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エルフの作戦


街の一角、空き地であった畑に訪れる。


「おっす、調子はどうだ?」

「あ、団長、万事上手く進んでます」

「うむ、よろしい」


畑を見回す。

既に畝からは芽が出始めている。

エルフにとって、野菜は最も腹持ちのいい食材だ。

獣人やリザードマンにとっての肉であり、生命線だ。


「野菜や種を買い占めている奴はいたか?」

「私の知る限りでは、いませんでした」

「そうか」


マップの開拓が進んでいない現状、

外界での野菜の調達は困難を極める。

杞憂だとしても、

自給自足できることに越したことはない。


「手が空いている団員は居るか?」

「作業はもう終わりますので、

監視員以外は暇になります」

「よし、なら終わり次第クエストに行こう」

「「了解!」」


「ふむ」


冒険者ギルドに到着し、クエストボードを眺める。


「ミオ洞窟でのスライム狩りに、

原初の砂漠での麻酔サソリ捕獲、

原初の森林での大物のホーンボア討伐…

どれも面倒くさそうなクエストですね」

「ああ」


クエストの需要と供給が若干安定し始めた現在、

プレイヤー達もクエストを

吟味する余裕が出てきたということだろう。


「新しいクエストが貼られるのを待つしかない…か」


クエストは第二の稼ぎ口だ。

現在の肉の独占の拡大や、

新しい事業の発展の為にも、

多くの金を稼がなければならない。

金の面で言えば、

ボードを見つめているギルドの人間全員が、

同じと言えるだろう。

そんな静寂の中で、ギルドの扉が開かれた。

開けたのは藍色のリザードマン。

両手には角と舌が抱えられている。

それを見てか、場が少しどよめく。


「複数討伐…?」

「しかもソロで…」


身体能力の高いリザードマンなら、

難しいことでは無いだろう。

リザードマンは一直線に窓口へ向かい、

達成を報告する。

そしてクエストボードに向かった。

一同が動向を見つめる。

リザードマンは、

大物のホーンボアのクエストを眺めていた。

取った。

リザードマンは特別何も無いような素振りで、

受付に行く。

そのまま誰も招集せず、ギルドを出ていった。

中の連中は、あれは誰だ知り合いはいるかと言う。

藍色のリザードマン。

覚えていて損は無いだろう。

だが暫くして、

例のリザードマンはギルドに戻ってきた。

素材は抱えてはいるものの、

大物とは思えないほどの大きさの角だ。

それ以上に異常なのは、

ありえないほどの短時間だったことだ。

また中がどよめく。

リザードマン独特の無表情で、藍色は受付に行く。

そして何事も無かったかのように、

クエストボードを見つめ、そこら辺に座った。

座った?。

クエストの破棄でもしたのか?。

その割には貼り直されない。

じゃあなぜクエストに行かない?。

謎だ。

また暫くすると、静かなギルド内に、

受付嬢達が椅子を引く音がこだました。

受付嬢が一斉に、

クエストボードにクエストを張り出す。

クエストの更新だ。

ボードに陳列棚のように重ねられたクエストは、

それでも隙間なく整然と詰められている。

受付嬢達が席に着く。

一人、また一人とクエストを吟味し、

やがて中の全員が群がる。

その中には当然藍色のリザードマンもいる。


「お前ら!なるべく割のいいクエスト探せ!」

「了解!」


人に揉まれながらクエストを吟味する。

そして確かに視界の端で、

例のリザードマンがクエストを

三枚剥がす所を目撃した。

クエストの受注制限は、一人三枚までか。

街に着いた後は、

団と事業の拡大に勤しんでいたので、知らなかった。

だがこうも人が多くては、

三枚吟味することは難しいだろう。

これと決めたクエストを剥がし、人混みから抜ける。

既に団員たちが待機していた。

彼らも一枚指に挟んでいる。


「クエストは三枚まで受注できるらしい、

俺が引き受けて先に並ぶから、

引き続き吟味して欲しい」

「「了解!」」


つくづく思うが、ノリのいいヤツらだ。

長年の付き合いの賜物だろうか。

そんなことを考え列に並ぶと、

列はあっという間に消化される。

自分の番が来た時、

