいんだからな。
俺たちは予定通りクエストに行って、
金を稼いだ方がいい」
「なるほど…」
「もう店は諦める…ってことッスか?」
「そうだ」
未熟が呼び寄せた結果だ。
飲み込むしかないだろう。
「在庫の処分はどうします?」
「事実を見れば、
あれらは定価よりも安価で買えた肉だ。
腹持ちは悪いだろうが、ま、
野菜を巻いて食べればいいだろう」
「そうッスね」
クエストを広げる。
藍色のリザードマン、
プティーから貰った大物のホーンボアの
討伐クエスト。
原初の森林のいずれかに生息しているという、
曖昧な位置情報。
それを見て苦心する四人がいた。
冴えない冴木乱子。
前衛盾桃子猫。
丁寧な八八。
おしゃべりなラッツ。
国籍言語共に三者三様の四人。
ドッペルフリーアジアサーバーでの稀有な出会いだ。
「どうします?」
『プティーが言うには余っていたクエストらしいので、まあ妥当な状況かと』
『だとしても地図くらいは寄越しなさいって
話なんですけどねーもー』
「ウン」
『…』
桃子猫の言葉で会話が止まる。
話す数が少ないからこそ、
その傾向が確実なものとなる。
おそらく桃子猫が翻訳機能を切っていることが、
原因だろう。
会話の齟齬を嫌ってそうしていたはずだが、
二日目にして翻訳に向上が見られる今、
その意義が問われる。
桃子猫もそれは分かっているだろう。
まだ暫くはタイミングに恵まれない。
「桃子猫さん」
私が言えることは。
「ン?」
「中国語で話してみたらどうです?」
「中国語…分かっタ」
桃子猫がリザードマン達の方向を向く。
「二―フイションチョンウェンマ」
少なくともこう聞こえた。
なんと言ったのかは分からない。
分かったのは、
リザードマン達の目が変わったことだ。
『ええ!話せますとも!』
『ところで生っぽく発音してるけど、
それってどーするの!?』
そこからは、
お互い溜まった分の会話が一気に放出された。
なるほど。
自分抜きで会話されるというのは、
こういう気持ちか。
桃子猫には悪い思いをさせてしまった。
『モフ』
不意に、手のひらに毛の感触。
桃子猫の手が、滑り込んできた。
彼女から手を差し伸べてきたのに、
こちらが厚かましい気持ちを覚えてしまう。
強く握りこむことの出来ないこの手は、
全握を私に委ねている。
今はこの手の感触で、気を紛らわせることにしよう。
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