受付嬢が申し訳なさそうな表情をして、

こちらを見つめた。


「申し訳ありません、

クエストはお一人様につき

二枚までとさせていただいているので…」

「え?」


既に遅いが、左右のプレイヤーを見る。

同様に三枚握り、

同様に受付嬢にたしなめられている。

両方、最後はこちらを恨むように睨んだ。

まるでこちらが嘘を吹聴したかのように。

そして見つけた例のリザードマンは、

何事もなく判を押されている。


「あの藍色のリザードマンは、

三枚持っていましたが」

「あの人は幾つもの討伐の実績があったので、

それを加味した結果です」

「…そうですか、ならこのブルーブルのクエストは、

自分が貼り直します」

「お手数お掛けします」


名前を描き、判が押される。

列の間を歩きながら、戻る。

団員たちは自分が命令したせいで、

列の後方に立ってしまっていた。

よく見ると二人共、二枚ずつクエストを持っていた。


「誰にでも間違いはありますよ」

「そうっすよ」

「ああ、うんありがとう…

俺は一旦店の様子を見てくるよ」

「「了解」」


なんとも情けない気分だ。



大通り、

まだ他と見劣りするルックウッドに到着する。

大盛況とはいかないまでも、

眺める人間はそれなりにいる。


「ごめんくださーい」

「あ、団長」

「調子はどうだ?」

「実は…芳しくありません」

「何だって?」


購買の証左のように、

先程居た人間に手を向けたが、

既にそこにはいなかった。


「値踏みをするだけして、大抵帰っちゃうんですよね」

「そうか…」


ルックウッドは大通りの肉屋と違い、

計量して販売する方式だ。

多少の値段交渉はするが、

予算が少なくても買えはするという

コンセプトを抱いている。

それでいて街中の肉は独占しており、

肉食たちが買わざるを得ない状況を作った…はず。

だが売り上げは芳しくない。

考えられる原因は未明だが、予想は立てられる。

肉食達が出し渋っている。

餓死寸前まで値段変更を見守る、

或いは払うよりは死んだ方がまし、といった具合に。

確かにプレイヤーによる食料の独占は、

反感を買うだろう。

失うものが無いものにとっては、

死亡する際のクエスト失敗や、

装備の手放しなどは怖くは無いのだろう。

だが餓死が連続した場合、

復活した際空腹状態から始まる。

砂漠で検証済みだ。

そして街に辿り着けば、

リスポーン地点は街の教会になる。

肉が得られる野生動物は、

街から離れた位置に生息している。

植物の採取や街の手伝いクエストなら

ギリギリ可能だ。

この噛み合わせが、

購買を促進させる牢獄と化している。

街に辿り着くことだけを意識してきた奴らは、

施しなどが無ければいずれ買うだろう。

藍色のリザードマンのような、

例外が均衡を壊す可能性もあるが、

ああいう攻略厨は手荷物を少なくするものだろう。

街中には競合店などは確認されていない。

心配することは、何もない。


「心配しなくて大丈夫だろう、いずれ盛況するはずだ」

「わかりました」

「じゃ、俺はクエスト行ってくる」

「行ってらっしゃい」



「よし、揃ったな」

「「はい!」」


クエストを見る。


「集めたクエストで共通している点は、

標的が原初の森林に生息し、

かつ中型の個体の素材収集ということだ、

手分けせず三人で、一種類ずつ集めよう」

「「了解!」」

「では行こう」


ギルドを出て、門へ歩く。

その間、すれ違うプレイヤー達の顔を覗く。

人間に近い種族の顔色はまちまちだが、

肝心の肉食たちの血色が分からない。

というかそもそも表情が分かりずらいので、

飢えているか分からない。

訪問販売を検討していたが、暫く保留しておこう。

そんなことを考えていると、門に着いた。


「ここを出るのはこのゲームを始めた時以来か」

「そうですね」

「俺もそうッス」


外界へと踏み出す。

と同時に、視界の端に目立つものが写った。


「あれは…?」



最後までお読みいただきありがとうございますヽ(;▽;)ノ

こんな私にいいね、評価、ブックマークして下さりありがとうございます(;_;)

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